放課後児童対策パッケージ2025の懸念点が2つあります。小4の崖の対策と運営指針との整合性が不安です。
放課後児童クラブ(学童保育)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。国は2024年12月25日に「放課後児童対策パッケージ2025」を公表しました。2025(令和7)年度の放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所の中核的存在)を含む放課後児童対策について国の方針を示したものですから、このパッケージに示された内容で、2025年の放課後児童クラブの施策が進められることになります。運営支援が懸念する2点を取り上げます。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<新規・拡充事項のポイントを読む>
「パッケージ 2025における新規・拡充事項のポイント」では、前年の放課後児童施策を踏まえて浮かび上がった「3つの課題」を挙げ、その3課題に対応する6つの対応策を掲げています。とても重要ですから紹介します。
(3つの課題)
(1)待機児童の発生状況について偏り←この偏りも3つに区分。時期、学年、地域。
(2)自治体において、補助事業を十分に活用できていない状況
(3)自治体内において、福祉部局と教育部局との関係部局間・関係者間の連携に課題
(6つの対応策)
(1)年度前半及び夏季休業期間中の開所支援のあり方を検討
(2)小学校新1年生の待機の解消をまずは重点的に推進
(3)待機児童数の多い自治体の取り組みを支援するためモデル事業を実施
(4)待機児童のより詳細な状況や、各種補助事業の活用状況を含めた取組状況の詳細の公表
(5)待機児童解消のために緊急的に受け入れ増に至った場合の安全対策
(6)学校施設の徹底活用を一層促進するため運営委員会や総合教育会議の活用を促進
<新1年生の待機児童対応は良いが、小4の崖は後回しに出来ないはずだ>
放課後児童対策パッケージ2025は上記にあるように、2025年の1年間(異例ですが、年度ではなく年で考えているようです。この理由も知りたいですね。令和6年度の補正予算の内容を含み、令和7年の12月末までの期間としているのでしょうが)に国が取り組む優先順位を示しています。それは1年間という超短期の間における施策の進め方としては正しいものでしょう。
その中で新1年生の待機児童の解消をまずは優先するとしています。パッケージには「特に就学にあたっての保護者の不安が大きいと想定される小学校新1年生の待機の解消をまずは重点的に推進する」とあります。それはもちろん正しい脅威の評価です。
一方で、令和6年の実施状況で待機児童数の状況は次のようになっています。カッコ内は令和5年の数値。
小学1年生 2,209人(2,411人) ←前年よりは、減った
小学2年生 2,116人(2,112人) ←前年と、ほぼ同数
小学3年生 3,879人(3,508人) ←前年より、増えた
小学4年生 5,707人(5,044人) ←前年より、大幅に増えた
小学5年生 2,756人(2,332人) ←前年より、かなり増えた
小学6年生 1,019人(869人) ←前年より、増えた
上記の数値はさらに考察が必要です。全学年にもあてはまることですが、「何をもって待機児童とするか」の判断を踏まえなければなりません。実施状況の注釈(実施状況の35ページに掲載)には、「調査日時点において、放課後児童クラブの対象児童で、利用申し込みをしたが何らかの理由で利用(登録)できなかった児童を指す」「第一希望のクラブでないなど、保護者の私的な理由により他のクラブに利用希望が出ている場合には、本調査には含めない」など、例によっていくつかの条件を掲げています。本当はAクラブに行きたいけれどやむなくBクラブに無理やりなんとか利用しているという場合は待機児童にならない、そしてこれが一番の問題ですが「低学年の待機児童を出さないために、自主的に退所退会してくれないかなという雰囲気で退所、退会を形式的には自ら選択せざるを得なかった状況の子ども」が待機児童に含まれないということです。それは小学4年生以上の学年が上の子どもにおいてより背景として存在すると考慮しておくべきでしょう。
それを踏まえると、小学4年生の5,700人を超える待機児童数は、実質的にもっと増えている可能性が大いにありますし、間違いなくそうだと私は考えます。私は小学4年生を中心に高学年児童が、本来は児童クラブが必要なのに、低学年に席を譲る意味合いで自主的に退所を選択せざるを得ない状況を「小4の崖」と呼んでいます。むりやり飛び降りねばならない状況です。入れないのは「壁」、入っているのに半ば無理やりに退所退会せざるをえないのは「崖」です。
パッケージにある新1年生の優先順位を上げることは間違っていないと私は考えますが、それは相対的に小4の崖をはじめとする他の学年の対策がどうしてもおざなりになることを意味します。私はそれを不安視します。感覚的な例えですが、仮に待機児童対策のリソースが100あったとしたら、新1年生に100を全振りするのではなく、新1年生70、4年生30、ぐらいに分けてもいいのではないか。
実施状況には「待機児童数上位20自治体における待機児童に関する状況」が紹介されています。それを見ると、小学4年生以上は夏休みを終えると待機児童数が一気に減少していることが分かります。例えば待機児童数が最多の埼玉県越谷市は、5月1日時点の小学4年生の待機児童数が164人なのに対して10月1日時点の待機児童数が8人となっています。これをもって、次に取り上げる「居場所事業の強化」「サマー学童の強化」の根拠としているのでしょうが、私には疑問が残ります。
<居場所の強化については、放課後児童クラブ運営指針との整合性について国は根拠をもって示すべきだ>
前年の2024年版も子どもの居場所作りを強化する方針を示していました。同じくパッケージ2025も、子どもの居場所の整備強化を掲げています。しかもより具体的に踏み込んでいます。項目として、「学校施設の積極的な活用」「保育所等の積極的な活用」「民間事業者による放課後児童クラブへの参入支援」「スモールコンセッションによる事業所整備の周知」などが掲げられていることでより明確になっています。
とりわけ、2025年版のパッケージに掲げられた項目の「夏季休業期間中における放課後児童クラブの開所支援」と「年度前半の放課後児童クラブの開所支援のあり方の検討」は、2024年版には独立して項目として記述されていなかったものです。夏休みを挟んで待機児童数が劇的に減少する状況(5月1日時点で、1万7,686人から、10月1日時点で8,794人と、8,892人も減少する)においては、待機児童数を少なくともほぼ半減させるために欠かせない施策として重視するのは、やむを得ないことと運営支援も認めざるを得ません。待機児童は(全学年において)解消されるべきものだからです。
一方で、こうした短期の子どもの居場所によって待機児童を解消する施策には、根本的な問題点を国がどう解消するかその説明が迫られると運営支援は考えます。
放課後児童クラブ運営指針には、第4章に「放課後児童クラブには、年齢や発達の状況が異なる子どもを同時にかつ継続的に育成支援を行う必要がある」という記述があります。これは職員体制に関する部分に記述されている文章ですが、放課後児童クラブ全般において当然ながら大前提となる重要な内容です。
短期の子どもの居場所においては、「継続して」という前提を含む育成支援は、どのように取り扱われるのでしょうか。短期の居場所には育成支援の考え方、取り組みは、必要ないのでしょうか。それとも1か月弱という短期間であっても、毎日の育成支援を連続していれば当該期間における継続性が確保できるという考え方なのでしょうか。
私が感じるに、児童クラブの世界、とりわけ現場においては、ここがなし崩しになってしまうことへの恐れが非常に大きくなっています。「このまま児童クラブそのものが、単に子どもの居場所としての機能をより強化されていくのではないか」という恐れです。
国はこの懸念にはっきりと答えるべきでしょう。はっきりと明示されていないから不安が募るのです。
なお私は、夏休みなど短期開所の児童クラブや、行政機関の空いたスペースを利用して少人数で過ごす子どもの居場所について、それぞれ明確に役割を国が示すべきだと考えます。空きスペースを利用した居場所については、放課後児童クラブではないけれども継続して子どもがその場所において過ごすということは、つまり子どもの育ちに社会が関わっていくことになりますから、その場所では育成支援に準じた子どもへの支援、援助が行われるべきだと考えます。
短期開所のサマー学童のような場所は1か月弱程度の期間ですから、実質的に単なる居場所でしかなく、育成支援の実施は現実的に不可能だと考えます。ただし、そうであっても、施設を提供する側は育成支援の考え方に沿った子どもと保護者への対応を行うことで、その後、継続的に児童クラブの利用を促すこともまた、目的に1つに付け加えるべきです。
世の中すべての子育て世帯に放課後児童クラブが必要だとはまったく思いませんが、こと、先に記載した越谷市のように、圧倒的に夏休み期間の預かりニーズが強いことをうかがわせる地域に住む子育て世帯においては、私は、児童クラブにおける育成支援の考え方とその目的、効果について、十分に理解を得ているとは思いにくいのですね。児童クラブで子どもは人として育っていくという考え方がもっと子育て世帯の保護者に(そして行政担当者にも)理解されれば、極端な預かりニーズに偏ることは起きにくいと考えます。
それはそれで年間を通じた児童クラブ利用のニーズを増すことになり、夏休みを過ぎても待機児童が減らない状況を招きかねませんが、そもそも、児童クラブの整備がまったく後手後手に回っていることがすべての元凶なのですから、国はしっかりと児童クラブ整備の王道を歩むべきです。前日のブログで訴えていることです。短期の居場所の整備も、やっぱり小手先の「足らぬ足らぬは工夫が足りぬ」の、工夫をなんとかひねり出した状況にすぎません。児童クラブの数を整備し、職員として働きたい人を増やすために処遇改善を進め、資格もより専門職にふさわしい資格に強化して放課後児童クラブで働くことの魅力を大いに引き上げるべきなのです。「2024年の出生数は70万人を割り込む。どうせ、あと7年もすれば、圧倒的な少子化の進行で待機児童は自然解消するさ」と、国、それ以上に自治体が、時間稼ぎをしているようにしか、私には思えないのです。もう時間切れのアディショナルタイムでずっと戦っているのが児童クラブの整備の状況ですよ。早く児童クラブの強化に本気を見せて、子育て支援側の勝利(待機児童ゼロ)で、試合終了としましょうね。
<おわりに:PR>
弊会は、次の点を大事に日々の活動に取り組んでいます。
(1)放課後児童クラブで働く職員、従事者の雇用労働条件の改善。「学童で働いた、安心して家庭をもうけて子どもも育てられる」を実現することです。
(2)子どもが児童クラブでその最善の利益を保障されて過ごすこと。そのためにこそ、質の高い人材が児童クラブで働くことが必要で、それには雇用労働条件が改善されることが不可欠です。
(3)保護者が安心して子育てと仕事や介護、育児、看護などができるために便利な放課後児童クラブを増やすこと。保護者が時々、リラックスして休息するために子どもを児童クラブに行かせてもいいのです。保護者の健康で安定した生活を支える児童クラブが増えてほしいと願います。
(4)地域社会の発展に尽くす放課後児童クラブを実現すること。市区町村にとって、人口の安定や地域社会の維持のために必要な子育て支援。その中核的な存在として児童クラブを活用することを提言しています。
(5)豊かな社会、国力の安定のために必要な児童クラブが増えることを目指します。人々が安心して過ごせる社会インフラとしての放課後児童クラブが充実すれば、社会が安定します。経済や文化的な活動も安心して子育て世帯が取り組めます。それは社会の安定となり、ひいては国家の安定、国力の増進にもつながるでしょう。
放課後児童クラブ(学童保育所)の運営支援は、こどもまんなか社会に欠かせない児童クラブを応援しています。
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弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。
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放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。書籍の注文は、まずは萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます! 大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。
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放課後児童クラブを舞台にした小説を完成させました。いまのところ、「おとなの、がくどうものがたり。序」と仮のタイトルを付けています。これは、埼玉県内の、とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子を丹念に描いた作品ではありません。大人も放課後児童クラブで育っていくことをテーマにしていて、さらに児童クラブの運営の実態を描くテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ご期待ください。
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「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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