放課後児童クラブの現場から現金を無くすことを心がけよう。クラブに置くことを減らすための工夫は?ルールは?
放課後児童クラブ(学童保育)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所の中核的存在)の現場、つまり各クラブですが、現金はなるべく置かない、職員が持ち歩かないようにしましょう。ある程度、組織的な運営をしている事業者であれば相当程度、現金管理についてルール化されているでしょうが、零細規模、小規模の事業者は現場職員の裁量に任されていませんか?
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<児童クラブにありがちな現金>
放課後児童クラブは物品を売る場所ではないので、現金はほとんど無いのでは?と一般の方々に思われるかもしれませんが、多額ではないのはおおむね事実でも、現金は案外とクラブ内に置かれています。また、夜間は職員が携帯することがあります。
どういう理由で現金があるのでしょうか。主なものは次の通りです。
・利用料(保護者負担金)の集金分←小規模、零細規模ではまだまだ現場での直接集金がある。
・延長利用料の集金分←延長利用ごとの集金をする場合がある。
・おやつ代の集金分←保護者会や職員が集金する場合がある。
・児童クラブ職員が実店舗でおやつ、昼食の食材を購入する場合の現金。いわゆる「小口現金」として各クラブに支給されている場合があります。
・児童クラブ職員が食材以外の経費分として支払うために所持している現金←灯油代や子どもの緊急受診の際に使用するタクシー代や治療代立替分。イベント実施の際の交通費、あるいは「買い物体験」等の所外活動で支払う現金分。これも「小口現金」として支給されている場合があります。
・保護者会費。保護者の会計責任者が保管あるいは保護者会費の預金口座に預け入れるが、一時的にクラブの手提げ金庫等で保管する場合もある。また、保護者会が現金管理の手間や紛失時の責任回避を理由にクラブ内で職員管理としている場合もある。
・(日常的かつ一時的ですが)出勤してきた職員の所持する現金。
現金の保管は、「クラブ内。手提げ金庫など」か、「正規職員や管理職の職員が所持。保護者会の金品なら保護者会の役員が所持」に大別できるでしょう。さすがに引き出しに現金を入れっぱなしというのは、今の時代、もうほぼ無くなっていると信じたいところです。もちろんですが、どんな理由でも、クラブ内に現金が存在する状態は避けましょう。1円たりとも夜間や閉所日にクラブ内に現金が無い、という状況を実現しましょう。
<クラブ内に現金があると困ること>
児童クラブに保管してあるはずの現金が無い。こうなると、疑われる人が出てきてしまいますね。疑われることは嫌なものです。そういう事態を極力起こしたくないものですし、あまり意識されませが、「疑う側」も嫌なのですよ。雇っている職員を疑う、仲間を疑うということも、疑われるのと同じ程度に、つらいものです。さて現金があると困ることは次の通りです。
・窃盗被害の危険性。児童クラブにおける窃盗、空き巣被害は、私も経験していますが、さほど多くはありませんでした。私が児童クラブ運営事業者で経営に携わっていた期間(2011年度~2022年度)でも3件程度です。窃盗、空き巣被害はよほどのことがないと事件報道されませんし、統計があるわけではないので実際の被害件数は不明ですが、それほど狙われやすいとは思えません。理由としては、「児童クラブに大金(数百万円以上)はない、ということは悪い人たちの間で周知の事実」だからでしょうか。商店を狙うとか、立派な造りの民家を狙うよりも、小学校内に開設されているクラブならともかく、独立して建てられて経年劣化もはなはだしいプレハブ造りの児童クラブに、リスクを冒して侵入窃盗しようと思う輩はあまりいないのではないでしょうか。とはいえ、現実に私も児童クラブの侵入盗の被害に直面したことがありますから児童クラブが泥棒に遭う可能性は確実にゼロではありません。
また最近では小1の壁対策で新築されているクラブ施設も増えています。それらは得てして立派な施設です。もっとも最近に建てられる施設は防犯カメラが設置されているでしょうから、古い児童クラブよりも防犯対策は充実しているでしょうね。
侵入盗で困ることは、金目のものが無い場合のはらいせ、又は賊が個人情報を売ろうとして児童や職員の個人情報が記載された書類が盗まれる可能性があることです。個人情報も売れる時代です。個人情報を納めたパソコンも同じです。当然ながら鍵付きのキャビネットやロッカー、金庫に保管しているでしょうが、これは職員が毎日持って帰ることはできませんし、してはいけませんので、事業者がしっかりと予算をかけて、頑丈で壊されにくいセキュリティを整備するべきです。ワンロックよりツーロック。防犯カメラ、アラーム、人感センサーによる照明や警報音。夜中に無人のはずの児童クラブで照明がついたり警報音がとどろいたりしたら、それで侵入者はすぐに退散するでしょう。もちろん、予算に余裕があれば、セコムといった警備会社と契約することが理想です。
・犯罪誘引(または過失による紛失)の危険性。この世に存在する全員が必ず聖人君子である、とは言えません。事業者は常に内部犯行の危険性を踏まえた犯罪被害防止、犯罪抑止の対策をするべきです。こういう事を主張すると、「職員を信じられない事業者こそ信じられない」という感情論が沸き上がりますが、論外です。常に仲間、身内を信じる立場で事業は運営できません。「法人」「任意団体である保護者会」が、組織として、その組織内で従事し活動する者が、よからぬ気持ちで窃盗や横領をしようとしても食い止められる制度、仕組みを構築するべきです。
ところが、現金を職員が常時所持した状態でいると、そこに残念な事態が発生する可能性が生まれます。故意による犯罪でなくても、過失でクラブの現金を私用(例えば、自分の家庭で使う物品の購入)で使用してしまい、後日の精算の時に現金とレシート、帳簿が合致しなくなる、という状況が生まれる可能性があります。私用のレシートと児童クラブ用に買った物のレシートが混ざり合ってしまって、あるいは勘違いで私用レシートと思って捨ててしまったという場合もありますし、実際に私は経験しました。
窃盗にしても、組織内による犯罪または過失による紛失や費消にしても、現金が足りなくなることは大問題です。私が児童クラブの世界に関わり始めて驚いたことの1つに、児童クラブの界隈、ことに保護者運営系のまとまりでは、経理会計の場面で「あれ、〇〇円合わない?じゃあ私が出しておきますね」という形での「帳尻合わせ」が半ば当たり前に横行していることがあります。保護者会費や、保護者会費でもさらに細かいイベントでの会計ではよくありました。事業者の会計でもおそらくありえます。
事業において金銭を取り扱う立場であれば「1円でも合わない」ことは大事件なのですが、どうにもその感覚が薄い。児童クラブの支援員で簿記会計を学んだ人はそう多くないですから1円の重大さを意識できないのはあるとしても、私が内心感じてきたのは、「自分のカネ」ではないことによる「無くなったら、合わなかったらどうしよう、という恐れの薄さ」です。しょせん他人のカネですからね。そういう感覚で、児童クラブ事業者のお金を取り扱う人は職員にしても保護者にしても、なかなかに存在していたのを私は見てきました。これは私が児童クラブの世界で残念なことに思う1つです。(もっともこれは、企業勤めの人には、ありがちかもしれませんね)
犯罪被害で現金を失うリスク、内部による被害または紛失のリスク、この2つの危険性、リスクを極力減らすことが重要です。
<現金を無くす手段>
これは2つの場面に分けられます。事業活動に伴う利用料やおやつ代などの「徴収」については、今は便利なキャッシュレス集金システムが整備されています。代表的なものに「エンペイ」があるでしょうが、同種のキャッシュレス集金サービスはこの十数年で驚くほど進歩しました。私が事業運営に関わったころは、まったくありませんでした。
従来からの手作業による集金作業は、児童クラブでの保管に伴うリスク時間(とその時給分に相当ずる賃金)的コストだけですが、キャッシュレス集金サービスは当然ながら費用がかかります。しかし、起きては困ることを回避するための投資は結果的に事業の安定性を支えます。事業者は積極的にキャッシュレス集金サービスを導入するべきでしょう。
なおしいて申せば、児童クラブの運営費補助に、こうした防犯対応の分を加味した増額をこども家庭庁には要望します。ICT補助金ではとても足りません。
児童クラブ職員が使う、いわゆる小口現金などの分は、中規模(だいたい数十クラブ以上を運営)程度の事業者であれば、都市銀行によるデビットカード、あるいは法人のクレジットカードの利用によって、手持ちの現金を大幅に減らせることができるでしょう。問題は、小規模や零細規模、1法人1クラブといった個別運営事業者です。そうであっても、経費を預けている金融機関に相談してみるといいでしょう。どこか適した金融機関を紹介してくれるかもしれません。また、アマゾンなどの法人専用決裁では、を使えば各クラブで該当の販売サイトを利用して支払は法人一括ということも可能です。私が実務で関わったのは、法人の運営経費を預けている金融機関のデビットカード導入です。これで小口現金精算の回数も金額も大きく減りました。それだけ盗難、紛失のリスクが減ったことになります。また本部の端末で各クラブの小口現金費消状況がすぐ把握できますから、予実管理の点でも効果的でした。現場からは「いつも利用している店では使えない」という意見が届いていましたがその不便さを上回る運営上のメリットがありましたから、「申し訳ないが、別の店で調達してください」ということにしていました。その店でないと買えない物品は、そうそうあるものではありません。ごく一部の例外を重視して全体の利益を向上させないということは、こと、補助金が交付されているがゆえに効率的な事業運営が必要である公共の児童福祉サービスである児童クラブ事業では考えられません。
これらキャッシュレスを推進しようとすると、おそらく確実に「保育の幅が狭まる。今まで利用してきたことが利用できなくなる」という苦情が現場から上がります。「いつも利用するあの店はキャッシュレス対応していない」という理由です。気持ちは分かりますが、最終的には事業者が安定して事業を行うことを優先するべきです。例えば、子ども達の社会体験として、現金を使って買い物をする、駄菓子屋さんで買い物をする、という場合は特別な場合として都度、現金を事業者運営本部から支給を受けて使えばいいのであって、「所外活動で使う駄菓子屋さんがキャッシュレス対応していないので、これまでと同じ現金支給にしてください」というのは理由が通りません。現場職員の仕事のしやすさを維持、常に向上することは当たり前に重要ですが、あくまでも事業者全体の利益を勘案した中でのことです。窃盗や盗難、紛失や犯罪被害のリスクを減らすことは優先されるべきです。
もちろん、事業者側、運営本部の側は丁寧に現場職員に説明して、移行期間を設ける、あるいはテストとして先行実施する少数のクラブの利用実績を周囲に浸透させるなど、落ち着いてキャッシュレス化を推進するべきでしょう。
緊急時に現金を使うために、まったく現金をクラブの現場に与えないことは考えにくいでしょう。もちろん、立替払い制度をとっている事業者は当たり前に多いですから、それでもいいのですが、児童クラブの世界では「職員が常時持っている現金が少ない」という致命的な弱点があります。仕方ありません。ワーキングプア状態といえるのですから。それは国や社会の責任です。
よって、いざというとき、正規職員が自分の現金で立て替えて後に事業者から精算を受けるということは数百円ならいいとしても、数千円台でも厳しいので、やはり数万円程度の現金を正規職員に支給しておくことは現実的にやむを得ない所です。ただしこれは厳格にルール化をしておくべきです。
・運営本部で、「誰が」「どのくらいの額を」保持しているか記録しておく。
・定期的に、保持している職員に現金の所有状況を確認する。確認は第三者が行う。運営本部に出頭を求めて確認するのが良い。
・何かの事情で使用した(例えば子どもをタクシーで病院に連れて行った)際は当日又は翌営業日に必ず精算する。
・過失による紛失の際のルールを定めて周知、理解させておく。「過失による紛失の場合は全額自身で弁済する」等のルールでも事前に了承させておれば問題はない。
これらの緊急時に使う(小口)現金であっても、クラブの保管はやめましょう。
なお、児童クラブには事業者が認めた以外の現金は置かない、置くとしても所定の方法によって置くとしていた場合に、それ以外の手法で職員が現金をクラブに置いていたために盗難被害に遭った場合、どのようにすればよいか。ルール違反だからといって、ルールを無視した保管方法をしていた職員に全額の被害弁済を求めて良いかについては、ケースバイケースとなるでしょう。事業者が形だけ保管ルールを作ったはいいものの実際にそのルールの運用について具体的に活用していなかった場合は、私は、事業者の過失もぬぐえないので全額、職員に被害弁済を求めてはならないとする立場です。これが、毎日でなくても少なくとも月に数回、現金保管の有無についてクラブにチェック、確認を求めていた場合など、事業者としてクラブに現金を置かないことをルールの周知も含めて職員に徹底をしていた場合は、職員の重過失として被害弁済を全額求めても良いという立場です。もちろん、保管に必要な金庫を現場の要請にも関わらず事業者が用意していなかったとか、施設の施錠が不完全な状態であることを事業者が知っていたとか、また別の事情があれば、それを勘案して事業者がどれだけの過失の割合を背負うべきか、考えるべきでしょう。一概に、原因を直接に作った職員に全額の弁済を求める、またはその逆に職員には一切の弁済を求めないというのは、私は間違っていると考えます。(現金が無くなった原因が後日、例えば他の職員の窃盗によるというのであれば、原因を作った者に弁済を求めればいいだけの話です)
児童クラブを取り巻く業務環境はこの10年ちょっとで驚くほど進化しました。キャッシュレス化は2010年時点では、まったく想像だにしなかったことです。いったん加速した進化の流れはさらに加速するでしょう。児童クラブのICT化を進めるためにも、こども家庭庁には、さらなる補助金の増額と使い勝手の柔軟性を求めます。
次回は、お金を集めることについて考えてみましょう。事業者にとっては、口外しにくく苦悩を抱える局面です。
<おわりに:PR>
弊会は、次の点を大事に日々の活動に取り組んでいます。
(1)放課後児童クラブで働く職員、従事者の雇用労働条件の改善。「学童で働いた、安心して家庭をもうけて子どもも育てられる」を実現することです。
(2)子どもが児童クラブでその最善の利益を保障されて過ごすこと。そのためにこそ、質の高い人材が児童クラブで働くことが必要で、それには雇用労働条件が改善されることが不可欠です。
(3)保護者が安心して子育てと仕事や介護、育児、看護などができるために便利な放課後児童クラブを増やすこと。保護者が時々、リラックスして休息するために子どもを児童クラブに行かせてもいいのです。保護者の健康で安定した生活を支える児童クラブが増えてほしいと願います。
(4)地域社会の発展に尽くす放課後児童クラブを実現すること。市区町村にとって、人口の安定や地域社会の維持のために必要な子育て支援。その中核的な存在として児童クラブを活用することを提言しています。
(5)豊かな社会、国力の安定のために必要な児童クラブが増えることを目指します。人々が安心して過ごせる社会インフラとしての放課後児童クラブが充実すれば、社会が安定します。経済や文化的な活動も安心して子育て世帯が取り組めます。それは社会の安定となり、ひいては国家の安定、国力の増進にもつながるでしょう。
放課後児童クラブ(学童保育所)の運営支援は、こどもまんなか社会に欠かせない児童クラブを応援しています。
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弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。
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放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。
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放課後児童クラブを舞台にした小説を完成させました。とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子を描いた作品ではありません。例えるならば「大人も放課後児童クラブで育っていく」であり、そのようなテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。出版にご興味、ご関心ある方はぜひ弊会までご連絡ください。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ぜひご連絡、お待ちしております。
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「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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