放課後児童クラブの登録率速報と、こども家庭庁の2025(令和7年)度予算をめぐる話題について

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。こども家庭庁の評判がよろしくないですね。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)が安泰になるもならないも、こども家庭庁のさじ加減1つで決まりますから、ぜひと応援したいところですが。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<今年度(令和6年度)放課後児童クラブは小学生の4人に1人が利用!>
 放課後行財政学を提唱している雑木林琢磨氏(@zokibayashi1969)が8月28日に、学校基本調査から抽出した、公立の小学校等児童数のデータを旧ツイッター(X)に投稿しました。たいへんありがたいデータです。それと同時に、こども家庭庁が公表している、令和6年度の放課後児童クラブの登録数速報値(5月1日時点)とあわせて、児童クラブの登録率の数値を算出してくれました。雑木林氏の旧ツイッターの投稿を引用します。
速報値ベースでの登録利用率⇒ 25.78%
放課後児童健全育成事業 登録児童数 1,515,205人
公立の小学校等児童数 5,876,735人

 つまり、全国の公立小学校(義務教育学校を含む)の小学生の25パーセント強が、放課後児童クラブに登録しているということです。小学生の4人に1人が、児童クラブを利用しているということになります。これはもう、児童クラブが必要十分すぎる社会インフラであるといえますね。

 ちなみに前年度(令和5年度)は、小学生の人数が、5,969,628人に対し児童クラブの登録数が1,457,384人でしたので、登録率は24.41%でした。雑木林氏が算定した今年度の速報値と比較すると、1.37ポイント増加しています。小学生の人数を150万人とすると、20,550人という値になりますが、ざっと約2万人、児童クラブを利用する小学生が増えているのですね。小学生は1年間で約93,000人減ったのですが、児童クラブを利用する小学生は2万人ほど増えている。少子化傾向はずっと続いていますが、児童クラブを利用する人数もまたずっと増えている。この傾向は、物価上昇に賃金の上昇(所得の増加)が追い付かない現状である限り、ずっと変わらないでしょうし、時代が進むにつれ、子どもに対する安全確保の意識が高まっているのは確かですから、安全安心な居場所である児童クラブを利用したいという保護者の意識は今後、さらに強まっていくでしょう。児童クラブは少子化だからといって整備の速度を緩めていい、ということにはまったくならないと私は断言します。

<こども家庭庁には期待したいのですよ>
 さて、放課後児童クラブを所管する、こども家庭庁の評判がSNSではまったく芳しくありません。先日、2025(令和7)年度の予算概算要求に関する報道があり、それに対して旧ツイッターでは、「予算6兆円もつかって何もしていない子ども家庭庁なんて解体だよ」という趣旨の実に短絡的な書き込みで埋め尽くされました。
 まあしょせんSNS、ネットの意見なんて単なる落書きだ、とみなしてしまえばそれまでですが、SNSは、その書き込み内容が攻撃的になりがちであるとしても、書き込みをする人の基本的なこども家庭庁に対する捉え方がマイナス評価であるがゆえに、先鋭的というか乱暴な書き込み内容になるのでしょう。それは私の印象では、「現実的に、それが必要だよ!という施策を打ち出していない」ということと、「そんな施策が必要なの?と疑問を持たれる施策が目立つ」ということに起因するというものです。例えば、児童クラブの職員の処遇改善に決定的な施策を打ち出していないとか、こども誰でも通園制度を推進する姿勢とか、マッチングアプリの利用促進に予算を投じるなどで、多くの人が「それじゃない!」という印象を持ってしまうのでしょう。ちなみにマッチングアプリについては毎日新聞がインターネットに8月26日19時27分に配信した記事に「4組に1組がマッチングアプリで知り合って結婚した――。こども家庭庁が26日に公表したウェブ調査でこんな結果が明らかになった。同庁は若い世代の結婚や出会いを支援するため、具体的な施策について予算要求を本格化させたい考えだ。」とあります。こういう、「ちょっと異色の施策」を報じる記事に、イライラをためてしまいがちな人たちが反応するという構図です。確かに私自信も、マッチングアプリの適正利用に関するルールは必要なのだろうと思いますが、それを子ども家庭庁がやる?とは素朴に思います。こうした「それじゃない感」の積み重ねを、こども家庭庁は早急に解消する必要は、やはりあるでしょう。政府に対する不信感は、それが根拠の無いものであるなら、早急にかつしっかりと改称する努力は必要です。

 とはいえ、これも旧ツイッターにあった投稿で、「こども家庭庁の予算内容を調べずに批判する風潮はくだらない」という趣旨のものがありました。これもまた私は「それじゃない感」を抱きました。だいたい、SNSを利用する多くの人が、いちいちこども家庭庁の予算が何に使われているかを調べるはずはありません。私のように、こども家庭庁の施策のごく一部であれそれに関わって意見を発信しているような立場であればまた別ですが、ごく普通の市井の方々はそんなことはしません。ネット上のいわゆるインフルエンサーにしても、単に社会的影響力を発揮したい程度の浅い考えしか実は持っていない方々も同じようなものでしょう。やはり、仕方ないのですが、これは国や行政の側が丁寧に情報発信をし、広報をし、説明することがまず最初に必要なことです。ここはこども家庭庁にぜひ、期待したいところです。

 今回の令和7年度予算の概算要求の内訳ですが、これは報道をよく読むと、こども家庭庁が概算要求の中身を報道発表したのではなく、自民党の会合で概算要求の中身を説明したものにすぎません。これはメディアが誤解を招きやすい表現ですね。省庁としての公式発表ではないですから、放課後児童クラブにどれだけの予算が充てられているのか知りたくても資料が見つかりません。ちなみに令和6年度の放課後児童クラブ関係予算は1,398億円となっており、そのうち、クラブ運営に充ててよい運営費に関する予算は1,223億円です。さて、どれだけ増やしていただけるのでしょうか。

<今からでも遅くない。議員諸氏は次の事を子ども家庭庁に要望してほしい>
 いまもなお放課後児童クラブの待機児童、小1の壁が解消しないどころか、待機児童の人数が毎年増えています。先に紹介したように児童クラブを利用する小学生は増えているのです。割合で増えているのではなく、実数で増えているのです。小学生が急激に減っているにも関わらずですよ。小4の壁も深刻です。小学4年生になったら家で留守番させても大丈夫、ではないのです。保護者が不安を抱きながら仕事に努めるということを強いるのですか?小4の壁は、都市部を中心に小学3年生まで受け入れてその先は入所を認めないというクラブが多いことがその発生要因の1つですが、この状態は「小学4年にもなれば、留守番できるでしょ。児童クラブは低学年を預かる場所だから」という、およそ放課後児童健全育成事業とはかけ離れた理解がこの社会、自治体に根強く浸透しているから生じるものだと私は考えます。

 放課後児童健全育成事業は(留守家庭の児童に対する、という限定があるものの)児童の健全育成であり、それは小学4年生より上の高学年には不要、というものではありません。小学生児童にはもれなく必要なものです。小4の壁は、正しい放課後児童健全育成事業実施のためにも早急に解消されねばなりません。それには、放課後児童クラブの予算を増やし施設数を増やすこと、増えた施設で働く児童クラブの職員を確保できるだけの運営費を増やすことが欠かせません。

 よって、ぜひとも令和7年度(そしてそれ以降も)の放課後児童クラブに充てる予算は、次元の異なる増額を求めたい。「施設の整備」と「運営費の増額」のため、現状の3倍は必要です。1,400億円ですから3倍は4,200億円でしょうか。それは多すぎますか?そんなことはないでしょう。小学生の4人に1人が利用する施設に投じる国の予算としてはまだまだ少ないほどです。まして小学1年生に限れば5割近くの児童が利用するのですよ。運営費を大幅に増額し、職員の給与水準の引き上げに役立てる。そうすれば雇用を望む人が必ず増えます。児童クラブがなぜブラック職場なのかは、給料が安いだけではなく職員数が少ないので1人あたりの業務量が多すぎるからです。それなりに改善した雇用労働条件でそれなりに社会人資質を備えた求人応募者が増えれば職員数を増やすことができ、職員の業務上の負担も軽減できます。今はその逆の負のスパイラルが生じています。それを逆回転に、正のスパイラルにすることこそ必要です。

 緊急に必要なのは酷暑対策。エアコンなどの整備はもちろん、空調が効かない老朽化した施設の建て替えが必要です。また、地域にある集会場や体育館など空調が効いている施設を児童クラブが優先的に利用できるような制度の構築も必要です。制度を作るにはカネが必要ですものね。
 今年度、急激に進んでいる昼食提供にも補助が必要です。現状は宅配弁当業者の利用による昼食提供であり、それは急場しのぎとしては効果的でしょうが、ゆくゆくは、教育センターや自家調理による提供が望ましい。そのために必要な予算を確保したもらいたい。また、弁当にしても1食400円、500円では、とても頼めない家庭が続出します。手取り20万円未満の児童クラブ職員だってそんな高額な弁当はおいそれと頼めません。1食200円分程度にして差額分を国が補助し、世帯所得が一定の水準以下の世帯には補助金を充てて徴収を免除するという福祉的な施策が必要です。児童クラブを利用する世帯の所得水準は確実に下がっているのですから(減免利用世帯が年々増加している、というデータが示しています)

 施設数を短期間で増やすには今までのやり方ではダメですね。もっと民間の活力を導入することです。今は民間がゼロから施設を設置して児童クラブを開所するための補助金はありません。設置促進の補助金は既存施設の改修に充てられる補助金であり1,300万円です。これを、民間組織が施設を新たに設置する際にも交付できる補助金とするべきです。交付額も拡充が必要です。この場合の問題は、児童クラブとして使用する期間の問題です。短期間で児童数が減少して児童クラブとして使えなくなった場合、補助金はどうなるのかということですが、引き続き児童福祉関係の目的で利用することを条件にすればよいでしょう。もちろん数年後に商業施設や集合住宅に改修してしまったという明らかな目的外利用が確認された場合は事業者から交付額同等の現金を返還させることを義務づければいいのです。

 これらのことは、単に国の予算を増やしただけでは意味がありません。補助金の総額の3分の1を市区町村が負担するとなった場合、市区町村の多くは財政状況が厳しいですから、せっかく国が大盤振る舞いをしても、市区町村はついていけません。ですので、市区町村と都道府県の補助金の負担割合を期間限定でもいいので軽減する措置が必要です。さらに保護者が運営の半分を負担することを求めている国の方針も変更が必要でしょう。
例えば、保護者1/2:国1/6:都道府県1/6:市町村1/6となっている現状を、保護者1/8:国1/2:都道府県1.5/8:市区町村1.5/8程度にするべきでしょう。こうすれば保護者の経済的負担が減って児童クラブを利用したくてもおやつ代の負担など実費負担分が支払えないので児童クラブを利用できない世帯も安心して利用できます。自治体も安心して児童クラブの予算を組めるでしょう。

 なお補助金の増額の際は、その増えた補助金が運営事業者の利益にそのまま流れ込まないような規制も同時に必要です。特別区にある民営クラブが年間で800万円の収支差額を得られる状況は、税金をそのまま企業の利益に使っているだけです。この点は厳しく国や自治体が規制するべきです。アウトソーシング事業において民間組織が全く儲けるなとはいいませんが、子どもと職員に必要十分な予算を使ってなお利益が上がるならそれは運営上の工夫として収益にすることを認める、という当たり前のことを正しく実施する体制を整えるだけの話です。

 こういう、具体的かつ実践的な施策を打ち出せば、こども家庭庁に対する厳しい見方、その多くが誤解や不勉強に基づく厳しい見方であるなら、確実に減っていくでしょう。むろん、児童クラブへの援助は、単に子育て支援の強化であって、厳密な意味での少子化対策ではないでしょう。それでも、こどもが安全安心して過ごせる国になることが、国として最低限当たり前に必要なことですから。私は今もその点、こども家庭庁に期待しています。

<おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!私の運営支援の活動資金にもなります!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)