放課後児童クラブの予算、増えていますけれど、もうちょっと頑張って、こども家庭庁さん。令和7年度予算概算要求

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。8月30日に、こども家庭庁が令和7年度(2025年度)予算の概算要求について資料を公開しました。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所を含む)の予算は、ちょっとですが増えています。これはあくまで「概算要求」であって来年度の予算額ではありません。この額をこども家庭庁が財務省に要求して、その結果、財務省が年末までに予算を決める、という流れになります。それではこの概算要求について私の意見とともに内容を紹介します。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<概算要求の比較>
 こども家庭庁の令和7年度予算の概算要求では先日、6兆円を超えるという報道があって旧ツイッターで炎上気味になっていました。たいていは、その6兆円を国民に配れば少子化問題解決するだろ、という短絡的すぎる馬鹿げた意見でしたが、6兆円の予算をどう使っているのか、普段から国民に丁寧な説明が足りていないのは確かでしょう。児童手当や保育所、こども園などへの予算ですし、そして放課後児童クラブへの予算が含まれています。

 では放課後児童クラブに充てられる予算についてです。

令和7年度概算要求令和6年度概算要求令和5年度概算要求
1,392億円+事項要求1,216億円の内数+事項要求
(運営費部分は1,046億円+事項要求)
1,065億円+事項要求
前年より176億円の増加前年より151億円の増加前年より173億円増加
(運営費分と比べた増加分)
こども家庭庁の公開資料より

 令和7年度概算要求は176億円の増加となっています。もちろんこの額が増加額になるのではありません。「事項要求」といって、「これだけの額をください」という要求の形ではなく「もらえる分だけください」という分がさらに上積みになります。なお、令和5年度の予算は1,215億円、令和6年度が1,398億円であると、こども家庭庁の資料にあります。それを踏まえると、令和7年度の放課後児童クラブの予算は、前年度より6億円減らした予算額に、事項要求を乗せています。最終的には令和6年度予算を上回るのでしょうが、控えめに要求したのか他のところに6億円分の予算を付け替えたのか、そのあたりはよく分かりません。

 1,392億円は、全部が児童クラブの運営につぎ込まれる予算ではありません。本体ともいえる「放課後児童健全育成事業(運営費)」に加えて次の項目があります。
「放課後子ども環境整備事業」(継続)
「放課後児童クラブ支援事業」(障害児受入推進事業/運営支援事業/送迎支援事業、継続)
「放課後児童支援員の処遇改善」(放課後児童支援員等処遇改善等事業/放課後児童支援員キャリアアップ処遇改善事業/放課後児童支援員等処遇改善事業(月額9,000円相当賃金改善)、継続)
「障害児受入強化推進事業」(継続)
「小規模放課後児童クラブ支援事業」(継続)
「放課後児童クラブにおける要支援児童等対応推進事業」(継続)
「放課後児童クラブ育成支援体制強化事業」(継続)
「放課後児童クラブ第三者評価受審推進事業」(継続)
「放課後児童クラブ利用調整支援事業」(継続)

 いずれも重要な補助金ばかりですが、とりわけ、育成支援体制強化事業は、実質的に複数クラブを運営する事業者の本部機能充実に使える補助金ですし、昼食提供に従事する職員の人件費にも使えます。この補助金を、市区町村が進んで採用することが必要です。そうです、国は補助金のメニューをそろえるだけではなくて、「市区町村が補助金メニューを軒並み要求する」ことを後押し(事実上の強制)することこそ必要です。
 処遇改善も大事な補助金ですが、これはそもそも放課後児童クラブの職員の給与が低すぎることをなんとかしようとして生まれた補助金です。ところが人件費については運営費が充てられるものです。その運営費が職員人件費に回らない、充てられないという実情を踏まえてうまれた処遇改善であり、補助金の対象となる人件費にさらに補助金が交付されるという妙な形です。しかも、新型コロナウイルスの感染拡大期にうまれた9,000円相当の賃金改善がさらに屋上屋を架す上にさらに屋根を乗せています。そうでもしないと職員の給与がなかなか上がらないのですが、この異様な形は早急に抜本的に解決されるべきです。つまり、「運営費を大幅に増額する」ことに加えて「職員人件費が十分に引き上げられているかどうか市区町村が管理監督し、不十分であると認められる事業者は選定しない、あるいは公契約条例でもって賃金の最低水準を引き上げる」という政策的措置を施すことが必要です。
 
 また、これとは別に、「子ども・子育て支援施設整備交付金」という別の予算から、放課後児童クラブの整備費が用意されます。前年度に引き続いて、本来の補助の割合が「国1/3、都道府県1/3、市町村1/3」から、かさ上げとして「国2/3、都道府県1/6、市町村1/6」と、示されています。これは施設数を早急に増やして待機児童解消、小1の壁を打ち破るものですが、こうした負担割合のかさ上げができるなら、運営費についても同じようにかさ上げするべきです。保護者負担を減らしつつ市町村の負担を減らすことが求められます。次元の異なる少子化対策が必要なのですから、いまこそ、次元の異なる対応に踏み切るべきです。時限措置でいいのです。

 ほか、「放課後児童支援員認定資格研修事業」、「放課後児童支援員等資質向上研修事業」、「放課後居場所緊急対策事業」、「小規模多機能・放課後児童支援事業」、「放課後児童クラブ巡回アドバイザーの配置」、「放課後児童クラブの人材確保支援」など、前年度から引き続きのメニューが用意されています。これらは全部まとめて20億円に届くかどうかの額です。なんだか「やってる感」だけ出しているようなものですが、放課後居場所緊急対策事業は「待機児童が解消するまでの緊急的な措置として、待機児童が10人以上の市町村における放課後児童クラブを利用できない児童を対象に、児童館や小学校等の既存の社会資源を活用し、放課後等に安全で安心なこどもの居場所を提供する。」と、待機児童がいる地域では必要な施策ですから、もっと多額の予算を付けるべきでしょう。

<放課後児童クラブとDX>
 概算要求には、国が掲げるDX化と歩調を合わせて、放課後児童クラブにおけるDX化の推進も掲げられています。「放課後児童クラブ利用手続き等に関わるDX推進実証事業(仮称)」として、1.1億円が要求されています。実証なので、どこか1つの自治体でテストするのでしょう。どこの地域になるか注目です。
 「放課後児童クラブ等におけるICT化推進事業」も掲げられています。これは諸々の概算要求予算の中にまとめて含まれています。補助単価は、業務のICT化等を行うためのシステム導入について「1か所当たり 500,000円」、翻訳機等の購入は「1か所当たり 150,000円」です。

 何度も申し上げていますが、もちろん児童クラブのデジタル化は必要です。しかし、例えば子どもがICカードを持って入室、退室時にカードリーダーにタッチして記録する簡単なシステムにしても、それによって記録されたデータを処理して事業者がとりまとめ、活用するには、パソコンやらデータ処理やらに特段の苦手意識がない人材が働いていないと、それこそ機器は導入したけれど活用ができない、という状態になります。そして児童クラブの世界はまさにそうなる可能性が高い業界です。働いている人にはシニア層、シルバー世代が大変多い。50代、60代であっても、児童クラブで長年働いている人は、紙に記入する、あるいはパソコンでもせいぜいエクセル程度で、それが一番仕事のスピードが速くて今更新たな仕事の方法を学ぶ意欲に欠けるベテラン職員が幅を利かすのが、児童クラブの業界です。行政は、それを知らぬわけはないはずですが。
 つまり、今の状況は、こうしたICT化を推進する企業だけを喜ばせている状況です。むろん、業務の生産性向上のためにはDX化は必要なのですが、現状においてそれを使いこなせる人材に欠けるということです。よって、まずは、社会人スキルがごく普通の水準にある人材や、パソコンやタブレットなどの取扱いにまったく抵抗が無い人材を採用できるような賃金水準にまで引き上げてからでないと、せっかく導入した機器が宝の持ち腐れになりますよ、ということです。

<いまだに残る保護者負担>
 例年通り、令和7年度の概算要求資料にも、「運営費(基本分)の負担の考え方」の図が掲載されています。頑として国は保護者負担分を引き下げる考えはないようです。受益者負担として保護者に運営に必要な費用の2分の1を負担してもらうという考え方です。分かりやすくいうと、1つの施設の年間運営費用が3千万円だとすると、そのクラブを利用する保護者たちで1,500万円分を負担し、残り1,500万円を国と都道府県と市区町村で3等分する、つまり500万円ずつ負担する、ということです。保護者が30世帯としたら、30世帯の1カ月分の負担額は「1,500万円割る12カ月割る30世帯=41,600円」となります。

 児童クラブを利用する人数は毎年増えています。令和6年度の速報値ですが8月29日の当ブログで紹介したように、ついに登録利用率が25.78%と、小学生の4人に1人が児童クラブを利用するとなりました。おそらく小学1年生だけで考えると2人に1人となるでしょう。それだけ、多くの子どもが利用する社会インフラとなっている放課後児童クラブです。その運営には、もっと公費が必要です。今のように半分は受益者負担で国民が負担してください、ではダメです。
 もちろん国の負担割合を増やしなさいと私は言いたいのですが、それは結局のところ国民の負担ということです。それでいいのです。いまは、児童クラブを利用する子育て世帯への負担を要求していますが、それを減らして全国民で負担しよう、ということに転換することです。次元の異なる少子化対策をするんですよね?子育て支援も少子化対策であるということになっていますから、その子育て支援に重要な児童クラブへの支援をもっと強化しなければなりません。そのためには、思い切って、保護者負担を減らしてください。このことは実は根本的な考え方の変容を迫るとても重要なことです。国会議員はどうして国会で政府を追及しないのか、私には不思議でなりません。

 最後に改めて訴えますが、児童クラブにもっと補助金を増やしてほしいのは当然として、その増えた分が、そっくりそのまま運営企業の利益に化けてしまっては意味がありません。こどものため、職員のために使われる仕組みを同時に整える、必要以上に運営企業の利益になってしまわないように監視できる仕組みが必要です。貴重な税金を有効に使うために必要不可欠ですから、これは特に地方議員が主体となって行政執行部に働きかけることが重要です。国会も地方議会も、もっと児童クラブの現状を学び、問題意識を持って、放課後児童対策に取り組んでいただきたい。ただ単に行政が施設を増やせば住民が喜ぶ、子どもが喜ぶから要求しておこう、では単なる有権者へのポーズでおしまいです。

 <おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!私の運営支援の活動資金にもなります!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)