放課後児童クラブ(学童保育所)の職員が、こどもの頭を足で小突いたとの報道。行政と事業者の姿勢はそれでいいの?
放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者をサポートする「運営支援」を行っている「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブを舞台に、新人職員の苦闘と成長、保護者の子育ての現実を描く、成長ストーリーであり人間ドラマ小説「がくどう、 序」が、アマゾン (https://amzn.asia/d/3r2KIzc)で発売中です。ぜひ手に取ってみてください! お読みいただけたら、アマゾンの販売ページに星を付けていただけますでしょうか。そして感想をネットやSNSに投稿してください! 最終目標は映像化です。学童の世界をもっと世間に知らせたい、それだけが願いです。ぜひドラマ、映画、漫画にしてください!
放課後児童クラブの職員が、こどもに不適切な行為をしたとの報道がありました。不適切な行為をなした職員が批判を受けるのは当然ですが、運営支援は2つの点がとても気になります。「その職員を雇用していた事業者はどれだけ人権について職員を教育研修していたのか」ということと、「行政は当事者意識を持っているか。民間事業者に丸投げではなかったのか。民間委託はすべてにおいて素晴らしいと持ち上げておいて、いざ問題が起こると本来は委託事業について管理責任があるにも関わらず中立者的な立場にあるかのような立ち振る舞いをしているとしたら、それこそ不適切な行為を招きかねない土壌を作っており問題なのだ」ということです。
(※基本的に運営支援ブログと社労士ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブは、いわゆる学童保育所と、おおむね同じです。)
<報道から>
東京都東久留米市の放課後児童クラブ(当地では「学童保育所」と呼称しています)の職員が、こどもの頭を足で小突いたという報道です。2025年9月27日午前9時の時点では朝日新聞の報道だけで確認できます。ヤフーニュースに9月26日15時に配信された「学童支援員が児童の頭を足で小突く…大声で泣いて発覚、業者側が謝罪」との見出しの記事を一部引用して紹介します。
「9月18日夕、畳に座っていた児童の頭を放課後児童支援員が足で小突いたという。児童が大声で泣いたことで発覚し、事業者が市へ報告。事業者と市は児童と保護者に謝罪した。支援員は「児童の危険な遊びを止めようとした」と説明しているという。市は「全職員への不適切な行為防止に向けた研修の実施や、委託事業者への再発防止に向けた指導を徹底する」とコメントした。」
他の報道機関の報道がインターネット検索では見当たりません。東久留米市役所のホームページにもこの事案に関する報道発表はありません。もしかすると、朝日新聞社だけが独自につかんだ事案(独自ダネ)だったのかもしれません。
わたくし(萩原)は、この事案についても行政と事業者はすみやかに事実を社会に公表する必要があると考えます。放課後児童クラブは、国民の税金が投入されている公の事業です。納税者たる国民に、不祥事について公表して謝罪するのは、それが職員個人的な問題行動であったとしても、行政と事業者は公表して経緯を明らかにするべきです。もう事案が起こって1週間以上も過ぎているのですから、公表されていないことは公の事業の設置主体、運営主体、双方の失態です。
<東久留米市の児童クラブの状況は?>
市のホームページでの放課後児童クラブに関する情報提供は、全国すべての市区町村の児童クラブに関するHP上の情報提供を実際に確認してきた運営支援の目からみて、残念な情報提供体制です。市のHPには「学童保育所」とタイトルが付けられた専用ページがあり、個々のクラブの紹介ページはあります。それは良いのですが、肝心の、児童クラブの概要や事業の内容、設置主体や運営主体の紹介に関する情報提供がまったく掲載されていないのです。ただ単に各学童保育所の名称が掲載されてクラブ紹介ページが開くだけなのです。これは極めて残念な情報提供の形態です。
では当地の児童クラブの概要は? それはHPの別ページにあります。「申請書ダウンロード」というページの中に学童保育所も掲載されていてそこから児童クラブの入所案内(「東久留米市学童保育所入所案内」)をダウンロードすることで、当地で行われている児童クラブの概要を知ることができます。多くの自治体では、入所案内等に掲載されている情報の多くがHPの記事で情報提供されていますが、東久留米市はその形態ではないということです。
なお、この入所案内を見ますと、クラブの一覧において、運営形態に関する記載があり、業務委託か直営かの区別がなされています。ただ業務委託の受託者、実際にクラブを運営している運営主体の事業者名については記載がありません。そもそも入所案内に「学童保育所の一部を民間事業者が運営している」旨の記載も、見当たりません。東久留米市の場合はクラブ一覧のところに直営か、そうではないかを明記しているのでそれは評価できますが、かなり多くの自治体では実は民間に運営を任せているのにHPや入所案内資料ではまったくそれに触れていないことが当たり前にあります。これをわたくしは「民間隠し」と勝手に呼んでいます。さも自分たち行政が運営しているように見せかけて現実は民間(それは保護者会も含む)に運営を任せている、ということです。
東久留米市においては「東久留米市立学童保育所の民間活力の導入に係る実施計画」というものがあります。これも学童保育のページにはなく、インターネット検索で見つけることができました。簡単にまとめますと、直営(つまり公設公営)のクラブを民間に任せる方が良いのだ、実際に民営に移したところの評判はとても良い、よって残る公営クラブをあと3クラブ、民営にする。その上で残りの公営クラブについて考える、というものです。同計画から引用します。
「民間活力を導入した学童保育所では、事業者の持つ多様な人材確保策の中で、様々な任用形態や運営形態などの民間のノウハウが活かされ、人員体制が整えられたうえで、延長育成を含めた安定的な事業の継続という課題に対応することができている」
「安定的な事業の継続という課題と民間による運営のノウハウを活かして育成内容の充実を図ることなどについては、民間活力の導入により対応する」
「育成支援中の事故やケガの発生等といった点において、直営の学童保育所と比較して突出することはなく、安全面についても十分確保されていました。」
「学童保育の質の確保については、事業者選定過程で、学童保育所の運営実績、財務状況、職員の育成・教育及び研修体制、運営体制等を企画提案させ、審査委員会でその内容を審査することで学童保育所の質を確保しています。」
(引用ここまで)
つまり、民間に委託したところ、児童クラブの運営はうまくいっていますよ、質も確保していますよ、というのが東久留米市のスタンスということです。
それなのに、今回の報道で伝えられた事案が起きていたわけです。
<公表の姿勢に疑問がある>
東久留米市のHPでは、どの事業者が児童クラブを運営しているのか、判別できません。もちろん報道でもどの施設で不適切な行為が発生したのか触れられていないので、報道など公開情報に接するしかない運営支援としては、どの事業者が運営するクラブでこの問題事案が起きたのか、知るすべはありません。
ただ、同市内の児童クラブで求人広告を出している事業者があります。児童クラブのアウトソーシングではシェア2番手である大躍進中の事業者です。その事業者が運営しているクラブで今回の不適切な行為が行われたのかどうか、当然ながらまったく分かりません。
市も事業者も、今回の事案を公表して不適切な行為について説明するべきです。
児童クラブの運営について、これは東久留米市に限らないのですが、分からないことが多すぎるブラックボックスとなっているのが問題です。多くの自治体において、どのクラブがどの事業者によって運営されているという、当然に公表されていなければならないことが公表されていません。設置主体、運営主体は確実に明記されるべきです。誰のカネで運営していると思っているんですか。
また、業務委託なら公募型プロポーザルの資料をHPに公表しておくべきでしょう。どういう点が評価されて、その事業者が選ばれたのか知ることができます。そんなに容量が大きいデータでもないですから。
今回の事案において大いに参考になるのが千葉県四街道市です。四街道市は市のHPに「こどもルームにおける補助員の不適切な行為について」と題したページを設けています。事案の概要、対応、改善計画の公表と、およそ考えられる必要な情報公開を行っています。事業者名もはっきり明記しています。
ここで起きた不適切な行為も、当然にあってはならないことでしたが、四街道市と事業者は当該の不適切事案について社会に公表し、改善の計画も示しています。これが、国民の税金を受けて行われる公の事業として当然に求められる姿勢でしょう。運営支援はこの情報公開について大いに評価します。
東久留米市の事案に関しても、「税金と、利用者から頂戴しているお金で運営している公の事業、公共の児童福祉行政サービスとして、起こしてはならないことが起きてしまった。しっかり反省し、再発防止に取り組みます」という姿勢を、社会への公表という形で示すことが重要です。行政も事業者も共に、社会に対して誠実に対応する必要があると運営支援は考えます。
今回の事案に関して、事業者は公の事業を任されているという責任をどう感じているのでしょう。大事な公の事業ですから、税金を受けて事業を営んでいる立場です。また、問題を起こした職員を雇用している使用者です。使用者責任という考え方もあります。本来であれば、事業者は率先して事案について公表して謝罪し、再発防止について早急に取りまとめる姿勢が必要です。まさかこのままダンマリを決め込むようでは、とてもこどもの成長を援助し、支援するという公の事業を任せるに値する事業者であるとは運営支援には理解できません。
<行政の姿勢にはやはり苦言を呈したい>
朝日新聞の報道による限り、東久留米市のコメントは「全職員への不適切な行為防止に向けた研修の実施や、委託事業者への再発防止に向けた指導を徹底する」というものです。わたくしに言わせれば、なんたる第三者の立場感というか、自らもまた迷惑をこうむったような雰囲気を漂わせるものでもやもやとします。まずは「受託事業者が起こした不適切な行為につき、委託者として、設置主体として、こどもと保護者、そして市民の皆様におわびします」が先にくるべきでしょう。(もっとも記事の都合でその部分は掲載されていない、かもしれません)
指導を徹底するのは当然です。このような不適切な行為を起こさないため、ずっと以前から受託事業者には職員の教育研修の徹底を要求し、「どのような教育研修を行っているのか」「行っている教育研修の目的は何か」「教育研修を行った結果、どのような状態に至っているか」を定期的に受託事業者から報告させねばなりません。
その上で、委託者として、「この部分においてもっと教育研修が必要ではないか」、あるいは「この分野についてはしっかりと教育研修が実施できている」と、指摘をしたり評価をしたりすることが当然です。それもまた、納税者たる国民に向けてHPで公開される情報でしょう。
なんというか、「丸投げ」感が否めないのです。今回の事案についても、行政の姿勢に、「民間に任せた。しっかりやってくれ。契約上もそうなっているからね。後はよろしく!」という丸投げ感がぬぐえないのです。普段から事業者の事業運営にどれだけ目を光らせていたのか、それが問われるのです。管理監督の責任です。
児童クラブの職員が、こどものあたまを、足で小突くだなんて、わたくしには全く理解ができません。それがいかなる理由であれ、行われてはならない不適切な行為です。危険な遊びを止めようとしてなんでこどもの頭を足で小突く必要があるのか。言語道断です。
そのような不適切な行為を、児童クラブ職員が行動の選択肢として考え、さらには行為を為してしまう余地を職員に与えているる時点で、事業者も、そしてそのような事業者に運営を任せている行政も、児童クラブで行われる放課後児童健全育成事業の「質」の維持に失敗していると運営支援は指摘します。市の行政文書で民間委託で質が確保されているという報告は、実はそうではなかったということです。たった1人の残念な職員の例外的な振る舞いで片づけてはなりません。
ただ、残念な事案ではありますが、どのような経緯を経て報道に至ったのかまったく分かりませんが、報道されたことで、世間に「児童クラブでそんなひどいことが」と知られる機会を得たことは、運営支援は大事なことだったと考えます。というのは、当事者同士しか知らず、不適切な行為や犯罪行為によって、被害を受けた側(これは、こどもや保護者だけではなく、職員も被害者となることが珍しくありません)が泣き寝入りを迫られることが実に多い児童クラブの「暗部」をまた増やすことにならなかったからです。多くの場合において、児童クラブでのトラブル(それも当事者の片方が、一方的に被害を受ける形態のトラブル)は「表ざたにすると、クラブを利用しづらくなる。働きづらくなる」として我慢を強いられたり、被害者側なのに身を引く(退所する、退会する、退職する)という不条理な幕引きをすることが珍しくないからです。
運営支援には、そのような一方的な不条理な事態を選択せざるを得なかった立場の方からの悲しみの声が時々届くのです。
こども家庭庁も、児童クラブの不祥事の取り扱いについて一定の指針を示すべきでしょう。誠実に事案を公表している四街道市が、公表しているが故に「そんなひどいことがあったのね」と知られるだけでは、その誠実さが報われません。たまたま報道されたが故に注目されるのは「運が悪かった」で済ませ、「上の役所には報告するけれど報道発表まではいらんだろ」とだんまりを決め込んでいる自治体や事業者が、社会から正当な評価を受ける機会から逃れている現状の改善が必要です。それには国が乗り出すしかないでしょう。こども家庭庁の毅然とした態度を期待します。
(お知らせ)
<社会保険労務士事務所を開設しました!>
2025年9月1日付で、わたくし萩原が社会保険労務士となり、同日に「あい和社会保険労務士事務所」を開業しました。放課後児童クラブ(学童保育所)を中心に中小企業の労務サポートを主に手掛けて参ります。なお、放課後児童クラブ(学童保育所)に関して、労働関係の法令や労務管理に関すること、事業に関わるリスクマネジメント、生産性向上に関すること、そしていわゆる日本版DBS制度に関しては、「あい和社会保険労務士事務所」を窓口にして相談や業務の依頼をお受けいたします。「あい和社会保険労務士事務所」HP(https://aiwagakudou.com/aiwa-sr-office/)内の「問い合わせフォーム」から、ご連絡のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
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「一般社団法人あい和学童クラブ運営法人」は、引き続き、放課後児童クラブ(学童保育所)の一般的なお困りごとや相談ごとを承ります。児童クラブの有識者として相談したいこと、話を聞いてほしいことがございましたら、「あい和学童クラブ運営法人」の問い合わせフォームからご連絡ください。子育て支援と児童クラブ・学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ・学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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