放課後児童クラブ(学童保育所)で働く人に「複眼的思考」を勧めたい。第三者から多数の意見、見解を得る大切さ。

 放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者をサポートする「運営支援」を行っている「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブを舞台にした人間ドラマ小説「がくどう、 序」が、アマゾン (https://amzn.asia/d/3r2KIzc)で発売中です。ぜひ手に取ってみてください! 「ただ、こどもが好き」だからと児童クラブに就職した新人職員の苦闘と成長、保護者の子育ての現実を描く成長ストーリーです。お読みいただけたら、アマゾンの販売ページに星を付けていただけますでしょうか。そして感想をネットやSNSに投稿してください! 最終目標は映像化です。学童の世界をもっと世間に知らせたい、それだけが願いです。ぜひドラマ、映画、漫画にしてください!
 本日のテーマは、わたくし萩原が以前から行動の規範としようと心がけていることで、児童クラブ職員への研修においてもよく話している「複眼的思考」の勧めです。状況を複数の第三者から眺めたときにどのようなことが考えられるのか、どのような選択肢があるのかを考える「思考のクセ」を持ってほしいですし、常に第三者からの意見を求めるようになってほしいということを伝えたいのです。
 (※基本的に運営支援ブログと社労士ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブは、いわゆる学童保育所と、おおむね同じです。)

<視点をたくさん持つこと>
 複眼とは文字通り、複数の「眼」です。昆虫にあるようですね。わたくしは、できる限り全ての事象において「複数の視点に自らを置いてみて考えること」が、放課後児童クラブに関わるうえで非常に重要、いや欠かせないことだと考えています。わたくしも現実にそのように考えて関わっていこうとしています。言うは易く行うは難し、であってなかなか難しいのですが、心がけだけは、間違いなく持っています。

 複眼的思考とは、実はとても単純なことです。児童クラブのとりわけ現場の職員は、教育研修の過程で「1つの見方だけに固執しないこと。こどものけんかがあったら双方から話を聞きましょう」と指導を必ず受けることでしょう。それはまさに複眼的思考の第一歩です。物事を考えるにあたっては、立場が変われば見える印象、光景が変わるということ。こども同士のトラブルで、外形的には「加害側、被害側」と見えても実はその原因において加害側と被害側が入れ替わっていたという過去がある、というのは珍しいことではありません。だからこそ、児童クラブの世界では「目の前のことだけを見て判断してはなりませんよ」ということが半ば格言のように現場で伝えられ続けているのでしょう。客観視のうち、その「客観」の数がどんどん増えたらそれが複眼的思考につながります。

 児童クラブの運営側にしてもまったく同じ。運営本部で働く人が、「あの保護者はいつも同じ内容でクレームをしてくる。本当に困った、嫌な人だ」と思っているとして、「あの保護者だけは我慢ならない」だけしか考えていない、考えられないようでは、運営本部で働く資質はありません。「なぜ、あの内容にこだわるのか」ということを考えていかねばクレームは解消しませんし、そもそも利用者からのクレームには、運営側が気づかないか、見過ごしている大事な問題や欠陥に起因するものもあります。全てのクレームがそうではないにしても、クレームや苦情には、自分の属する立場の欠陥やミスを気づかせてくれる効果もあります。「失敗学」というのが時々話題にのぼりますが、失敗やミスから学ぶというのは、「今まで属していた立場では気づかなかったことから学ぶ」ということでもあります。

 「これはどういうことだろう」と、様々な立場に自分の身を置いていると想定して思考をめぐらすことが、複眼的思考です。児童クラブにおいては、複数人のこどもが思い思いに活動している時間帯が長くありますね。こどもたちの様々な行動を把握し、その先の展開を予測し、こどもたち(又は同僚職員や保護者等も)から寄せられる要望や意見、依頼を「いまとりかかる、先送りする、それはしないと決める」など時間をかけずに(むしろ、瞬時に)判断することが、児童クラブで働く職員には求められます。いわゆるマルチタスク能力です。そのマルチタスク能力の信頼性を支えるのが複眼的思考です。1つの見方だけで行うマルチタスク能力よりも複眼的思考で様々な可能性や状況を加味されたマルチタスク能力では、その精度がぐんと異なりますよ。

 「あの子はいつも周りの子に意味もなく乱暴な態度をとる。育ちが悪い子だ」という視点しか持たずに、目の前で起きた1つの場面においていろいろな可能性を考えること。
 「あの子はいつも周りの子に意味もなく乱暴な態度をとるけれども、何に困っているのだろう。何を伝えようとしているのだろう。学校ではどういう人間関係にあるのだろう。家庭ではどうだろう。」と様々な状況を考えたうえで、目の前で起きた1つの場面においていろいろな可能性を考えること。

 そのどちらが、こどもへの適切な援助、支援につながるか、言わずもがなです。

 ただし複眼的思考を備えたマルチタスク能力を存分に発揮するには、非常に高度な能力が必要です。コミュニケーション能力も、未来を予想する想像力も、未来に起こりうる出来事を複数考えられる「創造力」も必要です。初めから十分な複眼的思考を備えた人はそうそういないでしょう。ですから教育研修で、「いろいろな立場に身を置いている自分を考える」思考回路を育てていく必要が事業者にはあります。児童クラブ職員の研修において複眼的思考が極めて重要なことだとわたくしは考えるのはそのためです。育成支援の理論だったり「深み」「広がり」だったりは、複眼的思考によってこどもたちを受け止めることから始まるとわたくしは考えているのです。

<児童クラブの経営、運営の責任者にも必要>
 複眼的思考を持ってできる限り多くの「選択肢」を持つこと。これはまさに事業体の経営、児童クラブ事業の運営において、経営と運営のミスを減らす、致命的な失敗に直面する可能性を減らすことになります。それこそ、児童クラブの経営者や運営責任者に必要なリスクマネジメント能力です。複眼的思考とは、客観視の視点を多数持つことによって児童クラブ事業における経営と運営のリスクをしっかり管理することと表裏一体なのです。

 例えば、いわゆる日本版DBS制度を考えましょう。放課後児童クラブは、この制度を受け入れるかどうかを選べます。児童クラブ事業者の経営において、日本版DBS制度の認定事業者になるかどうか、それぞれの局面において考えられることを当然踏まえたうえで判断することでしょう。
 ここで大事なのは「自分たちにとってどうか」だけではなくて、「認定事業者となったクラブ、ならなかったクラブを見た第三者がどう判断するか」もまた同時に考える必要があるということです。保護者、行政、地域の人々は当然、認定事業者となったことをアピールしてくるであろう広域展開事業者の動き、社会一般の評価などなど、多数の立場から見た「自分たち」を考える必要があるということです。

 児童クラブも事業つまりビジネスですから、事業の安定した継続は最優先として考えねばなりません。事業を行うことで提供するサービスを必須とするこども及び子育て世帯がいますし、その事業に従事することで生計を立てている職員がいます。それらの人たちの安定した生活を続けるために、児童クラブ事業の安定した継続が当然に必要なのです。(そもそも、それを意識していない児童クラブ事業者が今になってもあるようですが、論外です)
 日本版DBS制度が、児童クラブの安定した事業の継続に資するか否かを考えることは、複眼的思考の中でも大事な視点の1つです。いますぐ求められる視点でしょう。日本版DBS制度の認定事業者にならずとも安定して児童クラブ事業を継続できるという判断になるのか、認定事業者にならないと安定した児童クラブ事業の継続に暗雲が垂れ込めるのか、その重要な判断をまさに迫られているのが今なのです。その判断にあたっては、「自分たちだけで対応できるかどうか」だけではなく、「自分たちが制度を選択しないことによる将来の結果」もまた予測しておくことが必要で、その予測に際して「いろいろな立場で考えること」が欠かせない、ということです。複数の視点から見た意見や見解が必要なのです。

 児童クラブは放課後児童健全育成事業を営んでいる施設ですが、その放課後児童健全育成事業によって補助金を受けているのであれば、児童クラブ事業者は「受け身」の立場にあります。補助金の交付を今まで受けている事業者であれば、補助金がもらえなければ事業が成り立たない局面に陥る可能性は高いでしょう。問題は、補助金を出す、出さないは自分たち児童クラブ事業者側で決められないという点において「受け身」の立場であることです。
 つまり「国が定めたこどもを守る制度の日本版DBSに取り組めない事業者より、すでに取り組んでいる事業者の方が安心だ」と行政や社会全体が判断したら、過去にどれほどこどもと保護者に寄り添った児童クラブ運営をしていても、公の事業としての放課後児童健全育成事業を「もう、あの事業者には任せない」として、はしごを外される可能性もあるということです。いや、外されないかもしれません。それは地域の自治体によって様々ですから必ずはしごを外されるとは断言できませんが、リスクマネジメントとしては「はしごを外された場合に、今まで行ってきた事業を継続できるかどうか」を考えねばなりませんよ。それを考えないで「まあ、たぶん大丈夫だろう。ゆくゆく考えればいいよ」とするのは、事業経営者としては失格です。

 日本版DBS制度に対応するとしても、事業者内の各種規程、就業規則類などを整えていく必要があります。機微な情報の管理体制を整える必要があります。ほかにもいろいろ必要なことがあります。就業規則ひとつとっても、児童クラブの事業はおいそれと変えることは難しい。ただ条文を変えればいいだけではありません。職員の過半数以上が加入している労働組合が極端に少なくなっている今、職員の過半数代表を決めるにしても時間がとれません。就業規則を変えるには理事会など機関決定で可能とはいえ労働者側の意見を十分に聴くプロセスも必要です。「民主的に」事業者内の規則を変えるには、何カ月もの時間がかかるのです。
 まして児童クラブの事業の特殊な状況や環境は、なかなか外部の方には理解されていないところがあります。日中はこどもたちの援助、支援の仕事で忙しい。昼の早い時間はダブルワークの職員もいる。研修や会議もあってそれ以外の会議の時間が取れそうにない。多くの職員を招集する時間帯は夜しかなさそうだけれど時間外割増賃金の手当ては大丈夫か。場所は確保できるか。招集する前にしっかり内容を説明できているか。しかもただでさえ児童クラブの業界は「時代の変化に対応する動きが遅い」面があちこちにあるとわたくしは痛感しています。帳尻合わせでなんとかやり過ごすことができない局面になって右往左往するのも常。児童クラブの実態を知っているからこそ、運営支援ブログは児童クラブ事業者の尻に火をつけまくっているのですよ。

 話が例によってそれていますが、日本版DBSという重大な制度の変革を前に、それを受け入れるかどうかの選択は複眼的思考のもと、速やかに決断をして、受け入れるにしても受け入れないにしても準備=事業が安定して継続できるための準備=に取り掛かる必要がある、ということです。日本版DBS以外にもいろいろありますよ。「児童受入時間は今のままでいいのか」「昼食提供のあり方は今のままでいいのか」「職員の教育研修の仕組みや内容は今のままでいいのか」、ありとあらゆる経営判断、事業判断において、複眼的思考が求められるのです。

 児童クラブのお仕事は、現場も経営もどちらも「複眼的思考」が必要です。

<複眼的思考を育てるには>
 ラッシュアワーの電車通勤をしている人ならば想像しやすいでしょうが、「満員の電車なのに、電車のドアの前に立って動かない人」や、「駅のホームで、電車のドアが開くそのど真ん中に立っていて電車に乗り込もうとしている人」は、本当にどえらい迷惑ですよね。「満員なんだから人がどどーっと降りるのは想像つくだろう!」と思いますが、それが分からない人が結構いるんですよね。つまり「自分は、ここに立ちたい。降車するのが楽だから」とか「自分はここに立って電車に真っ先に乗り込みたい」と自分の都合だけしか考えていない人がいるんです。「駅に着いたら電車から降りたい人がわんさかいる」とか「到着した電車からわんさか人が下りてくる状況」が予測できない人が、いるんですよ。

 そういう「自分がやりたいこと、自分がしたいこと」だけしか考えられない人にどうやって複眼的思考を育てさせるか。もうこれは反復訓練しかありません。粘り強く教えていくだけです。残念ですがそれしかありません。それで数か月で「なるほど!」と気づく人がいれば、何年たっても自分の都合だけを常に優先する思考で行動する人もいます。こればかりはどうしようもありません。複眼的思考は児童クラブのお仕事をするにあたって非常に有効なだけであって、別段、人間の私生活において複眼的思考を持たねばならない、とわたくしは強要している訳でありません。(ただ、そのような思考があると様々な局面で物事がうまくいく、ことはあるでしょうが)。いわゆる「向き、不向き」のうち「児童クラブの仕事に向いていないね」というのは、どうしてもこの複眼的思考がまったく身につかない人だとわたくしは思っています。でもそれは人それぞれですね。

 複眼的思考がなかなか育たない人を、どう頑張って働いてもらうか。児童クラブの現場の場面において運営支援は「第三者からの意見、指示を必ず参考にさせる」ことや「第三者からの意見、指示を優越させる場面を作る」ことで乗り切るしかないと考えます。いわば強制的に第三者からの視点を与える、ということです。
 児童クラブ事業者の経営者、事業責任者に対しては運営支援は厳しいスタンスですので、「複眼的思考を持てない人はその地位に就くべきではない」という考えを持っています。事業の継続(=法人や団体としての機能の維持)や職員の生活を守る重責を負っているからです。
 とはいえ、複眼的思考ができているかどうか自身ではなかなか分からないですし、自信も持てないでしょう。そういう場合にも第三者の意見や助言が大きな力となります。その第三者は専門家であるでしょうし、以前に児童クラブ運営に関わっていた先輩保護者たち、行政や地域の機関に属する人たちでもあるでしょう。何より「こども」ですし「保護者」がそうです。そうした第三者からの話を聞く、見解を求める行動習慣を児童クラブの経営者や運営者は常に意識して持っていきたいですね。
 とりわけ専門家であれば、法律問題なら弁護士、労務管理や社会保険は社労士、お金のことは税理士、DBSなど手続きは行政書士、事業運営全般については中小企業診断士、地域に根差した児童クラブの事業規模であれば法律顧問に司法書士を頼むこともよいでしょう。

 複眼的思考は第三者からの意見や見解を多く求めることで十分にカバーできます。現場の職員の仕事に関しても同じことです。ですから運営支援は児童クラブでの育成支援についても、クラブ職員「だけ」それも特定のベテラン職員だけの育成支援に傾きがちな実情を懸念しているので、「いろいろな意見や価値観を持つ保護者たちが児童クラブでのこどもの育ちに関わっていくこと」が大事だと考えていますし、その点に関しては過去の育成支援の集合知に基づくAIによる意見も近い将来、必ずや参考にされることでしょう。   

(お知らせ)
<社会保険労務士事務所を開設しました!>
 2025年9月1日付で、わたくし萩原が社会保険労務士となり、同日に「あい和社会保険労務士事務所」を開業しました。放課後児童クラブ(学童保育所)を中心に中小企業の労務サポートを主に手掛けて参ります。なお、放課後児童クラブ(学童保育所)に関して、労働関係の法令や労務管理に関すること、事業に関わるリスクマネジメント、生産性向上に関すること、そしていわゆる日本版DBS制度に関しては、「あい和社会保険労務士事務所」を窓口にして相談や業務の依頼をお受けいたします。「あい和社会保険労務士事務所」HP(https://aiwagakudou.com/aiwa-sr-office/)内の「問い合わせフォーム」から、ご連絡のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

 「一般社団法人あい和学童クラブ運営法人」は、引き続き、放課後児童クラブ(学童保育所)の一般的なお困りごとや相談ごとを承ります。児童クラブの有識者として相談したいこと、話を聞いてほしいことがございましたら、「あい和学童クラブ運営法人」の問い合わせフォームからご連絡ください。子育て支援と児童クラブ・学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ・学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

(ここまで、このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)

投稿者プロフィール

萩原和也