放課後児童クラブに関して運営支援が考える諸問題を挙げてみます。~書籍刊行を控え再確認します~

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の世界には実に多くの、しかも根深い問題があると運営支援は考えています。ブログ筆者初の書籍刊行を控え、改めて確認しておきます。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<構造的な問題。範囲の大きな問題>
(1)児童福祉法において、放課後児童健全育成事業(この事業が行われる施設が、放課後児童クラブ)は任意の「事業」であること。地域の実情に応じて実施するとなっていること。これを保育所や児童館のように「児童福祉施設」にしなければならないこと。どの地域においても最低限行うサービスの水準を設定する必要があること。いわゆる日本版DBSにおいて児童クラブは認定事業者(任意)に留まったことなど、実は児童クラブにまつわる問題の多くが、この任意の事業である、という点に起因すると私は考えています。

(2)「放課後児童支援員」という資格の決定的な脆弱さ。前日のブログで取り上げました。公的資格ではあるものの、座学を受講さえすれば取得できる簡単さ。こんな簡単に取得できる資格でも「放課後児童支援員の確保が難しい」という理由で、この資格者の配置義務が緩められてしまったことは情けない。確保が難しいのは、この資格を取得するのが難しいのではなくて、この資格を持っている人が「児童クラブで働いても暮らしが成り立たない」と低賃金ゆえに忌避するから。それを棚に上げている市区町村は猛省するべきですよ。配置義務が緩和されたことも日本版DBSの認定事業者となった理由だと私は考えています。

(3)国の放課後児童健全育成事業に関する重要性への認識の浅さ。任意事業だからともいえますが、今や小学1年生の半数が利用するという事実に対してその評価が浅すぎる。重要性に関する認識の浅さは、国が出す補助金の金額の少なさとして現れます。児童クラブへの補助金はたかだか1400億円です。足りません。少なすぎです。それが、児童クラブ数の少なさ=待機児童の元凶であり、児童クラブ職員の劣悪な雇用条件=低賃金の元凶&慢性的な人手不足、となっています。なお保育所・こども園は1兆円を優に超える補助金です。
 ちなみに令和5年度では全国146万人の小学生が児童クラブを利用しています。ちなみに小学生の人数は令和4年度の公立小学校で603万人です。令和4年度の児童クラブ利用者数は140万人ですから23パーセントですね。しかもこのパーセントは本来ならもっと上昇しているはずです。あとで説明します。

<具体的に利用者や職員、事業者を追い詰めている現実的問題>
(1)待機児童の発生。「小1の壁」だけではなく「小4の壁」も。児童クラブ数が少ない「施設の量」の問題と、従事する職員が確保できない(低賃金や長時間労働が嫌われる)「職員数」の問題から、児童クラブを利用できる小学生がなかなか増えない。待機児童の問題は、保護者のキャリア断絶や世帯所得の低下を招きます。児童の下校時や留守番時の安全にも影響します。

(2)大規模児童クラブの問題。待機児童の発生を避けるために際限なく児童をクラブに入所させると生じるほか、いわゆる「全児童対策事業」(保護者からは大人気の、希望する児童はすべて利用できる仕組み。午後5時までは誰でも利用でき、それ以降は若干の費用負担で午後7時ごろまで利用できる仕組み)では必然的に利用する児童数が増えることで大規模となる。子どもが過ごす生活環境が悪化してトラブルが頻発する、職員の過重労働で離職を生むなど、本当に厄介な問題。

(3)低賃金による職員のワーキングプア。
(4)低賃金による求人応募者不足が招く慢性的な人手不足。このため職員の過重労働が発生している。
(5)予算不足による児童クラブの設備の不完全さ。例えばエアコン。必要な能力分だけのエアコンが付けられていない、あるいは故障してもすぐに直せる費用がねん出できない、買い替えの費用が確保できない、あるいはエアコンが付いていても予算を気にしてフル稼働できない。予算不足がありとあらゆるところに影響する。DX化を国は推進するようだが、そもそも通信費やパソコン、サーバーの購入費用は国は出さない。土台を作らず上物だけ作ろうとしている典型的な手抜き工事といえる。

(6)児童福祉法では小学生を対象としている放課後児童健全育成事業でありながら、いまだに小学3年生や4年生など児童の利用に制限を付けている地域があること。例えば熊本市。人口80万人に迫る大都市ながら小学3年生までの利用。小学4年生以上の世帯でも防犯面や生活面を理由として児童クラブを必要とする世帯だって当然にある。児童が児童クラブを利用する権利を自治体の不作為(児童クラブ又は子どもの居場所の整備が手ぬるいこと)によって奪われているに等しい。同時に、小学高学年になると児童クラブは不要という誤った認識が根強くはびこっていること。不要となる子どもはいるでしょうが、必要である子どももいるという当たり前のことが理解されていない。

(7)保護者運営の問題。保護者がクラブ運営を担う場合、保護者が当然に負うことになる事業運営に関する法的責任について黙殺または過小評価されている。児童や職員のけが、事故による賠償責任についてどれだけ理解がなされているか。同時に、設置主体である市区町村がその責任を十分に果たしているとは思えないこと。地域の子どもの育成は最終的に市区町村が負うものです。

(8)いわゆる日本版DBS、通称・こども性暴力防止法施行への対応。

(9)広域展開事業者による、児童クラブにおける事業の質の確保の問題。どうしたって、収入の一部を利益として確保する以上、どこかしらに予算削減に伴う影響は出る。それは職員の待遇面か、児童へのサービス提供面か。現状、この状態に関する自治体のチェックは皆無に等しい。実態調査が必要だ。

(9)各地域間における保護者の費用負担及びサービスの著しい差異。年間2,000円のクラブ利用料の地域があれば20,000円近い地域がある。運営主体の形態によって差が生じるのは当然ながら、あまりにも差異が大きいのは問題。それは公共の児童福祉サービスの質は全国どの地域においてもある程度は共通した水準である必要があるため。もっとも保護者負担の低さはその自治体が予算を別に用意していることに起因するのであれば、利用者だけが負担するのではなくその地域の住民全員で負担していることになり、問題はないと言える。
 同様に、開設時間や昼食、おやつの提供について地域での差異がかなり大きいこと。午後6時で閉所するクラブがあれば、午後7時まで開所しているクラブもある。朝もまた然り。土曜日は閉所する地域がある一方で、日曜日や祝日にクラブを開所している地域もごく少ないながらある。提供するサービスの目安がないので地域ごとに差が出てしまう。

(10)子どもの、いわゆる問題行動への対応。また、保護者の非協力的態度への対応。児童クラブだけで対応できない。学校や児童相談所、臨床心理士などの専門職と連携した対応が制度化されることが必要。

<その他、運営支援が気になること>
(1)運営主体によって、どのような育成支援が行われているか、主流となっているか、なかなかうかがいしれないこと。例えば、広域展開事業者は自社のHPで、子どもたちへ豊富なプログラムを行って人気であるとPRしています。実際はどうなのか、「本当のところは」なかなか分かりません。
 また社会福祉法人の運営する児童クラブ。特に、同じ法人が運営する保育所や認定こども園などから持ち上がりで入所する児童クラブにおいて、どのような育成支援が行われているのか、これもなかなか世間に知られていない。保育所やこども園と同じような子どもへの関わり方であるのか。

(2)児童クラブの社会的な価値、あるいは社会インフラにおける役割について調査分析した論文や研究発表が少ないこと。児童クラブで過ごした子どもと、そうでない子どもの、社会における活動の軌跡等の相対的な比較など大変興味ものの、調査研究対象とはならない。あるいは調査研究したくても予算がないのか。広域展開事業者による多彩なプログラムを用意した児童クラブと、適宜に子どもの希望を取り入れて過ごす児童クラブにおける、育成支援の差など、研究対象は尽きないと思うのだが。

<これから児童クラブ業界が必ず取り組むべきこと>
(1)放課後児童クラブの「本当の目的は何か」について、もう決着を付けねばなりません。その決着とは、「保護者が留守の間に限り、子どもの育成支援を行う仕組み」で留まるのか、「保護者が留守であろうがどうであろうが、希望する限り、子どもを受け入れて育成支援を行う仕組み」とするのか、です。
 現在はもちろん前者です。多くの市区町村で、「保護者が在宅の場合は児童クラブは利用できません」「保護者の状況が変わって自宅にいる場合は児童クラブを退所してください」と決めているのはそのためです。つまり「留守の間の預かり」です。ところが多くの児童クラブでは、子どもの育ちを大事にした支援を口にします。その支援について、「保護者が留守の間の限定」でこのままでもいいのか、真剣に議論するべきです。

 もちろん私は、「保護者と一緒になって子どもの育ちに関わっていく」ことこそ、育成支援の専門職としての役割であり指名であると考えています。理由としては、「少子化時代で多くの保護者が労働力として期待される中で、仕事が休日なら保護者が休息する時間が必要」であること、「多くの保護者が子育てについて戸惑い、悩み、相談する人も少ない中で、保護者と共に子育てする、子育て支援拠点として児童クラブはその役割を発展させるべきだ」と考えているからです。また、「保護者の子育て能力が残念ながらかつてほど十分ではない」ということもあります。
 各種の法令は「子育ては保護者等が一義的な責任を負う」となっていますが、もうこれは時代遅れです。「子育ては保護者を中心に子育て支援サービスが一体化となって子どもの育ちを支える仕組みとする」に、変わっていかねばならないと私は考えています。それが、こどもまんなか社会です。子どもが利益を享受するために、保護者だけでなく児童クラブや児童館など多くの子育て支援施設が共同で、子どもを支える時代に代わるべきだと考えるからです。

(2)児童クラブが社会の発展に資する各種の役割について調査研究を重ねて公表していくこと。私はこれは喫緊の課題だと考えています。児童クラブにおける「子どもの育ち」関係については今も昔も多くの研究結果が発表されています。それはそれでよしとして、児童クラブという仕組みが社会にどう影響を及ぼしてきたか、及ぼしているか、あるいは児童クラブの運営形態によってどのような違いが生じるのか等についての調査研究が必要です。この点、私が提唱している運営支援が貢献できればいいのですが。今は残念ながら社会の理解が本当にいただけておらずビジネスとして成り立ってはいませんが、もしもこれから運営支援がビジネスとして軌道に乗れば、この調査研究について取り組む研究者への財政支援を行って調査研究結果の発表まで支えたいと考えています。今、児童クラブが相次いで取り入れようとしている各種プログラムで子どもたちが過ごす放課後と、従来型の遊びを通じた育成支援で過ごす放課後において、子どもが会得する非認知能力における差があるのかないのか、ぜひ調査してほしいテーマだと私は考えています。

(3)児童クラブの健全な発達のために、国(国会)やメディアへの働きかけ、発信してくれるための情報提供を密にしていくこと。必要な法令改正にまでたどり着けるように、丁寧に、詳しく、細かく、分かりやすく、情報を常に児童クラブ側から発信していくこと。この点において、残念ながら、保護者が運営に関わっていることが多い地域においては、児童クラブ側からの情報発信は乏しいです。後日触れますが、「分かる人が分かればいいし、利用したい側が自ら動いて必要と思う情報は手に入れるべきだ」という性質を持っているのが保護者運営といえます。情報提供の重要性の理解が乏しいこと、多忙な保護者が更に情報発信まで行う理由がないことが大きな理由と私は考えています。
 児童クラブは不十分ながらも税金から成る補助金を受けて成り立っています。納税者に対して、受け取ったお金をどう使ったのかをすべて明らかにするべきです。この点からも情報公開の必要性は言うまでもありません。子どものプライバシーとは別です。組織運営に関する情報提供は徹底的に明らかにされなければならない。それが、現状をありのままに社会に伝えることになるのです。それが結果的に国会やメディアが児童クラブの情報に容易にたどり着き、理解できる状態を生むのです。今すぐ児童クラブは情報公開に取り組むべきです。

<PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されます。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)になる予定です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。アマゾンでは予約注文が可能になりました!お近くに書店がない方は、アマゾンが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊ほど届くので!)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)