放課後児童クラブを支えている非常勤職員について考える(上)。雇う側、雇われる側双方に利点のある仕組みは?
学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)が存在するために欠かせない存在、非常勤職員(いわゆるパート職員、アルバイト職員)について考えます。「上」として、雇用のカタチを中心に扱います。「下」は業務内容、特に責任感について考えます。
※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。
<非常勤職員の雇用の留意点>
放課後児童クラブにおいて非常勤職員の方々がいなければ、とてもとても子どもたちを受け入れることができないのは、児童クラブに関係している方ならよく分かるでしょう。雇う側は、児童クラブ運営に大いに貢献してほしいと期待しますし、雇われる側・働く非常勤職員の側も、「子どもたちのため、頑張っている保護者のために少しでも力になりたい」と思っている方がほとんどでしょう。(もっとも非常勤職員の中には、「子どもを見張っていれば時給がもらえる、おやつを作って片づけと掃除で時給がもらえる、夫や子どもが帰宅するまでささっと働ける職場で助かる、といった、育成支援に関する動機以外の動機で求人に応募した方も当然、いるでしょう。)
児童クラブにおける非常勤職員のことを考えるには、雇う側と雇われる側、それぞれの期待や思惑を考慮して思考を展開していくことが大事です。はっきり言えば、雇う側と雇われる側の双方の期待や思惑が合致して共にウィンーウィンの関係になるということは、そうそうありません。双方が望むべき到達点になるべく近づけるように双方ともに調整を繰り返し、最終的には、どちらかが、何らかの分野で妥協することが多いものです。
さて雇用における留意点としては、雇用関係に入るまでの間に、双方の思惑の「ずれ」を、出来る限り小さくすることが重要です。雇う側の「こういうことをしてほしくて雇ったのに」という思いと、雇われる側の「こういうことをすればいいと思ったから求人に応募したのに」という思いのズレは、完全に無くすことは難しいですが、極力、小さく留めることが必要です。
・雇用条件は丁寧に「説明する」。記載するだけではダメ。具体的に、かみくだいて、雇用者側が説明する。
・(これから児童クラブで働きたいという人は)遠慮せずに「職務として会社が期待している範囲」を確認すること。
なお、所定労働時間や時給といった根本的な雇用条件を明確に提示、説明するのは当然です。これがおざなりな事業者は、ろくな事業者ではないので応募するのは止めましょう。
ちなみに、非常勤職員は有期雇用契約で働く労働者になります。有期雇用契約には数々のルールがあります。
・雇用契約は満60歳未満の場合、最長で3年とすることができる。
・雇用契約は満60歳以上の場合、最長で5年とすることができる。
・有期雇用の場合、雇用契約期間中の解約=退職は認められない。ただし、3年の雇用期間の者は労働契約の期間の初日から1年を経過した日以後は、使用者に申し出ることで退職ができる(任意退職)。ただしこれは、60歳以上の非常勤職員には適用されない。つまり60歳以上の非常勤職員で3年間の雇用契約を結んでいたとしても、1年過ぎての任意退職はできない。また、雇用契約期間中の退職によって事業者に現実に損害が発生した場合には賠償責任を問われる可能性がある。
・無期雇用転換のルールがある。
なお、パート職員、アルバイト職員であっても、年次有給休暇は条件を達成すれば付与されます。毎月欠かさずクラブで働いていて、それが1年も2年も続いているにもかかわらず、「あなたはアルバイトだから、有休は無いですよ」という事業者は、コンプライアンス違反もはなはだしいので、辞めたほうがいいですよ。
<意識のずれを少しでも埋めるには>
私が勧めたいのは、「職務の内容によって時給が決まる」仕組みです。非常勤職員に期待すること、担ってほしいことは、もちろん事業者ごとに異なりますし、もっといえば、同じ事業者であっても、AクラブとBクラブで、非常勤職員を同じように募集していたとしても、Aクラブで非常勤職員に期待したい仕事の範囲と、Bクラブのそれとが、完全に同じになることはないでしょう。おおむね似通っていても、どうしても細かいところで違いがあるものです。Aクラブは午後7時の閉所まで勤務できる人がほしい、片やBクラブは午後6時まででいいという具合です。
まず事業者が非常勤職員の給与規程で、職務ごとの賃金単価を決定します。例えば、「おやつ調理」には10円、「(積極的な)外遊び」には15円、というように。とりわけ、子どもの様子を記録する事業者指定の書式に記入することを担う場合や、閉所時刻まで勤務可能で戸締りなどをして帰宅するラスト勤務が可能など、常勤職員の負う責任の一端を代わって担うことになる職務については、高めの賃金単価を設定するとよいでしょう。勤務可能な日数や時間についても賃金単価を設定できます。週3日勤務と週5日勤務では、当然、単価が異なるでしょう。どの職務にどの賃金単価を設定するのかは、事業者ごとに任意に決めればよい訳です。この制度の長所は何といっても、単に継続年数が長いだけで時給が上がっていくというものではなく、その人の能力、仕事の範囲で時給を高くすることができる点にあります。つまり能力給の性質を持っていることです。ただ単に「クラブにいるだけ」のベテラン非常勤職員よりも「あれもこれもやってくれる、キャリアがまだ短い非常勤職員」に、仕事に報いる賃金を設定できることが利点です。
採用にあたっては、そのような時給決定システムを職務一覧表と合わせて説明し、求人に応募してきた方に理解を得ることで、事業者が期待する「やってほしいこと」と、求人に応募して働き出した非常勤職員側の「そんなことまで仕事にあるなんて、聞いていなかった」という食い違いをかなり減らすことができます。
私は実際にこのシステムの導入を行い、「仕事の範囲が明確になった」として好評でした。もちろん、問題点もあります。一番大きな問題点は、「常勤職員から非常勤職員に対し、契約で確認した事項と異なる内容を依頼、指示することができにくい/非常勤職員の側からすれば、契約したことと違うことをやってくれと指示される」というものがあります。これについては、「絶対に賃金単価として紐づけた職務しか行わない、というものではなく、常勤職員の判断で必要な業務を指示することがある。また非常勤職員も臨時および緊急の場合に必要な業務を行うことを妨げない」としておくことで解決できます。そして、プラスアルファの仕事を、快く引き受けてくれる非常勤職員には、職務のボーナスポイント(事業者査定)を毎年、改定すればよいでしょう。一時金で処遇してもいいのです。
同一賃金同一労働という原則は、「パート職員であれば、どの職員でも、同じ勤続年数であれば同じ時給」ということをもって適用するべきではありません。非常勤職員であっても、期待される職務、実際に遂行している職務=職責は異なります。ただ長く勤めているから時給が高い、では効果的な人件費の配分ではありません。
<扶養の壁>
103万円だの106万円だの、いろいろな壁がありますね。非常勤職員の雇用の最大の難点は、年収に関するこれらの壁です。特に、自身の所得税がかかりはじめる103万円を意識してその額以内で収入を抑えたいという非常勤職員は、特に年末が近づくと勤務時間を調整し始める方が多く、雇う側にとって悩ましいことになっています。これはもう、何十年も続いている問題ですね。しかも、クラブにとって頼りになる、優秀なパート職員ほど、それまでたくさん勤務をお願いしているので、年末近くにシフトに入るのを控えるようになってしまいます。
この対処法は事業者としては、なかなかありません。非常勤職員のご家庭の家計の問題ですから。しいていえば、「あなたは児童クラブにとって極めて欠かせない有能な人だから、思い切って、もっとたくさん働いてみましょう。有期雇用でもいいのでフルタイム勤務になりませんか?200万円の収入ではどうですか?」と、それら扶養だ年収の壁だのをはるかに超越した所得を保障する雇用を勧めるぐらいしかありません。そうでなければ、同じように優秀な非常勤職員の「数」をそろえて(それがまた難しい)、年収調整のために減ってしまった労働力を他人で補うための準備を事業者側が念入りにしておくしかありません。
<得意分野を見極める>
児童クラブの非常勤職員の求人に応募してくる人は、全員が全員、子どもの育成支援の「適性」があるとは限りません。やっかいですが、「子どもが好き」で、保育士資格がある、あるいは教員免許がある、という有資格者であっても、「児童クラブにおける育成支援の専門性」を理解できるかどうかは別問題ということです。それは雇って実際に働いてもらわないと完全には見抜けないですが、雇用採用過程において、求人応募者の話す内容によって、採用する側はある程度の目安をつけておくことは必要です。
仮に、雇用採用過程において、「子どもと遊ぶには体力的に心配ですが、お片付けや掃除などは頑張れます」と言ってくれるのであれば、それを踏まえた雇用を考えましょう。
なお、私の基本スタンスとして、非常勤職員の雇用でもすべて事業者が行う(つまり、本部で行う)ことを当然と考えています。1クラブで1法人という単一クラブ単一事業者であるならともかく、1つの事業者が5クラブや10クラブ以上、まして数十のクラブを運営しているのであれば、短期のアルバイト職員であっても雇用は事業者の本部で行うべきです。採用の責任を明確にすることと、採用される人材の質を統一することです。当然ながら、事業者の本部(あるいは地域運営本部等)は、どのクラブが、どのような非常勤職員を欲ししているかを常に把握しておく必要があります。
さて、得意分野についてある程度の把握ができたら、その分野を活かせる就業形態を考えましょう。私であれば、「子どもとの関りより、後方支援業務、例えば清掃、片づけ、おやつ準備が得意」とする方なら、1日の所定労働時間を抑えめにして週の所定労働日数を増やします。また、「過去に保育所や児童クラブでの勤務経験もあり、子どもへの支援についても理解している。が、扶養の壁を意識して働きたい」という人であれば、1日の所定同労時間を長くする代わりに週の所定労働日数は押さえます。仮に、週で15時間働きたいという人であれば、後方支援業務が得意な人なら1日3時間で週5日、子どもの支援に真剣に関わりたいという人なら1日5時間で週3日の所定労働という雇用契約を結びます。後方支援業務は日々、一定の業務量ですから同じ人が継続して担当する方が効率的です。一方、子どもとの関りは、その1つの関りにおいてそれなりの時間をかけたほうが深まりますから、週3日であってもその日の勤務時間について「あと10分で退勤しなきゃ」という細切れの勤務時間より、「あと1時間ある」という余裕のある方が好ましいのです。
<事業者は常に非常勤職員の声を聴く>
非常勤職員の雇用に関する内容をクラブの常勤職員任せにしてはいけません。とりわけ、事業者が掲げる育成支援の理念を全職員に共有させるには、事業者本体が非常勤職員への丁寧な説明が欠かせません。定期的に、事業者は、非常勤職員との会合の場を設定しましょう。そこで非常勤職員からの意見や率直な思いを聞きましょう。事業者側も、会社として組織として求めることを伝えましょう。これは、「下」で伝えたい、非常勤職員の「職責、責任感の醸成」に欠かせないことです。
非常勤職員の側には、言いたいことがいっぱいあるはずです。「正規なのに、仕事をしない人がいる」という内容をはじめ、「どうして非常勤がそこまでさせられるのか分からない」という疑問、不信がたくさんあるはずです。それを丁寧に事業者が聞き取っていかないと、頼りにしていた非常勤職員の急な退職につながります。それは事業運営に極めて厳しい痛手です。それを非常勤職員の責任で済ませるのではなく、「雇用を継続してもらえなかったのは、事業者である我々の失態だ。改善せねば」と理解する事業者、経営者でなければなりません。その意識はもちろん、クラブの常勤職員も共有することが大事です。常日頃、非常勤職員と接しているクラブの常勤職員は、事業者、組織が目指している方向性をしっかり理解しているべきことは言うまでもありません。
<おわりに>
今の時代、多くの業種で、非常勤職員が重大な職責を負っています。それは企業側のコストカットの論理が招いたことであり、必ずしも歓迎するべきことではないのですが、収入が増やせず常に予算のやりくりに苦労する児童クラブの現場では、効率的な人件費の使い方を追求せざるを得ない実情があります。これまで非常勤職員の人件費で2千万円かかっていたところ、同じ2千万円で2500万円分の人数を雇って実現できることと同じことができたら、それは事業運営に大いに資するものです。非常勤職員は、クラブ運営に欠かせないのは当然です。もっともっと、非常勤職員を大事にしましょう。働く非常勤職員側も、「自分が雇われたのは、こういうことをすることを期待されている」という自覚をもって仕事に取り組みましょう。
「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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