放課後児童クラブの昼食提供でアレルギー症状発生事案。今後に必要なことは?短絡的な結論は危険だが不安一掃も必要

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。夏休みの放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)における昼食提供が急拡大していますが、そんな折、横浜市でアレルギー対応事案があったと報道されました。いろいろと不安要素がある事案です。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<報道発表では昼食提供業者の完全なミス>
 横浜市役所はこの事案を報道発表しています。しかも事案発生当日の発表です。詳細な内容は検索して確認ください。
放課後キッズクラブ・放課後児童クラブにおける昼食提供事業者による食物アレルギー対応の記載漏れについて 横浜市 (yokohama.lg.jp)
20240729houkago.pdf (yokohama.lg.jp)
 市の報道発表によると次の事実が確認できます。
・卵アレルギーの児童にアレルギー症状(嘔吐)が出た。
・提供された「蒸ししゅうまい」には、つなぎとして卵が使われていたが、昼食提供業者が保護者に提示している献立表に「卵」の記載が漏れていた。
・蒸ししゅうまいは別の業者が製造したものを仕入れた。この業者が作成した成分表には卵の記載があったが、昼食提供業者は、その卵の記載を見落とし、保護者に示す献立表に記載しなかった。

 横浜市は報道発表の第2報も公表しています。
放課後キッズクラブ・放課後児童クラブにおける昼食提供事業者による食物アレルギー対応の記載漏れについて(第2報) 横浜市 (yokohama.lg.jp)
0002_20240730.pdf (yokohama.lg.jp)
 これによると、横浜市は昼食提供を開始した7月22日以降、同種の記載ミスについてすべての昼食提供業者に確認を行ったとしています。その結果、なんと、本事案を起こした昼食提供業者は、7月24日に提供した献立について「卵」と「ごま」の記載が漏れていたこと、本事案が起きた29日は「卵」以外にも、「えび」「かに」「ごま」「ゼラチン」の表記が漏れていたことが判明した、としています。

 報道では次のように報じられています。引用して紹介します。
「横浜市は29日夜、港南区内の学童保育「放課後児童クラブ」で提供された昼食のアレルギー表示に漏れがあり、卵アレルギーがある児童1人が昼食を食べたあとに嘔吐(おうと)したと発表した。(中略)市によると、児童は29日、昼食を食べた約1時間後に嘔吐し、迎えにきた保護者が昼食の提供業者に問い合わせてミスが発覚したという。(中略)「蒸ししゅうまい」の仕入れ先事業者が作った成分表には卵の記載があったが、〇〇〇が献立表を作成する際に見落としたという。また、市が改めてアレルギー表示を確認したところ、29日の昼食で卵以外にえび、かになど4品目、24日の昼食でも卵とごまの2品目が漏れていたという。これらの食品についてアレルギーがある児童から健康被害の報告はないという。」(朝日新聞デジタル7月30日17時45分配信、〇〇〇は昼食提供事業者の社名)

「メニューに卵が含まれているにもかかわらず、提供事業者が献立表のアレルギー表示欄に卵の記載をしていなかった。市内の児童預かり拠点では22日から昼食提供のモデル事業を開始していた。(中略)児童は喫食後に体調を崩して吐き、保護者の迎えで帰宅した。自宅で療養し、体調は落ち着いているという。」(カナロコ神奈川新聞7月30日13時20分配信)

 横浜市の発表資料による限り、本事案の原因は昼食提供業者の失態であることは確実です。別の業者から調理品の提供を求めていましたが、その業者はしっかりと卵の記載をして昼食提供業者に情報を伝えていた。しかし、そのアレルゲン情報を保護者が確認するためにも使用する献立表に記載しなかったことは、単なる記載ミス、転記ミスとして片付けられる失態ではすみません。言わずもがな、命にかかわる事態を招きかねないからです。
 さらに恐ろしかったのは、卵の記載漏れがあった同じ日に、「えび」「かに」「ごま」「ゼラチン」も記載漏れがあったということです。えび、かには、卵と同じく食物アレルギー表示対象品目8品目に含まれます。つまりそれだけ重篤な症状を招く可能性があるアレルゲンを含むものです。本事案は1人の児童の健康被害に留まっているようですが、これらえび、かに等についても健康被害が起きていても不思議ではなかったのです。これは単なる幸運であったに過ぎないと考えておくべきです。

 卵以外のアレルゲン情報記載漏れは、卵と同様のパターン(外部の業者から仕入れていた食品)だけではなく昼食提供業者の自社調理ながら献立表の記載を失念したと横浜市の報道発表に記載されています。7月22日から1週間程度の昼食提供の間に2度のアレルゲン情報記載漏れを起こしており、昼食提供業者としては決して許される失態ではないものと私は考えます。朝日新聞の報道では、「〇〇〇は昨年12月末、横浜市が2026年度からの導入をめざす市立中学校の全員給食の事業予定者に選ばれたが、都内の高齢者施設で食中毒を起こし、市から一時指名停止となった。」とあります。つまり、この昼食提供業者は都内において食中毒事案を起こしており横浜市から指名停止処分を受けていたことがあるというのです。事業の質を判断する1つの材料にはなるでしょう。

<評価できる対応と不思議な点>
 横浜市は本事案が発生した当日に報道発表をしています。公表しているPDFの資料には時系列で経緯も公開されています。まずこの点を私は評価します。やはり以前、記者をしていたこともありますが、不利益な情報ほど遅く遅く公表しがちなところを、すぐに公表している姿勢は評価できます。(もちろん、包み隠さずに公表していることを前提としています)。
 すみやかな報道発表ができたのは、「事案の結果が死亡等の重大な結果ではなかった」ことと、「昼食提供事業者側も失態の原因を容易に把握できたほど単純な原因だった」ことが影響したのかなと私は想像します。健康被害が出てしまったことは大変残念なことですが、死亡事故ともなるとその結果のあまりの深刻さゆえ、因果関係などを慎重に見極める必要も出てくるでしょうから、報道発表が遅くなっても不思議ではありません。とはいえ、以前にあった窒息事故のように事案発生から1か月前後の期間で公表されるのは問題です。
 今回は極めて短時間の間に、どうしてこんな重大な失態が起こったのかを十分にうかがわせるまでの情報を盛り込んだ発表ができており、行政の情報収集および調査対応能力も含めて評価に値します。

 さらに再発防止策の一環として、「全ての昼食提供事業者(5者)に対して、7 月 30 日以降の献立におけるアレルギー表示に誤りがないか、改めて確認を徹底するとともに、あわせて本市職員(栄養士)によるダブルチェックを行います。」と新たな方策を公表しています。これを初報の段階で示していることは評価できます。もっとも、ダブルチェックはそもそも必要な仕組みだったのではなかったか、と思うところもありますが。

 一方で、事案発生時における児童クラブ側の対応について、報道発表では何かをうかがわせるものはありません。私が気になるのは、嘔吐した児童の保護者が自ら昼食提供事業者に問い合わせてアレルゲンの誤提供が発覚したことです。市への情報提供も昼食提供事業者と並んで保護者が行っています。これは、事前の行政との取り決めによって、異変時の対応については保護者と昼食提供業者が行うとなっている可能性がありますが、児童クラブ側が児童の体調異変についてどう対応したのか、報道発表からでは見えてこないところが、私には妙にひっかかってなりません。
 クラブ側の業務負担を増さないようにしているのかもしれませんし、もしかすると、児童クラブ側も昼食提供業者や行政に連絡をしているのかもしれません。それを市の報道発表では単に記載をしていないだけかも、しれませんが。

 そして最大の疑問点は、以前に他の業務とはいえ食中毒事案を起こして指名停止になったことのある事業者を昼食提供業者になぜ選んだのかという点です。これは朝日新聞の報道にあることですが、横浜市の報道発表にはこの点の言及がありません。これが行政による報道発表の限界であって、逆に報道機関の存在意義でもあるのです。つまり、行政にとってあまり状況のよろしくない事項について、あるいは取り扱っている事案と直接関係ない情報については記載しない、というのが行政情報の鉄則です。それを「ちょっとまって、過去にはこういうことがあったよね」とほじくり返すことができるのが報道機関の記事です。アレルゲン情報の献立表への転記ミスや記載ミスは、その原因が極めて単純であるだけに従業員の資質や作業業務環境の安定度などに疑問を生じさせます。はたして、そんな安易なミスを立て続けに起こすような事業者を横浜市は選んでよかったのですか?という疑問であり、不信です。

 この点について行政は住民に説明する義務があるでしょう。また、他地域の自治体や児童クラブ運営事業者に対して、こういったアレルギー症状発生事案における児童クラブ運営事業者と行政との対応、役割の分担についても参考として情報提供することを期待します。

<昼食提供の形は発展途上。最終的には給食調理センター活用を>
 急激に広がっている児童クラブでの昼食提供ですが、多くは宅配弁当の提供の形態のようです。私は児童クラブにおける昼食提供は賛成ですし、早期に昼食提供を実現するためには宅配弁当の配達、提供でも構わないと考えています。が、それはあくまで一過性であるべきとも考えています。最終的には、給食調理センターや給食調理設備を活用した昼食提供が理想とするべき到達点と考えます。また、状況に応じて児童クラブにおける調理提供も考えるべきだ、というのが私の考えです。

 宅配弁当提供や昼食提供業者は、継続性に不安があります。来年また同様に児童クラブ側の要望に応じてくれるとは限りません。相手は民間事業者ですから当たり前です。利益にならないと思えば取引に応じないことは当然だからです。一方、児童クラブ側は、安定した取引を求めます。しかし、児童クラブとの取引は、「1クラブあたりの個数はさほど多くない」「毎日、注文個数に変動がある」「キャンセルが多い」「アレルギー対応が複雑」という、乗り越えねばならない問題点があります。昼食提供業者にとって、それら細かい対応にしっかり応じる手間を考えた上で確実に利益が一定期間、確保できなければ、児童クラブとの取引に利点を感じないでしょうから、今年はOKでも来年は取引しません、となってしまう恐れは十分にあります。福祉の世界においては継続性が何より大事です。

 それを考えれば、かつ、この横浜の事案からの教訓を生かすとしても、給食センター等、学校給食の提供の仕組みの活用がふさわしいと私は考えます。調整するべき点や克服するべき点は多々あるでしょう。設備の点検の時間をどう確保するのかとか、給食を食べる場所を学校が使えないとしたらどこにするのか、給食調理員の確保に問題はないか、配達にかかるコストなど宅配弁当よりはるかに必要なコスト、経費をだれが負担するのか、等々です。もちろん行政が自治体の予算として負担することが必要ですが、住民のうち児童クラブを利用する児童のさらにそのまた限られた児童が利用するサービスに税金を投入することの理解が得られるか、という点を行政は心配します。その点、ぜひ議会において議論を積み重ねていただきたいと私は期待します。すくなくとも議会での合意が得られればそれは住民の合意ともいえます。

 また、アレルギー対応については児童クラブで直接、調理することが安心です。アレルゲン情報を保護者が児童クラブに伝えている限り、また児童クラブ内でその情報が共有されている限り、アレルギー事故をかなり防ぐことが期待できます。クラブによる自前の提供については、「職員数の確保(に必要な予算の提供)」と「多人数の昼食を調理できる設備の整備(に必要な予算の提供)」が必用です。また、今後、市区町村が設置する児童クラブにおいては、多人数の料理を調理するために必要な調理設備を備える施設にすることが必要です。冷蔵庫や冷凍庫を複数台置けるスペースや広い流し台、強力なIH調理台などです。この面でも法令による規制が厳しくなるでしょうが、人の生命身体、健康に関する規制ですから必要なことです。

 本事案は、保護者の利便性向上に役立つ昼食提供の進展に水を差す残念な出来事です。ただしこれをもって昼食提供は危険だから取りやめるべきだ、という意見は短絡的すぎます。しかし、多くの児童クラブ側が懸念している「アレルギー事故があったらどうするんだ」というまさにその懸念を夏休み開始後早々に露わにしてしまったことで、特にクラブ現場職員に与えた不安、心配はとても大きなものになっています。全国の、昼食提供を外部業者によって行っている市区町村は、現場職員のそうした心情に寄り添い、安心できる方策について改めて検討し、その情報状況を提示することが求められます。

<おわりに:PR>
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 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、アマゾンが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
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 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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