放課後児童クラブの本当の様子を社会に広く知ってもらうことが、進歩と改善に不可欠。エンタメ分野の舞台にしよう。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)は数えきれないほどの困難や改善が必要なことがあります。でもその必要性はなかなか社会に理解されませんね。それは、ほとんど実情が社会に知られていないからだと私は思うのです。では知ってもらうために必要なことはなんでしょう。話題になることです。興味関心を持ってもらうことが大事ではないでしょうか。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<知られていなかったり誤解されたり。それは広報不足>
 放課後児童クラブをめぐって、今すぐにでも改善してほしいことは、それこそたくさんあるでしょう。
・単に子どもを預かるだけではないこと。子どもが生活して育っていく場所であること。
・待機児童があること。児童クラブを利用したい子どもと保護者が利用できない状況がたくさん生じていること。
・子ども達を詰め込んでギュウギュウ詰めの児童クラブがあること。
・児童クラブで働いている人たちの多くが、処遇が劣悪なこと。ワーキングプア。「学童で働いた、子どもをあきらめた」という悲惨な状況があること。
・社会人資質に欠けたり、育成支援の理解に欠けたりしている残念な職員や運営体制の児童クラブがあちこちに存在していること。
・保護者が知らず知らず運営上の法的責任を負わせられていること、またその責任の重大さについて正確な理解を欠いていること。

 他にもいろいろあるでしょう。エアコンが効かないとか、施設や設備が壊れてしまっても、買い替えたり修理したりする予算に事欠くこと。それら問題のほとんどは結局は「カネ」が足りないことで必要な施策や手法を実施できないことに行きつきます。貧すれば鈍する、ということですね。カネ、すなわち予算が潤沢であれば、施設を増やして大規模問題を解消できますし、職員の雇用条件を改善すれば、長く働いてくれるようになりますし、いい人材も集まります。児童クラブで働いても安心して家庭を設けて子育てしながら児童クラブで働き続けられます。専従の、プロの経営者に支払う報酬が確保できれば、保護者が無理やりに運営に従事させられることも減ります。

 ではそのカネ、つまり予算ですがどうしたら増やせるのでしょう。それは、「児童クラブの世界はいま、こんなに困ったことがたくさんある」を広く社会に知っていただくことですが、それだけではありません。児童クラブの職員の賃金が低いことはそれなりに社会に知られています。つまり、「児童クラブが社会に存在する必要性、重要性」についてより深い理解を社会に持ってもらうことが必要で、そのためには「児童クラブが果たす子育て支援における専門性」を社会に理解してもらうことが欠かせないと、私は確信しています。児童クラブはとてつもなく重要な社会インフラであってその世界は子どもの育成支援と子育て支援に関して深い専門性を基盤として的確な支援、援助ができる。それをもってこの社会を支えているという理解が社会に浸透すれば、「もっと予算を投じる必要があります」という理解が社会に形成されると、私は考えているのです。

 現状では、まったくそこに至っていない。社会への周知、広報が圧倒的に不足しているからです。

<知られれば世界は変わる>
 その典型例が、2016年2月にインターネットに現れた「保育園落ちた日本死ね」の衝撃的な文言です。保育所保育園の待機児童対策が一気に前進したできごとでしょう。この投稿には一部政党の思惑があったなかった等、いろいろな憶測があるようですが、インターネット上の盛り上がりを超えて社会を動かしたのは事実です。あまりの衝撃の強さで、保育所の待機児童問題の深刻さが広く社会に浸透し、それはすなわち政治を動かす結果となりました。社会の動きを如実に反映するのが政治の1つの側面とすれば、見事に政治を動かして、結果的に待機児童を減らす行政の施策となって結実したのです。
 今では待機児童といえば、保育所よりも放課後児童クラブの方が人数が多くなっているのです。そのこともまたほとんど知られていないのではないでしょうか。こども家庭庁の調べでは、公表値(国の待機児童判定基準の問題点はあるにしても)では、保育所の待機児童は2016年に23,533人いましたが、2023年には2,680人になっています。一方で放課後児童クラブの待機児童は、2023年に16,276人になっています。それでも待機児童という文言を耳にすれば、「保育所は大変だよね」という反応にたいていなるのではないでしょうか。「待機児童ね、今や学童の問題だよね」と間髪入れず反応できる人はメディアの人を含めてほとんどいないのではなかろうかと私は感じています。

 知られていないからですね。放課後児童クラブ、学童保育所の問題はほとんど知られていないのです。

 8月17日に関東地方でですが、フジテレビ系「週刊フジテレビ批評」という番組に私は出演し、放課後児童クラブに関してゲストコメンテーターとしていろいろと所感を述べました。この番組の収録前の打ち合わせで、司会のアナウンサー2人からの質問に答えていたのですが、「せっかくはいった学童をどうしてやめてしまうのでしょう?」という質問があって、「放課後児童クラブを保護者が運営することによる負担感で、役員になる小学2年や小学3年生を迎えると学童を辞めてしまう例がありますよ」と私が話したところ、「え!学童を保護者が運営していることがあるんですか?信じられない!」という反応が2人から返ってきました。自治体が設置している保育所や図書館を利用者である保護者が運営しているということと同じ構図ですから、その反応は無理もないのです。「実は学童というものは保護者が運営するスタイルで広まったんですよ」と説明すると、「知らなかったです!」とたいそう驚かれたのです。

 これが世間一般です。知られないことは理解されないし、共感も共鳴もされない。同情もされない。支援も受けられない。まして放課後児童クラブは地域でまったく異なる実施状況があります。待機児童が出ていない、いわゆる放課後全児童対策事業を実施している地域では小学生の待機児童問題に関心は起きないでしょうし、小学6年生まで普通に児童クラブに入所できる地域にいる保護者は、小学4年生になると強制的に児童クラブを退所させられる都市部の多くの児童クラブの問題について知る由もないでしょう。

 知られていないことこそ、私は今の児童クラブの世界を苦しめている問題の根源の1つだとずっと感じていました。

<社会に知ってもらうには、エンタメ化だ>
 ちまたにたくさんある小説、映画、ドラマ、ゲームの題材になったことで社会に広まったことは無数にありますね。業界の内幕だったり、仕事の内容だったり、あるいは職業そのものの存在だったり。「そんな世界があったのか」という新発見のことがあれば、「知っているつもりだったけれど、そんなこともあるんだね」という再発見もあるでしょう。エンタメの題材になったことで、その登場人物の就く仕事が急に人気を集める、ということも昔からよくありました。逆に、悪影響を及ぼすことも珍しくありません。かつて広告代理店は就職人気の上位常連でした。ところが相次ぐ過労死の問題やハラスメントの報道で、かつての人気はなかなか取り戻せていません。そう思うと、児童クラブの世界は、不適切な事案ばかり報道されるのでただでさえなかなか求人応募者が集まらない業界ですから心配です。

 すべてを美化する必要はもちろんありません。大規模クラブで疲弊する職員、なにより居心地の悪さでイライラする子どもたちの本当の姿。発達障害のある子や、それに近い子ども達と定型発達の子どもを「インクルーシブ保育」の掛け声のもとで、ギュウギュウ詰めのクラブに一緒くたにすることで双方とも過ごしにくい環境になってしまっていること。児童クラブで子どもがどう育っているのか、過ごしているのか、まったく無関心な保護者たち。そういう実情も含めて世間に知ってもらうには、社会で話題になる存在に「のっかる」ことが大事です。社会で話題になるにはエンタメ化が有効な手段でしょう。

 ところが児童クラブの世界はなかなかエンタメの舞台になりませんね。ちょこちょこと、登場することはあっても、あるいは一時的な舞台となることがあっても、「児童クラブの世界で繰り広げられる様々な出来事」がエンタメ化されて社会に発信されたことは、私の知る限りなかったように思えます。児童クラブは社会の縮図でいろいろなことが毎日起こっているにも関わらず、ですね。

 ぜひとも児童クラブのいろいろな姿を、エンタメ化のフィルターを一度通してもいいので、広く社会に知ってもらいたい。そうして興味関心を向けてもらいたい。私はそう願っていますし。私自身も挑戦してみようと考えています。へたくそな文章しか書けませんが、まがりなりにも児童クラブの表と裏をつぶさに見てきた人物として、子どもと職員、保護者の喜怒哀楽を見てきたものとして、児童虐待や犯罪行為に直面した者として、私にはきっと何か書けるだろうと考えています。これは宣伝ですが出版を考えてもいいという出版社さんがありましたらぜひご連絡ください。活字はまだまだ力があると思っていますが、その活字を基に漫画になったり映像作品になったりということがもしも可能となれば、「え、児童クラブってそういうことがあるの?」「学童の先生ってそんなにしんどいんだ」ということがより多くの社会の人に伝えられることになるだろうと淡い期待を私は抱いています。

 もちろんエンタメ化は児童クラブに関する興味関心を社会に起こさせる、あくまで1つの手段に過ぎません。日々の子どもと保護者との関りによって子どもと保護者自身が「よかった」と安心できることが一番大切なことです。実践による社会への浸透です。ただ残念ながら児童クラブはその整備が進んできた結果、「与えられて当然のサービス」という存在になりつつあるので、かつてのような児童クラブへの感謝や尊敬の念は持たれにくくなっているのではないでしょうか。また、報道による問題提起も重要です。ただそれも報道する側、取材する側が「なにがニュースなのか?」という感覚を持てなければニュースとして認識されないのです。「これはニュースだね」というとっかかりになるためにも、もっと広く社会に児童クラブのことを知ってもらう必要があるのです。

 児童クラブに関わる人はぜひどんどんと発信しましょう。運営事業者は自分たちが行っている事業について、入所や退所の手続きと言った事務的なことはもちろん、どういう理念と目標を掲げて事業を行っているのか、たくさんPRしましょう。圧倒的な発信力こそ流れを変える1つのきっかけに、きっとなります。

<おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!私の運営支援の活動資金にもなります!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)