放課後児童クラブ運営指針の「改正案」には重要な要素が盛りだくさん。児童クラブ運営者と職員は今から対応準備を!

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。2024年9月17日、こども家庭庁が、放課後児童クラブ運営指針の改正案をサイトにアップしました。重要な改正になることは明らか。関係各位はさっそく対応準備をしましょう。私が特に気になった数点を紹介します。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<こども主体に大転換>
 まずは感謝。こども家庭庁の動向はじめ放課後児童クラブに関わる多くのことについて間髪入れずに情報を提示してくれるのは、放課後行財政学を提唱している雑木林琢磨氏(@zokibayashi1969)です。氏の情報収集力は素晴らしく、私もいつも彼の提示する情報や資料に助けられています。今回の改正案ももちろん氏がSNSにさっそく投稿しています。

 放課後児童クラブ運営指針の改定については着実に討議検討が進められています。改正のポイントは、こども家庭庁がすでに資料を公開していますが、以下に一部を転記します。

こども基本法、こども大綱、こどもの居場所づくりに関する指針を踏まえて、こどもの権利に関する記述を充実した。具体的には、
①こども自身が権利の主体であることを実感できるよう、こどもの権利についてこどもや保護者、地域住民に伝える機会づくり
②児童館、児童クラブ職員が自らこどもの権利について学習することを求めること
③運営主体にこどもの権利に関する学習や職員の学習機会保障を求めること
④こどもの意見形成支援、意見聴取、意見反映への支援に関すること
⑤こどもの権利が侵害される事案が発生した場合の対処方法について定め、こどもに周知すること 等について記載した。
・性被害防止のための取組、こども間での性暴力が発生した場合への対応について求めた。
・さまざまな社会的・文化的困難を抱えるこども等への対応は、インクルージョン(包容・参加)の観点から配慮することを記載した。
・交通安全について、留意すべき点等を記載した。
・第三者評価について、実施と結果の公表について追記した。
(以上。なおこれは放課後児童クラブ運営指針と、児童館ガイドラインの2つの改定に関する共通姿勢です)

 上記からすぐに読み取れますが、こども主体の施策を児童クラブにおける育成支援、児童クラブ運営の中軸に据えることを全面に打ち出したものといえます。

<ここに注目しました>
 改正案のうち、私が気になった箇所をいくつか紹介します。

1つめ。
「放課後児童クラブは、自ら進んでこどもの権利について学習を行った上で、育成支援を行う必要がある。」
→これは「第1章 総則」の「3.放課後児童クラブにおける育成支援の基本」の「(4)放課後児童クラブの社会的責任」の箇所に新たに追加された文章です。しかも、すでに①~⑥まであったところの①として新たに追加されています。それだけ重要だというメッセージであると私は理解しました。この内容、当たり前だよと簡単に思わないでください。これが実際に実践できているか、あるいは実践しようと努力しているクラブ運営事業者やクラブ職員が、どれだけいるのでしょうか。少なくとも、私のもとに寄せられるクラブ職員からの相談には、まったくこどもの権利について学びも理解もせずに子どもを単なる支配下の存在として扱っている職員や事業者のひどい実態がつづられています。このことを児童クラブ側が着実に実践しないと、児童クラブの社会的評価は今のままで変わりませんよ。

2つめ。
「放課後児童支援員等は、こどもが気持ちや意見を表現できるようにし、それを受けとめる体制を整える。」
「こどもが放課後児童クラブでのルール等について意見を交わす機会を持つことや、こどもの生活や遊びに影響を与える事柄については、こどもが放課後児童支援員等と共に考え、共に決めることができるよう努める。」
→この2つの文章は「第3章 放課後児童クラブにおける育成支援の内容」の「1.育成支援の内容」の中に新たに追加されたものです。「育成支援の内容」はこの指針の核心にあたる部分です。新たに追加されたこの文章は、「こどもが自分の気持ちや意見を表現することができるように援助し、放課後児童クラブの生活に主体的に関わることができるようにする。」と提示された項目の中に収められています。育成支援の核心中の核心ともいえる箇所に、新たに追加されたのですからその重要性は言うまでもありません。
 新たに追加されたこの2つの文章が示すのは、多くの児童クラブ職員にとって、育成支援の本質が理解できているか、いないかを判定できるほど重要です。クラブ職員は、こどもの思いや意見をちゃんと聞きなさいよ。それをすることなく、何でも職員のやりやすいように、職員の都合だけで児童クラブにおける子どもの過ごし方を一方的に決定するようではだめですよ、という内容です。児童クラブの中での決まり、ルールを作るときに、職員だけで作ることはだめですよ、といっています。同時に、こどもだけで、ということも違いますね。こども主体だからといって、こどもに丸投げで決まり事を決めさせる職員もいるようですが、それは支援、援助をするクラブ職員の任務を放棄していることですから。
 放課後児童支援員「等」となっていることも見落とさないでください。補助員も含まれます。最初に挙げた私が重要と思った改正内容に連動しますね。こどもの権利について学習をしていない運営事業者と、その事業者に雇われた職員では、この新たに追加された文章の内容を実践することはできないでしょう。

3つめ。
「地域の実情に応じて昼食等を提供する場合には、保護者やこどもの意向を踏まえた上で、おやつ同様に内容や量等の工夫、安全及び衛生に考慮する。」
→これも、2つめの「育成支援の内容」の箇所に、新たに追加された文章です。児童クラブにおける昼食提供は国の急激な方針転換もあって昨年度から各地で急激に実施が進んでいますが、運営指針には昼食について何ら言及がされていなかったので、どのような形で盛り込まれるのか私は注目していました。結果として、「保護者やこどもの意向を踏まえた上で」という文言が入ったことは高く評価したいと考えます。児童クラブにおける昼食提供は、現状、発注の手間ひまを考慮、優先して事業者が選ばれているように私には受け取れます。巨大なハンバーグ弁当を提供して誇らしげに広報している事業者もありましたが、それは本当に、こどもが毎日食べたいものなのでしょうか。保護者とこどもが、どういう昼食を食べたいかをクラブ運営事業者が丁寧にその意向を踏まえて、昼食提供のスタイルを決めていきましょうというこの文言、私には当たり前すぎるのですが、すでに昼食を提供しているクラブ事業者も、改めて来年度以降はこの改正された運営指針に則って、昼食提供のあり方を再検討してほしいものです。
 なお、そもそも、おやつの提供を行わないクラブ運営事業者も相当あります。おやつの重要性は現行の運営指針でも丁寧に記されていますが、国は、昼食提供の導入だけを市区町村にせかすことなく、その前段階としての「おやつ提供」について市区町村に指導力を発揮してほしいものです。

4つめ。これは既存の文章に、新たに重要な点が追加されています。
「放課後児童クラブの運営主体に変更が生じる場合には、こどもの心情に十分配慮した上で、こどもへの丁寧な説明や意見聴取、意見反映が求められる。また、育成支援の継続性が保障され、こどもへの影響が最小限に抑えられるように努めるとともに、保護者の理解が得られるように努める必要がある。」
→追加されたのは「こどもの心情に十分配慮した上で、こどもへの丁寧な説明や意見聴取、意見反映が求められる。また、」の部分です。これは「第4章 放課後児童クラブの運営」の「5.運営主体」に収められているものです。いま全国至る所で、児童クラブの運営事業者が変更となっています。公営クラブが広域展開事業者の運営クラブに変わっていくことが多いですが、地域に根差したクラブ運営事業者が広域展開事業者の運営に変えられる事態も起こり始めています。結果的に未遂となりましたが愛知県津島市と新潟市、そしてこれからは埼玉県北本市において、地域に根差した運営事業者が資本、規模にはるかに勝る広域展開事業者とガチンコ勝負する局面になります。これまでは事業者の規模や財政基盤、他地域での実績という、どうしたって地域に根差した運営事業者が得点を得られない部分によって事実上、絶対に勝てない競争を強いられてきています。この改正さえrた運営指針の内容を、市区町村はこれから行う公募プロポーザルや指定管理者の選定においてどれだけ反映していっていくのか、極めて注視するべき点になりました。これは住民、議会が行政執行部を監視していく必要があります。

5つめ。(最後にします)
「放課後児童クラブの運営主体は、福祉サービス第三者評価制度等を活用するなど、客観的な評価を他者から受けることにより、事業の質の向上につなげる。評価を行う際には、こどもや保護者の意見を取り入れて行うことについて、評価機関等と実施方法について調整する。」
→「第7章 職場倫理及び事業内容の向上」の「3.事業内容向上への取り組み」に、新たに追加された文章です。これも当たり前ですが、なかなか実施されていない。しかも困ったことに、保護者運営のクラブも、広域展開事業者によるクラブも、いわば両極端の性格を持つクラブの双方とも、客観的な評価を他者から受けるという行為そのものに極めて否定的であると私には感じ取れます。保護者運営主体系は「私たちはそもそもこどもたちのために頑張ってます!」という自負だけが異様に高いですし、広域展開事業者によってはおそらくその事業内容を知られたくないために「こどものプライバシーを守るため、企業秘密を守るため、どんなことがおこなわれているのか一切口外しないこと!情報を漏らしたら懲戒処分!」と、個人情報保護をうまく悪用してひどい事業内容が外部に伝え漏れることがないように相当努力しているように私は感じています。
 この改定案の次の文章にも実は大事な改定箇所があって、「自己評価、第三者評価の結果については、公表するとともに、職員間で共有し、改善の方向性を検討して事業内容の向上に生かす。」というところで「公表するとともに」という文言が既存の文章に追加されています。そうです。公表が必要です。つまり、児童クラブの場は、「プライバシー、個人情報」を盾にして実はひどい事業内容であることを隠し通せる状況になっています。これは絶対に違います。こども、そして職員もそうですが、児童クラブにおいて従事している人間がその権利を侵されているのかどうかを外部からしっかりと確認できる状況こそ必要です。事業の透明性です。もちろん、児童クラブには税金からなる補助金が交付されていることがほとんどですから、公のお金を使って事業をしている点からも納税者たる国民、保護者に、その事業内容がすべて明確に見えることが当然に必要です。こどもだから不可侵の聖域、というのはこどもの権利そのものであって、こどもの権利に関わる事業が不可侵の聖域ではありません。勘違いもはなはだしい事業者ばかりです。

<今後などその他の点>
 今後ですが、こども家庭庁の資料によると、まず「放課後児童クラブ運営指針解説書(第3版)の作成」と、「同解説書と共に、令和7年1月を目処に改正通知(こども家庭庁成育局長通知)を発出する。」とあります。そして来年度、2025年度から改正された新たな運営指針が適用されることになります。

 クラブ運営事業者と職員は、この改正案をしっかりと踏まえて学習と理解に励むとともに、来年度さっそく新運営指針に基づいた運営ができるように制度や内部規定を代える準備をしましょう。

 実は私が将来的にもしや?と思っているのは、改正案では第1章総則で使われている、放課後児童健全育成事業という単語が、放課後児童クラブに置き換えられている点です。確かに運営指針の内容は、放課後児童健全育成事業を行う場所である児童クラブにおける指針ですから、内容そのものである健全育成事業という表記がそぐわないのは形式上として理解できます。しかし、事業という表記を抹消して児童クラブ、という表記をさらっと盛り込んできたのは、ゆくゆくは、任意事業に過ぎない放課後児童健全育成事業が、保育所のように自治体の設置が必要な施設となって放課後児童クラブが主体として扱われるようになるのかな、という淡い期待を抱いたのです。そうなればいいですね。

 最後に、私がこの改正案の重箱の隅をつつきます。公表された改正案の17ページの上から3行目に「こどもの目線に立った検討を行う」とあります。「目線」と言う単語に強烈な違和感を覚えます。目線というのはもともと芸能界で使われている言葉で、「視線」のことです。記者会見で俳優、スターたちを取り囲んで撮影する際、カメラの事を見てほしいときに「目線くださーい!」と相次いでカメラマンから声が被写体に浴びせられます。余談ですが以前、某所をご訪問された皇族の方に某社のカメラマンが「目線くださーい!」と呼び掛けて宮内庁から厳重な抗議を受けた、という話があります。運営指針においては、目線ではなく、「視点」の方が適切でしょう。
 そしてもう1つの重爆の済みは10ページにある単語です。「スーパーバイズ・コンサルテーション(後方支援)」や「スーパービジョン」、「ケア」というカタカナ語がつかわれています。まだ後方支援という訳語を併記しているのはいいのですが、なるべく訳語を使用していただきたい。児童福祉の世界で一般的に使われているから問題ない、ではありません。本来は訳語を先に表記してカッコ内でカタカナ書きを使ってほしいところです。

 <おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!私の運営支援の活動資金にもなります!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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