放課後児童クラブの夏休みはロング勤務。労働時間を確実に把握することは法令遵守のイロハのイ。働き方を学ぼう。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。地域によって差はありますが、間もなく夏休みが終わり、朝から夜までの長い長い勤務もようやく終わりますね。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の繫忙期といえるでしょう。その期間、しっかりと労働時間を把握されて評価されていますか?お仕事の時間について基礎的なことを学びましょう。なお、具体的な手続きについては国家資格を持っている人(社会保険労務士、弁護士)に依頼して行ってください。それ以外の方は手続きができません。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<働いている時間は、お金が出る時間。だから働いている時間を正確に把握することが最重要>
 どんな仕事であれ雇用契約を結んで働いている人は働いた時間に応じて決められた賃金を支払われています。よって働いた時間=労働時間を正確に把握することが、正しい給与、報酬の額を得るための大前提ですね。では、「正確に把握」するということを考えてみましょう。
〇「正確に記録すること」=出勤時刻、退勤した時刻、休憩をした時間、時間外労働(残業)をした時間を、客観的に確認できる手法で記録すること。
 →労働時間を記録していないと労働時間に見合った正しい報酬額を得られません。ICカードで電子的に記録している事業者が増えているでしょうが、1クラブ1法人(または保護者会、地域運営委員会のような任意団体)という小さな事業者では、タイムカードも採用しておらず「出勤記録簿」(職員が自ら手書きで日ごとの出退勤時刻などを記録するもの)を使っている場合もあるでしょう。法律上は、出退勤など労働時間の正確な管理は事業者(つまり経営者)にあります。保護者会運営のクラブなら、保護者会がクラブ職員の出退勤時刻、労働時間を管理(=職員が情報を正確に記録しているかを確認し、不備がないかどうかを確認すること)しなければなりません。保護者会のみなさんは実施してますか?たぶん、職員任せにしているでしょう。その時点でもうダメなんですよ。

〇「正確に把握すること」=その労働時間がどういう状態に当たるかをしっかりと区別すること。時間外労働か、休日労働か、深夜労働かを法令や就業規則、労使協定等にのっとって確認すること。
 →クラブ職員の労働時間を決めるための根拠はいくつかあります。その根拠は、事業場(仕事の現場)の規模によって使える根拠が異なっています。どこの現場でも通用するのは法律です。労働基準法や労働契約法といった法律ですね。重要なのは就業規則ですが、就業規則はどの現場でも必ずあるものではありません。この点、注意が必要で、厳密には、1つの児童クラブが1つの事業場と捉えれば、その児童クラブに常時10人以上の労働者がいない限り、作成する義務はありません。この場合の常時10人以上というのは正規職員、常勤職員だけではなく、例えば週に1日だけ勤務の非常勤職員(いわゆるパート、アルバイト)であっても定期的に仕事をする職員であれば、10人の中に含まれます。
 労働時間を正確に算定するには、就業規則を作成する義務がない事業場であっても就業規則を作成したほうが良いのです。就業規則を作らなければ、出退勤の時刻も定められず、働く人に有利な休日や休暇の制度が設けられません。現実的には複数のクラブを運営している法人組織であればほぼ確実に就業規則は制定しているでしょう。働く人すべてを公平に取り扱うための判断基準ですから、就業規則はもれなく作成しましょう。

〇「正確に判定すること」=働いた時間は、どういう性質の時間に該当するのかを判定、判断すること。
 →これは報酬の額に直結する極めて重要なことです。「この時間は、時間外労働や休日出勤の時間なのか。つまり、割増賃金が適用となる時間なのか」ということと、「そもそもこの時間は、労働時間として判断できるのか」ということです。これは大変に難しい。職員の給与を計算する人は1円たりともここで失敗してはいけません。事業規模が大きい法人なら、ここの部分を外注して外部の専門家に行ってもらうこともあるでしょうが、放課後児童クラブの勤務は他の事業者とくらべてあまりにも日々の労働時間に変動が激しいので、児童クラブの給与計算は煙たがられる傾向が多いようです。
 この判定の方法は、現場職員もできるだけ把握しておくべきです。自分で計算した場合の給与と、実際にもらった給与の額があまりにもかけ離れていることを気付くことができるのも、現場職員が判定できることが前提です。
 ここの部分を考えるためには、自分はどれだけの時間、働くことになっているのかをしっかりと確認しておくことが前提です。決められた労働時間のことを「所定労働時間」といいます。決められた労働日数のことを「所定労働日数」といいます。所定労働時間は日ごと、週ごと、月ごとに決められます。所定労働日数は週ごと、月ごとに決められます。それらは就業規則に明記されておくべきものです。
 そして、労働基準法によって法違反とならない最大限の労働時間のことを「法定労働時間」といいます。法定労働時間は、1日8時間、1週40時間となります。変形労働時間制等を採用していない場合、この時間を超えたら時間外労働になります。また、所定労働時間を超えて働いた時間は、別途、賃金を受け取れることになります。法定労働時間を超えないまでも所定労働時間を超えて働いた時間のことを通称「法内残業時間」と呼んでいます。
 ※これは覚えておこう!
・(変形労働時間制等を採用していない場合)1日において8時間を超えたら時間外労働。原則2割5分以上の賃金になります。時給換算2,000円の人が8時間30分働いたら、8時間を超えた0.5時間について、2,000×1.25×0.5=1,250円の賃金となります。
・午後10時を超えた勤務は「深夜労働」となります。原則2割5分以上の賃金となります。変形労働時間制等を取り入れていない場合の児童クラブで、午前8時勤務開始の職員が午後11時まで働いた場合(休憩は午後2時から1時間あったものとする)、こうなりますね。
 午前8時~午後2時まで=6時間、午後3時から午後5時まで=2時間→ここまでで8時間。
 午後5時~午後10時まで=5時間→1日8時間を超えているので2割5分以上の割増賃金で計算します。
 午後10時~午後11時まで=1時間→1日8時間を超え、かつ、深夜時間帯ですから2割5分以上プラス2割5分以上、つまり5割以上の割増賃金で計算します。時給換算2,000円の職員なら、次のようになります。
 午前8時から午後2時までと、午後3時から午後5時まで=8時間×2,000円=16,000円
 午後5時から午後10時まで=5時間×2,000円×1.25=12,500円
 午後10時から午後11時まで=1時間×2,000円×1.50=3,000円
 合計=16,000円+12,500円+3,000円=31,500円
(なお、原則的に月給制の場合は、時間外労働と深夜労働による割増賃金分が基本給に加算して支給されることになります)

 よく問題になるのが、始業や終業のあとの「準備時間」や「後始末時間」です。基本的にそれらも労働時間として算定しなければなりません。午前8時出勤のシフトがあるとして、クラブの開所が午前8時となっていたら、現実的には10分や20分前に出勤しないと子どもを受け入れることはできませんよね。準備が必要です。つまり午前8時出勤となっていても、現実には準備のために出勤した時間も労働時間になります。準備に裁定10分は必要としたら、事業者側は本来、午前7時50分を始業時間に設定するべきです。あるいは午前8時始業を変えないなら、その前の出勤時刻も賃金支払の労働時間として賃金算定の時間に算入しなければなりません。それもまた時間外労働の扱いとなります。ここは、職員側が事業者に正当な権利としてしっかりと要求しましょう。

<働いている時間をどう設定するか>
 職員として働く側も、職員を雇う側にも大事なことは、正確な賃金を算定することです。一方、雇う側としては、特に人件費に限りのある児童クラブとしては、法律に違反しない範囲で、いかに効率的に、手元の予算を使って職員たちに最大限、働いてもらうかが大事です。このことで有効なのが、変形労働時間制などです。以下はその長所、短所をごく簡単に説明します。
〇1年単位の変形労働時間制=1か月を超えて1年以内で労働時間の設定を考える仕組み
 ・1週間平均で40時間以内の労働時間となるようにする。
 ・「特定期間」を設定すれば、その特定期間については、連続して労働できる日数は12日となる。(今年の8月でいえば、8月16日の日曜日を休日とし、次の休日が8月31日土曜日と設定しても法律違反にはならない)
 ・最長の労働時間は1日につき10時間、1週間52時間の上限がある。
 ・導入には労使協定を結び、労働基準監督署長に届け出なければなりません。
 ※ポイント=児童クラブは8月が一番忙しい時期ですから、8月を特定期間とすることになるでしょう。1日10時間の限度がありますから所外活動で職員の勤務時間が長いときには1年変形を入れても時間外勤務が発生する可能性が高いです。
〇1か月単位の変形労働時間制=1か月以内の期間で労働時間の設定を考える仕組み
 ・1週間平均で40時間以内の労働時間となるようにする。
 ・1日や1週間ごとの上限はありません。極端な例では、1日12時間の労働時間を設定する日があっても問題ありません。当然、その他の日で、労働時間が短い日が必要となります。全体の平均で、週40時間以内にするためです。
 ・導入には就業規則に盛り込むか、労使協定を結んで労働基準監督署長に届けます。就業規則に盛り込むだけで導入できます。
〇フレックスタイム制=働く人が始業時刻、退勤時刻を決める仕組み。名前は有名ですが導入例はごく少ない。
 ・3か月以内の期間で、1週間平均の労働時間が40時間以内とする。
 ・1か月を超える場合は、労使協定を労働基準監督署長に届ける。超えなくても労使協定は必要。
 ・働く人が労働時間を管理できるので、他の変形労働時間制と違い、妊産婦(産婦とは、生後1年以内の子どもを育てる女性)でもフレックスタイム制度は適用できる。他の変形労働時間制は、妊産婦の職員が適用を断る請求をしたときには適用できません。

 私の考えでは児童クラブにおいては、ほぼシフト制で職員の勤務時間が決められている現状を考えると、1か月変形労働時間制がもっとも適用しやすいと考えています。なにより就業規則によって導入ができることと、1日の労働時間に上限がないためです。夏休みの所外活動、キャンプなどで朝6時から夜11時まで勤務する場合でも、時間外勤務を出すことなく設定できます(なおこの場合でも当然、深夜労働時間の割増賃金は必要)。
 いずれにしても、同僚の急な病気で休日を返上して勤務することや、子ども同士のトラブルで急に夜遅くまで対応が必要な勤務形態が多い児童クラブですから、時間外労働をゼロに近づけることは不可能です。平時において予測できるだけの時間外労働を回避できるという仕組みに過ぎません。働いた分はしっかりと賃金を支払うことが当然、という意識は、事業者側が持っていなければなりません。
 例えば1か月変形労働時間におけるシフトにおいて、ある週の月、火、木、金の4日間を1日10時間の勤務を予定している週があったとします。同僚の急用で、水曜日に出勤して木曜日を代わりに休むことにした場合、木曜日の10時間勤務を水曜日に行うことになりますが、週の労働時間が40時間で同じだから賃金に変化がない、とするのは間違いです。水曜日は休みの予定でしたから、その日の予定された労働時間は0時間ですから、ここに労働時間を設定する際は法律の原則通りの1日8時間を超えると時間外労働になる、という原則が適用されます。よって、週の労働時間は変わらなくても、8時間を超える2時間分は、時間外労働になります。こういうことはプロの社労士なら当然理解していますが、児童クラブはあまりにもこうした急なシフト変更が多いので職員の給与計算が大変ややこしく、外注の場合は引き受けを断られがちです。また事業所内で計算している場合、給与計算ソフトを使っていたとしても対応できない、あるいは入力データを間違えてしまうなどで、なかなか正確な計算はしにくいでしょう。外注でスムーズに給与計算をするには、固定残業代を取り入れて、つまり普段から多めに残業代を支払うことで画一的な給与額にしておく手法がありますが、予算が厳しい事業者にはなかなか踏み切れないでしょう。

 労働時間の設定と把握は、ここまでも大変な文章量になっていますがこれでもイロハの「イ」のまだ書き出しの部分にすぎないほど大変情報量が多く、かつ重要で複雑な問題です。このことを、児童クラブの経営に当たる人たちはしっかりと認識して理解していなければなりません。正確な賃金支払のための作業は極めて重要。その点からも、プロの経営者が児童クラブには必要です。保護者や職員が片手間にできるものではありません。クラブ職員の基本的な権利を守るためには、しっかりとした経営者が必要だ、ということを重ねて強調しておきます。

 <おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!私の運営支援の活動資金にもなります!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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