放課後児童クラブ業界の「スキマバイト」問題こそ重大。「育成支援の質」と「事業者の質」の二本柱を問える!

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。さいたま市の放課後子ども居場所事業で単発の派遣アルバイト(以下「スキマバイト」とします)を受託事業者が利用していた問題で、大手メディアの報道がありました。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の世界はこのスキマバイト問題を今こそ徹底的にこだわって取り上げるべきです。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<ついにフジテレビも報道>
 さいたま市の放課後子ども居場所事業(放課後児童クラブと放課後子供教室を融合させた事業で、いわゆる「放課後全児童対策事業」のこと)を受託運営している全国最大手の事業者であるシダックス大新東ヒューマンサービス株式会社が今年7月からスキマバイトで職員を集めていた件について、報道が続きました。
 まず地元紙の埼玉新聞が9月11日9時57分に記事を配信しました。見出しには「職員不足…隙間バイトアプリで複数人を採用していた 市の“放課後子ども居場所事業”で判明「あくまで臨時的」 委託している事業者がアプリで募集…夏休み中の11日間に17人採用していた」とあります。
 この記事の中に、見過ごせない記述があります。市議会でこの問題を追及されたさいたま市側は、副市長が事業者の意図を説明しましたが、それは「勤務前に資料を用いた研修を行ったほか、個人情報の取り扱いや児童との関わり方に関する注意書き書をまとめた誓約書へのサインを求め、常駐する放課後児童支援員の目の届く範囲内での業務に従事させていた」という内容です。この内容についてはこの先で批判します。

 そしてフジテレビが9月12日夕方に放送した「ライブニュース イット」でも、この問題が報道されました。私も有識者としてビデオインタビューを受け、その様子がごく数秒ですが放送されました。関東ローカルエリア放送だったかもしれませんが、在京キー局によって取り上げられたということは、このスキマバイト問題は重大な問題だ、社会の興味関心を集めるだろうと大手メディアが判断したことですから、実に歓迎するべきことです。

 引き続き、もっと多くのメディアがこの問題を追及することを私は期待します。この事業者は奈良県香芝市でも同じようにスキマバイトを利用して市議会で市長から不適切と指摘されています。また弊会に寄せられた情報では都内の児童クラブでもスキマバイトを利用しているとのことです。つまり、実は相当根が深い問題であると思われるからです。

 なぜ放課後児童クラブや全児童対策事業においてスキマバイトが問題であると当ブログは主張しているのでしょうか。インターネット(ヤフーニュースへのコメント等)やSNSでは「何が問題なのか?」「必要な職員を配置する方が優先では?」と、スキマバイトの利用は別に問題ではないのではという意見が実はかなり多く見られます。つまり社会一般に、同様の「別に構わないのでは?」という理解が相当あると予想していいでしょう。その理解が覆せなくなるほど広く深く浸透してしまえば、それが「新たな常識」となるのですが、いまだ無関心なのか行動を起こさない児童クラブの世界は過去と同じく今回もまた同じ轍を踏むように私には感じられてなりません。だからこそ私はしつこく意見を発しているのですが。

<育成支援の質に関して問題なのはいうまでもない>
 職員不足なのだからどのような手段であっても職員が確保できればいい、という意見。一見するともっともだ、という受け止められがちです。フジテレビの報道では、子育て中の保護者が「先生がコロコロ変わるのは心配。同じ先生に長く見てもらえる方が、子どものことを知ってもらえて安心感がある」と話す模様が放送されました。まさにこのコメントが正鵠を得ています。この保護者さんは、職員が継続的に子どもと関わることの大切さを実感しているのです。それは、有資格者ではなくて補助員のスキマバイトだから制度上問題はないとか、埼玉新聞の記事にある「勤務前に資料を用いた研修を行ったほか、個人情報の取り扱いや児童との関わり方に関する注意書き書をまとめた誓約書へのサインを求め、常駐する放課後児童支援員の目の届く範囲内での業務に従事させていた」から大丈夫、というものではないのです。

 子どもが職員に信頼を寄せてこそ、職員が子どもを支援、援助するという育成支援の業務が成り立つのです。放課後全児童対策事業のうち夕方になる前の時間帯では子どもへの遊びやプログラムの提供が主な業務となり育成支援は業務として掲げられてはいませんが、そうであっても子どもとの関係性が構築されていなければ、遊びやプログラムをいくら実施したとはいえそれは単なる強制的に子どもに実施させているだけであり、子どもが楽しく過ごせて自らの知見を増やす有意義な機会とすることはできないでしょう。

 フジテレビの報道では民間学童保育所の経営者も「人と人との関係を1番重要視しているので、1週間や1カ月で(人間関係は)築けるものではない。短期の採用は考えていない。」とコメントしていますが、子どもに関わる事業を行っている立場であり、かつ、子どもの安全安心を守り子どもの育ちを最優先に考えているならば、このコメントの示す内容がごくごく当然であると理解できるでしょう。

 事業者自らが求人応募書類を直接確認できないこと、事前の面接や面談で、求人応募者の人となりや児童に対する考え方、見方を確認できないことも、スキマバイトの問題です。いくら派遣会社が誓約書へのサインをさせたからといって、子どもへの偏った見方があるかどうかまでは確認できません。

 補助員だから単発のスキマバイトでもいいじゃないか、という見方があるなら問題です。補助員は雑用係ではありません。補助員も子どもと関わることが求められます。子どもに関する支援、援助の理解と取り組みは正規や常勤の職員と劣ることはありません。補助員だから資質は問わないではありません。補助員であっても放課後児童支援員と同等に、子どもへの関りの姿勢や能力は問われるのです。補助員軽視の問題もスキマバイトの問題です。

 そして埼玉新聞の記事にあった「放課後児童支援員の目の届く範囲内での業務に従事」ということですが、実務を知っている者であれば事業者側のこの釈明がいかに空虚、砂上の楼閣であるかあっさり見抜くことができるでしょう。放課後児童支援員はその現場の中心としてそれはそれは大変な忙しさです。あっちこっちの子どもと関り、保護者や関係機関、運営本部と関り、とにかく忙しくて大変。とてもスキマバイトの行動を始終監視するなり確認し続けることは、断言しますが、不可能です。目の届かない時間帯の方が絶対に長いはずです。言い切れます。もし万が一、目の届く範囲内でずっとスキマバイトが業務に従事していたと事業者が胸を張れるなら、それは「放課後児童支援員は子どもに関わることなく、ただただずっと施設内にてスキマバイトの働く様子を眺めていただけ」です。いや実はこの方がありえるかもしれない。しかしそれは正常な事業内容とはとても言えません。

 育成支援、子どもとの関りに重要な継続性がまったく確保できない。それは子どもの成長や生活を支えることにまったく効果がない。効果が無いものに予算を投じていることほど無駄なことはありません。

<事業者の質からも大問題>
 フジテレビの報道において私はビデオインタビューを約30分ほど受けました。放送されたのはごくごく一部ですが、次のようなコメントが紹介されました。「(放課後子ども居場所事業は)ずっと人手不足。求人しても人が来ない。単発の派遣のスキマバイトであっても、ちゃんとした人がほしいのが現場の本音。一方で(保育は)継続的に関わることで、子どもの育ちを支える仕事。単発で入る人は、本来は事業の内容としてはふさわしくない」

 言いたかったことは、スキマバイトに頼る事業者の姿勢はいかがなものか、事業内容としてふさわしくないことを選択する事業者の姿勢を問うものでした。実は使用されなかったコメントに、「事業者は人員の適正配置が可能となるだけの予算を掲げて競争の上、事業者に選ばれているのであるから、継続的に職員を雇用できるだけの人件費は予算として交付されているはずだ。それを人件費以外のところ、例えば事業者の利益として必要以上に確保しようとすると人件費を抑圧することになり、低い賃金水準となるのでなかなか継続的に人を雇用できず、こうやって単発のスキマバイトに頼ることになる」というものがあります。

 さいたま市においては2024年度、4つの小学校にてこの放課後子ども居場所事業がモデル事業として実施されています。他の3事業者ではスキマバイトについて確認されていません。ということは少なくとも最低限の職員数は確保できているということでしょう。ではなぜ1つの事業者だけがスキマバイトを利用しているのか。他の3事業者もスキマバイトに頼らざるを得ないならこれはもう事業全体の構図として何か問題がある、つまりさいたま市が交付した補助金の額が少ないなどの可能性がでてきますが、そうではないのです。しかもこの事業者は奈良県香芝市でもスキマバイトを利用したことで議会で追及されました。となると、この事業者の事業内容に、あるいは事業の捉え方に、何か問題があるのではないかということは容易に想像がつくでしょう。

 予算を人件費として適正に使用すること。それを行ったうえでどうしても職員が確保できないのであれば、改めて行政と交渉すればいいだけです。それもまた事業に関する誠実な態度です。ヤフーコメント等では「職員数が足りない状況を改善することが最も優先されることで、スキマバイトでも職員数が充足できるなら問題ない」という意見が数多くありますが、それは表面だけしか見ていない意見です。本来は、職員数が足りない状況を招いている経営姿勢、運営姿勢を改めることが大前提です。なにより事業者は「これだけいただければ職員配置には問題ありません」として提案した予算で他社との競争に勝っているわけです。なのに人が足りない?その予算を適正に使っていないのでは?継続的に職員を雇用するための経営努力はしている?そこが問われるはずです。仮に、補助員である非常勤職員に1人あたり200万円の予算を事前の計画で確保していても、50万円を企業の利益として回してしまうと150万円で補助員を雇うことになり、同じ時間だけ働いてもらうなら時給単価が下がります。それでは求人応募はなかなか現れないでしょう。そのような事態になってはいませんか?ということです。

 安易にスキマバイトに頼る事業者の経営姿勢こそ、子どもへの直接的な関わりにもたらす影響と並んで、問題点として考えねばならないことです。もちろん子どもへの関りの質を軽視するようなことがあればそれこそ子育て支援を事業の柱とする事業者の経営姿勢そのものが問われることです。

<児童クラブ側は行動あるのみ>
 このスキマバイト問題こそ、児童クラブの世界を悩ませる慢性的な人手不足があって生じたことですから、児童クラブの抱える本質的な問題、つまり職員雇用に関する点について社会に問題意識を訴える絶好の機会です。子どもに関わる職員の資質や適切な選考方法はどういうものかを社会全体で考えてもらうきっかけになります。

 児童クラブの業界は、メディアが報道を始めたこの機を使って、こども家庭庁に、放課後児童クラブや全児童対策事業におけるスキマバイトの利用具合の緊急調査を実施するよう求めることが必要です。また全国の市区町村に直接、緊急調査を要請してもいいでしょう。また、自らの加盟団体にスキマバイトの利用について調査することだって可能でしょう。しかし一切、そのような動きは見られないのが残念です。事業規模が大きな企業が相次いで児童クラブ業界に算入していることをもう何年も前から問題視してあれこれ討議をしているようですが、内輪の世界でずっとあれこれ言ったところで社会を動かすことにはまったくなりません。企業の相次ぐ参入についても考えてもらえる絶好機ですが、みすみすその機会を見逃しつつあるのが情けないと私は感じます。すでに自分たちの見回りでスキマバイトを利用しているから自縄自縛になっているのでしょうか。だとしても、それはそれで今後はそういうことはしないとして調査に踏み切ったり調査を求めればいいだけです。スキマバイトを利用せざるを得ない人手不足状況を改善するための運営費の増額を求めるとか、どうしてもスキマバイトを利用するのであれば派遣事業者との間で協議し、児童クラブ側もこれならスキマバイトを利用できるという基準を一緒に定めるとか、いろいろな方法があるでしょう。

 はからずも児童クラブが抱える重要な大問題を浮き彫りにしたのが、このスキマバイト問題。ぜひメディアにもっと注目してもらって報道を重ねてもらい、社会全体に、児童クラブの世界を長年悩ましている人手不足について関心を高める機会としたいものです。こども家庭庁も、メディアや業界団体からせっつかれる前に、こうした単発のスキマバイトについて緊急調査をしたり、事業者が適正に人件費を使用しているか調べてみてはいかがですか。あるいは逆にどのような状況でなら子どもの支援、援助に問題なく単発のスキマバイトを活用できるのかについて調査研究会でも開いたらいかがですか。そもそも、慢性的な人手不足を招いているのは児童クラブの運営費補助が少なすぎること、資格の持つ専門性、いわば権威が貧弱なので相当する報酬もまた低くならざるを得ないので資格をもっと難しいものにしようと検討してはいかがでしょうか。

<おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!私の運営支援の活動資金にもなります!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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