放課後児童クラブの運営を保護者が引き継ぐ。頑張ってください。しかし社会と業界はこれを美談にしてはいけません。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所もおおむね該当します)に関して気になる報道がありました。福島市の放課後児童クラブにおいて、受託業者がなくなった後に保護者が地域の支援を受けつつクラブ運営を継続している、という記事でした。このことを運営支援の立場で考えます。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<報道から>
 この記事は2024年11月4日10時45分に配信された、福島民報の記事です。見出しは「パパママ団結放課後見守り 福島市の立子山小全7世帯保護者 支援員不足で児童クラブ廃止 自助運営、課題越え半年」となっています。記事の内容を一部引用して紹介します。
「福島市の山あいにある立子山小の全保護者が連携し、放課後の子どもの居場所づくりに乗り出した。保護者は交代で休暇を取るなどし、平日午後に見守り拠点を運営している。昨年度まで市の委託を受けた放課後児童クラブがあったが、支援員不足で廃止になった。保護者はいずれも共働き世帯であるため、今春から「自助」による児童受け入れを始め、課題を乗り越えながら半年間続けてきた。保護者は「みんなが当事者」と活動継続を誓う。県によると全保護者が協力し放課後の見守り活動をするのは異例。」
「子どもが立子山小に通う全7世帯の保護者14人が当番制で責任者になる。民生委員、主任児童委員ら地域住民5人も協力し、毎日1人が特に児童が多くなる午後3時から同5時に見守りに加わる。運営に必要な経費は各世帯が出し合い、当番に入った保護者、地域住民に一定の謝礼を支払う。」(引用ここまで)

 報道で得られる情報を整理すると次のようになります。
・昨年度までは、市の委託で児童クラブが運営されていた。
・支援員不足でクラブは廃止となった。
・保護者が地域の支援を受け自ら児童クラブ運営を行うことにした。
・運営に必要な経費は利用する世帯が出し合っている。

 まずは、児童クラブが必要であるとして運営に携わっている世帯の保護者さんに、心からの励ましを送ります。この運営支援に資金的な余裕があれば寄付をして応援したいです。大変なことは多いでしょうが、居場所を必要とする子ども達のためにも知恵を出し合って乗り切ってください。頑張ってください。

<現実を客観視するならば、悲劇にほかならない>
 記事で得られる情報の限りでは、まずこの児童クラブは小規模施設となるのでしょう。引用していませんが全校児童は10人となっています。この全員がクラブを利用しているかどうかは記載がありませんが、そう思える書きぶりとなっています。放課後児童クラブでも児童数19人以下となると補助金の額が大幅に減ります。支援員不足、つまり働いてくれる人が見つからなかったので事業の継続が困難になって廃止されたと想像できます。なお、インターネット検索をしましたが2023年度までの受託事業者については判別できませんでした。

 登録児童数が少ない、小さな児童クラブであって、職員が確保できなかったために廃止された。このことは、極めて深刻な事態です。これは、放課後児童クラブの制度がぜい弱なことを象徴していると私は考えます。保育所は、保育が必要な子育て世帯がある限り、市区町村は保育を提供しなければなりません。つまり保育所の設置が義務となります。ところがご存じのように、放課後児童クラブとは「放課後児童健全育成事業」です。「事業」であって、必要に応じて市区町村が実施「できる」仕組みに過ぎません。児童クラブを必要としている子どもが数人程度であれば、この事例のように「廃止」されてしまうこともまったく問題ないのです。制度上は。しかし、数人であっても、児童クラブを必要とする子ども、そしてその保護者にとっては死活問題です。働きながら子育てをするという他地域では当たり前に実現できることが、現実的にできなくなる可能性を突き付けられるわけですから、これは大問題です。
 このことについて、福島市はどう考えたのでしょうか。「職員が確保できない以上、無理だから廃止やむなし」と単純に考えてしまったのでしょうか。また、この児童クラブはいわゆる連絡協議会のような団体に加わっていたようですが、業界団体はどのように考え、対応したのでしょうか。それらに関しての情報はインターネット検索ではまったく知る由がありません。

 私は、児童クラブの運営を民営化することについて反対していませんし、むしろ賛成の立場です。公営の、あまりの融通の利かなさや、投下する予算の少なさに起因する利便性の低さがひどすぎて、民営化して予算を増やして使い勝手が良くなる児童クラブが増えることの方が社会全体にとって利益があると考えているからです。
 しかしそれは公営クラブの存在を否定してはいません。児童クラブを民営化すると、この福島市の事例のようなことが起こりうることは容易に想像できるからですし、現実としてこうして存在したわけです。つまり、民営事業者が運営の困難を理由に撤退する、ということです。それは直ちに子ども、保護者を生活の困難の瀬戸際に追い込みます。
 今回の運営事業者が営利企業なのか、あるいは非営利の法人であるのか分かりませんが、非営利の法人であっても事業継続に困難な状況が起これば「民」である以上、撤退や廃止は当然の選択肢となります。ですが、放課後児童健全育成事業は児童福祉サービスです。国民が受ける権利を持っているものと私は考えています。であれば、民間事業者の都合をもって放課後児童健全育成のサービスを受けられないのは、私は不公平だと考えます。ここに、福祉分野における公営事業の存在意義があるのではないでしょうか。

 どういう事情で保護者の自助による運営を選択したのか報道だけではうかがい知ることができません。きっと関係者が丁寧に相談、協議を重ねて、今の方法を編み出したことでしょう。そのことに私は敬意を表します。批判をするつもりは毛頭ありません。しかし、福島市には言いたい。「どうして公営、直営で、児童福祉の責任を果たそうとしなかったのですか」と。

<メディアも、業界も、いい加減にしてほしい>
 この事例を伝えた報道機関にも私は落胆しています。旧ツイッターにも投稿しましたが、「苦境に陥ったとき、みんなで力を合わせて乗り切る」という構図は、メディア、とりわけ「社会部系」の報道の切り口としては大定番です。「社会部」というのは、世間一般で起きた事件や事故、話題、問題を取り上げて取材し、報道する部門を指します。私もかつて新聞記者で社会部にも身を置いていましたので、「児童クラブが無くなってしまったが、困難を乗り越えて保護者が頑張ってクラブを続けているって?よし、それでいこう」という記事になることは容易に想像ができます。美談、になるからです。共感や同情を呼び起こす記事ですね。

 しかしこれは、美談でもなんでもありません。住民が受けられるはずの児童福祉サービスが受けられなくなって、やむなく保護者が自分たちで「労力も、資金も」出し合って自分たちでサービスを提供する仕組みを構築して維持し、自分たちの子どもがそのサービスを受ける仕組みを、美談だけで捉えてはなりません。これこそ、日本的な「お涙頂戴」で、まったく合理的ではありません。

 放課後児童健全育成は行政が提供する基本的な福祉サービスである→そのサービスの提供が民間事業者では困難になった→次の民間事業者が見つかるまで行政がそのサービスを行う。行政は民間事業者を責任を持って探す。

 どうしてこうならなかったのか。「いやいや、自助でやれるからいいじゃないか。そもそも児童クラブはそうやって誕生したわけですよ」という理由だとしたらそれは行政の責任の放棄だと私は考えます。今の形態では有資格者の配置など種々の条件をなかなか満たさないでしょうから国からの補助金交付の要件を満たしていない可能性があるでしょうか。すると費用は行政から何かしらの別の援助は出ているのでしょうか。もしそれすら行われていないのであれば、いくら小規模、10人未満の子どもが利用する状況であったとしても、行政の責任の放置は厳しく批判を受けるべきです。

そしてその批判を行うのはメディアですし、業界のまとまりです。福島の児童クラブの団体はこの件で抗議なり批判を求めて行動していればいいのですが、どうなのでしょうか。もしや「保護者が自分たちで児童クラブを続けることは、子どもにとってよりよい児童クラブとなることだから、良いことだ。大変だけど頑張って」という立場にしかすぎない、ということではないでしょうね。そうだとしたら、児童福祉行政の後退を応援していることに等しいと私は考えます。はなはだ遺憾です。

 メディアが「これは制度上の欠陥なのではなかろうか」と気づかないことは、残念ですがありえます。メディアははっきりいって、特定な事象に関心のある記者、取材者がいない分野においてはまったくといっていいほど無知です。児童クラブに関してはまさに、制度も沿革も現状も、世間一般の市井の人々と変わりない程度です。であれば、「いやいや、この件は、こういうことが問題なのですよ」とメディアに知らせて理解を求めることは、業界団体だったり業界のまとまり、業界から発信される広報にその役割が期待されるものです。しかし業界の側が「保護者が自助でクラブを営むなんて、とても素晴らしい」という偏った視野しかもっていないのであれば、それはメディアをミスリードし、結局、行政や政治をも勘違い、ミスリードするのです。

 いま、社会が福島の小さなこのクラブに出来ることは2つ。1つは、資金の援助。もう1つは、早急に運営事業者を見つけることを行政に求め、実行させること。そうして保護者の運営に係る負担を軽減し、子どもにとって質の高い放課後児童健全育成事業が提供できる環境を整えることです。もちろん保護者が運営に自主的に加わりたいというのであればそれはそれでいいのですが、「運営に関わる以上、責任は負う」ということへの理解も必要となることは言うまでもありません。

 美談で済ませてはならないことを美談で済ませてしまう。この日本社会の構図は、往々にして残念な状況を固定化させます。児童クラブに関係する者が「いや、それはどうなんでしょう?」と疑問の声を挙げねばなりません。運営支援は、児童クラブの健全な発達を応援する立場で引き続き意見を発信していきます。

<おわりに:PR>
 弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、アマゾンや楽天ブックスが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください!事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 現在、放課後児童クラブを舞台にした小説を執筆中です。とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説になりそうです。放課後児童クラブを舞台にした小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。出版にご興味、ご関心ある方はぜひ弊会までご連絡ください。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ぜひご連絡、お待ちしております。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)