放課後児童クラブの企業委託に関する報道記事から思う。企業委託が進められてしまう要因は必然だったのか。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。公設の放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所を含む)が相次いで企業運営に委ねられる状況を取り上げた記事が出ました。分かりやすくていい記事です。この観点での問題意識で、放課後児童クラブを取材して報道する記事がどんどん増えていってほしいと期待します。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<報道から>
 記事は静岡新聞が9月1日8時39分にインターネットに配信したものです。静岡新聞ですから静岡県内の放課後児童クラブに関する記事ですが、その内容は全国的に共通するものです。通常、静岡新聞の記事は有料ですが、今回はヤフーに配信されたことで読めるようになっています。
公設学童 増える企業委託 ニーズは多様化、課題にも対応(あなたの静岡新聞) - Yahoo!ニュース
 横道にそれますが、私は大学を出て産経新聞社に採用されて新聞記者として社会人のスタートを切りましたが、最初の配属先が静岡支局でした。つまり静岡新聞がどれほどすごい報道機関であるかという現実を毎日、見せつけられていたということ。静岡県内における政界、官界、経済界すべてにおいて情報を漏らさない鉄壁な取材網を誇っていたのが「しずしん」そして兄弟的存在の「静岡放送(SBS)」でした。記者の人も優秀な人ばかりで、他社のひよっこ記者である私にいろいろ教えてくれた素晴らしい人たちばかりで、今でも感謝しています。

 で、その静岡新聞の記事のリードを引用します。
「静岡県内の公設学童で近年、運営委託先を地域組織から企業へと変更するケースが相次いでいる。共働きの増加により需要が高まり、開所時間の延長など利用者のニーズが多様化するほか、支援員の確保や待遇改善などの課題が表面化し、民間活力の導入が全国で進む。自治体の責任の明確化や子ども目線の運営を求める声もある。」

 記事では、実際に浜松市内において企業運営のクラブで働く支援員のコメントと、企業運営を導入したメリットについて浜松市の担当課長のコメントがあり、静岡市や沼津市など他地域で進む民間委託の状況が紹介されています。令和7年度から民間委託に切り替える磐田市のことが取り上げられていないのが残念ですね。そして全国的な傾向と、企業委託について賛否両論の意見が紹介されて終わっています。

<これは重要な問題>
 この記事で私が非常に気になったのは、企業運営で働く職員という方のコメントです。そのコメントは、要は、夏休みは時間が長くて毎日の遊びを考えるのは大変なのでクラブを運営する企業が提供する毎日のコンテンツがあってよかった、というものです。まず先にお断りしておきますが、その職員自身について何か批判や非難をするものではまったくありません。私の感想は違和感そのものなのですが、その違和感はこの記事でそのコメントを発した職員だけに向かっているものではありません。だいたい、企業の職員である立場の者が、雇用主である企業の方針に反する内容のコメントを述べ、それが報道で紹介されることはありえないことです。
 このことは、放課後児童クラブ運営指針をよりどころにしている育成支援系の児童クラブで勤務する職員にとって、どう受け止められたのでしょうか。本音の部分では実は歓迎の部分があるのではないでしょうか。私自身は、これまでに大勢出会って関わってきた多くの児童クラブ職員、支援員が実は本音ではそのような気持ちを一部でも持っているものだということを知っています。

 だからといって職員がダメだ、とは申せません。それほど、児童クラブにおける遊びとは難しいものです。児童福祉法において放課後児童クラブは遊びの場であるとされており、運営指針では遊びについて実に多くの文言をつかってその意義が説かれている。それだけ重要であり児童クラブの本質的な役割です。だからこそ、専門性が深く追求される分野であり、多くの職員、支援員にとって、児童クラブにおける遊びの意義や役割、その実践について絶えることなく学習会や分科会が業界の会合で催されている。そのことが、支援員にとって遊びとは非常に難しいということを如実に示しているのです。

 これは著書に記したでしょうか。クラブで職員が子ども達と一緒にドッジボールをして一緒に楽しみました。子ども達も大いに盛り上がっていました。で、ドッジボールの時間が終わると子ども達が職員のところにきて、「終わった?じゃあ僕たちこれから遊んでいい?」と言ったというエピソードを。職員にとってはドッジボールは「子どもと一緒に遊んでいた時間」だった。でも子どもにとっては、クラブの職員から持ち掛けられ提案されたことであり「自分たちで遊びたいからと決めた遊び」ではなかったので、そのドッジボールは子ども達にとっては本質的な意味での「あそび」ではなかったのです。

 広域展開事業者(営利も、非営利もどちらも差はなし)は日替わりでプログラムを決めてそのプログラム通りに活動をしていることが多いように私には見受けられます。静岡新聞の記事で紹介されている企業はじめ、全国あちこちで児童クラブを運営している事業者はホームページで、多種多様な活動を子どもたちに体験させていることを誇っています。

 私はそのようなことをすべては否定しません。今も昔も、家庭の経済的な格差によって子どもたちが体験できる活動の種類は限られているもの。かつてのような貧富の差、ある意味において階級の差が社会に当たり前に存在していた時代では、今はもうありません。児童クラブという場において、通常ならなかなか体験できない特別なプログラムを、児童クラブの利用料だけで体験できるなら、いわゆる「体験格差」というものを縮小することに役立つでしょう。その意義は必要だと私は考えます。
 と同時に、子ども自身が「自分でやりたいと思うことができる放課後、過ごしたいと思う放課後」を選べる環境も必要だと考えています。大人、社会は、そのような子どもの選択肢をできる限り増やしていくべきであろうと。いろいろなプログラムで各種の体験ができる児童クラブでも、伝統的な育成支援の(はた目から見たら「単に遊んでいるだけ」の)児童クラブでも、子どもが行きたいと思うクラブに行ける環境が理想であると私は考えます。体験を提供する運営内容の児童クラブであっても、「今日は何もしないコース。ただただ自分の気分のままに過ごしたいコース」が選択できるようになっていることが必要だと。そのようなことが保障されていない児童クラブは、それこそ、子どもにとっては、働いている親を困らせないために自分の気持ちを押し殺して我慢して通うだけのつまんない場所、となってしまうのではないでしょうか。

 クラブ職員、支援員にとって子どもの遊びはどうあるべきか、どうやって毎日、その遊びを展開させていくか。そのことに対する業務上の重要性とノウハウの蓄積は絶対的に必要であって、それが不足している、不十分な場合には、「どんな遊びがいいのか毎日困っています」という境遇になってしまうのです。それは職員の責任ではなく、「事業者」の責任であり「業界」の責任です。職員に、遊びの重要性と、その職員が属するクラブの子ども達の育成支援においてどのような遊びを取り入れることが重要なのか職員自身が把握できる、どのような遊びが今のクラブの子ども達に必要なのかを把握して必要な遊びを取り入れる環境を職員自身が設定すること、その重要性を事業者が理解していないということでしょう。公営クラブであれば市区町村が理解していない、ということです。そして理解をしている市区町村ならば、画一的なプログラムを提供することをもって「子ども達の安定した放課後の時間を実現できます」とプレゼンテーションで誇る広域展開事業者の主張が、いかに薄っぺらいものであるか見抜くことができるはずなのです。実際は、あれもこれも私たちはできるのですよという広域展開事業者の主張に納得してしまう現状ばかりですが。

<公の事業であれば当然に必要なこと>
 この記事で私が見逃せないと思ったことは他にもあります。
「市内では長年、主に地域組織が公設学童を運営してきたが、それぞれ開設時間が異なり、保護者の負担金の金額差も大きかった。支援員についても人手不足や高齢化のほか、給与計算など事務を担う事例もあり待遇改善が課題だった。」
 この部分は、公営クラブの問題点ですが、その課題を長年放置しておいた立場で何を言うか、というものです。その課題を解消できる立場である自治体が、課題を解消しようとせずに民間企業に任せれば解決しますというのは、本当にばかげています。カネを出し惜しんだか。いや、それは正しくない。通常、公営クラブを民営化すると補助金を増やして運営がうまくいくようにするので自治体の出費そのものは増えます(同時に国と都道府県もそれに応じて補助金を増やすので全体的にはさらに増える)。カネの出し惜しみではなく従事する職員を増やしたくない、あるいはもう限界までに少ない職員数の中で、あれこれと要望ばかりしかしてこない市民と直接に関わる業務を削減したい、という本音を隠していませんか?民営化すれば提供するサービスが平準化できるということではない。やろうとすれば民だろうが公だろうが可能だということであり、つまり公がやろうとしなかっただけ。なお私自身は、公がやるより民がやるほうが、費用対効果においてより効果的であるとは考えますが。公はとにかく無駄が多すぎる。前例踏襲が激しすぎて時代の変化についていかない。いろいろあります。

 さらに気になったことも。匿名の支援員のコメントで、こう紹介されています。「予算やリスク管理が厳しくなり、行事が制限され、手作りおやつも提供できなくなった」。え?予算やリスク管理が厳しいのは事業である以上、当然ですよ。まして子どもの命を保障する児童クラブではなおさらです。これはつまり、公営は予算やリスク管理が緩かった、ということですよね。
 また、リスク管理が緩い中でなら提供できた手作りおやつということに、疑問を持っていなかったのですか?手作りだろうか宅配弁当だろうが、子どもが食べるものについては厳重なリスク管理が必要です。リスク管理が厳しくなったから手作りおやつが出せなくなったというのは、今まではそこまで厳しくなかったから手作りおやつが出せたということであって、それを聞いて背筋が寒くなる思いをしない保護者がいるのでしょうか。「え、いままではあれこれ厳しくしていなかったから手作りおやつが出せたの?」と。

 予算やリスク管理は厳しく行われて当然です。それは公営だけの問題ではなく、保護者運営系のクラブにおいても同様です。児童クラブは公の事業ですから、持続的に安定して事業運営が続くことが重要です。予算の管理、リスクマネジメントは当然であって、その当然の感覚の土台が法令遵守、コンプライアンスです。良くも悪くも、全国て児童クラブを運営する広域展開事業者は、表向き、そのような安定した事業運営については万全と見えるものです。
 全国各地で公営クラブが相次いで企業運営に変わっていくのは必然がある。そしてそれはいずれ、事業運営が万全の基盤の上に成り立っているとは思えない零細、中小規模の保護者運営系、非営利法人系にも及んでいく。実際に大激変時代は、昨年の愛知県津島市から始まっているのです。

<おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!私の運営支援の活動資金にもなります!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)