放課後児童クラブの未来はどうなるのか。内向きの視点でこのまま縮小し続けるのか。客観視こそ必要だろう。

 放課後児童クラブ(学童保育)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。2024年11月16、17日の2日間の日程で、第59回全国学童保育研究集会が岡山県倉敷市を会場に開催されました。私は2日目の分科会にオンライン参加をしました。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所もおおむね該当します)のうち、保護者や職員が運営に関わる系統の児童クラブの世界にとっては年に1回のお祭りですね。今回もきっと大成功で終わったことでしょう。開催にご尽力された方々に心から敬意を表します。ありがとうございました。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<全国研>
 保護者や職員が関わる児童クラブの世界ではおなじみの「全国学童保育研究集会」、通称「全国研」。私の初参加は2012年の埼玉県開催でした。翌2013年が岡山市での開催で、私も大いに楽しみました。私は当時、非常勤で地元の市の放課後児童クラブ団体の代表理事を務めており、この岡山市の全国研にも職員十数名と一緒に参加したのです。楽しかったですね。初日に会場に到着したときにはすでに大混雑で、会場のロビーの片隅でまとまって昼食を食べたこと、職員の1人が私物を紛失して大騒ぎになったこと(結局、東京駅から乗車していた新幹線の中で落としていたようで、のちほど見つかった)、夜には急に雨に見舞われ濡れながら食事先から宿に戻ったことなどが今でもはっきり思い出せます。私が参加した分科会では、子ども・子育て支援新制度への疑問を講師が執拗に指摘していたことを覚えています。

 その後も全国研に参加することを重ねていくうち、私にとっての全国研の存在は確立しました。全国研は、研修と思うとその目的を取り違える。上記の私の思い出のように、「ああ、あの年の全国研は、あそこでやったか。あんなことがあったよね。あそこで〇〇さんと知り合いになれたよね」という、過去の思い出と当時の状況を懐かしみ、楽しむためのものです。プラスして、「え?そんなこともあるんだ!それはすごい」という、全国各地で起こっている知られざる出来事を知ることができる場ですね。そのことだけでも私は参加する意義はあると考えています。
 このイベントは、議題に関する討論や意見交換という目的としては不十分です。まず時間が足りない。参加する人の問題意識や、そもそもテーマに関する知識の程度がバラバラなので討議が成立しないですし、司会者や世話人は会議の進行を整理するための技術はおおよそ持ち合わせていません。ですので、知見を深め、議論を交わし、疑問を解消したいと期待することはやめましょう。そもそも、学会での発表の場ではありません。交流の場と割り切りましょう。その交流に、どのくらいの費用を投じることが許せるのか許せないのかは、個々の判断ですね。
 もう1つ付け加えるならば、私はこの全国研なるもの、内輪のエネルギー発生機会と捉えています。私たちは誰も重要視してくれない児童クラブの世界でひどい条件の中で子ども達のために働いている。世間はまったく評価してくれない。そんなつらい立場の者たちがお互いをたたえ合い、褒め合い、励まし合う、マイナス掛けるマイナスの作業を行う場であり、そうしてプラスのエネルギーを生み出す。結果としてプラスのエネルギーになるのであれば、私は構わないと考えています。怖いのは、プラスのエネルギーで満ちた者が、マイナスのエネルギー(つまり、否定的な感情しか持ちえない方々)を浴びて最終的にマイナスのエネルギーを充電して全国研から戻ってきた場合ですね。「全国研は元気の素」と、かつてはよく言っていたようです。元気が得られるなら、それはそれで良いことですね。

 私が全国研に参加する場合においてほぼ参加するテーマの分科会があります。前回はオンライン開催でしたが、今回は現地開催だけでした。オンライン開催が始まるようになった新型コロナ流行前はすべて現地開催なので、以前に戻ったということに過ぎないのですが、せっかくオンライン開催ができるようになり、そのノウハウも積み重ねられている中で、オンライン開催が分科会の目的を達成するのに絶対的に合理性を欠くものでなければ、オンライン開催を積極的に検討していただきたい。今回、運営主体に関する分科会を、なぜオンラインで開催しなかったのか私はまったく理解できません。というのは、主催側に「運営主体の問題に関する取扱い方を合理的に考えていないのだろうか」という疑念をぬぐえないからです。運営主体に関する問題は全国津々浦々で課題となっているものであり、全国でその問題に直面し、または考えている人がオンラインで参加し、他人の意見や情報を各地の人に届けることだけでも価値があるものでした。その価値を主催者側が理解できなかったとすれば、結局のところ、運営主体に関する問題の深刻さを主催者は本当に理解していないのだろうと私は断じます。

 来年は福岡での開催のようです。埼玉からさらに遠くなるのは残念ですが、それは裏返せば九州の方々からすれば大チャンスですね。ぜひ集会が無事に開催されることを期待しています。私も自身の事業が無事に発展し、仲間とともに現地にて参加できることを目標に頑張ります。

<保護者の問題に参加して>
 私は保護者に関する分科会に参加しました。保護者会が運営の主体となる児童クラブに関して現状の課題等を、全国各地の参加者から話を聞きたかったのです。結果的に、その目的通り、いろいろな情報や考え方に触れることができました。

 私が感じたことを書き連ねます。
・保護者が運営する児童クラブが「絶対的な善である」という大前提が出発点。である限り、どのような問題や課題が報告されたとしても「絶対的な善である保護者運営の児童クラブの存在はゆるがない」。それでは現在、積もり積もっている問題や課題は解決しない。なぜなら、大前提が守られる限りにおいて問題や課題は「仕方がないもの」となってしまう。大前提が守られるならば許容、受容しなけばならないものだとして片付けられてしまうからだ。本来は「本当に、保護者運営の児童クラブには致命的な弱点がないのだろうか」ということも考えねばならないのだ。なぜ、これほど保護者運営系の児童クラブが減少しているのかその事実を直視すれば、致命的な弱点があることは容易に想像できるはずだがその現実を踏まえていないので、議論を広めようがない。

・児童クラブにおいて子どもが過ごすこと、それだけを「児童クラブの事業」と理解している。それは「放課後児童健全育成事業」であって、児童クラブの事業は組織の維持つまり経営と運営なのだが、その点に意識が及んでいない。どうすれば子どもへの関わりを保障できるかだけが議論になり、「どうすれば、子どもへの関りを保障する児童クラブの事業を、安定して維持できるのか、という組織の経営、運営面の重要さ」が、すっぽりと抜け落ちている。これはつまり、児童クラブという場所において行われる活動が「ビジネスである。事業の経営と運営である」という観点が認識されていないことを意味する。子どもとの関わりを大事にしたくても、その事業が存続できなければ、まったく意味がないではないか。その点は意図的に無視されているのか?

・社会的信用を軽んじている。法人化の議論では、法人化することで土地の購入が容易となる、銀行口座が開設できるということが法人化によってできることとして触れられたが、そのことはその先において必要な事を成し遂げるため単に便利なことではなく、「社会的な信用が得られた結果」であることの重要性が理解されていない。事業を行うには、社会的な信用を確立することが大事であり、それは形式が整うことが大前提である。代表者を決め、登記をする。どうも児童クラブの世界は「子どものために、親が、一生懸命に関わること、その行動こそ評価されるもので、その行動を評価しない社会がおかしい」という論調になりがちだが、本末転倒である。それは恣意的な判断を要求することになる。保護者が運営すれば行政に要望が通りやすいということも紹介されたが、それはルールに基づいて判断されてるべき行政が恣意的な理解のもとに判断を下していることを意味する。それこそコンプライアンスに反することの理解ができてない。なぜなら「保護者が関わる児童クラブこそ絶対的な善」でありそのために行われることもまた善として理解されてしまうからである。

・結果として、保護者が運営に関わる児童クラブに関して、この世間や社会がどう捉えているか、その客観視を取り入れる作業を怠る限り、保護者が運営に関わる児童クラブは衰退していくであろうという私の認識をさらに深める結果となった。「保護者の負担感を極度に軽視している」、「公金を投じて行われる事業の最高責任者が事業執行の責任を負うという重要性を理解していない」、「運営に参加する保護者に対して行うべきリスクの説明の重要性を認識していない」、「事業において必要な業務の質の向上において計画的に取り組むべき種々の取り組みが保護者運営では実施できないことへの理解が欠けている」、「日本版DBSや社会保険料改革のように、目の前に迫った大変革にすら意識が向かない程度の、社会認識の浅さ」。これら懸念の反対をクリアできているのが企業経営の広域展開事業者であり、それが急速に勢力を伸ばしていることへの危機感が皆無。

・保護者が運営に参画することの利点として口々に挙げられていたのが、保護者の考えることが即座にクラブで反映されること。しかしそれは保護者が運営に参画すること「だけ」でしか実現できないものではない。なぜだか、その点にまったく気づかない。公営だろうが企業経営だろうが、仕組みとして保護者の意見や要望を運営に反映させることを義務付ければ良いだけ。規定を設ければ良いだけ。定期的に保護者から成る評議会、運営委員会と経営陣が協議の場を持ち、そこでの内容を経営陣は事業の運営、執行に反映させることとする。また事業計画や予算、決算の決定機関に保護者、利用者の代表を送り込めば良いのである。保護者運営参画「だけ」が保護者の意見をクラブに反映できると(意図的に?)誤った前提をもとに議論を展開させようとするのは、私にとっては公正とは思えない。

・今後も、「自分たちは正しいことをやっている」だけで自分たちの世界の仲間内だけを集めて「とてもいいことをやっているよね、そうだよね」と互いに確認し、褒め合って、慰め合っているようであれば、世間一般の流れに押しつぶされるだけである。自分たちの世界は外部の世界からどう見られているのかの客観視を積極的に取り入れていかないと、内部収縮を続けるだけ続けて、内部で押しつぶされて機能不全となるだけである。

<今後は>
 交流を目的にするのであれば、はっきりとその旨を明示したうえで、私なら多くの人に現状を紹介してもらう進行を心がけます。はっきりいって、児童クラブの世界、特に職員、支援員は、「質問がありますか?」の司会進行の問いに対して、質問をすると思いきや自分の意見や置かれている現状の紹介を始めてしまい、15秒で済むだろう質問時間が3~5分になってしまうことが、実に頻繁にあります。それを制止しない進行に問題があるのですが、そもそも、「質問がありますか」という問いを理解できていない発言者側の社会人的な資質に問題があるのです。これはもう、集会の冒頭および途中でも司会進行者が何度でも警告するしかないですね。「質問と、個人的な意見は分けて発言すること」と。
 事前に、知ってほしい現状や意見を参加予定者から募ることができればいいのですが(オンライン参加形式なら可能なはずです)、そうではない場合、司会進行者がいくつか例示して挙手させるなりして、およそ想像される憂慮すべき現状や問題の分類ごとにどのくらいの人がその点に興味関心があるかを示すことはできます。そこは司会進行者の技量によります。

 本来ならば、もっと議題を細分化するべきでしょう。保護者運営のクラブの問題というくくりよりも、「保護者運営クラブにおける保護者の負担感の解消の方策について」とか、「法人化によって生じる運営上の不便な点」など。事例報告は事前に文書で提出を求め、集会が始まるまでに全参加者に配布しておけば、すぐに質問や意見交換から始められますね。(まあ、同じようなことを感じる人が過去にもいたはずで、それでも59回の継続があるということは、なかなか変わらないものなのでしょう)

 それほど長くない日程で多くの興味関心がある人が集う集会です。1分1秒を無駄にしたくはないですよね。私は初日(といっても実質半日)にも分科会、意見交流会を設けて2日間、徹底的に意見交換や交流ができる会が必要だと感じます。それでこそ、深く知り合える仲間ができるというものです。何カ月も練習した芸を見せるのもまあいいですが、私は、無理やりに練習させた芸を見るよりも、「これをなんとかしたい」「この点で困っている」という人たちと1人でも多く話を交わしたい。基調報告もすべて書面と収録にしてオンライン配信でいい。「見た目」を大事にするのであれば、1時間弱での全体集会で代表者のあいさつと来賓の挨拶だけでいい。

 いま、保護者が参加する児童クラブの世界の命脈は尽きようとしているのではないかと私は危惧しています。たいへん危険な状況であることの認識を、はやく持っていただきたいと私は考えますし、その危機感を共有できる場の1つとして全国研は有用でしょう。来年はそのような意識をもって開催されることも私はひそかに期待します。とりあえず、メディアでまったく報道されないのはなぜか、まずはその点からの分析から始めてはいかがでしょうか。

<おわりに:PR>
 弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。
(萩原から直接お渡しでも大丈夫です。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください!)

 現在、放課後児童クラブを舞台にした小説を執筆中です。とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子を描いた作品ではありません。例えるならば「大人が入り込んだ放課後児童クラブ」であり、そのようなテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。出版にご興味、ご関心ある方はぜひ弊会までご連絡ください。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ぜひご連絡、お待ちしております。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)