放課後児童クラブをめぐる「いろいろな状況」を紹介します。(全国市区町村データーベース1,000番目に到達)

 放課後児童クラブ(学童保育)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。全国の市区町村における放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所の中核的な存在です)を、市区町村のHPから確認する「放課後児童クラブ全国市区町村データーベース」がこのほど、ようやく1,000番目の市区町村まで到達しました。残り770市区町村ほどです。これまでのところで興味深い点を選んでご紹介します。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<じわじわと広がる「放課後全児童対策事業」>
 ちょうど1,000番目の市区町村となったのが千葉市です。人口100万人に迫る大都市です。千葉市では、放課後児童クラブである「子どもルーム」が市内100か所以上に設置されていますが、もう1つの子どもの居場所として「アフタースクール」という名称の施設が徐々に増えていることが伺えます。
 このアフタースクールは、いわゆる放課後全児童対策事業に分類される市区町村独自の事業です。
放課後児童クラブ=放課後児童健全育成事業。留守家庭の小学生を対象に、健全育成を行う。
放課後全児童対策事業=放課後全児童対策事業(こども家庭庁)と、「放課後子供教室」(文部科学省)の双方の要素を行う事業。放課後子供教室の特徴である、「その小学校の児童は誰でも利用できる。ただしほとんど午後5時ごろまで」を取り入れ、午後5時ごろまでは希望する家庭の子どもは全員、それ以降の時間、おおむね午後7時までは事前登録している家庭の子どもをそのまま受け入れる、つまり午後5時以降は放課後児童クラブの機能を発揮する、という仕組みです。これ、一見すると、放課後子供教室と放課後児童健全育成事業の「いいとこ取り」のようで魅力的ですが、必ずしも万能策ではなく、「利用希望者はもれなく受け入れるので超過密状態=大規模状態」となり、子どもの居場所として適正な環境が整っていないことが最大の弱点です。というか、致命的な弱点です。子どもの人数に比して従事する職員数が少なく、子ども同士のトラブルに気付かず悪化してしまうこともたびたび。何より、健全育成の使命が相対的に薄いので、「単に子どもが保護者の迎えの時刻まで過ごすだけ」になっている点は、どうにも改善が必要です。
 しかし、「待機児童が出ない」ことは就労世帯に何より安心です。

 この、放課後全児童対策事業が千葉市では徐々に増えていることがHPからでもよく確認できました。放課後全児童対策事業は大都市を中心に増えています。最近では、さいたま市が事実上、この放課後全児童対策事業をスタートしたことが児童クラブ業界では注目を集めています。さいたま市の制度は、千葉市のアフタースクールを参考にしていると私には思えました。料金設定に類似点があります。なお、双方とも事業に参加している民間事業者が共通していることは、後発のさいたま市があえてその事業者を選定したとも勘繰れなくはないですね。

 千葉市は今後、アフタースクールを主力とするのか、その推移は要注目ですし、今年度から取り入れたさいたま市の動向からも目が離せません。

<民間事業者同士の競争激化?>
 福岡県太宰府市は市内に20施設を数えます。公設民営で、2024年度時点では、福岡県に拠点を持つ株式会社が指定管理者としてクラブの運営を行っています。それが2025年度から、別の広域展開事業者が運営を行うと市のHPから読み取れます。新たな事業者は東京に拠点を置く全国最大の広域展開事業者です。

 つまり、事業者の変更が行われるわけですね。分かりやすく例えれば、駅前のコンビニエンスストアが、今までセイコーマートだったものがセブンイレブンに替わる、ということです。気になるのは、クラブで働いている人の処遇です。雇い主が替わるのですから、雇用労働条件も変更になるのは当然ですが、給与の水準や、年次有給休暇の取扱いはどうなるのか、私は大変気になります。

 全国でごく普通に、児童クラブの運営を民間事業者に委ねることが行われています。市区町村が直接に運営する公営クラブは年々、減少しています。それを民間事業者が引き継ぐのですが、たいていの場合、3年や5年の期限を区切って、次の数年間のクラブ運営事業者を新たに決め直します。公募プロポーザル(業務委託の場合)、指定管理者選定(指定管理者制度の場合)が数年ごとに行われるのです。
 そのこと自体は制度上、まったく問題がないとしても、「現地で働く人」や「クラブで過ごす子ども、クラブを利用する保護者」のことはまったく考えていない仕組みであり、トラブルが絶えません。事業者によって、クラブで行う育成支援の事業内容が変わることは当然あることですが、例えば、「遊びを中心に子どもが過ごすことを重視する方針の事業者」から「日替わりのプログラムで様々な体験を子どもたちに与える事業者」では、その育成支援の内容が天と地ほど違いますから、現地に住んでそのクラブで働く職員にとって、新たな事業者の方針になじめなかった場合は退職することを選びやすい。しかし、職員が辞めてしまうとこの人材難の時代、クラブ運営に支障が出ることは避けられません。

 「だから児童クラブの運営事業者を決めるのは非公募がいいんだ」という意見には一理あります。私も基本的にその方針を支持していますが、非公募による選定の最も恐ろしい点があります。それは、「どうしようもなくダメでいい加減な事業者が延々と児童クラブ運営を任される可能性」です。その地域の特定勢力と癒着して児童の利益より事業者や地域社会の利益を優先する事業者が非公募ゆえ選ばれ続けることは悪夢です。また、市区町村が「児童クラブのことは事業者に全部任せる」という丸投げ状態で、市区町村の管理監督が発揮されずに事業者が好き勝手に児童クラブを運営していたら、それが非公募でずっとその地区の児童クラブを運営し続けることは、児童クラブにおける不祥事が起こる可能性が格段に高まります。悪いことに、そういうことも表ざたにならないほど、暗黒な状況になりかねません。「児童クラブのブラックホール」が生じるのです。私が見る限り少なくとも1つはそういう地域があります。

 非公募を原則としつつ、事業者の運営内容は全部ガラス張りにしておき第三者が事業内容、経営内容を確認できるようにしておくことが重要でしょう。あまりにもひどい運営をしているのであれば、非公募であっても合格ラインに達しないとして、改めて事業者を募集すればいいのですから。

 これから、全国各地で児童クラブを運営する事業者同士によって、運営するクラブ数を増やすための仁義なき戦いが繰り広げられることになるでしょう。一方で、同じ事業者が数期連続して運営を行っていると「この事業者で安定した運営ができている」と市区町村に判断されてその後は非公募に、ということも考えられます。表向きでも安定した運営をしていると見なされれば、実はダメな運営をしている事業者でも非公募に落ち着いてしまう可能性があります。

 その点、太宰府市はまだ競争原理によって児童クラブの質をより高めていきたいとして大手業者同士の戦いとなったのでしょう。公募で選んだ事業者が夏休み期間にスキマバイトを利用して激しい批判を受けたものの、その事業者を非公募で運営させることとした某政令指定都市は、ちょっと考え直した方がいいのではないでしょうか。

<小学6年生までいられない、土曜日閉所、まだまだ多い不完全な児童クラブ>
 東京都が新たな認証制度を設計して児童クラブの質の底上げに乗り出すことは前日の運営支援ブログで取り上げました。しかし東京都内の自治体はその人口の多さからか、本来なら小学6年生の最後の日まで在籍できることが望ましい児童クラブに小学3年生まで、4年生まで、としている地域が多いのですね。

 私の出身地である東京都多摩市は、いろいろな面で評価が高い自治体で、多摩市出身者としてはちょっとうれしく思っているのですが、こと、放課後児童クラブでは、原則として小学1年生から4年生までとしている点が残念です。私の甥っ子も多摩市の放課後児童クラブを利用していましたが、やはり小学5年生になると児童クラブの利用ができませんでした。両親は困っていました。多摩市は地元の社会福祉法人など地元の事情に精通した事業者に児童クラブ運営を任せている点は安心できるのですが、早く小学6年生まで利用できるような量的な整備が進むことを期待します。多摩市以外にも東京都内には小学6年生まで児童クラブを利用できない地域が実に多いです。

 土曜日を閉所するクラブは地方に目立ちます。それも公営クラブがほとんどです。この点、お役所仕事かい?と嫌味の1つも言いたくなります。土曜日も働いている子育て世帯は当たり前に存在します。土曜日の拠点開所はやむを得ないとしても、1クラブも開所しない地域は、今の時代、アウトと言わせていただきます。

<サマー学童に巡回学童。工夫のあれこれ>
 これまた千葉市ですが、夏季休業期間限定子どもルーム(サマールーム)を開設しています。令和7年度は前年度よりその数が増えるようです。国は、夏休みの前後で待機児童数が大幅に異なること、つまり児童クラブのニーズは夏休み期間にあるという(業界ではとっくに周知の事実であった)現象を把握して、夏休み期間の短期開所児童クラブを増やすための取り組みを始めるようですが、すでに先行してあちこちの市区町村で工夫されているようです。

 そもそも、ほぼすべての市区町村で、短期の受け入れ、いわゆるスポット利用は制度上、設定しています。もともと、この放課後児童健全育成事業は留守家庭の子どもが対象ですから、留守である状態が短期間の家庭である世帯の子どもを受け入れることは制度上、当たり前とも言えます。
 ただし、あまりにも入所ニーズが高いので施設に子どもがいっぱいとなっているので現実的に短期の受け入れ、スポット利用が機能していないということがあります。

 それを抜本的に変えようというのが、いわゆるサマー学童ですね。これから増えるのでしょう。

 ここで注目したいのは福岡県筑後市です。人口5万人弱の自治体で13のクラブ施設があるようですが、令和7年度には、長期休暇のみ、市内全域の子どもを受け入れるクラブとして新たに開設されるようです。さらに、「市内巡回型学童保育所」として、これまた市内全域を対象に、放課後に市内を車両で巡回して小学校から学童保育所まで児童を移送して子どもを受け入れるという施設を設置しています。学校が休みの日は、保護者による送迎となります。
 つまり筑後市は、夏休み期間には、地元の学区の児童クラブがあり、夏休みだけ利用できる児童クラブがあり、巡回型として市内全域の子どもが利用できるクラブがあるという重層的な構造となっています。大事なことは、選択肢がある、ということです。地域のクラブか、巡回型が、あるいは通年利用か、スポット利用か、という選択肢があります。この形態は理想的でしょう。小さな自治体だから巡回学童ができる、と思わないことです。面積が広い自治体であっても複数の巡回型クラブを設ければいいのです。子ども、保護者が、自分に合ったクラブを選べる利点は計り知れません。
 この筑後市の姿勢はぜひ全国に広まってほしいと弊会は期待します。

<最後に>
 何回も申しておりますが、市区町村のHPで放課後児童クラブを紹介する際、「だれが、どうやって」運営しているのかを明記していない市区町村だらけです。税金を補助金として交付しているのです。公金が使われているのですから、その公金が行き届いている先の事業者名を必ず市区町村はHPで明記するべきです。
 児童クラブの運営事業者も、公金を受け取って事業を行っている限り、納税者=国民への説明責任があると心得て、〇〇クラブは私たち〇〇が運営しています、とHPなり何らかの手法で一般社会に公開するべきです。特に保護者運営系の児童クラブは情報公開が圧倒的に遅れています。というか、やっていないところばかりです。保護者が善意で運営しているから見逃してくれ、ではありません。善意だろうが強制だろうが公金を受けて運営している限り、事業者名と運営責任者名は天下に公表してください。それが嫌なら保護者運営を手放すべきです。それぐらいの覚悟を抱いて事業運営に向き合っていただきたいですね。

 残りは741市区町村です。早く終わらせて第2巡目をスタートさせたいものです。2巡目では、「昼食提供の有無」「異年齢集団の意義を強調しているか、していないか」「短期受入れの有無」「育児休業中の利用の可不可」「公募か非公募か」などの点をピックアップし、表として公開していく予定です。

<おわりに:PR>
 弊会は、次の点を大事に日々の活動に取り組んでいます。
(1)放課後児童クラブで働く職員、従事者の雇用労働条件の改善。「学童で働いた、安心して家庭をもうけて子どもも育てられる」を実現することです。
(2)子どもが児童クラブでその最善の利益を保障されて過ごすこと。そのためにこそ、質の高い人材が児童クラブで働くことが必要で、それには雇用労働条件が改善されることが不可欠です。
(3)保護者が安心して子育てと仕事や介護、育児、看護などができるために便利な放課後児童クラブを増やすこと。保護者が時々、リラックスして休息するために子どもを児童クラブに行かせてもいいのです。保護者の健康で安定した生活を支える児童クラブが増えてほしいと願います。
(4)地域社会の発展に尽くす放課後児童クラブを実現すること。市区町村にとって、人口の安定や地域社会の維持のために必要な子育て支援。その中核的な存在として児童クラブを活用することを提言しています。
(5)豊かな社会、国力の安定のために必要な児童クラブが増えることを目指します。人々が安心して過ごせる社会インフラとしての放課後児童クラブが充実すれば、社会が安定します。経済や文化的な活動も安心して子育て世帯が取り組めます。それは社会の安定となり、ひいては国家の安定、国力の増進にもつながるでしょう。
 放課後児童クラブ(学童保育所)の運営支援は、こどもまんなか社会に欠かせない、あらゆる児童クラブを応援しています。

 弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。

 放課後児童クラブを舞台にした小説を完成させました。とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子を描いた作品ではありません。例えるならば「大人も放課後児童クラブで育っていく」であり、そのようなテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。出版にご興味、ご関心ある方はぜひ弊会までご連絡ください。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ぜひご連絡、お待ちしております。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

(このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)