放課後児童クラブ職員の切実な悩み。「話をしたい保護者さんほど話を避ける」。努力をしてもできないことは、ある。
放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブも保育所も小学校でも同じことでしょうが、子どものこと、家庭のことで話をしたいと思う保護者さんほど、話を避ける、あるいは話をすることに興味関心がない、という状況がごく当たり前に存在します。どうすればいいのでしょうか。きれいごと抜きで言えば、「最大限の努力をしても応じてくれない場合は、どうしようもない」のが現実です。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<話をしたい!伝えたい!と思うのに>
保護者が不在の留守家庭児童の健全育成を目的とする放課後児童クラブとしては、子どもが児童クラブにおいてどう過ごしているのか、また、児童クラブの場において子どもの様子を見ていた職員が子どもに関して気が付いたこと、気がかりなことは、保護者に伝えることが重要な職務です。最終的に子どもを育てるのは監護者である保護者ですから、児童クラブ側が、保護者に子どもの様子を伝えるのは当然なことです。子どもの様子とは、子どもが育っていっているまさにその過程そのものですからね。
しかし現実には、児童クラブ側が子どもの様子を伝えたくても、肝心の保護者側、家庭側が、その様子を聞くことに消極的であることが実に多い。消極的どころか一切シャットアウトする保護者すら珍しくありません。私も当然、実際に数え切れないほどそういう保護者と接してきました。わたしは、そうした行動を取る保護者の子育てを「積極的孤育て」と呼んでいます。
児童クラブ側がどうしても伝えたい子どもの様子は、対極的な2つの性格があります。1つは肯定的な内容。子どもの成長が実感できるエピソードや、保護者からも家庭で子どもをほめて評価してあげてもらいたい内容です。この場合は、さほど問題にはなりません。
問題はもう1つの、あまりうれしくない、聞く側も話す側も気が重くなるような内容です。もちろん、保護者にとって話を聞きたくない内容です。しかし、このジャンルの話、つまりトラブル関係の話、子どもの成育環境や子育てに関する懸念点についての話ほど、児童クラブ側は保護者に伝えねばならないことばかりです。当たり前ですが、こうしたトラブルや懸念に関する話の内容について、それを保護者に知っておいてもらわねば、子どもの現時点での生活に影響を及ぼしますし、将来についても影響が出ることが心配なので、児童クラブ側は保護者に知ってもらうことで、親として「子どものために」改善策を講じてほしいのです。
トラブル関係や懸念に関する話であっても、それがごくめったになかったことであれば、伝えるのは比較的容易なことが多いものです。いつも楽しい話、肯定的な話をして児童クラブ側とそれなりに話し合いができる、コミュニケーションが確立されている関係性の保護者との場合は、「実はきょう、こういうことが」と、児童クラブ側は保護者に対して話を切り出せます。
いつも、あるいはたびたび、トラブル関係や懸念に関する話がどうしてもでてくる子どもの保護者には、このような話をする機会すらつかめないことが多いのです。
・児童クラブに迎えに来た保護者に職員が話しかけても「忙しいんで」とシャットアウトする。
・児童クラブの出入り口のそばにしか立ち寄らず、子どもには「早くしなさい」と声を上げるだけで、自分はスマホをいじるなどして「私に話しかけないで」状態を貫く。
・保護者がそもそも迎えに来ない。祖父母や、子どもの兄姉に迎えを任せている。
<保護者会、父母会も利用できない>
上記のことは、日常の児童クラブ利用時においてコミュニケーションを取れない保護者とどうコミュニケーションを確立するかの問題ということです。保護者が多く集まる保護者会(父母会)の場においても、児童クラブ側とコミュニケーションを避けたがる保護者ほど、そうした保護者会、保護者懇談会の場に参加しないことも珍しくありません。現場の職員からよく聞くのは「普段から話ができて、クラブのことをいろいろと気にかけてくれる保護者は保護者会にもよく参加してくれるけれど、こちら側が本当に話をしたいと願う保護者さんほど保護者会を欠席する」ということです。
手紙を職員が書いて、「これを時間があるときに読んでください」と渡しても保護者に読まれずに捨てられるか、読まれても何もアクションを起こそうとしません。これが、たいていの現実です。
「打つ手なし!」と頭を抱えてきた児童クラブの職員は過去に数え切れないほど大勢いましたし、今も日本全国の児童クラブにいるでしょう。そして残念ながら今度も存在するでしょうし、もしかするともっと増えていくかもしれません。
<できる範囲で向き合うだけしかできない>
どうやって、児童クラブ側との関わりを拒む保護者とコミュニケーションを取ればいいのか。これは現場職員だけでは無理であって、運営事業者が主導的な役割を果たすことが前提です。しかしそれも限界はあります。児童クラブ側からのコミュニケーションの呼びかけがあくまで呼びかけである以上、それを保護者が拒んだら、どうしようもありません。
現場職員での努力や試みをさんざん尽くしているという状態を前提に、それでも保護者とコミュニケーションが取れない場合において、児童クラブ側が取りうるコミュニケーションの手段は次のようなものがあるでしょう。正確には、コミュニケーションの場をどうやって確保するのかという手段です。「無理やり」引っ張り出す方策です。北風と太陽なら、まさに北風です。太陽的な手法はさんざん、児童クラブの現場職員が試し尽くした前提です。きれいごと抜きの策略です。
・保護者が参加せざるをえない保護者会を利用する。具体的には「役員決め」。会長以外の役員を半期で改選するようにすると少なくとも年に2回の「役員決め」保護者会が生じる。欠席者は重要な役員に自動的に選出されるとすれば、嫌々でも参加する可能性が高まるので。
・運営事業者が保護者に対して、「今後の児童クラブの利用において重大な影響が生じるおそれがあるので面談に応じること」と依頼をする。
・(市区町村の事前の了承を得たうえで)児童クラブを利用する保護者を拘束する「利用規程」のようなルールに、「児童クラブ側が子どもの状況に関して必要があると判断した場合、保護者は児童クラブ側からの面談要請を拒んではならない」という規定を設ける。
・(市区町村の事前の了承を得たうえで)継続入所に関して「児童クラブ側が必要とする場合」という条件を付して、「継続入所申請に際して保護者との面談を行う。面談を行わない場合は入所申請を受理しない」というルールを設ける。
・(市区町村の事前の了承を得たうえで)新規入所に際して、「児童クラブ側が必要とする場合、保護者は児童クラブ側からの面談要請を断ってはならない。断った場合は入所を取り消す場合がある」というようなルールを設ける。
私は以前、運営事業者として職に就いていたときは、保護者が話し合いに応じない場合は「無期限の休所」という措置を事業者が取ることができるように利用規程を改正しました。むろん、行政の了承を得たうえでの話です。実際に発動したことがあります。休所を解除するには保護者は運営側との面談に応じることを条件としていたので、休所措置を発動して保護者と面談する機会をそうして確保しました。数時間に及んだ面談は事業者側と保護者側の意見の相違がはなはだしく、とても厳しい面談でしたが、曲りなりにも、顔と顔を合わせて本音をぶつけ合った結果、その後、電話だったりクラブの現場における職員との話し合いだったりに、徐々に保護者が応じてくれることになりました。本当にギリギリの手段でしたが、これはうまくいった例です。
一方で、どんなに働きかけても話し合いにならず、問題を解決できないまま子どもが退所したということの方が、絶対数で言えばはるかに多かったのも事実です。(今回のテーマとはずれますが、話し合いには喜んで参加してくれる保護者であっても、話し合った内容がまったく実施されないということも、当然あります。あれだけ長い時間、話し合ったのに、何も理解されていない!ということも、またあるのですね)
<それでも限界がある。限界を受け止めることは仕方がないと割り切ろう>
児童クラブを利用するにあたって事業者と保護者が取り交わす約束事、契約の内容に、児童クラブ側が必要とするときは保護者は面談に応じること、と決めたところで、無視する保護者はとことん無視するでしょう。
はっきり言ってしまえば、限界はあります。どんなに「お子さんについて、どうしても相談したい、知ってほしいことがあるんです!」と児童クラブ側が願っても、保護者に「話なんか聞きたくありません」とシャットアウトされてしまえば、現実的に児童クラブ側としては打つ手がないのが事実です。
児童クラブ側がどうしても保護者と話をしたいのは、子どもを見ていて、重大な懸念があるからです。現在の発達成育状況だったり、将来の非行の懸念だったり、内容は様々ですが、「小学生のいまのうちに、なんとかしていけば、将来の重大な影響は軽減できる」という思いが児童クラブ側にあるからです。要保護児童であれば、いわゆる要対協、要保護児童対策地域協議会の場で、一応は継続的に状況を把握できる可能性がありますが、そこまでに至らない子どもへの対応とその保護者の対応が、制度の狭間で苦労するのです。
子どものために話し合いたい保護者がいる、でも応じてくれない。児童クラブ側にはどうしたって限界があります。それを受け入れつつ、児童クラブの事業者は、それでも、次のような環境を整えることを目指すべきでしょう。
・児童クラブ側(および所管課)と小学校側(校長や教頭、担任)との間で定期的に当該児童に関する情報共有の場を「行政の制度として」確立することを目指す。児童クラブの所管が教育委員会である市区町村は珍しくありません。教育委員会であっても学校とそれ以外の部署では、それなりに高い壁はありますし、最終的には校長先生の判断にもよりますが、とにかく、「制度として」、気になる子どもに関して情報を共有する仕組みを作ることを、求め続けることです。
・児童相談所や、児童相談所のカウンターパートナーである市区町村の担当部署と連携を密にする。最初は属人的な関係でスタートしても、いずれは組織同士の交流を持てるようにしていくことです。もちろん、児童クラブ担当課が主導してくれれば、それにこしたことはありません。
・難易度は極めて高いですが、「たまたま利用することになった児童クラブの場の偶然を活かし、保護者同士の連携の確立」をなんとか活用する。これは職員の高い技量、すなわちボランティアコーディネーターとしてのスキルが必要であることと、「保護者同士でつながる、連携することが、日常の子育て生活をより彩り豊かに充実させることになる」という理解をしている保護者がそれなりに児童クラブに在籍していることが必要です。そういう保護者が、まずは保護者同士ての関わりを強め始め、児童クラブもそれに支援するということです。最初は保護者会の場を使って集まった保護者同士で一緒に何かを食べる、過ごすということでスタートし、保護者有志が準備したイベントに参加を呼び掛ける等々、保護者が顔を合わせる機会をなんとか確保する。そういう機会に、話をしたい保護者が参加してくれればしめたもので、その場をまずは保護者同士での関係を築くことを優先し、時間をかけて、そこに児童クラブ側も加わっていくということです。これはつまり、一定の保護者に対して、児童クラブ側が「何らかの事情」あって特定の保護者と密接な関係を築きたいという動機があることを知られることになる懸念がありますが、その点については、「何らかの事情」に関する特定の個人情報を伝えることは絶対にしないこと、保護者会の会長などそれなりの立場であって信頼ができる人と連携することであれば、懸念は薄らぐのではないでしょうか。難易度は高いですが、これが上手くいった場合の成功の程度は極めて大きなものがあります。実はこれは北風ではなくて「太陽」の部類に入る手法だからです。
最後に、あえて申し上げます。現場で苦労して頭を抱えている職員の方々へ。「どんなに頑張っても、振り向いてくれない保護者さんはいます。あれほど頑張った、ということが実感できるなら、結果として、その保護者とうまく関係が築けなくても、それはしょうがない。世の中、すべてがうまくいくわけではない」。「それでは、あの子がかわいそう」と胸を痛める支援員、職員は大勢います。それが救いなのですが、しかし最終的には、保護者や監護者が向き合わねばならないことです。児童クラブが一生懸命でも、学校が冷淡だ(しかもそれが圧倒的に多い)、行政もそのような地に足のついた子育て支援に見向きもしない、という実情が当たり前にあります。児童クラブだけが子どもの育ちに熱心じゃないか!と憤ることもあるでしょう。それでいいのです。仕方がないことは、仕方がない。最善を、ベストを尽くしてできなかったのであれば、割り切って構わないのです。
それでも、あきらめずに子どもと関わり続ける児童クラブとその職員たちが、社会から大いに評価、感謝されそれが報酬の大幅アップという形で実現される日が来ることを願って私も活動をしていきます。
<おわりに:PR>
弊会は、次の点を大事に日々の活動に取り組んでいます。
(1)放課後児童クラブで働く職員、従事者の雇用労働条件の改善。「学童で働いた、安心して家庭をもうけて子どもも育てられる」を実現することです。
(2)子どもが児童クラブでその最善の利益を保障されて過ごすこと。そのためにこそ、質の高い人材が児童クラブで働くことが必要で、それには雇用労働条件が改善されることが不可欠です。
(3)保護者が安心して子育てと仕事や介護、育児、看護などができるために便利な放課後児童クラブを増やすこと。保護者が時々、リラックスして休息するために子どもを児童クラブに行かせてもいいのです。保護者の健康で安定した生活を支える児童クラブが増えてほしいと願います。
(4)地域社会の発展に尽くす放課後児童クラブを実現すること。市区町村にとって、人口の安定や地域社会の維持のために必要な子育て支援。その中核的な存在として児童クラブを活用することを提言しています。
(5)豊かな社会、国力の安定のために必要な児童クラブが増えることを目指します。人々が安心して過ごせる社会インフラとしての放課後児童クラブが充実すれば、社会が安定します。経済や文化的な活動も安心して子育て世帯が取り組めます。それは社会の安定となり、ひいては国家の安定、国力の増進にもつながるでしょう。
放課後児童クラブ(学童保育所)の運営支援は、こどもまんなか社会に欠かせない児童クラブを応援しています。
☆
弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。
☆
放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。
☆
「リアルを越えたフィクション。これが児童クラブの、ありのままの真の実態なのか?」 そんなおどろおどろしいキャッチコピーが似合う、放課後児童クラブを舞台にした小説を完成させました。「がくどう、序」というタイトルで、2025年3月10日に、POD出版(アマゾンで注文すると、印刷された書籍が配送される仕組み)での発売となります。現在、静岡県湖西市の出版社に依頼して作業を進めております。
埼玉県内の、とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子を丹念に描いた作品ではありません。大人も放課後児童クラブで育っていくことをテーマにしていて、さらに児童クラブの運営の実態を描くテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった、元新聞記者である筆者だからこそ描ける「学童小説」です。ドラマや映画、漫画の原作にも十分、活用できる内容だと確信しています。ご期待ください。
☆
「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
☆
(このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)