放課後児童クラブの開業を検討する人が増えています。率直に言って必要なのは2つ。「覚悟」と「カネ」。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの居場所を作りたい!という真摯な気持ちから、放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の開所を考える人が増えているようです。私にも毎月数件の問い合わせがありますが、お答えする内容はいつも同じです。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<需要は、ある。ただし条件あり>
 放課後児童クラブを開業したいという人が増えているようで、こんな私にも「どうしたら開業できますか」という相談がポツポツと寄せられます。開業を考えている人の多くは、実際に、児童クラブの待機児童が出ている地域に住んでいて、子どもの居場所に困っている保護者の声を聞いたことがきっかけのようです。その地域で、放課後児童クラブの開設事業者を募集しているならば分かりやすい(そして、そのような地域は結構あります。ただし募集相手としては、すでに児童クラブを営んでいる企業を対象としていることがほとんどです)のですが、特に新規開設事業者を募集していない地域であったら、「新規施設の需要があるのかどうか」が分かりにくいものです。

 先日も児童クラブの待機児童に関する報道がありましたが、児童クラブの待機児童は増えています。児童クラブの数は増えており入所できる人数が増えているにも関わらず、待機児童が増えているのですから。児童クラブを必要とする子育て世帯は、ものすごく増えているのです。しかも、子どもの人数そのものは確実に減少しています。自著にも書きましたが、例えるならば、児童数が毎年1割ずつ減っても児童クラブ入所希望者は毎年2割ずつ増えているという状況です。子どもの居場所は不足しているのは間違いありません。よって、児童クラブの需要はあるのです。(もちろん、一番確実に知る手段である、市区町村に問い合わせて需要の有無を確認するということは必ず必要です)

 なお、放課後児童クラブは届出制です。市区町村の定める書式で届け出るだけです。許認可制ではありません。また、児童福祉法に基づく放課後児童健全育成事業でなければ、つまり放課後児童クラブにこだわらなければ、そもそも届出すら不要です。明日、自宅で開業することだって可能です。開業費用0円で開業することも可能です。もっともこれは自称「児童クラブ」「学童保育所」であって、法に基づく放課後児童クラブではありません。
 児童クラブの新規開業にまつわる問題は、「放課後児童クラブ」にこだわって開業したいというときに生じます。市区町村が届出を受け取るかどうか、あるいは受理して放課後児童健全育成事業として認めてくれるかどうかが重要となってきます。なぜならその先は「補助金の交付対象として認められるか、認められないか」で事業の経営形態が大きく分かれるからです。(なお、補助金の交付対象として認められるには、過去の実績が問われる可能性が多いです。他地域ですでに同種事業を行っているかが問われることが多いですね)

 では、「放課後児童クラブを開きたい」という考えを前提にして、私の考える概論を紹介します。
 最初に重要なこととして「需要」、つまり児童クラブが必要だと住民が思っている状態が存在するということ、このことを考えてみます。当たり前ですが、全国どこでも児童クラブの需要があるわけではありません。
・待機児童が出ているところ
 これは確実に需要があるでしょう。
・待機児童が出ていなくても、既存の児童クラブの入所が小学3年生や4年生までと制限されているところ
 これも需要が高いと判断できます。高学年を児童クラブから「追い出す」ことで新1年生の受け入れをかろうじて行っている状態ですから。高学年児童がいる保護者からの需要が期待できます。
・人口が多く、かつこれからも人口が増えると予想されるところ
 こうした地域ではすでに待機児童が出ているか、毎年少しずつ児童クラブが増えています。あるいは待機児童が出ていなくても無理やり、児童クラブに入所希望者を入れて待機児童を0人としているところです。また人口が増えると予想されるところでは、小学校の余裕教室が見込めませんからクラブの増設もなかなか話が進まない場合が多いのです。需要に対する供給の不足が具体化していることが多いのです。市区町村の子ども・子育て支援事業計画(令和6年度まで第2期計画。令和7年度からの第3期計画では「市町村こども計画」と一体化した計画に移行する地域が多そうです)を見れば放課後児童クラブの需要について市区町村がどう判断しているかが分かります。
 こうした需要が根強い地域では、市区町村が、新規開業したあなたの施設を放課後児童クラブとして取り扱ってくれる可能性はあるでしょう。

 一方、需要がない、あるいは弱いところは、どうでしょう。待機児童が何年も継続して発生していない地域で、かつ、人口が増加傾向に無い地域は当然ですから除いて考えましょう。
・いわゆる全児童対策事業を行っているところ。人口が多く単純に児童クラブへの入所数が年々増えている状況でも、「ほぼほぼ無料」の施設には、なかなか太刀打ちできません。
・全児童対策事業でなくても、どんどん入所希望者を既存のクラブに入所させていて待機児童を出さないところ。
・市区町村内の既存の児童クラブが1つの事業者によって運営されているところ。この場合、行政側とその事業者との特別な関係があるので、他者が入り込もうとしても冷遇されるでしょう。おおよそ、以前は保護者会運営であって、それが発展して法人による運営になっても住民と行政が密接に連携している形態です。意外に、各地にあるものです。

 もう1つ、「民間の新規参入者」に立ちふさがるものがあります。それは「市区町村が必要としているか、していないか」です。市区町村が考える需要、といえるでしょう。これは、児童クラブの事業が継続しやすいか、そうではないかの分岐点です。つまり市区町村が「新規のクラブが、喉から手が出るほどほしい」となれば、新規参入の事業者に対して受け入れるかどうかのハードルが下がります。新参者でも、個人でも、待機児童解消に役立つのであれば、補助金の交付対象として認めてくれる可能性があります。このあたりが実に難しい。というのは、結局のところ、市区町村の「裁量」、もっといえば、市区町村の担当部局の責任者の「裁量」によるからです。この裁量という目に見えない壁を乗り越えて初めて行政機構内の会議で検討されたり規則規程に則って処理されるようになるのです。お役所相手の仕事が難しいのは、こういう点があるからですね。
 つまり、いまは待機児童が増えている、今後も児童クラブの入所者数は右肩上がりだからといって、全国どこでも児童クラブを設置しても大丈夫!とは言えません。まあ、当たり前ですが、立地条件は大事だよ、それ以上に市区町村の判断が大事だよ、ということです。

<必要なもの。覚悟>
 覚悟とは、いろいろな方面に及びます。およそ児童クラブを新規に開設したいという人は、現状を放置できないとか、今の子どもにとって適切な居場所がなかなか存在しない、そういう状況を改善したいという真摯な願いが原動力となっていることでしょう。その「こころざし」はとても重要です。志なくして、児童福祉の世界は、やり続けることが困難です。
 そう、「継続する」という覚悟です。児童クラブについては特に勘違いされやすいのですが、児童クラブの設置、開業は慈善事業ではありません。人助けには違いありませんが、人助けを目的にしようとすると長続きしません。継続するには、会社を経営するのとまったく同じ考え方、取り組みで、クラブの経営と運営を行うことが必要です。というか、児童クラブの開業は、会社を興して経営するのと何ら変わりがありません。ビジネスです。つまり、「会社を経営するんだ。起業するんだ」という覚悟が必要です。そして、事業の安定した経営と継続のために必要な種々の学習や勉強を厭わずに取り組む姿勢が重要です。面倒くさいからいいや、ではダメです。どんなことにもひるまず取り組む覚悟が必要です。それらがなければ、児童クラブは継続して続けられません。さらに児童クラブであれば、緩いながらも一応の基準があります。有資格者の配置基準などですが、それを遵守するのは結構大変です。少しでも不適切な状況があれば補助金が召し上げられる可能性があります。それらの規定や規則も学んでおかねばなりません。

 児童福祉という崇高な社会的な意義の大きな事業だからこそ、企業経営の精神をもとに、安定かつ継続して事業を続けることが求められます。途中で「もう、大変だからやめるわ」程度の軽い覚悟では困ります。たとえその施設を利用していた人が数人であっても、その数人の子ども、数人の子どもを育てる保護者にとって重大な影響を及ぼすことになります。それらの人たちの人生を左右することになる、その責任の重さを考えてください。やりたいからやる、やめたくなったらやめる、ということでは困るのです。社会的な意義がある事業ということはすなわち高い道徳性、倫理性もまた同時に求められます。犯罪行為に及ぶことは論外として、子どもたちの福祉を守るための事業をどう行うかについて真剣に取り組まねばなりません。

<必要なもの。カネ>
 補助金の交付対象として認められるか、認められないかが運命の分かれ道ですね。補助金交付対象として認められない場合、つまり、市区町村からは放課後児童健全育成事業として届出を受理されていても補助金が交付されない場合(悲しいかな、そういうことはあるのです!)を考えます。この場合、私は開業した時点で「手持ちの貯金は2,000万円」をお勧めします。

 どれだけ毎月、経費として貯金が「溶けていく」のかは、規模によって異なります。水光熱費は必ずのしかかってきますし、施設の場所が賃貸なのか、自前の物件なのかにもよって必要な経費の額は異なります。人を雇えば当然、賃金を支払うことになります。関係機関に提出する書類の作成を、士業の方々に依頼するにも当然、費用がかかります。
 収入は実に不安定です。補助金を受けないということは入所児童からの利用料だけが収入です。他の公設クラブや、民設でも補助金を受けて開所しているクラブはどんなに高くても1万円台。利用料だけで経費分を稼ごうとすると、毎月5万円超ぐらいの利用料になるでしょう。料金面の競争では、到底かないません。まして相手が公営クラブの3,000円前後の利用料や、全児童対策の数百円レベルであれば、太刀打ちは無理です。

 スタートアップ時には入所者数を増やすことを最優先に利用料金を抑えるとして児童1人あたり5,000円の設定としても30人入所したとして15万円ですね。それでは到底、数年先までの事業継続ができません。しかも、将来的に児童クラブとして補助金の交付を念頭にするなら、子ども1人あたり1.65平方メートルの広さは確保しておくことが必要となりますが、それだけの広さの物件を用意するのは大変です。賃料を考えて、では利用料を1人毎月10,000円にしてどれだけの世帯に利用されるでしょうか?質の高い事業運営をしていれば、もしかすると人が集まるかもしれませんが、それがいつになるかは分かりませんね。賃料を支払う形態であるならば毎月、自身の生活費含めて50万円は減っていくことを覚悟してから、児童クラブ事業を立ち上げることになります。2,000万円というのは、経費をギリギリ切り詰めて3年間、なんとか事業をやっていけるだけの額として私が考えているものです。3年間で2,000万円を使い切って、その時点で先行きがありそうだから続けるか、いったん撤退するか、どちらか選択を考えればいいということです。

 児童クラブの経営面でいえば、その地域に住む子育て世帯からの需要を掘り起こすことが必要です。子育て世帯が児童クラブに期待するのはおよそ決まっています。
・長時間の開設時間。朝7時すぎから夜8時ごろまで。
・昼食提供。
・学習時間の確保。それも宿題だけではなく、もっと予習復習の時間を確保すること。
・手ごろな料金感覚。
・保護者会のような保護者負担ゼロ。

 これらをすべて叶えるなら、人口の多い地区であれば、入所希望者はある程度現れる可能性があります。逆に言えば、子ども1人あたりのスペースを確保できる物件を備えつつ、職員も数人雇用しつつ、上記のことをすべて実施できないのであれば、補助金をあてにしない独立型の児童クラブの事業としては、成り立つ見込みは残念ながらありません。しかも、この上記のこと、それぞれ結構、経費がかかるんですよ。昼食提供は実費負担としても。人件費はおよそ経費全体の8割に届くでしょう。

 なお、まったくもって私の個人的な意見ですが、開業に当たっての資金の全額をクラウドファンディング、いわゆるクラファンで集める事には否定的です。一部でしたら構わないとは思いますが。
 児童クラブも他の事業と同じ。ビジネスです。開業に関して、そしてその後当分の間の運転資金は、私は自前の貯金もしくは金融機関から借り入れて行うべきだと個人的には考えています。金融機関から借り入れができることはすなわちそれなりに社会的に「評価」されていることの現われです。返済は確かに大変ですが、それこそ「覚悟」です。もっとも、非営利法人や団体がすでに児童クラブを運営していて、補助金の交付時期がずれている間の運転資金が必要といった個別の独自の事情に際してのクラファンには私は異議はまったくありません。むしろ行政が悪いことを自助努力で何とかしているということですからね。

<子どもの居場所は、いろいろな形がある>
 資金、貯金がない。場所もない。でも子どもの居場所をなんとかして作って、いま困っている子育て世帯の力になりたい。そう思う方は、児童クラブにこだわることはないと私は考えます。また、子どもの居場所について考えている人の多くは、既存の学習塾系統の子どもの過ごし方、つまり最近の大手事業者系がこぞって実施している「認知能力育成主義」の児童クラブに疑問を持っているむきも多いように私には感じられます。放課後の時間まで、あれこれしなさいと子どもに行わせることへの疑問です。

 であれば、まずは最初のうちは、月に何日でもいい、週に1~2日でもいいので、子どもの居場所を用意することから始めたほうが、まだ取り組みやすいでしょう。もちろん、収益は期待できません。兼業になりますね。地元の、子育て支援や地域づくりのNPO法人と相談するなり、あるいは自身がそのような組織に加入するなりして、既存の組織の一環として、子どもの居場所作りを始める方がよいでしょう。

 その際にも、子どもの人権を守るため、保護者の安心感を醸成するために、「子どもが過ごす場所は建物内のここの場所と限定しておき、その他の場所には立ち入らないようにすること」、「子どもが過ごす場所については保護者がライブカメラにアクセスすることで常時、確認できるようにしておくこと」、「入室、退室はすべて即時に保護者に連絡、通知すること」、「過ごしている子どもの様子は利用のつど、保護者に丁寧に知らせること」は、最低限必要です。これらのことを地道に積み重ねていけば、需要が増え、開所日が増えていく可能性は大いにあります。

 その先に、もしかすると、児童クラブという形の事業展開が見えてくるかもしれません。ただ、「子どもに、のんびりと過ごさせたい」という形態の居場所であれば、事業化に踏み切ったとしても、そうそう高い利用料は設定できないことは念頭においてください。残念ながらこの国の社会は、「子どもがのんびりと過ごす時間」が持っている人間成長の可能性に対して対価を支払うという概念をおよそ欠いています。保護者がどんな額でも歓迎する対価は「勉強やスポーツや、何か直接的な利益が目に見えてもたらされるもの」に対してのもの。それら直接的に能力向上に役立つことが子どもの成長に有益であるという価値観があまりにも染みついてしまっています。(この価値観を変えるには個人の努力では限界がありますね)
 どうしても児童クラブにこだわりたい、ということであれば、自分の住んでいる地域でなくても、新規の事業者を募集している地域で開設し、実績を積むことが回り道のようで近道です。丹念に全国の市区町村のHPを見ていくと、そのような地域は少ないですが見つかるでしょう。沖縄県内にはそうした自治体が少なくてもあります。

 最後に。日本版DBSの対応です。遅くても2年後には、対応をどうするかが迫られます。個人で開業する任意の子どもの居場所であれば対象外ですが、児童クラブの看板を掲げて事業を行うとなれば、保護者の安心感を得るために日本版DBSの認定事業者となる必要があるでしょう。かなり高いハードルになりそうです。こちらについては行政官庁のHPを確認するなどして最新の情報を得られるようにしておきましょう。

 <おわりに:PR>
※書籍(下記に詳細)の「宣伝用チラシ」が萩原の手元にあります。もしご希望の方がおられましたら、ご連絡ください。こちらからお送りいたします。内容の紹介と、注文用の記入部分があります。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、アマゾンが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊ほど届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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