放課後児童クラブを支えている非常勤職員について考える(下)。責任感を共有するにはどのようにすればいい?

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)が存在するために欠かせない存在、非常勤職員(いわゆるパート職員、アルバイト職員)について考えます。「下」は、残念ながら実のところ多い「私は責任を持てません」という非常勤職員について考えます。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<その前に、責任感の問題は非常勤職員だけではないぞ!>
 放課後児童クラブにおける非常勤職員の責任感について今回は書き綴っていきたいのですが、その前に、もちろん指摘しなければならないのは、「責任感を問われるのは、むしろ常勤職員(おおむね正規職員)、さらに言えば経営者・運営者、とりわけ保護者出身で運営事業者の理事や監事を務めている立場の者」ということです。つまり、こういうことです。
・常に自分の好きなようにふるまってチームワークを重要と考えない常勤職員
・運営事業者で決めた育成支援の方針を、本部の目が届かない現場で常にこきおろし、自分のやりたい支援しかしない常勤職員
・自分を雇用している運営事業者の立場や発展を顧みず、子どもと関わることだけが仕事と思い込む常勤職員
・現場職員にすべて丸投げで、クラブが「開所」さえしていれば問題がないとして、子どもの生活の実態や育成支援の質、職員の雇用労働条件にまるで無関心の、広域展開事業者の地域事業所本部詰めの職員
・日々の児童クラブ運営を現場職員に丸投げし、月1~2回、たった数時間の会議で「学童」に関する単なる感想を述べあっているだけで、児童クラブ運営に尽力していると勘違いしている保護者出身の役員
・(これは制度に不備はあることが大問題とはいえ)保護者運営ながら運営の事にまったく興味関心がない保護者の年度担当役員

 非常勤職員の責任をうんぬんする前に、まずは常勤職員の、仕事及び組織(会社、法人)への責任感をしっかり育てなければなりません。常勤職員の責任感を問うには、事業者を経営、運営する立場の者の責任感、コンプライアンスの意識を確立せねばなりません。「わたし、保護者出身だから経営に詳しくない」「ボランティアでこれだけ頑張っているんだから、行政や市民や学童利用の保護者はわたし(たち)に感謝しなきゃね」などと口走る保護者出身の役員こそ有害です。責任感の持てない職員以上に、有害です。

<非常勤職員の責任感に関する、ありがちな意識>
 児童クラブで働きたいとして求人に応募してきた(あるいは、保護者にクラブで働くことを勧められた)非常勤職員であっても、その最大の動機はいろいろあるでしょう。「子どもの健やかな成長を支えない」という気持ちがまったく持てていない人は皆無ではないでしょうが珍しいでしょう。ただし、最大の動機が「勤務時間帯が自分の働きたい時間帯と、ちょうどぴったり合うから」「事務仕事は苦手だし、スーパーの接客は大人相手で気を遣って疲れるから、子ども相手がちょうどよい」程度の方が、多いでしょう。

 つまりあえていえば、「子どもが好き。子育ても経験した。子ども相手だから気楽に務められる。数字やマニュアルなど難しいことを覚えなくてもいい」程度の感覚で勤め始める人が、それなりにいるということです。もちろん、そのような動機は私に言わせれば当然のことで、まったく批判されるものではありません。「とっかかり」なんて、それでいいんです。誰しも最初から「難しい仕事にチャレンジしよう」などと意気込んでパートやアルバイトに挑む人はめったにいません。ただそうであっても、スタートの地点で「仕事に対する責任感」を意識して働き出すという感覚は、他の業種に比べると軽いのではないかと私は感じていますし、感じてきました。

 例えば、「非常勤職員の責任感に関する意識、程度」としては、このようなことがあるでしょう。
・子どもの遊び相手はしますよ。ただ、子ども同士のトラブル仲裁や解決は、常勤(正規)職員の仕事でしょ。
・言われたことはやります。言われないことはやりません。言われないことをやることは出過ぎたことですから。
・掃除や整理整頓、おやつの準備など任された仕事は当然、しっかりやります。自分のやりたい方法でやります。口を出さないでください。
・保護者から提出する書類や期限について聞かれましたが「正規じゃないから分かりません」と答えました。不正確なことを答えて間違ってしまうと保護者にも迷惑がかかるでしょう。だからこれでいいのです。運営に関しては常勤(正規)の仕事ですから。
・育成支援に関する研修は常勤職員がしっかり学んでくれればいいのです。パートである自分がそこまで仕事に時間を費やす必要はありません。まして時給が出ないのであればなおさらです。

 私も実務時代、次のようなことに直面し、面食らったことがありました。むろん、「事態収拾」で苦労したということですが。
 <ベテランの非常勤職員が、機嫌が悪くなって投げやりの態度になっていた子どもに向かって、「そんなに学童が嫌なら来なくていいのよ。早く帰ってちょうだい。私もその方が楽よ」と言った。言われた子どもはその日の夜、家で保護者に「こんなことを言われた」と話し、烈火のごとく怒った保護者から苦情が入った>
 この実例で言えば、「児童クラブの存在意義」を否定し、「子どもの心情に寄り添い、その育ちを支えるという職務を放棄」し、「職員という立場よりも自分が楽をしたいという私利私欲を優先した」という、まったくもって、あってはならないことです。この非常勤職員は、子どもの育ちを支えるために働いて賃金を受けているというのに、その仕事をまったくしなかった、むしろ仕事の意義を否定したということで、あってはならないことをしてしまったのです。そこには、「自分が賃金を受けている仕事に対する責任感」はもちろんのこと、「児童クラブで働くことの責任感」も、打ち捨ててしまった姿があります。

<結論は、当たり前ですが、研修の積み重ね。そしてそれ以前に・・・>
 非常勤職員に責任感を持って仕事に向き合ってもらうにはどうしたらいいのか。それは多くの児童クラブの常勤職員や運営事業者が頭を抱える問題ですが、実のところ、その原因は自らにあると言っていいでしょう。つまり、非常勤職員(しかも、入り口の時点で、育成支援に極めて重要な使命がある専門性の高い業務であるという認識を持っていない非常勤職員)に対して、「わたしたちの仕事は、日々、子どもの成長を支える、極めて難しい専門性の高い仕事である」という認識をしっかりと植え付けられていないということであり、その植え付けを行うことを常勤職員や運営事業者が行っていたということです。
 先の「帰ってよ」という例でいえば、運営事業の最高責任者だったこの私自身の至らなさ、と言えるのです。職員は「組織の実態を映す鏡」なのです。あの時はつくづく、自分に至らなさに反省しました。

 極端な人手不足に悩まされている児童クラブの現場は、「厳しいこと、責任が重い仕事、難しい仕事というと、せっかく応募してきた人が辞退してしまう」という遠慮を抱きがちです。その気持ちは分かりますが、採用段階で「誰でもできる仕事です。未経験者OKです」と掲げて「責任が軽くて済みそうだから、働いてみようかな」という程度の、覚悟も全く持っていない人ばかりを集めていたら、残念ながら質の高い人材は集まりません。時給がそれほど高くないという不利な条件があるから、なおさらです。(ちなみに、大手の広域展開事業者は求人広告で「未経験者歓迎」を念入りに掲げていますし、さらには児童クラブを統括管理する立場の管理職の求人ですら未経験者OKとしています。どれほど、クラブにおける子どもの支援、援助を軽視しているのでしょう。クラブ勤務の職員のことを軽く考えているのでしょう。私は本当に残念でなりません)

 人手不足を考慮して、採用のハードルを下げるのであれば、その後の研修、教育に時間と費用をかけるべきです。費用をかけねばなりません。その過程で「そんなに責任がある仕事なら、私にはできない」という人であれば、それは辞めていただいて構わないのです。保護者はもちろん、この社会も、児童クラブで働く職員には、非常勤職員であっても「子どもの生命身体の安全を絶対に守り、子どもが過ごしやすい児童クラブにするために、他の職員と協力しながら自分の職責を完遂すること」を当然に期待するからです。それができない方は、組織運営のリスク管理上でも、早めに辞めていただく方が正しいのです。

 もうここまでくればお分かりですね。非常勤職員にありがちな、「子どもたちの相手をしていれば大丈夫な仕事よね」という意識を増長させ、固定化させる要因は、そもそもそのクラブ運営組織の問題なのです。つまり、クラブの常勤職員の考え方や態度、振る舞いが要因となり、同じく運営事業者の経営者、運営者の考え方が要因となるのです。ぐうたらな無責任な非常勤職員ばかりいる事業者は、事業者が、実のところ問題なのです。職員は事業者の「鏡」です。

 子どもを受け入れる児童クラブで働くということは、経営陣やクラブにおける上の立場(施設長や主任)から、短期の学生アルバイト職員に至るまで、「子どもの生命身体を守る。子どもの人権を守る。子どもにとって安心して過ごせる児童クラブにする」ということを、自分の仕事として受け入れて仕事に取り組むことです。そのために、「パートやアルバイトでも、子ども1人1人の命の安全を完全に守る義務があります。その義務を果たそうとせず、子どもに重大な影響を及ぼした場合には、賠償責任を負ってもらいます」ときっぱり言い切ることが、運営事業者側には必要です。それを言おうとしないから、非常勤職員にも責任の重大さが伝わらないのです。
 また、業務上の命令、指示をすんなりと実行する組織の風土を確立することが大事です。先にも述べたように、運営事業者が掲げる方針を現場クラブで公然と批判するような常勤職員がいる組織では、非常勤職員ですらも「面従腹背」に陥ります。それはつまり責任感の欠如に結びつきます。
 
 さらに、当の常勤職員自身が、子どもの生命身体は言うに及ばず、普段の子どもの児童クラブにおける過ごし方について常に問題意識を持ってよりよく改善していこうという姿勢を示していないならば、その常勤職員を見ている非常勤職員が、常勤職員以上に、質の高い育成支援の仕事をしようという気持ちには、ならないでしょう。同じように、子どもと職員の権利を守ることに関心の薄い事業者に雇われた非常勤職員は、「こんなもんか」の程度の意識でしか、働かないでしょう。
(あえて付言すれば、ひどい常勤職員や運営事業者の中であっても、「これではいけない」と自分自身で育成支援や子どもの権利を学び、保護者支援を学び、自費で研鑽を積み重ねている少数の非常勤職員は確かにいます。そのようなごく少数の人たちの奮闘で、なんとか、そのクラブや事業者は存続できているということです。これは本当にありがたいことですが、そのような悲惨な状況は一刻も早く解消されねば、なりませんね)

 常勤職員や運営事業者の経営者、運営者が、非常勤職員にズバリと言えないのは、自分自身が責任感に関して重大なことを実践できていないからでしょう。あるいは、自分自身が、コンプライアンスを含め、児童クラブにおいて必要なことの理解を深めていない、興味関心がない、あるいは、自信を持てていないということでしょう。それでは、クラブで過ごす子どもたちは、まるで薄氷の上にいる状態ですよ。

 (ですから、私のような外部の立場の者やコンサルタント、アドバイザーが厳しいことを言うのは、その点において有益なのですね)

 結論です。まず、経営者、運営者が「事業体を健全に安定して経営し、正常な運営を続けることで、子どもの命、保護者のワークライフバランス、職員の雇用と日々の生活を守る。そのためにあらゆることをする」と覚悟を持つことです。その覚悟を常勤職員も共有し、常勤職員はより具体的に実践的に子どもの日々の成長を支援、援助することで子どもの最善の利益を守る。その実践をもって非常勤職員に業務の重要性を説くことです。もちろん、事業者は非常勤職員を対象にした研修を随時、行うことは当たり前です。外部の研修にも、賃金を保障して参加させることです。単に、子どもの育成支援移管するテクニック的な研修に参加させるだけではなく、組織運営や、ひいては社会における児童クラブの存在意義を学ぶ機会を与えることが重要です。その上で、何度も何度も研修を受けさせ、常勤職員が指導を繰り返しても、文句ばかり返して動こうとしない非常勤職員であるなら、それは「適性が無い」ということで、契約を更新しなければいいだけの話です。子どもの命を守るために、児童クラブの運営を守るためには当然です。

 非常勤職員は人件費削減のための手段であって、安くすませばならない。経営的にはその通りですが、それは「事業運営における安全性に投下するコストの削減であってはならない」ことを理解しなければなりません。(これは常勤職員にも通じますが)仮に、いい加減な研修や教育の結果、子どもに万が一のことがあった場合、その非常勤職員を直接的に使用しているクラブの常勤職員や、雇用主である事業者は、使用者責任を追及されることを忘れてはなりません。最後は結局、我が身にも降りかかってきますからね。

<おわりに>
 責任感をしっかり自覚した者は、自分の仕事の質を上げようと自ら考え、提案し、行動するものです。それこそ、生産性向上において重要です。結果として、育成支援の高い児童クラブの環境実現に有益です。子どもが毎日、笑顔で通う児童クラブにするためには、子どもに近い立場にいる非常勤職員の意識改善が重要です。そのためにも運営事業者と常勤職員が責任感を持った仕事をしましょう。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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