放課後児童クラブの資格制度はとても貧弱。強化と充実が必要です。民間の独自資格は本資格の意義を弱めかねない。

 放課後児童クラブ(学童保育)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)には、放課後児童支援員という公的資格があります。この資格は歴史が浅く、ひよっこの資格ゆえ、強化が必要なことは私もずっと訴えています。ところで、気になるニュースを見かけました。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<気になるニュース>
 2025年1月25日16時8分に、読売新聞オンラインが配信した、「26日に初の保育園長検定、管理業務の知識問う…考案した元保育士「保育士や園児ら守りたい」」という記事です。一部、内容を引用します。
「保育園の園長や経営者らの能力向上を目的とした「保育施設運営管理士検定(園長検定)」が26日、初めて実施される。」
「労働基準法の規定やコンプライアンス、コミュニケーション、リーダーシップなど、幅広い分野から園の管理業務につながる内容を出題する。」
(引用ここまで)

 記事によると、この検定は川崎市を本拠地とする一般社団法人が行っているようです。同法人のホームページには、すでに東京新聞でもこの検定が報じられたこと、第2回の検定が告知されていることが分かります。読売新聞オンラインの記事では、同法人の代表理事は元保育士で、この検定に合格した園長のいる保育園は専門知識がある保育園だと一般に周知でき、それが安心につながるという趣旨のことを述べておられます。

 私の感想は大変複雑ですが、大前提として、自由主義社会ですから誰がどのようなビジネスを展開しようが非違行為でなければまったく問題ありません。そもそも私も、放課後児童クラブの運営を支援しようと独自にビジネスを立ち上げました。読売新聞オンラインが報じたこの検定についてとやかく言いません。その検定を受けられた方がぜひ、自分の勤務場所で子どもや職員、保護者の権利やニーズをしっかり守るためにご尽力いただければ素晴らしいことと期待します。

 その上でさらに申し上げますが、すでに数多く存在している、国家・公的資格に対して派生する資格や検定の仕組みに関して私が思わざるを得ないのは、こうした民間検定は本来の資格に対する批判が生じていることで生まれてくるものだろう、ということです。そして、本来の資格への不平不満を訴える人=本来の資格に不満を感じている人に対して、その本来の資格とは別に深い専門性の知見の有無を証明する検定で資格への不満を吸収する仕組みを提示することで、資格に不満を持つ人々(得てしてそういう人は、素朴でまじめでもっと業務に深く専門性を備えたいという保育の仕事に献身的な方々が多いのでしょう。資格の数だけを誇る自慢家さんもいるかもしれませんが)の意識を上手に利用しつつ、検定資格という「目に見えない信頼」の販売によって、効率的に売り上げを確保できるうまみのあるビジネスが展開できるのは、誰の目に見ても明らかだということです。うまみのあるビジネスというのは、費用対効果に優れていること。主催者(講師)が用意した資料で話して、目に見えない信頼である資格を売るのですから、低コストで高リターンですね。その、目に見えない信頼が人気が出れば、の話です。
 そしてその人気は主にマスメディアで形成されていきます。

<放課後児童クラブの資格>
 保育所には保育士の配置が義務付けられています。保育所に保育士がいるように、放課後児童クラブにも「放課後児童支援員」という公的資格を持つ人がいます。ただ、この両者には「越えられない壁」があります。
保育士は。国家資格ですが、放課後児童支援員は、都道府県知事の認定による資格です。
保育所には必ず保育士が必ず勤務していることが必要。一方、児童クラブでは、放課後児童支援員の配置が義務ではありません(2015~2019年は最低1人の配置が義務でした。それ以降は市区町村の判断によります)。
保育士の資格を得るには、指定養成校で「しっかりと」学んで卒業するか、国家試験を受けることが必要です。放課後児童支援員は、前提条件をクリアさえすれば、あとは講義を受講するだけで入手できる資格です。

 そもそも、保育所は、保育を必要とする住民が存在する限り市区町村が設置しなければならない「児童福祉施設」ですが、児童クラブは、実施するもしないも含めて市区町村の任意に任されている「放課後児童健全育成事業」であり、施設ではなく事業。法定の任意事業に過ぎません。

 任意事業に過ぎないゆえ、資格制度も保育士と比べると実に貧弱。貧弱というのは、手に入れることが容易であるということ。資格の取得難易度と称されるものは、つまり担当する業務に関してどれだけの専門性を有しているかという尺度にもなります。独占業務がある弁護士や公認会計士、医師免許あたりが日本における最難関の国家公的資格でしょうか。よほどの方でないと資格を得られないのは、それだけ重要で専門性の高い業務を担うからです。この難易度は社会的な評価を形成することに大いに役立ち、それは最終的に報酬の多寡を判断する判定基準にも大いに影響します。

 放課後児童支援員はどうでしょう。前提条件さえクリアすれば、あとは講義に出席さえしていれば入手できます。資格の難易度はゼロに近いでしょう。(講義に出席する時間がもったいない。もっと受講免除科目を増やしてほしいという声がいまだにあるようです。これは言わせてください。ひょっこの資格とはいえこれ以上、この資格をバカにするものいい加減しなさい)
 残念なのは、児童クラブの仕事とは、この資格の難易度とまったく関連していない、むしろ正反対であるという事実が世の中に理解されていないことです。小学生をただ見張っているだけの仕事の資格と思われているとしたら大変残念ですし、そう思われているのでしょう。小学生の健全な成長を支える仕事は、その文字面から想像できないとても難しい仕事です。乱暴に説明すれば、こういうことです。「大人の言うこと、お願い、指示などを、いつも素直に聞くわけがない子どもたちが、健やかに育つためにあれこれと気を配り、子どもたちが試行錯誤しながら育っていく時間を共に過ごすなんて、どれだけ大変だっていうことなんだよ。大人の話を全く聞かない子どもたちと10分でもいい、一緒に過ごしてみろよ!それで、見守っている簡単な仕事でお給料もらえていいですね、なんてどの口が言えるかよ!」ということです。

 入手が簡単な資格ですから、前提条件(それは2年間、児童クラブの現場で相当な勤務時間を費やした人も得られる条件)をクリアすればだれでも手に入れられるので、残念ながら、支援員の資質を備えていない人も簡単に入手してしまいます。資格を得ても、難しい試験勉強をしたわけでもないので資格へのありがたみが無い(せいぜい、キャリアアップ補助金の対象となるぐらい)ですし、一度入手したらそれっきり、知識のアップデートもない資格なので、まったく研鑽を積まない人たちだらけです。
 そんなわけで、資格の専門性の低さゆえ、有資格者といえども放課後児童クラブ運営指針が示している崇高かつ合理的な業務の内容を体現できる人ばかりではないのです。このことが、放課後児童クラブの資格制度や、実際の運営に不満を持つ人、歯ぎしりをする人を増やし、「本来の資格があまりにも頼りない。資格を得ても資格の名に恥じないような働きができていない。資格への信頼性が無い。だったら、本当に意味のある資格を、作ろうじゃないか!」という考えを持つ人が現れても、不思議ではありませんね。先の園長検定は、こういう下地があって誕生したのかもしれませんね。
 放課後児童クラブの世界でも、インターネットを検索すると、放課後児童支援員という公的資格を補完する民間の独自資格が存在しています。中には、放課後児童支援員という資格ができる前から独自の資格を付与していた歴史もあるようです。

 なお、実は私にも、とある方から、園長検定ではないですが放課後児童支援員の資格を補完する民間資格の創設について協業のオファーがありました。民間資格の狙いは、放課後児童クラブの信頼性向上のため、ということでした。そこで骨格となる資格制度の設計をお願いできないかという依頼でした。

<王道はもちろん、資格そのものの強化拡充>
 私は依頼について、放課後児童支援員の資格を充実させることが児童クラブ運営の信頼性向上になること、民間のサブ資格、検定資格については本来の資格を相対的に弱体化させる恐れがあるとしてお断りしました。民間のサブ資格や検定資格は、本来の資格がその専門性が浅い、あるいは専門性がそれなりにあっても資格保有者が本来の資格が備える専門性を発揮していないことへの不満から、ニーズが生まれるものでしょう。(そのニーズを利用したビジネスの仕掛け人もまた、いることでしょう)。
 つまり本来の資格への不平不満や物足りなさが生むものであって、民間のサブ資格、検定資格が幅を利かせるということはそれだけ本来の資格がますますダメな資格だよ、と示しているものです。本来の資格がどんどん弱体化していくのです。

 私は「知られざる<学童保育>の世界」でもページを割いて強く主張していますが、放課後児童支援員の資格の抜本的な改善が必要だと訴え続けています。理想としては、国家資格たる「児童育成支援士」を創設して基幹となる児童クラブに配置すること(児童館の館長先生みたいでしょうか)、もちろん試験で取得させるものです。勉強時間は750~1,000時間が欲しいですね。宅地建物取引士は600時間と言われていますので、それよりやや難しい時間、じっくりと学ぶ必要がある専門性を備えてほしいのです。
 現在の放課後児童支援員は、全クラブに配置が必須の資格とします。基幹的なクラブではない児童クラブはこの資格者が責任者となります。国家資格が創設されれば、この放課後児童支援員は現行の都道府県知事認定資格でいいでしょう。本来は試験が必要(試験時間は500時間以内)でしょうが、現行のように試験をせずに交付する資格を続けるとしたならば、5年程度の間隔で再度受講して更新することが必要でしょう。(ほら、こども家庭庁さん、こうすれば、この認定研修の需要は減りませんよ。つまり予算を確保し続けられる考えですよ。こ家庁さんお好みの企業や団体に引き続きこの仕事を渡せますよ。ケアマネジャーのようにすればいいのですよ、と悪魔のようにささやきます)。ただ、指定養成校での資格付与は早急に必要です。

 子育て支援員の精度も、もっと活用しましょう。補助員の推奨資格として、この資格を有している人は無条件にキャリアアップ補助金の対象とすればいいでしょう。

 資格の取得を難しくすること、それはつまり、それだけ資格が範囲とする業務において専門性が必要であるということを資格取得に反映させることにほかなりません。それは事業そのものの評価につながります。「そんなに難しい資格が必要な仕事なのね!」という単純な理解です。誰しも税理士の仕事を見れば「そんな難しいことができるなんて、すごい資格だ」と思うでしょう。つまり、そういうことです。放課後児童クラブの仕事はとても難しい。その難しさを正確に世間に広めることは重要ですし、その活動を続けていかねばなりませんが、同時に、資格という業務の専門性の鏡を磨くことで、その業務がそれなりの難易度があることを世間に知らしめることをが必要だと運営支援は考えます。
 資格の上に資格を重ねることよりも、資格そのものを磨き、強化することが、私は王道だと考えます。

 放課後児童支援員の資格の強化拡充を国に訴えること。それには国会議員や政党の理解を得ることが必要です。これは同時に放課後児童クラブの任意事業を児童福祉施設への格上げをも求めるものでしょう。それでも安心やプラスアルファの評価がほしい方は自由意志によって民間検定を利用すればいいことですね。しかし、独占業務ではない業務を対象とした国家資格に中小企業診断士がありますが、中小企業診断士に民間のサブ資格ってありましたでしょうか。ないでしょうね。「十分、その資格が専門性を備えている」という評価が一般にあれば、民間のサブ資格が成長する素地はあまりないのではなかろうか。ということは、資格が専門性を十分に反映していない、あるいはそもそも十分専門性があるとみなされていない、または専門性があるのに資格者が業務において専門性を発揮していない(それは資格者が、残念ながら資格を生かして従事していない)資格にこそ、民間のビジネスが育つ余地があるということなのだろうと私は考えています。
 もっと研修を行い、もっと業務への客観的な評価を行い、それに報酬が連動するようにすれば、ちょっとは資格の名に恥じない業務を行う資格者が増えるのではないでしょうか。それが当たり前になれば、本来の資格だけで充分、専門性を担保できるでしょうから民間のサブ資格、検定資格が育つ余地もまた、減っていくでしょうね。私にはそう思えます。

(余談。全く関係のない資格詐欺のお話です。私の新聞記者時代の、極めて些少な手柄として、製造物責任法を利用した資格詐欺ビジネス摘発があります。製造物責任法による商品の判定を行う民間資格を販売して荒稼ぎしていた詐欺グループを静岡県警が摘発しましたが、私がその詐欺グループの活動に最初に気づいて、活動の実態をあぶりだして調査を続け、首謀者や被害者リストなど資料一式をそろえて捜査機関に提出して摘発に至ったものです。1人の記者の仕事としては自画自賛となりますが、なかなか上出来でした。ただ命の危険にさらされたこともありました。その時の気概、「やるならやってみ、ただじゃ死なないぜ」はすでにあらかた消えていますが、ちょっとはまだ心の奥底にくすぶっているようです。しかしその時、捜査幹部に言われたのが「ああいう新手の詐欺はたいてい岐阜か名古屋から生まれるんだよ、なぜか」という言葉。不思議です)

<おわりに:PR>
 弊会は、次の点を大事に日々の活動に取り組んでいます。
(1)放課後児童クラブで働く職員、従事者の雇用労働条件の改善。「学童で働いた、安心して家庭をもうけて子どもも育てられる」を実現することです。
(2)子どもが児童クラブでその最善の利益を保障されて過ごすこと。そのためにこそ、質の高い人材が児童クラブで働くことが必要で、それには雇用労働条件が改善されることが不可欠です。
(3)保護者が安心して子育てと仕事や介護、育児、看護などができるために便利な放課後児童クラブを増やすこと。保護者が時々、リラックスして休息するために子どもを児童クラブに行かせてもいいのです。保護者の健康で安定した生活を支える児童クラブが増えてほしいと願います。
(4)地域社会の発展に尽くす放課後児童クラブを実現すること。市区町村にとって、人口の安定や地域社会の維持のために必要な子育て支援。その中核的な存在として児童クラブを活用することを提言しています。
(5)豊かな社会、国力の安定のために必要な児童クラブが増えることを目指します。人々が安心して過ごせる社会インフラとしての放課後児童クラブが充実すれば、社会が安定します。経済や文化的な活動も安心して子育て世帯が取り組めます。それは社会の安定となり、ひいては国家の安定、国力の増進にもつながるでしょう。
 放課後児童クラブ(学童保育所)の運営支援は、こどもまんなか社会に欠かせない児童クラブを応援しています。

 弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。

 放課後児童クラブを舞台にした小説を完成させました。いまのところ、「がくどう、序」とタイトルを付けています。これは、埼玉県内の、とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子を丹念に描いた作品ではありません。大人も放課後児童クラブで育っていくことをテーマにしていて、さらに児童クラブの運営の実態を描くテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ご期待ください。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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