放課後児童クラブの現場にあるたくさんの仕事を上手に分担しましょう。トイレ掃除、保護者対応は固定化しがちです。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の現場には、実に様々な仕事があります。中には、なかなか誰もが率先して取り組んでくれない仕事も。いかにして上手く分担してスムーズに割り振ることができるか、結構悩ましいのです。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<ストレスがけっこう溜まる>
 放課後児童クラブでの仕事は非常にたくさんあります。一般的には「子どもを見守っているだけ」と思われますが、何十人もの人間が同じ場所で過ごす以上、クラブの職員がやらなければならないことはたくさんあります。正規職員が必ずやらねばならない、子どもの支援、援助(いわゆる育成支援)や組織運営に関わる一連の作業(児童の育成支援記録作成や実践レポートの作成、おやつ代などいわゆる小口現金管理、勤怠管理など)以外にも、クラブで正規、非正規が一丸となって取り組む仕事もかなりあるのです。子どもと直接関わること以外には、どんな仕事があるのでしょうか。
・掃除。特にトイレ掃除(子ども達に手伝ってもらうクラブもあるでしょうが)。低学年男児が多いクラブは1日に数回の掃除が必要なことも。
・台所(調理場)仕事。使った食器の洗い物。おやつ調理があるならその作業。麦茶づくり
・洗濯。クラブで使った手ぬぐいなど
・整理整頓。片づけ
・消毒作業(特にコロナの時は大変でしたね)
・保護者対応(子どもの送迎でやって来る保護者へのあいさつと、情報伝達)
・遊具チェック
・保護者が参加する会議に関する資料づくり(基本的に正規・常勤職員の任務)

 もっといろいろあるでしょうが、これらの中で正規、非正規(主にパート職員)に関係なく大きな比重を占めるのは掃除、台所仕事、保護者対応でしょうか。これらの仕事のうち、例えば掃除はパートの仕事、と決めているクラブや事業者もあるかもしれませんね。

 これら種々の仕事は、その時々の状況で仕事量が変化します。子どもの人数が多いクラブは台所仕事の分量が多いでしょうし、1学期がまだ始まったばかりの雨の日は登所人数も多いうえにまだ新1年生の保護者とはあまり顔なじみではないので保護者対応には気を遣うでしょう。また、人によって得手不得手があるので、「私は洗い物が得意だし好き。でも子どもと関わるのは実はあまり得意じゃない」という職員もいることでしょう。そのような職員は自然と台所につきっきりとなり、子ども達の間で何やらトラブルが起きそうな雰囲気になっても、そこに入って事態の流れをうまく調整するという仕事に率先して関わろうとはしません。その様子を見て正規職員は、台所から動かない職員に「ちょっと〇〇先生、あの子たちの様子を見ててくれませんか」と、いちいち声を掛けるために動かねばなりません。これがとにかくストレスのもと。「言われなくても動いてよ!」と内心イライラしつつ表向きは優しく「お願いしますね」と言うのですが、、これが毎日毎日繰り返されるとしたら、そりゃもう正規職員は嫌になります。
 あるいは、ひっきりなしに保護者達がお迎えに来る午後6時過ぎから、正規職員が何やら事務仕事を始めてしまったとかどこかと長電話を始めてしまったとかで、やむなくパート職員が保護者対応につきっきりになってしまうこともあるでしょう。いつしか保護者対応を行う職員が固定化されてしまい、保護者をあいさつをするのはいつも同じ職員、ということになってしまいます。保護者にしてはいつも同じ職員があいさつをしてくれるのですぐに顔なじみとなるのでしょうが、保護者対応をすることを固定化されてしまった職員にとっては、連日、何十人もの相手と気を使いながらコミュニケーションを取らねばならず、これはかなりのストレスをためます。

 年配の職員を雇用せざるを得ない中、男性のシニア層職員を雇う場合に手がかかることがあります。それは得てして、年配の男性職員は、とにかく掃除、洗い物をしない。むしろ「自分の仕事ではない」と当たり前に理解している方が目立つということ。率先してトイレ掃除などする方は珍しい方です。施設にちょっと壊れたところがあると「大工仕事なら任せておけ」とばかりに嬉々としてDIY仕事はやってくれます(時にはやりすぎてしまうこともあり?)が、ちょっとしたトイレ掃除になると「それ、私がやらなきゃいけないんですかね?」「家でもやってことがないんですよ、女房任せで」と意味不明な理由で断ってきたり、あからさまに渋い反応をするのが容易に想像でき、そこをまた説得してやってもらうまでに持っておく対応がまた面倒なので、「あの人に頼むとこっちが嫌な気分になる。だったら頼まないほうがいい」として、断りそうにない職員のところに話をもっていくことになります。そして断れない真面目な職員は、やむなく他の仕事の上にさらにトイレ掃除仕事まで背負い込むのです。

 私の感覚では、男子が多いクラブにありがちな手間がかかるトイレ掃除や年度初めの保護者対応は、現場職員の「無言の駆け引き」だったり、意図的に正規職員やベテラン職員が「あれ、あなたやっといて」との一言で、なかなか自分の意志を表に出せない控えめで真面目な職員に面倒くさい仕事が押し付けられがち、つまり仕事の固定化がみられるように感じます。そういう職員は実はとても貴重ですが、めんどくさい仕事をずっと固定化されたがたために「もう疲れたので辞めます」となってしまう。それは本当に惜しいことです。

<マネジメント、とはいうものの>
 どの仕事が「不人気」なのかそれはクラブ毎に違うでしょう。まだ新築したばかりのクラブでトイレも最新鋭だったり、比較的高学年が多いクラブでしたら汚される頻度もやや減るので掃除は楽でしょうから、あえて避ける人も減るでしょう。手作りおやつを出さないクラブは汚れる食器類も少ないでしょうから台所仕事はそれほど大変ではないでしょう。昔は温水が出ないので冬場の皿洗いは大変でしたが最近はお湯が出る水栓が多いので冬場の洗い物も楽になりましたしね。

 仕事の役割を決めて割り振ることは一般的に行われています。役割を固定化するか、あるいはその日、その期間において役割を決めるか。固定化の場合とは、トイレ掃除は〇〇先生の仕事です、と決めてしまうこと。その日や期間で決めるというのは、子どもが登所する前に当然ながら「今日一日の作業分担を確認する会議」を行うでしょうが、その際に本日の分担を決めることです。期間というのは「9月の〇〇先生はこれを主にやってください」と決めることです。この方式の難点は、本当はその仕事はあまり得意じゃない、好みじゃないのに会議の雰囲気や正規職員の半ば命令に近い依頼のために断れなかったパート職員が「ずっとこの仕事をやらされて本当に嫌だ」と思うことや、あくまで自分のやりたいことに固執するパート職員が多いクラブでは、「割り振りを決めるときにすんなりいかなかったときに正規職員が調整のため骨を折る」ことですね。

 こういったクラブ内での仕事の割り振りを含め、クラブの正規職員に対しては、「クラブにおける機能が円滑に発揮できるようする能力。統率力」が期待されます。パート、アルバイトや若手の正規職員を含め、種々の仕事を皆が率先して、あるいは割り振られた仕事とて全力で快く対応し、クラブの職員全体がおのおのの職分を立派に務める、そういう状況に持っていくことがクラブの正規職員、特に施設長や主任の役割である、ということです。マネジメントの能力が必要だ、とも言われます。

 それは理屈ではその通りでしょう。ただ、私が実感してきたのは、マネジメント能力というのは、そこに属する人間相互の関係において、「仕事の目標を達成することについてのみ共通の認識で利害が一致している」状況において最大限に発揮できるものであって、「仕事うんぬんより人間個人の好き嫌いや趣味、共通の関心事など、仕事以外における人間関係によってその関係の良好度が左右される」状況においては、マネジメント能力はさほど問われない、発揮もできないということです。あえていえば、地縁や血縁や友情、つまり「仲良しかどうか」が集団を構成する重要な要素となっているゲマインシャフト的な集団の児童クラブ職員集団においては、「より効率的な仕事を目指して個人が生産性向上に取り組めるような仕事の割り振りを行いました」という手法は通用しにくいということです。組織が機能性を重点として構成されているゲゼルシャフト的な職員集団であれば、リーダーのマネジメント能力は存分に発揮できるでしょう。

 あまりにも濃密な職員集団であることが多い児童クラブの現場では、リーダーの正規職員が差配できるところも限られるということです。

<職員集団の能力を高めることが必要>
 もちろん、「気配り上手」の正規職員がパート、アルバイト、あるいは他の正規職員も全部含めて、単に人間関係における「仲良し」だけではなく「子どもの成長のため、保護者の子育て支援のため」という事業内容に即した目標において力を合わせて一緒にやっていこう、という意気込みでまとめているクラブもあるでしょう。ただ、そうは多くも無いだろうなと感じます。だれかしら、文句を口に出せず、不満を訴えられずに、現場では笑顔を作って働いているのではないでしょうか(その分のストレスはSNSで発散されるのでしょう)。

 現場職員(これは本部の事務方の職員でも実は同じですが)を悩ませる、ちょっと大変な仕事の割り振り、担当決め。これを円滑に解決する方法があればぜひともどんどん発信していっていただきたいですね。もちろん、100のクラブがあれば100のクラブにおける世界があるのですからまったく同じ手法が通用することはないですが、大いに参考にはなるでしょう。私が取り入れたのは、労働契約において、最低限行わなければならない仕事を決め、そこに時給を反映させる仕組みです。ある種の「ジョブ型雇用」です。(額は例えばの例)トイレ掃除が仕事に含まれるなら時給3円上乗せとか、土曜日出勤を断らないなら5円上乗せ、実際に土曜日出勤を必ず行うなら10円上乗せなど、そもそもの契約の中にクラブで行う仕事の範囲を含めておく。もちろん、それを労働契約締結時には書面を用いて説明し、理解を得られたうえで契約します。その内容は現場クラブの正規職員にも伝えられ共有されます。よって、クラブの正規職員も遠慮なく「〇〇先生は今週、トイレ掃除担当でお願いしますね」と指示できるわけです。この方式の利点は、「クラブの職員から指示を受ける、指示をする」という関係が時によっては相互に気まずい雰囲気をもたらすことを運営本部によって契約時点において引き受けることができる仕事の範囲を決定してしまうのでクラブ職員にとってはすでに決まっていることの確認だけで済む、ということです。もし、トイレ掃除に不服があるならそれは運営本部を相手に再交渉するしかないので、クラブの正規職員には負担になりません。

 児童クラブにおける仕事はどんなことでも大切です。だから全力でどの職員にも取り組んでいただきたい。そういう意識を職員全体が共有するに至ること、そういう意識を作り上げることは事業者、経営者の仕事です。クラブの正規職員まかせにせず、事業者が取り組みましょう。またクラブの正規職員は、よりよい職員集団形成のために必要な考えはどんどん組織に対して提案していってください。

 <おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!私の運営支援の活動資金にもなります!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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