放課後児童クラブ(学童保育所)の運営を行政から任されるためには、日本版DBS制度への対応が前提と考えておこう。

 放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者をサポートする「運営支援」を行っている「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブを舞台にした人間ドラマ小説「がくどう、 序」が、アマゾン (https://amzn.asia/d/3r2KIzc)で発売中です。ぜひ手に取ってみてください! 「ただ、こどもが好き」だからと児童クラブに就職した新人職員の苦闘と成長、保護者の子育ての現実を描く成長ストーリーです。お読みいただけたら、アマゾンの販売ページに星を付けていただけますでしょうか。そして感想をネットやSNSに投稿してください! 最終目標は映像化です。学童の世界をもっと世間に知らせたい、それだけが願いです。ぜひドラマ、映画、漫画にしてください!
 放課後行財政学を提唱している雑木林琢磨氏(@zokibayashi1969)が2025年10月2日、旧ツイッター(X)に、埼玉県入間市の学童保育室業務委託の公募型プロポーザルの情報を投稿しました。その投稿は、入間市の公募型プロポーザル関連資料に、こども性暴力防止法への対応を求める文言があるとする指摘でした。児童クラブの運営に関して極めて重要な指摘です。雑木林氏の情報収集力はいつもながら神の領域でたいへん有益でいつも弊会は助けられております。本日の運営支援ブログは、雑木林氏による情報を基に、児童クラブの運営を行政から任されることを期待するには児童クラブ事業者側がいわゆる日本版DBS制度への対応を考えておかねばならないことを訴えます。
 (※基本的に運営支援ブログと社労士ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブは、いわゆる学童保育所と、おおむね同じです。)

<入間市の資料では>
 埼玉県入間市は公営の児童クラブの一部運営を民間に委託することにしたようで、入間市が公表している資料には2026年度から2年間、8地区20施設のクラブ運営を業務委託するとして公募型プロポーザルを実施するとしています。10月1日に実施要領が公表され、最終選定結果は12月に公表されて契約締結に至るというスケジュールも公表されています。市のHPには実施要領のほか、各施設に関する運営業務委託仕様書も掲載されています。

 雑木林氏がXに投稿したのは運営業務委託仕様書です。学童保育室ごとにありますが中身は基本的に同一です。その仕様書には以下の記載があります。

5 関係法令の遵守
学童保育室の運営にあたり、本仕様書のほか、次に掲げる法令等を遵守すると共に、国・県・
市が定める指針等⑻⑼⑽⑾を準拠すること。
⑶ こども性暴力防止法

9 放課後児童支援員の配置
⑻ こども性暴力防止法が施行された際には、事業管理者は同法に基づく日本版DBSに適切
に対応すること。
(引用ここまで、なお抜粋して紹介しています)

 つまり入間市の公募では、児童クラブ運営を任されたい事業者においてはいわゆる日本版DBS制度への対応が可能な事業者を公募参加者の前提条件にしていることがうかがえます。

 いよいよ「のろしがあがった」というのがわたくし萩原の感想です。

<他の自治体は?>
 気になったのでインターネット検索で、児童クラブの運営事業者を公募している自治体の資料をいくつか確認してみました。
 2025年6月に公募要項が公表されていた東京都荒川区の学童クラブ運営事業者の募集では、こども性暴力防止法や日本版DBS制度への言及は見当たりませんでした。運営業務委託仕様書にも日本版DBS制度に関する記載は見当たりませんでした。

 2025年7月に運営業務委託の要求水準書を公表していた兵庫県姫路市では、遵守を求める法令に、こども性暴力防止法は列記されていませんでした。ただ、「その他本業務の遂行に当たり関連する法令又は姫路市の例規等」とあり、ここにこども性暴力防止法が含まれるという解釈は可能かもしれません。しかし明記されていないので、事業者に必ず日本版DBS制度の適応を求めるとは言い難いかもしれません。ちなみにこの要求水準書には、児童クラブ職員の給与を市職員と同等以上とすることを記してあり、これは良いことですね。

 2025年9月に運営業務委託仕様書を公表した広島県尾道市では、仕様書にこども性暴力防止法や日本版DBS制度への言及は見当たりません。関係法令の遵守を求める項目には児童福祉法や労働基準法など11の個別の法令が明記されていますが、12番目に「その他の関係法令」があります。ここにこども性暴力防止法が含まれるという解釈もできましょうが、根拠としては弱そうですね。

 2025年10月2日に運営業務委託のプロポーザルを市のHPで公表したばかりの千葉県旭市ですが、2026年度から3年間の業務委託期間中にこども性暴力防止法の施行と日本版DBS制度の開始を迎えます。運営業務委託仕様書には、日本版DBS制度に関する記載はされていないようです。法令等の遵守について7つの具体的な法令等が明記されていますが、そこにこども性暴力防止法は含まれておりません。なお、その7つの中に、放課後児童クラブ運営指針が含まれており、とても素晴らしいことと運営支援は評価します。

 さっと検索した限りでは、まだ公募などの仕様書に、こども性暴力防止法の対応や日本版DBS制度への対応を求める自治体はほとんどないようです。検索のキャッシュでは、奈良県河合町が行った「学童保育運営業務委託書」に、日本版DBS制度への対応を求める項目があったことが伺えますが、その資料は町のHPから削除されているようです。なんともったいない。

 現状においては、入間市の取り組みがまだまだ珍しい部類であって、先陣を切った動きと言えるのでしょう。ですが「のろしはあがった」と捉えてください。埼玉県は「学童保育のトップランナー」と称された地域ですから、埼玉県内にある入間市のこの動きが他の都道府県の自治体にも影響を及ぼすこともあるかもしれません。

<まだ時間的な余裕がある、とは思わないように>
 2026年度から児童クラブの運営を民間に任せようとする市区町村は、多くはすでに選定が終わっていますし、夏から秋にかけて公募を始めた自治体においても、選定の終盤にさしかかります。秋ごろに公募するのは遅い方で、秋の公募を行う自治体について運営支援は「実は任せたい事業者がある」「公募の参加プロセスに慣れている事業者に参加してほしい、勝ち抜いてほしい」という思惑が市区町村にあるのだろうと、にらんでいます。
 2026年度中にスタートする日本版DBS制度ですが、市区町村には2027年度当初から実施できていればよい、とする考え方があるのでしょうか。であれば、2026年度になってから行われる公募や指定管理者の募集に関する仕様書や公募要項には、こども性暴力防止法への対応を当然に求めるという趣旨の記載が増えている可能性は十分に高くなると運営支援は想像します。日本版DBS制度への対応は、取り組みを始めて数か月で対応完了、とはとてもいかない複雑で膨大な作業量があるので、早め早めの取り組みが必要です。2026年度に行われる公募等によって2027年度(または、2026年度下期)からの受託や指定管理者運営を目指す民間事業者は、やはりいまのうちから準備に取り掛かる必要があると、運営支援は呼びかけます。

 児童クラブの運営形態によって、次のように運営支援は考えます。
「市区町村内の児童クラブすべてを一括で運営している民間事業者」=3年や5年の期間で一括運営を任されている事業者は、次の公募や選定期間がいつであろうと、直ちに日本版DBS制度の導入を前提に取り組みを始めるべきです。単年度であろうとなかろうと随意契約で運営を任されていても同じことです。

「市区町村内の児童クラブの多く(半数近くまたは半数以上)を運営している民間事業者」=この場合も、ただちに日本版DBS制度の導入を前提に取り組みの準備に着手するべきです。多数のクラブを運営しているのであれば、その事業者の存在で生活が成り立っている人が多数いることを考えましょう。クラブを利用する保護者や雇用されている職員のことです。こどもの性暴力を防止しようと国会で全会一致で成立した法律であり、国も着々と導入に向けて取り組んでいることを軽視してはなりません。多数のクラブを運営する以上、日本版DBS制度への対応は当然になされるという行政からの要求がかなり高い確率で行われるという想定のもと、準備にとりかかりましょう。

「市区町村内の児童クラブのうち、1施設やごく少数のクラブを運営している民間事業者」=まずは自治体としっかり連携して常に最新の状況を入手する努力をしましょう。日本版DBS制度への対応について自治体や議会の動きに目を光らせましょう。いまの時点で何ら日本版DBS制度への対応について行政の動きがなくても、行政なんてものは「どこかからの鶴の一声」で前日とはがらっと対応が変わるものです。来年度の仕様書に突然「日本版DBS制度への対応」が盛り込まれるかもしれません。それに対応できなければその次の年度、もしかすると児童クラブの運営には適さない事業者として補助金の交付対象から外される可能性を考慮するべきです。事業運営は「常に最悪の事態を考え、その最悪の事態を乗り切る方策を確保する」ことが最低限の当然のことです。児童クラブの運営も同じこと。保護者運営であろうが、保護者主体あるいは保護者由来の非営利法人であろうが、日本版DBS制度への対応について興味関心を持ち、いつでも準備に取り掛かれるように組織の対応は整えましょう。つまり、日本版DBS制度について対応する弁護士や社会保険労務士、行政書士といった専門職にすぐ相談できるようにしておくことです。頼れる専門職に「あたりをつけておく」ということですね。制度全般について弁護士、具体的な社内規定の整備について社労士、制度への対応や具体的な手続きについて行政書士、ということが考えられます。備えあれば患いなし、それは小さな事業者ほど大事です。大きな事業者は、マンパワーも資金の余裕もあるので多少の遅れはとりもどせますが、人も予算も少ない児童クラブ事業者には「時間」を味方につけることしか、大変革を乗り切るすべはありません。

 児童クラブは学習塾と同じで、「認定事業者」となった事業者が日本版DBS制度に対応することになっています。放課後等デイサービスとは異なり制度対応が義務ではありません。ですが学習塾と決定的に違うところがあります。学習塾は民間の営利事業であり、認定事業者になろうがなるまいが、自社の経営方針、事業方針によって対応を決めるだけの話。ライバルの学習塾に負けないために制度対応をすることもあるでしょう。導入しない判断をする事業者もあるかもしれません。(実際は認定マークの有無で保護者からの評価が定まるでしょうから制度導入は不可避でしょうが)
 児童クラブですが、補助金を受けて運営している児童クラブに関していえば、「公の事業」を運営しているという点で学習塾とは決定的に異なります。学習塾とは違う「公の事業」であるがゆえに、「日本版DBS制度に対応している事業者を有利に選択できる状況」を自治体に与えています。つまり、日本版DBS制度に対応していない児童クラブ事業者に補助金を交付しないことを決めることが自治体には可能だということです。そして補助金を受けられなければ児童クラブの事業は継続できませんから事実上、廃業に追い込まれます。
 学習塾は日本版DBS制度に対応するかどうか自社の判断でどうにでもなりますが、児童クラブの場合は公の事業を任される以上、「国が進める日本版DBS制度に対応しなければ補助金の交付対象から外される可能性が高くなる」ことを想定して対応しなければならないのです。つまり、「制度に対応しておくことが事業の安定した継続の点では、安全だ」ということになります。この点においていくつかある認定事業者の中でも児童クラブは特異な状況にあるとわたくしは考えます。

 もちろん、こどもへの性暴力を引き起こす可能性を少しでも減らす取り組みは、こどもに関わる事業者には必須です。いろいろ問題はありますが日本版DBS制度の導入は前提として考えねばならないのは言うまでもありません。

 運営支援は今後、児童クラブ運営の公募や指定管理者の募集において、こども性暴力防止法と日本版DBS制度への対応を求めている自治体に関する情報を紹介していきます。

(お知らせ)
<社会保険労務士事務所を開設しました!>
 2025年9月1日付で、わたくし萩原が社会保険労務士となり、同日に「あい和社会保険労務士事務所」を開業しました。放課後児童クラブ(学童保育所)を中心に中小企業の労務サポートを主に手掛けて参ります。なお、放課後児童クラブ(学童保育所)に関して、労働関係の法令や労務管理に関すること、事業に関わるリスクマネジメント、生産性向上に関すること、そしていわゆる日本版DBS制度に関しては、「あい和社会保険労務士事務所」を窓口にして相談や業務の依頼をお受けいたします。「あい和社会保険労務士事務所」HP(https://aiwagakudou.com/aiwa-sr-office/)内の「問い合わせフォーム」から、ご連絡のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

 「一般社団法人あい和学童クラブ運営法人」は、引き続き、放課後児童クラブ(学童保育所)の一般的なお困りごとや相談ごとを承ります。児童クラブの有識者として相談したいこと、話を聞いてほしいことがございましたら、「あい和学童クラブ運営法人」の問い合わせフォームからご連絡ください。子育て支援と児童クラブ・学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ・学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

(ここまで、このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)

投稿者プロフィール

萩原和也