放課後児童クラブを営む立場には責任がある。利用者である保護者に任せることの是非を、真剣に考えよう。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の運営を今も保護者が担っているクラブはまだまだあります。運営支援ブログは一貫して、保護者が運営の責任を負うことの是非を問い続けていますが、今回も改めて問いかけます。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<保護者運営から公営に戻す動き>
 和歌山県美浜町の放課後児童クラブに関して、委託運営から行政の直営に移換する動きがあると地元の報道機関が記事にしました。2024年5月28日付の「日高新報」インターネット記事を一部引用します。
「美浜町教育委員会は27日の議会全員協議会で、現在、委託で行っている町内学童保育2クラブの運営について、公営に変更する方針を説明した。学童保育の運営は現在、松原小学校区の松原クラブが個人事業主、和田小学校区の友遊クラブが保護者会に委託。いずれも事故があった場合、代表者が責任を負うところとなっているため、公営を望む声や受け手がいないという課題があり、教委は、その解決とともに、保育の質の確保・向上、職員の身分保障を理由に変更したいとした。」(引用ここまで)

 この記事で重要なのは、事故があった場合、代表者が責任を負う、という点です。児童クラブを運営することは、運営する立場の者に、事業の責任が生じます。保護者運営の仕組みなら、保護者が、万が一の事故や事件の際に、責任を問われることがあるということです。これは一般的に当たり前のことなのですが、児童クラブの世界では重視されていません。以前から保護者運営クラブは存在していました。その延長線上にあるのですが、しかし以前は、児童クラブを必要とする保護者達が自ら動かなければ児童クラブを設置、運営することができなかった時代です。やむなく、保護者が運営をしていただけにすぎません。そのような状況では、クラブの公営化運動は展開されていました。その結果、運よく、自治体が児童クラブの設置運営に切り替えた地域では公営クラブが誕生しました。
 一方で、公営クラブにありがちな、画一的なクラブ運営を忌避して保護者が関わる運営を積極的に選択していたクラブも多かったでしょう。そのようなクラブでは、保護者が事業運営に関して責任を負うという重大なことは、触れられないか、軽視されてきたと言えます。
 記事ではまた、「受け手がいない」ということも触れています。受け手がいないのは、無理もないでしょう。誰も好き好んで、生業としていないのにすべての責任を負うことはありません。責任ということを考えなくても、子育てと仕事との両立で大変なところに、クラブ運営の業務を引き受けることにちゅうちょするのも、また当たり前です。

 保護者運営のクラブが公営に戻る動きはもう1つあります。北海道江差町です。父母会運営の民設クラブがありましたが、町の広報紙をみると令和6年度から町営になると案内されています。全国的には、公営クラブを民営化(業務委託又は指定管理者)することはあっても、民営クラブを公営化するこのようなケースはめったにありません。保護者運営を取りやめる際は、そのままクラブが廃止されるか、大手の営利広域展開事業者がクラブ運営を引き継ぐことがあります。ただ、企業が運営を引き継ぐには経営面から引き受けることのメリットを判断しますから、メリットがない(例えば、周辺地域において運営を手掛けられそうなクラブが存在しない)のであれば、わざわざ企業は運営を引き継ごうとはしないでしょう。

 「大分県放課後児童クラブ運営主体強化研究会報告書」というものがあります。2020年(令和2年)3月に公表されたようです。その報告書に記載されている内容をいくつか紹介します。
・運営責任者が数年で交代するために、支援員の処遇改善や質の向上、利用児童数の増加に伴い取扱う運営費や事務量の増大、代表者の責任等、様々なクラブ運営の課題について十分に認識・共有されず解決が先送りとなっている事案も見受けられる。
・県内の約7割のクラブは、運営委員会もしくは保護者会等の任意団体によって運営されている。この運営主体の代表は、PTA 会長や保護者会長等の充て職が多く、そのためクラブの代表として、クラブにおける事案の一次的な責任者であることや、支援員の雇用主であることの認識が不十分な場合がある。また、クラブに子どもを預ける受益者た
る保護者が、支援員の雇用主を兼ねるという、使用者と労働者、受益者の関係性における構造的な問題もある。
・放課後児童クラブは、保護者等による自主運営から始まった経緯があり、ボランティア活動の延長の感覚から抜けきれていない面も存在する。その結果、雇用主・労働者としての認識が希薄なため、労働契約に関する手続きにおいて、事務手続きの漏れや不備等があるクラブが存在する。
・保護者会や運営委員会が運営しているクラブでは、支援員が運営に関する事務を兼務しているクラブも存在する。そのため、子ども達の見守りに専念できず、直接子どもと関わる時間を割かれることになる。加えて、配慮を必要とする子どもたちの増加により、専門的な知識や技術が求められており、支援員の負担は大きい。

 非常に重要なことばかりですね。この報告書はぜひ一読をお勧めします。

<那須での雪崩死亡事故の判決>
 5月30日に宇都宮地方裁判所は、栃木県那須町の山で雪崩に遭って登山講習会に参加していた高校生ら8人が死亡した事故について、引率した教諭らに業務上過失致傷罪で禁固2年の実刑判決を言い渡しました。5月31日付毎日新聞朝刊の記事から、判決骨子を引用します。
・雪崩事故が起きる危険性は容易に予測できた。
・歩行訓練の安全な範囲を明確に設定せず、生徒らに周知しなかった。
・相当に重い不注意による人災だった。刑の執行を猶予する事情はない。

 事故の公判(裁判の過程のこと)では、雪崩の「予見可能性」が争点になっていたと新聞記事は伝えています。判決では、事故現場は新雪が積もっていたこと、地形が急斜面であること、過去にも雪崩が起こっていたことなどから、雪崩の危険を容易に予見できたと判断されました。また、被告(教諭たち)は「共同して危険を回避する義務があった」にもかかわらず、「事前に十分な情報収集をしないで」、漠然と計画を変更し、登山訓練の安全な範囲を明確も明確にしなかった過失があると、判決は認定しました。

 難しいことを書きましたが、要は、「死亡事故が起きる可能性は、当然に想像でしたでしょ?しかも、事故が起こりそうなのに事故を防ぐための行動をしなかったよね。だから、罪を背負うのよ」ということです。

 私は、児童クラブで運営にあたっている保護者や、実質上は保護者運営と同等の非営利法人運営クラブの法人役員、またそれらのクラブに雇用されて勤務している児童クラブ職員が、この判決のニュースを聞いて、自分の立場に置き換えて考えることを当然しているだろうと期待しますが、もし、このニュースと児童クラブ運営に関する状況を関連して考えることをしなかった、関連付けて考えられなかったとしたならば、そのような方こそ、事業を営む事業体を経営する立場であること、事業を営む運営者であることとしては適性を欠くと考えます。(もちろん、普段からニュースを見聞きしない態度であるならば、論外です)
 この判決は、職業として生徒を引率する者の立場の過失責任を論じています。仕事として取り組んでいることでも、重大な過失があれば刑事責任を問われるのです。これが、仕事として専従に取り組んでいない保護者運営の児童クラブあるいは保護者運営由来の非営利法人において、所外活動で重大な事故が発生した場合に、運営責任者である保護者であったら、どうなるのか。また、保護者運営由来の非営利法人で働き、法人の経営やクラブ運営に従事している者は、どうなるのか。そのようなクラブで勤務し、子どもたちを引率して所外で活動する職員はどうなるのか、考えてみてください。所外活動における、あらゆる事故のリスクをしっかりと予測し、事故を回避する、事故を起こさないための努力をする。情報をしっかり収集し、危険回避に努めること、それらを、抜かりなく実施できる態勢にあるでしょうか。
 雪崩の事故は、登山経験がある教諭であるからこそ予見可能性について厳しく判断したと考えることもできるでしょう。しかしそれは、児童クラブにおいて、過去も同様の活動をしていて、その活動に参加したことがある保護者やクラブ職員も同じ事です。過去には問題が無かったからと同じような活動をしたら重大な事故になった、というケースは珍しくないのです。

<保護者が児童クラブを運営する「リスク」を直視しよう>
 この雪崩事故の判決のニュースを、児童クラブの運営に「素人」である保護者が関わっていることに重ねて考えてほしいのです。「片手間」で運営できるほど、児童クラブは軽い存在ではありません。数十人の人間(子どもと職員)の生命身体の安全を必ず確保しなければならない、それは最低限かつ絶対に守らねばならない責務を完遂するのに、月に数回だけ集まって会議で物事を決める程度の関与の度合いでは、とても、クラブに関わる人間の生命身体、人権を完全に守ることはできないと、私は考えます。所外活動だけではありません。クラブ施設内での事故も同様です。クラブ内で起こる事故や事件の可能性を考えて対策を講じることは、片手間の運営ではできません。非営利法人専従の保護者出身者も、「子どもが楽しくクラブで過ごせればいい」という観点だけで運営に関わっているようでは、事故や事件の発生リスク軽減に関する対策がおざなりになり、保護者運営と本質的に差はありません。

 そこで何度も私は問いかけているのです。「万が一、子どもや職員に、賠償が必要となったとき、立場上、賠償責任を負うことになる保護者が生まれても、いいのですか?保護者運営絶対賛成論者は、どうして児童クラブ運営に関わることになった保護者に、万が一の場合は賠償責任を背負うことになるから覚悟してねと、正しいことを正確に伝えないのですか?保護者の平穏な生活を揺るがす可能性があることには、何ら配慮をしないのは何故ですか?」と。どうして、事業を運営するにあたって当然生じるリスクから目を背けるのですか?リスクを直視すれば、保護者に関しては自ずと、事業の経営、運営の責任から切り離すことが必要である結論しか導かれないはずだと私は考えています。

 私が訴えているのは、「児童クラブを運営する事業者の経営と、日々の児童クラブの運営、その双方に、利用者たる保護者が強制的に組み込まれる仕組みは、一刻も早く取りやめるべきだ」ということです。自らの意思に反して児童クラブの経営、運営に関与させられ、児童クラブで重大な事故や事件が起き、その結果、運営責任者の1人として刑事と民事の責任を追及される立場に立たされるという事態は、あってはならないからです。

 このことは、保護者を児童クラブから切り離すという意味ではありません。児童クラブにおいて子どもたちがどう過ごしているか、どう過ごすことが子どもの育ちに関して適切なのかを保護者として考えることは引き続き当然、求められるべきです。つまり、「児童クラブを経営する事業者(企業、法人、任意団体も)の経営者と、日々のクラブ運営に従事し必要な業務を差配する立場でる運営者に、利用者たる保護者は就くべきではない」ものの、「クラブにおける子どもたちの生活や遊び、過ごし方について、保護者として意見を表明し、クラブ職員と連携することは必要だ」ということを申し上げているに過ぎません。

 なお、先の大分県の報告書には、「民間企業等法人組織が運営を担う場合は、保護者や地域住民の関与が少なくなり保護者とクラブとの繋がりが薄くなることが懸念される。」とも記載されています。まさに、その点は私も危惧するところです。

 要は、児童クラブの経営と運営に関して保護者は意に反して従事させられる必要はない。ただし、クラブの運営内容について無関心であってはならないよ、ということです。保護者の思いや考えをクラブ運営に反映させる仕組みを整えればよいのです。それは定期的な会合(いわゆる保護者会、父母会)だったり、事業運営に関する評議会制度であったり、あるいは利用者アンケートだったり、保護者で構成される「評価委員会」による事業評価であったり、いろいろな形があるでしょう。

 また、保護者が自らの意思で児童クラブの事業者の経営や、事業運営に関わりたいという場合において、地域に根差した非営利法人であればその要望を受け入れることは容易でしょう。そのことを排除する必要はないと考えます。ただし、経営や運営に参加するとなった以上、すべてにおいて責任を負う覚悟は当然ながら必要です。

<もう、猶予はありません>
 児童クラブは年々、利用者が増えています。児童数が減っているのにクラブ利用者は増えているということは児童数におけるクラブ利用者の割合が増加していることです。母数が増えればそれだけトラブル、事故や事件は増えるのも当然です。しかも、大規模化が進行したり、あるいは子どもたちの行動に関してかつてほど予測が容易ではなくなっている状況のもとで、事故や事件の発生する余地は増えています。クラブ数が増え、必要な職員を確保する苦労から、児童クラブ職員として適性にかける人物が採用されて従事している現実も、残念ながらあります。児童クラブ運営も企業経営と同じです。国や法令が求める種々の事項を実施するには、専従の職員、社員がいなければ対応できない時代にもなっています。

 そういう状況で、引き続き保護者が強制的に事業の経営、運営に従事させられることが続いていると、重大な事故、事件、あるいは役所や公的機関に提出する書類の提出漏れなどという事態に直面しないとは限らないです。実際、私も以前に責任者を務めていた法人でまさに同様の事態に直面しました。経験者は語る、なのです。それも何度も。私の場合は覚悟をもってすべてを引き受ける、背負う覚悟でしたが、他の人に同様の覚悟、責任感を持てというのは、あまりにも酷です。制度の不備を、ただ児童クラブが存在しないと生活できない保護者に押し付けては、ならないのです。

 市区町村には次の事を希望します。
・保護者運営の児童クラブ、あるいは実質的に保護者運営に等しい法人が運営する児童クラブについて、明らかな故意による状況が招いた場合を除き、保護者が責任を問われることがない仕組みを直ちに導入すること。
・その仕組みを導入している間、運営主体のあり方について検討すること。ボランティア、非常勤の保護者が年次ごとに変わって運営を担当する仕組みではなく、専従者が運営する事業者の設立を促進すること。そしてその事業者に保護者運営クラブのクラブ運営を移管すること。

 保護者運営クラブには次の事を検討するようお勧めします。
・市区町村に運営責任について行政の関与を求めること。
・近隣(必ずしも同じ市区町村内でなくともよい)の保護者運営クラブや非営利法人クラブと合流、合併し、複数クラブを運営する事業者として再出発すること。クラブ数が増えればそれだけ財政に余裕ができ、専従職員を雇用できる余地が生じる。

 もう、時間はありません。事故や事件は、今日、明日、起こるかもしれません。備えあれば患いなしとは、リスクマネジメントを的確に表現した真理ですよ。
 さらにもう一言。児童クラブの事業運営が、しっかりとした組織、企業体、法人で行われているのであれば、公営だろうが、民営だろうが、どちらでも構わないと私は考えます。「子どもの育成支援が質の高い状態で実施できている」&「職員の雇用労働条件が、専門職にふさわしい待遇になっていること」&「保護者のワークライフバランスを支えられる利便性の向上が常に図られていること」、この3点が揃っている、あるいは3点を重要視しているのであれば、運営種別、運営主体はなんでも構いません。その3点をそろえられるのは、もう保護者の運営では無理だ、ということなのです。

<おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、まもなく寿郎社(札幌市)さんから出版されます。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 親と事業者の悩みに向き合う」です。6月の下旬にはお買い求めできるようになるようです。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。およそ2,000円になる予定です。正式な情報は随時、お伝えしますが、注文は書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。特に埼玉近辺の方で、まとまった部数をお買い求めいただける方は、萩原まで直接、ご相談ください。その方が個人的にもありがたい(なにせ、ある程度のまとまった部数が手元に届くので)です。発売まで、あと1か月です。どうぞよろしくお願いいたします。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)