放課後児童クラブの待機児童数(速報値)が発表されました。さらに増えています。本当に覚悟を決めて取り組みを!

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。ことし(2024年)5月時点の放課後所児童クラブ(いわゆる学童保育所)の待機児童数(速報値)が国から発表されました。今年も増えています。もういい加減、抜本的に待機児童解消に本気で取り組まなきゃダメですよ。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<報道から>
 報道各社の記事を読み比べると、いろいろな情報をプラスすることができます。特に、お役所の発表した内容の記事については、できるだけ多くの記事を読んでみるといいですよ。話は脱線しますが、こうした記事を通称「発表記事」といいまして、記者クラブ詰めの記者の大事な仕事ですが、発表資料だけをベースに記事を書く記者と、内容を補完する取材内容を付け加えた記事では、同じ発表記事でも深み、厚みが違ってくるのですね。前者の場合は「出席原稿」と揶揄されることも、筆者現役時代にはありました。

 ではいくつかの記事を紹介します。
「加藤鮎子こども政策担当相は19日の記者会見で、共働き家庭などの小学生を預かる放課後児童クラブ(学童保育)に関し、希望したのに利用できなかった「待機児童」は5月1日時点で1万8462人(速報値)だったと発表した。前年同時点の確報値と比べ2186人増えた。」(共同通信7月19日12時11分配信)

「利用登録した児童数も、同5万7821人増の151万5205人で最多となった。同庁は、共働き世帯の増加や、受け皿の拡充に伴い利用申し込みが増えたことなどを要因として挙げた。自治体からは新たな施設整備や人材確保が困難との声が寄せられており、国としてさらなる支援を検討するという。」(時事通信7月19日15時06分配信)

「共働き世帯の増加などによる需要の高まりを受け、待機児童の解消は喫緊の課題だ。国は今年度末までに152万人分の受け皿を整備する目標を掲げており、年度中には達成する見込み。同庁は文部科学省と連携し、空きのある教室や授業時間外に特別教室を利用することなどを全国の自治体に呼びかけており、引き続き体制整備を急ぐ考えだ。10月1日時点の速報値も踏まえ、12月にも確定した調査結果を公表する。」(朝日新聞7月19日16時30分配信)

「利用環境を大幅拡充している中で待機児童が増加したのは、それ以上に共働き世帯が増加していることと、サービスの認知向上が原因と思われるということです。」(日テレNEWS7月19日17時41分配信)

「一方で、学童保育の登録児童数も151万人を超えて過去最多となりました。受け皿が広がる中、待機児童も増えていることについて、こども家庭庁は、共働き世帯の増加などが要因としています。こども家庭庁は2024年度中に、さらに受け皿の拡大を進める方針です。」(FNNプライムオンライン7月19日17時55分配信)

「共働き家庭などの小学生が放課後の時間を過ごす放課後児童クラブ、いわゆる「学童保育」は、自治体やNPOなどが運営し、共働き家庭が増加する中でニーズが増えています。(中略)特に夏休みに向けてはニーズが高まることから、こども家庭庁は夏休み中などに期間を限定して開所する学童保育への支援策を検討するなど、受け皿の整備を進めることにしています。一方、保育所の待機児童は減少傾向にあり、去年4月時点では全国で2680人で過去最少を更新し続けている状況です。」(NHK NEWS WEB 7月20日5時46分配信)

 これら報道から読み取れる大事な点を挙げます。
・放課後児童クラブの待機児童数は前年より2,000人超も増えた。
・共働き世帯の増加、受け皿の拡大で児童クラブを利用したい人が増えている。
・自治体(市区町村)から、施設整備や職員確保が困難との意見が出ている。
・国は小学校の施設を活用するよう引き続き呼び掛ける。
・夏休みは児童クラブの必要性が高まることから夏休み開所学童の施策を推進する。

<待機児童の構図>
 児童クラブの問題を考えるには、必要とする側の事情(児童クラブを使いたいとする立場)と、サービスを提供する側の事情(需要に応じたいけれど応じきれない立場)の、それぞれについて考えることが欠かせません。

必要する側(子育て世帯)
・共働きの増加(つまり、働かないと生活できない世帯の増加。働くことで社会に関わりたい人の増加など)
・安全安心な場所に子どもを滞在させたい(防犯上の理由。下校時の不安、留守番時の不安)
・生活規律面への期待(家で子どもがゲーム三昧になることを防ぐ。宿題の時間を作ること)
・なんとなくの利用(仲よしの世帯が児童クラブを利用するから、保育所を利用していたので無意識に児童クラブも利用を申し込み)

サービスを提供する側(行政や事業者)
・児童クラブを増やしたくても、カネがない(東京23区や儲かっている大企業があるところ以外の自治体には、ほとんどカネがない)
・児童クラブを増やさねばというのは分かっているが、優先順位の問題で予算が後回しにされてしまう。
・児童クラブを増やしてはいるが、1施設に2~3億円の高額を投じるので、遅々として整備が進まない。地方都市では、経済の還流として地元の事業者に発注するので年に数か所も一気に発注できない。市区町村で設計する場合、設計担当の都合が優先される。
・児童クラブを増やそうにも、場所がない(小学校内に造りたくても、学校側のイエスがもらえない。少人数学級や特別支援級を増やす計画があったりそもそも人口増の地域では教室を確保したいから。で、児童クラブのニーズが高いのも人口増の地域。つまり、学校内の教室が必要な地域は児童クラブのニーズも高いが、小学校内に場所を確保することができない、という分かりやすい図式)
・児童クラブを増やしても、又は増やされても、働いてくれる職員がいないので開所できない。
・児童数は絶対的に減ることは一目瞭然(自治体なら人口のデータは確実に持っている)なので、遊休施設になりそうな施設への投資は避けたい。
・小学校の統廃合計画があり、児童クラブの設置も統廃合の進展に合わせていく必要がある。
・小学校の統廃合によって自治体にごく少数の小学校や義務教育学校が設置された場合、従前より1校の児童数が増えることで、児童クラブへの入所数も当然増え、入所できない児童も発生してしまう。人口の少ない市町村の児童クラブに100人を超える入所児童数がいるのは珍しくない。これは、通学区域が広がったことによる下校時の不安から児童クラブ利用のニーズが増すことが1つ。そして、児童数が増えるのにクラブを設置する行政側に以前の感覚が抜けず要はお役所仕事なので児童数増加の予測を立てることが無く、従前どおりの感覚で施設を整備してしまい、100人を超える入所希望数が出てしまって頭を抱える、という事態になる。

<待機児童を減らす=児童クラブを増やすために>
 私が特に抜本的にテコ入れ、従来からのやり方を大幅に刷新することが必要だと考えるのは次の点です。
・カネの問題。要は、自治体に児童クラブ整備に回す予算が少ないから。期間限定、例えば今後10年でいいので、児童クラブの新設に対する補助金の負担割合を国が全体の8割や9割ぐらいとすることが必要。
・クラブの増加に対して、非営利法人限定でいいので、設置費用のこれも8割や9割を国が負担する新制度を設ける。残りの法人負担分も利子負担が少ない長期の融資を可能とする。非営利法人が手掛ける施設への新たな補助金は、施設の新築だけでなく改築も含む。交付の条件は付けても良い(待機児童が出ている地域とか、大規模状態が発生している地域など)
・地元業者を大事にするのは分かるけれど、今は喫緊の課題を解消するために、児童クラブの新設はプレハブ工法で十分。数こそ大事。戦いは数だよ兄貴。1施設2~3億円の立派な木造建築は、木造だからこその補助金が出るのが魅力でしょうが、その予算で2つ、3つのクラブが設置できる。プレハブ本体は大手業者に任せても電気工事や水回り、外構などで地元業者を優先的に使用すればよい。
・施設を増やしても働く人がいないのだから、職員の賃金について、特に業務委託や指定管理者などで広域展開事業者にクラブを委ねている地域については、職員の賃金の下限を条例で決めること。給料が少ないから児童クラブの職員が集まらないと、いい加減、当たり前すぎる現実を国や行政は受け止めるべきだ。補助金を交付して事業を任せているのだから自治体が行政で条件を付けることは可能。

 そして待機児童を減らす有効な手段として国が注目しているのが、夏休み期間限定で開所する児童クラブ、いわゆる「サマー学童」でしょう。だいたい、国がこの時期にわざわざ待機児童数を発表するようになったのは昨年2023年からですが、今回の報道にもあるように、秋にまた調査をして10月時点の待機児童数を発表するはずです。それは、「夏休み前と、夏休み後は、こんなにも待機児童が減るんですよ=夏休み期間の児童クラブ利用が多い、それが待機児童の原因だからですよ」ということを示したいからですね。

 低学年のみならず、むしろ高学年ほど夏休み限定児童クラブのニーズが高いのです。高学年は下校時刻が比較的遅いので、児童クラブで過ごす時間はさほど長くはない。でも、夏休みは朝から夜まで1人で留守番で防犯上も生活規律上も不安。だから、夏休みだけ、児童クラブを利用したい。でも、夏休みだけの入所は、児童クラブにおいて受け入れの枠がないのでできない。それは、同じように夏休みを利用したいがために4月から児童クラブに入れておく人が多いから。夏休み直前になって児童クラブに入れません、と言われて焦るより、1学期のうちは必要はあまりないけれど児童クラブに入れておけば夏休み利用が存分に出来る。そして9月になったら退所すればいい、という世帯が多いということなのです。

 だったら、夏休み期間に確実に入所できる施設があれば、4月から児童クラブに入れようとする世帯も減って、待機児童も大規模クラブも減るだろうと、国は考えているのでしょう。

 私は、うまくいく面と、困難な面が併存すると考えます。やはり、職員の確保が問題。おそらくサマー学童には補助金を増やす、職員配置基準を緩和する方向で進むのでしょうが、それでも数か月だけの雇用に応募する人はどれだけいるのか。なんとも言えません。大学生中心または夏休みは仕事がない学校の学級補助員や給食調理員のアルバイトになりそうな気がします。もちろん、こうした夏休み限定クラブは、児童福祉法が求める児童の健全育成とは合致しない役割を果たすでしょう。単なる児童の預かり場ですから。しかしそれでも、子育て世帯が安心して暮らせるような仕組みは、国として整備する必要があります。それが何よりの出発点だからです。

 もっとも、放課後児童(留守家庭児童)の居場所作りを放課後児童クラブだけに限定する必要はまったくありません。むしろ、子どもにとっては、多種多様な居場所があったほうがいいのです。児童館の整備、ある程度の少人数の子どもたち(十数人程度)が思い思いのスタイルで過ごせる場所を、町づくりNPOなどに補助金をしっかり交付して整備してもらうなど、いろいろな場所があっていいのです。図書館だって、児童遊園だって。ファミリーサポートへの予算を急増させてもっと使いやすい仕組みにすれば、自宅で過ごせる子どもだって増えます。個人のシッターでもいいのです。私は児童クラブの果たせる役割に大いに期待していますが、児童クラブだけが子どもの居場所ではないことも承知しています。むしろ児童館の整備こそ重要だとすら考えています。

<本気を示せ>
 国も地方自治も、本気でやろうとおもえば、どんな困難があってもやり抜きます。国防のための基地を作る、治水工事をする、道路を造る、ということはどんな反対があっても時間がかかってもやり抜きますよね。それはまた国家防衛や国家インフラという国民の生命を守るために欠かせないという次元ですが、児童クラブであっても、国民の経済生活を支えるという重要な社会インフラです。

 待機児童は、子育て世帯が本来持っている貴重な労働力の減少(しかしそれは得てして、女性に押し付けられるのですが)を招くことは言うまでもありません。親が仕事を辞めたり正規の仕事を非正規に変えたりすることで子どもの安全をなんとか確保せざるを得ないからです。児童クラブに入れれば、そんな必要はないのですし、児童クラブに入ったとしても午後6時に閉所するとか午前8時にならないと開所しないといった利便性の悪さもまた、労働力の減少を招く恐れがあります。経済活動上、児童クラブの待機児童はやはり解消されねばならないのです。これは国家の損失ですから。

 よって国がまず待機児童解消の本気を示すことです。サマー学童のような「小手先」の策も緊急避難ではいいでしょう。しかし、児童福祉法と言う重要な法律で、児童の健全育成について定めているのですから、放課後児童健全育成事業が滞りなく実施されるように、国が補助金の負担を大幅に背負うことによって自治体の負担を一時的でもいいので軽減し、子育て世帯が安心して、子育てと仕事の両立ができる社会にするべきです。それは、とても簡単です。国の補助金を今の数倍にすればいいだけ。それでも兆円単位にはなりません。

 むろん、児童クラブを整備すればするほど、需要の掘り起こし現象は発生するでしょう。小学1年生の児童クラブ利用率は約5割ですが、高学年は数パーセントにまで下がります。児童クラブが便利な存在になると、ほとんど児童クラブを利用しない高学年がどんどん児童クラブを使い、なかなか大規模や待機児童も解消しないという状況すら予想されます。それはしかし、「本来なら児童クラブという児童福祉サービスを利用したかった」人の存在が明らかになっただけです。そうした「潜在的な待機児童」も救わないと、真の児童福祉サービスには程遠いでしょう。

 児童クラブの待機児童の解消は、長い過酷な取り組みになります。しかし、子育て世帯の労働力をむざむざ埋もれさせてしまっていいほど日本の労働力供給状況はのんびりしてはいません。福祉や運輸、交通などで人手不足が顕著なのです。子育て世帯が安心して仕事ができるだけの、質の高い児童クラブの整備こそ、この国の活力を増す大事な土台です。国はいまこそ、補助金の活用を大胆に考えてほしいと、運営支援は期待します。そしてそれが職員の賃上げにつながることも切に期待します。

<おわりに:PR>
※書籍(下記に詳細)の「宣伝用チラシ」が萩原の手元にあります。もしご希望の方がおられましたら、ご連絡ください。こちらからお送りいたします。内容の紹介と、注文用の記入部分があります。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、アマゾンが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
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 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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