放課後児童クラブの夏休み昼食提供が相次いでいますが、メディアと国、行政が見過ごしがちなことがあります。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。小学校の夏休みを前にして、放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)における昼食提供について報道が相次いでいます。報道の論調は「保護者の負担軽減に役立つ」と好意的です。運営支援も昼食提供には賛成ですが、大事なことが見過ごされているのではないかと危惧しています。児童クラブの昼食提供を取り上げるメディアと、昼食提供を推し進める市区町村と国に老婆心ながら忠告申し上げたいのです。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<児童クラブにおける昼食提供のニュース>
 この数日で私が見かけた報道を紹介します。
・「悩ましい「夏休みの壁」に打開策、学童で広がる昼食提供…共働きの女性「本当にありがたい」」(読売新聞オンライン 7月10日16時15分配信)
 →記事中で紹介されているのは「港区:1食540円:弁当会社から学童保育までの配送費は区が負担/横浜市:1食400円:配送料などの約300円は市が負担)
・「夏休みのお弁当作り負担軽減 野洲市が学童保育で昼食提供へ」(NHK 滋賀NEWS WEB 7月10日16時47分配信)
 →1食あたり350円から600円ほど
・「弁当作らなくても・・・夏休み中の児童に昼食提供「家庭の負担軽減を」山梨・富士吉田市」(YBS NEWS 7月10日19時12分配信)
 →1食あたり300円、配送料は市が負担
・「夏休みの学童保育に弁当配送…オイシックス、保護者の負担軽減へ傘下500施設で」(読売新聞オンライン 7月13日午前5時配信)
 →税込みで1食580円(予定)

 この数カ月を振り返れば児童クラブの夏休み中の弁当・昼食提供について、もっと多い報道がされています。昨年、こども家庭庁が児童クラブにおける昼食提供を事実上推進するような通知を出しました(令和5年6月28日付こども家庭庁成育局成育環境課事務連絡)。それをきっかけに一気に児童クラブでの昼食提供決定が相次いでいますが、先に紹介した野洲市では、記事に「夏休み期間中に学童保育を利用する家庭の弁当作りの負担を軽減するため、おととし(令和4年)から試験的に夏休み中に3回、有料で昼食を提供したり、保護者にアンケートを行ったりしてきました」とあり、児童クラブにおける昼食提供は徐々に増えていく傾向にあり、それが「国のお墨付き」を得て急加速している、という様相です。

<弁当の壁はどうして存在しているのか>
 放課後児童クラブが朝から開所している場合(よく「一日保育」と呼びます)、子どものお昼ご飯をどうするか、それはもう何十年も前から、のどに刺さった骨のように児童クラブ業界においてはずっと取れない、つまりすっきり解決しない問題でした。ありていにいえば「弁当を作るのが大変だから、クラブで弁当を取ってほしい」と求める保護者側と、「大変だとは思うけれど、我が子のために弁当を作ってあげてほしい」と願うクラブ職員側のせめぎ合い、と言う構図です。児童クラブ側には「ただでさえ大変忙しい一日開所時に、さらに業務が増えることは絶対にやめてほしい」という切実な要望もありました。

 この、業務が増える事への恐怖、実はこれこそ、児童クラブ側が弁当を提供することへの最大の拒否反応の原因です。つまり、「弁当の壁」があるとしたら、私はこれが壁の土台であると考えています。児童クラブはたいてい、職員数が足りません。本来なら必要な人数に足りていないことは当然、「本来なら十分である人数」とされている人数が実は十分ではないのです。数十人、それも40人や50人、60人という子どもたちと関わる職員数が4~5人ですよ。そのうち1人は統括で全体を指揮するとして、あれもこれもたくさんの業務が山積みの中、弁当に関する業務まで加えてほしくないのです。
 まず「アレルギー」事案への心配があります。アレルギーについては「非常に配慮している保護者」と「全く気にしない保護者」に二分される印象が私にはあります。怖いのは後者、我が子のことなのにアレルギーを気にせずに弁当を注文してしまい、クラブで食べた子どもがアレルギー症状を起こしてしまうということを極端に恐れていますし、充分にありえると考える児童クラブ職員は大変多いでしょう。
 そして、必ず「生ごみ」が出ます。これは宅配弁当にありがちですが、「揚げ物が多い」「濃い味が多い」「似たような味付けが多い」ので、最初の数日は喜んで食べても、それが10日程度を超すと、子どもは得てして弁当に飽きてしまうのです。で、弁当を食べきれず残す子どもが出てくることが多いのです。大人でも、同じ弁当屋さんに毎日ずっと注文しますか?違う店に頼んだり、ラーメンやそば、パスタ、定食屋にしたりと料理を変えることはありますよね。同じような味付けを毎日食べるのは基本的に飽きるのです。残飯は家庭に持ち帰るといっても、保護者が迎えに来るまで、その残飯はどこに片づけておくのですか?
 急に休んだ保護者から返金を求めるクレームが来たり、逆に急に登所した子どもの弁当が手配できないなど、「弁当の注文やキャンセルは保護者にお願いします」といくら行政が決まりとして保護者に提示しても、当の保護者はそんなの関係ないとばかりにクラブにあれこれと頼んでくるものなのです。

 とはいえ、「仕事が忙しくなるから弁当を頼むのは止めてください」とは、多忙の中、仕事をこなしている保護者には言いにくいですよね。「仕事でしょ?やってください」と返されるのがオチですから。よって、「親子の絆の一つがお弁当ですよ。親が作った弁当を子どもは食べたいのですよ」と、誰もが面と向かって反論しずらい「親子の愛情、関わり」を持ち出すのですね。

 さらにもう一つ。私は本にも書きましたが、弁当は、その状況を見て家庭状況を知る、ずばり言えばネグレクトやそれに近い状況にあるのではないかを探る手段になっています。つまり児童クラブ側にとって対応や支援の方針を考えるための参考にもなっています。ふたを開けたらミニトマトが数個入っていただけとか、焼いても茹でてもいないウインナーが数本入っているだけとか、実際にそういう例に私は遭遇したことがありましたし、当ブログを読んでおられる支援員の方々も、何か思い当たる節があるでしょう。しかしこれは児童クラブ側としては保護者には言えません。保護者の側からすれば「弁当一つで勝手に家庭の状況を決めつけないでほしい」と憤慨する向きもあるでしょう。誤解しないでいただきたいのですが、弁当「だけ」で判断するような浅はかなことはありません。あくまで参考情報の1つですから。

 保護者側が弁当を手配するということも珍しくありませんが、これも問題があります。保護者側が背負う、弁当手配業務の負担です。弁当手配係だった保護者が夏休み前に児童クラブを退所してしまった、どうしようという話もあります。

 まあ、ですから、児童クラブ側としては基本的に弁当を提供するのは嫌なのです。いくら行政が、「手配は全て保護者が自助努力で行いますから」といっても嫌なのです。ただし弁当は嫌な児童クラブ職員は多いですが、「人の手配と、予算の問題が解消すれば」職員たちが、子どもたちへの昼食を作ることは結構、歓迎する向きは多いようです。今どきの宅配弁当ほど献立の種類は多くはできませんが、季節に応じた献立を考えられる。キャンプが近いときには子どもと一緒にカレーの試しづくりもできる。クラブ内の台所や調理場で昼食を作っているときの、おいしそうな香りで子どもたちがわくわくしてくるその様子を見るのも職員には楽しみです。

 児童クラブにおける昼食提供がなかなか進まなかった、つまり弁当の壁ができていたのは、私は、児童クラブの過酷な職場環境がその最たる要因だったと考えます。職員配置数に余裕があり、大人数に提供できる料理を作れる施設が整っていて、メニューを考えるのに困ることがないある程度の余裕を持った予算があれば、児童クラブでの昼食提供は、ずっと昔から行われていたでしょう。国や行政は、「保護者が注文をすれば、現場に負担は生じないでしょう」として弁当提供を推進しているように見受けられますが、注文業務よりも、食事を作ることよりも、その後の業務こそ現場職員には過酷な負担なのです。その負担を解消するには最終的にマンパワー、つまり人手です。職員数が増えない限り、あまりの忙しさに夏休みの勤務を拒否するクラブ職員だって出かねません。昼食提供を推進するなら、強制的にプラス1人の職員加配を義務づける程度のことは、やっていただかないと、現場が滅びますよ。

 なお、児童クラブにおける食事提供が恒常的になった場合、保健衛生方面における行政的な取扱いに関して別の課題が浮上することになるでしょう。今は、児童クラブは家庭の延長という位置付けですから飲食店でもなく保育所でもなく、事実上、保健衛生や食品衛生面での規制はありません。それについて何らかの規制が行われるようになる可能性はありますし、私は、事実上見過ごされているこの分野に、国は責任をもって取り組むべきだと考えています。調理設備や食品衛生に関する資格者配置の義務化など、規制を強化すると、それに適合できない施設が続出してしまうことになるでしょうが、子どもの命を守るために必要な規制であれば、ちゅうちょなく行うべきでしょう。

<昼食提供は利便性だけが注目されるが、見過ごされてはならないことがある>
 先の記事でいえば、500円を超える弁当の値段がありましたね。1食500円を例えば夏休み期間を20日間利用するとしたら、1万円になります。それを苦にしない保護者世帯は当然ありますが、同じように1食200円であってもそれが家計の負担となる保護者世帯もまた、かなりあることを考えてほしいのです。

 国が毎年行っている、放課後児童クラブの実施状況調査では、児童クラブの利用料の減免が調査項目になっています。何らかの事由で利用料を軽減されている状況について調べているもので、世帯数の調査ではないのが残念ですが、減免を行っているクラブ数について調査しています。
 令和元年と令和5年のデータを比較してみます。「就学援助」を理由に利用料が減免されている児童が在籍しているクラブ数で比べましょう。就学援助の基準は市区町村で異なりますが両親と子ども1人なら世帯年収300万円前半でしょうか。
 令和元年 5,405クラブ 全クラブに対する割合は、20.9% (全クラブ数:25,881)
 令和5年 7,262 クラブ 全クラブに対する割合は、28.1% (全クラブ数:25,807)

 ここには掲載していませんが、元のデータでは市町村民税非課税世帯も増えています。ひとり親世帯も増えています。総じて、児童クラブの利用料に何らかの理由で減免の措置を適用されている児童クラブ利用世帯は増えているのです。児童クラブを利用する世帯は単純に増えていますが、割合として増えているということは、何らかの理由で減免の措置を受けられるほどの所得が低い世帯そのものが増えているということです。

 総じて家計が苦しくなっている世帯がじわじわと増えている中で、児童クラブにおける昼食提供は必要であっても、家計の負担については十分な配慮が必要であると考えます。つまり、「昼食提供が実現=保護者の負担軽減で万歳!」という利便性向上の面だけでなく、「毎日、数百円の負担を余裕で受け止められる子育て世帯ばかりでは、ないよね。では家計が厳しい世帯はどうすればいいのか?」を、報道する時にどうして考えないのだろうかと、私は疑問です。まして、1食500円の弁当は、児童クラブにおける昼食提供として理想的かどうかといえば、私はまったく違うと考えます。記者は「毎日500円を余裕で出せる世帯ばかりが児童クラブを利用している」と考えているのでしょうか?なおこうした価額の弁当であっても児童クラブ利用料の減免世帯には別途、市区町村が補助を出すのであれば話は別ですが。

 私は児童クラブにおける昼食提供は、保護者の利便性向上と同等程度に「学校給食がないために栄養面、カロリー面で不足が生じる貧困世帯への対策」の観点で推進されるべきだと考えます。まして、欠食児童が生じることは避けたい。その点において、「児童クラブの利用料が免除になっていても、毎月数千円程度の実費負担分が重荷で利用できない、極めて家計が厳しい貧困世帯があり、そのような世帯の子どもに対してこそ、福祉の手を差し伸べる必要がある」という現実もまた、市区町村が解決に向き合うべき問題であると考えます。

 放課後児童クラブは、働く保護者が作り上げた仕組みですから、働く保護者の利便性向上のために必要な施策を取り入れるのはある意味、原理原則にかなっています。児童福祉の観点はむしろ後付けに近い(留守家庭の子どもを放置しないということは十分に児童福祉ですが、発生事由は、保護者の就労保障です)のですが、「児童館がこれだけ減ってしまった現代においては、児童クラブこそ、こどもまんなか社会において、こどもの健全育成の拠点となるべきだ」という考えを私は持っています。保護者の利便性向上だけではなく、子どもの「食」を支える仕組みとして、児童クラブにおける昼食提供を推し進めていただきたい、つまり「昼食提供に補助金を出すこと」を、国と行政に期待しますし、その観点でメディアにはしつこく取り上げていただきたい。その際は「児童クラブの職員数が少なくて過重業務なので、そこが解消されないと夏休みの児童クラブ開所がおぼつかなくなるよ」ということも同時に取り上げていただけることを願っています。

<おわりに:PR>
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 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されます。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)になる予定です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。アマゾンでは予約注文が可能になりました!お近くに書店がない方は、アマゾンが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
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 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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