放課後児童クラブの仕事は心理的負荷(ストレス)で心を病むことが多いもの。カスハラ、パワハラでも労災認定は可能

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の仕事は、特に対人関係において、かなりの心理的な負荷(ストレス)を避けられません。その結果として過大な心理的負荷によって仕事を休んだり辞めたりせざるを得ない状況になることも珍しくありません。そんなときは迷わず労災認定を目指しましょう。なお、労災に関しては必ず勤務先に相談してください。万が一、勤務先が対応しない、あるいは誠実に対応してくれないというときは、弁護士や社会保険労務士、労働局など国家資格がある方や行政庁に相談してください。それ以外の方や機関では対応できませんし、法令違反になります。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<そもそも「労災」とは>
 仕事をしているときに被ったけが、あるいは仕事が原因で病気になったというときに、「労災」が認定されるということは、社会人になった人ならたいてい知っているでしょう。放課後児童クラブでの仕事で、子どもと遊んでいる最中にアキレス腱を断裂した、という場合、そのけがは労災認定されることになるでしょう。そもそも労災とは「労働者災害補償保険」のことで、それを「労災保険」と略し、さらに「労災」と略して使います。つまりは、保険です。クラブで遊んでアキレス腱を断裂したときは、「健康保険」ではなくて労災で治療をしますが、健康保険ではなく労災保険を使う、ということになります。健康保険は、職員自身と勤め先が保険料を折半して支払っていますが、労災保険は勤め先、つまり会社だけが保険料を負担します。

 この労災ですが、仕事に関するけが、病気、障がいであればもちろん対象となります。死亡も含みます。それらを業務災害と呼びます。業務災害として扱われるには、「業務遂行性」がある(=労働契約に基づいて事業主(会社)の支配下(つまり管理監督の下)にある)状態で、「業務起因性」(=けがや病気、障がいが業務に基づいて発生)が認められることが必要です。現実的には、この2点において、労災として認めたくない会社側(または政府。労災保険は政府が保険者として管掌しています)と、労災補償を求める労働者側とで、裁判で争うということも珍しくないのですが。
 仕事中に骨折した、ねんざした、切り傷を負ったということは分かりやすいですね。仕事をしているうえで受けた過重な心理的な負荷(ストレス)によって心の病になってしまった、メンタルヘルスに重大な影響を受けてしまった場合にも、もちろん労災が適用となります。実はこのほど、この精神的な場面での労災について、かなり大きな変化がありました。それを紹介します。児童クラブの仕事においても影響があると思われます。

<少しだけ労災認定のハードルが下がったよ>
 心理的な負荷によって精神障害、いわゆる対象疾病(うつ病など)を発症したとき、それが業務災害にあたるかどうかを判定する時に使う「認定基準」というものがあります。この認定基準が改定され、心理的な負荷による精神障害の労災認定基準が少しだけ働く側に有利になりました。(昨年9月から適用)

 今までは、例えば、仕事が原因でうつ病になったとしたら、その「発病」前のおおむね6か月間に、仕事に関して「特別な出来事」があり、仕事以外の理由でうつ病を発病したとは認められないということがそろっていてようやく業務災害として認められる=労災認定される道が開ける、ということでした。この「特別な出来事」というのが結構、高いハードルでした。特別な出来事とは、特に強い心理的負荷となる出来事のことで、例えば、生死にかかわるような出来事があって心理的な負荷が極度に重いものや、発病1か月前におおむね160時間を超える時間外労働を行った、ということが示されています。児童クラブの通常の日々行われる仕事において、生死にかかわるような出来事とか、160時間を超える残業というのは、なかなか考えられません。この点では高すぎるハードルでした。

 それがこのほど、「特別な出来事がない」場合であっても、過去6か月の間に業務において「強い」心理的な負荷があってうつ病が発病したうという場合は、労災認定される可能性がでてきたのです。肝心なのは、「強い」心理的な負荷の内容です。では、「強い」心理的な負荷というものは具体的にどのような状態を指すのでしょうか。これについて、国は「評価表」において具体例を示しています。特に、職員間の人間関係によるトラブルが多い児童クラブにおいて問題になりがちなパワーハラスメントにおいて国は具体例を示すようになりました。それを紹介します。パワハラは6つのタイプに分けられますので、そのタイプごとに示すと次のようになります。
(1)身体的な攻撃=「上司等から、治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた」←これは、児童クラブではほとんど無さそう。「上司等から、暴行等の身体的攻撃を反復・継続するなどして執拗に受けた」←これは病院に行く程度のけがは受けていないけれども、何度も繰り返されたパターン。これも児童クラブではあまりなさそう。
(2)精神的な攻撃=「上司等から、次のような精神的攻撃等を反復・継続するなどして執拗に受けた」。この具体例として、「人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃」と、「必要以上に長時間にわたる厳しい叱責、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃」が挙げられています。←これは、児童クラブの世界ではあながち無いとは、言えません。
(3)人間関係からの切り離し=「無視等の人間関係からの切り離し」
(4)過大な要求=「業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことを強制する等の過大な要求」
(5)過小な要求=「業務上の合理性なく仕事を与えない等の過小な要求」
(6)個の侵害=「私的なことに過度に立ち入る個の侵害」
 そして、「心理的負荷としては「中」程度の身体的攻撃、精神的攻撃等を受けた場合であって、会社に相談しても又は会社がパワーハラスメントがあると把握していても適切な対応がなく、改善がなされなかった」(中程度というのは、治療は必要ないけがを負わされたり、攻撃の回数が少ない状態)についても、「強」とされています。つまり、他の職員たちが大勢いる前で、仕事のミスではないことで上司や同僚から不条理な文句を言われたことがあって、今後はそういうことが起きないように会社に依頼したのに取り合ってもらえず、また同じように大勢の目の前で根拠のない嫌がらせを与えられた、ということが相当するでしょう。
 これらは児童クラブにおいて決してめったにないことではないでしょう。160時間の残業とか生死にかかわるような重大な出来事より、はるかに直面する可能性が高いものです。

 もし児童クラブで働いていて、上記の6つのパターンに当てはまっていて、それが「執拗に」繰り返された結果、職場に行けなくなった、診断を受けたらうつ病だったというときは、労災に認定される可能性が出てくるのです。労災が認められると、休業の補償がもらえます。もちろん治療費は無料になります。職場で受けたひどいハラスメントが原因で、その後何年も働けなくなった場合も、補償が受けられます。なお、パラハラをしてくる相手は上司だけではなく同僚も含みます。年齢の上下やキャリアの上下は関係ないと考えていいでしょう。中途採用が圧倒的に多い児童クラブですから、自分の子どもぐらいの若い正規職員からの、あまりにも厳しすぎる指導が続いた結果、心を病んでしまったという場合も労災認定される可能性はある、ということです。

 もう1つ。この度の改正では、カスタマーハラスメントも、この心理的な負荷による評価表に追加されました。つまり、児童クラブの仕事でよくある、保護者からの執拗な精神的攻撃、嫌がらせで心を病んでしまいうつ病などになったときも、労災認定される可能性がある、ということです。カスハラについては「顧客等から、人格や人間性を否定するような言動を反復・継続するなどして執拗に受けた」、「顧客等から、威圧的な言動などその態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える著しい迷惑行為を、反復・継続するなどして執拗に受けた」ということなどが評価表に盛り込まれました。パワハラと同じように、会社に改善を求めても何もしてくれなかったことが原因で発病したときも心理的な負荷は「強」と判定されるべき状況になります。例えば、保護者から無理やりな謝罪、土下座を他の保護者の前で強制され、それが何度も続く場合とか、「うちの子についてこうしてくれない限り、ずっとずっと聞き入れるまで私は言い続けますよ」として執拗に理不尽な要求を続ける、ということがあてはまるでしょう。残念ながら、児童クラブの世界ではまったくありえない話ではないのです。

 児童クラブの仕事は、子どもたちと遊ぶことによる体を動かす動作によって起こるけがが労災としてすぐに想像されますし、社会の認識もおおむねそのようなものでしょう。ところが、児童クラブの仕事は、「子どもや保護者、もちろん同僚や上司も含む組織内の人間関係も含んで、他人とのコミュニケーションの上に成り立つ業務」の連続です。つまり高度なコミュニケーション労働であって、心理的な負荷は常にかかっているものです。今は8月の夏休み期間中ですが、夏休みの厳しい労働を終えた9月以降、その反動で、一気にメンタルを病む児童クラブ職員がいるものです。

 児童クラブにおける労災について、とくに精神障害(これは法令上の呼び方をそのままつかっているので、誤解なきように)に関する労災認定には、もっともっと児童クラブの業界を含めて、しっかりと学んで具体例をどんどん積み上げていくことが必要です。こういうものは、過去の実例が積み重なって後々の労災認定に影響を及ぼすからです。

<労災の手続きをいやがる事業者>
 ところが残念ながら、児童クラブに関わらないのでしょうが、労災認定について消極的、あるいははっきりと拒絶反応を示す事業者は実に多い。まったくばかげたことです。確かに、事業者にとって厳しい面があります。私も何度も経験しましたが、相次いで労災の手続きをしていると労働基準監督署から問い合わせが来ます。ちゃんとした労働管理をしているのか、労働安全衛生上なにか問題があるのではないか、業務災害防止のマニュアルはどうなっているのか、というような厳しい問い合わせです。そこから先は私にも経験が無いですが、労基署による立ち入り調査もありえます。

 こうしたことは本音で言えば大変に面倒くさい。「本部事務局職員の、まさに心理的な負荷が強い」ことにもなります。ですが、労災補償は労働者である以上、当然の権利ですから、雇用する事業者は粛々と労災の手続きを進めなければなりません。それが、法令遵守です。

 もし、お勤め先の事業者が「それは労災じゃないから」とか「うちはその程度じゃ労災にしないよ」と繰り返す事業者であれば、「今すぐにでもそんな事業者から退職して別のまともな児童クラブ事業者に転職しなさい」と勧めます。まともかどうかを見極めるには、採用面接の場で「労災認定について御社はどのように対応されていますか」と聞いてみればいい。そこで丁寧に、まったく嫌がらずに「当然、すべての業務災害は労災認定されるよう手続していますよ」とスラスラ答えてくれる事業者なら、まあ安心でしょう。労災認定を渋る事業者で、だれが損をするかといえば、けがをしたり病気になったりした労働者自分自身だけです。だれも面倒を見てくれません。そして、弁護士や社労士、労働局などに「証拠をそろえて」ぜひ相談してください。運営支援は無資格ですので具体的な労災の対応を行うことは不可能ですが、証拠のそろえ方程度であれば助言はできます。それから先はご自身で解決を目指して「動く」ことです。いいですか、自分自身を守るには、自分で「動く」ことが必要です。自ら助けを求めようとしない限り、助けはやってこないのです。動くのは大変です。勇気も必要です。しかしその勇気が、後に続く人たちを救うことになるのですから、ぜひ動いてください。
 (この点、児童クラブの世界は、こんなにひどいことがあったと業界内の集まりで声を上げてお互いに慰め合っている光景を大変よく見ますが、ただ吐き出して個人的なストレスの軽減になること以外、何の事態の解決にもなりません。そんなことをよく何十年も繰り返して平気なものだね、と私は思いますが)

 <おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。8月6日時点では楽天ブックスなら在庫があります。また、寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊ほど届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)