放課後児童クラブに登所中の子どもが交通事故に巻き込まれる不条理。登所中の子どもの安全確保は社会の義務だ!

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)に向かっている子どもが車にはねられるという極めて残念で、悲劇的な事案が起きてしまいました。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<不条理な交通事故>
 学校で授業を終え、放課後児童クラブに向かっていた子どもが交通事故に巻き込まれるという悲劇的な事案です。児童クラブに関わる人ならそれがどれだけ悔しいことが理解できるでしょう。事故の概要を6月5日午前8時配信の埼玉新聞記事を引用して紹介します。
「4日午後2時40分ごろ、埼玉県熊谷市成沢にある市道交差点の横断歩道で、同市立江南北小学校1年生の女子児童が軽貨物車と衝突。目撃者の男性が「車と歩行者の事故」と119番した。女子児童は頭部を負傷し、救急搬送され、意識不明の重体だという。」
「事故現場は、見通しの良い片側1車線の直線道路上で、横断歩道を挟み学童クラブや駐在所と向かい合う小学校のフェンスには「とびださない」などの交通スローガンが掲示されている。」
「現場の横断歩道では毎朝、保護者の旗当番や教諭らの見守りなどで子どもたちの安全を確保している。下校時も、児童クラブの並びにある御正駐在所の警察官が警戒に当たることがあったというが、男子児童は「いつも見てくれる人が今日はいなかった」と話す。」(引用ここまで)

 なにより、事故に遭われたお子さんの一日も早い回復を強く強く願います。事故を起こした運転者が84歳という高齢だったことから高齢者ドライバーに関する課題、問題が議論になっていますが、この運営支援ブログでは、児童クラブへの登所時間に起きた事故という観点で考えていきます。そこで考えていきたいのは環境要因であり、制度上の要因です。引用した記事にはないですが、他の報道記事には、子どもは集団下校で児童クラブに向かっていたと伝えられています。しかも児童クラブは学校のかなり近くにあったということです。実際、グーグルのストリートビューで現場をみてみると、児童クラブは学校に隣接して通る道路沿いに立地していて、道路は遠くまで見渡せる開けた土地の直線道路で、歩道もしっかりあり、信号機がある横断歩道で児童クラブ側の歩道に行くことができ、児童クラブのすぐ近くに駐在所があるという、児童クラブの立地環境としては、正直、申し分のない環境です。
  それだけに、「どうしてこのような恵まれた環境において、赤信号に気付かず、横断歩道を渡っていた子どもをはねたのか」という憤りを禁じ得ません。

<今回の児童クラブの立地は極めて理想的>
 先にも記しましたが、私の視点では、事故に遭ったお子さんが在籍しているという児童クラブの立地については好条件がそろっています。住宅密集地や都内などではとても実現できない良好な環境です。
・地図上で見れば、学校にほぼ隣接していること。
 →学校から徒歩10~20分もかかる場所に児童クラブを設置しなければならない場合も当たり前に多いものです。この事案では、児童クラブに向かうには校門を出て学校の周りを若干歩きますが、徒歩数分でたどり着ける場所に児童クラブがあります。校庭に遊びに行くには便利でしょうし、雨の日でもすぐクラブに着くので子どもの負担は少なくて済みます。
・歩道と車道が分離されていること。
 →ストリートビューで見る限り、歩道と車道がしっかり分離されています。見渡しが極めて良い直線道路ですからおそらく車の速度は高めになる道路でしょう。歩道が分離されていることは当然必要なことですが、それすらなかなか整備が進まない我が国です。
・児童クラブに向かうためには道路を横断せねばならないが、信号機付の横断歩道があること。
 →これは極めて重要です。事故現場はT字路交差点で、児童クラブに向かうには直線の本道を渡り、さらにTの字の「タテ」の道路を渡る必要がありますが、本道を渡る部分には信号機付の横断歩道が整備されています。先に児童クラブがあって、後から児童クラブに向かう子どもたちの安全を考えて設置されたのか、あるいは、先に信号機付の横断歩道があって、後から児童クラブができたのかは、私にはわかりません。まあ、もし後から児童クラブを作ったのであれば、交通量が多いと思われる方の道路に信号機が付いているのであって、子どもの身の安全の確保に配慮できるという場所を選んで設置したという懸命な判断でしょう。
 また、後から信号機付の横断歩道を設置したとなれば、それは行政側が、児童の安全をしっかり配慮していることの現われです。横断歩道や信号機の設置は実はとても難しいのです。市町村では行うことができず、都道府県の警察単位での判断になりますが、何度も要望してもなかなか実現しないことは私も身に染みて痛感してきました。横断歩道ですら、要望すれば直ちに設置されるものではありません。まして信号機ともなれば、よほどの合理性がないと、いくら児童クラブがあるからといっても、警察はなかなか信号機を設置してくれません。

 児童クラブに向かう子どもたちに関わる事故や事件のリスクは、何よりもまず交通事故が最も注意して対応するべきことです。犯罪に巻き込まれるという不安も当然ありますが、自動車や自転車が当たり前のように通行している状況ですから、車両との衝突による交通事故が最もリスクが高いものです。ですので、児童クラブの設置場所として保護者は当然に期待するのは小学校の敷地内にある施設です。今回の事案では、ますますその要望が高まることは当然です。

<どれほど短距離でも交通事故のリスクを減らすための対策が必要だ>
 今回の事案は、信号機付の横断歩道があるという交通事故を減らす装置が備わっていても、別の要因によって事故が引き起こされることがある、という冷徹な現実を見せつけました。それら別の要因、例えば高齢者ドライバーに関するリスクについては社会的な解決が求められるでしょう。

 児童クラブは子どもの安全を確保する場です。子どもが安心して過ごせる場所です。そこに向かうまでの時間と空間は、児童クラブの管理管轄の下にはありません。(誤解されますが、小学校の管理監督下にもありません。小学校で加入している保険の管轄下にはありますが、こと児童の生命身体の安全に関して生じた問題については、あくまで民事上の問題であり、当事者同士で解決されるべき問題です。下校中に民家の敷地内から倒れてきた木にぶつかってけがをした場合は、倒木の管理者と、被害者との間の民事上の問題であり、学校の責任ではありません。それが街路樹であれば街路樹の管理者との問題です)

 しかし、だからといって、「歩道や横断歩道、信号機は公共財として整備をしました。それ以上、下校中の子どもの安全管理においては行政は責任を負えません。子どもの安全確保については、地域社会での見守りや、保護者の参加による見守り、共助と自助で対応してください」と片付けてしまっていいとは、私には思えません。それこそ、国が2023年度から掲げている「こどもまんなか」社会の理念と程遠い社会です。

 放課後児童クラブに関する補助金として、「放課後児童クラブ送迎支援事業」という制度があります。この補助金の積極的な活用を国は認めるべきです。この補助金は、児童の付き添いにかかる人件費に充てることができますが、支援員がその任を行った場合は対象外と示されています。こども家庭庁のFAQ55番に「放課後児童クラブの支援員等の人件費については別添1の運営費に計上されるべきものであり、本事業の送迎支援を支援員等が行うことは想定していない」とあります。

 しかし現実に、人数が揃っていないクラブでは支援員が子どもを迎えに行く場合があります。人数が揃わないのは、送迎を主に担う職員を確保できる予算がクラブ事業者に確保できないためです。そもそも、児童クラブにおいては、放課後等デイサービス事業とは異なり、送迎だけを主に行う職員はあまり求められず、一般的な非常勤職員として子どもの支援やおやつ準備などにも従事してもらわねば、とても人の手が足りません。そういう業務をする職員への補助に使えない補助金であるなら、使い勝手が悪すぎます。現状はこの補助金は複数学区の子どもを受け入れる広域児童クラブの送迎経費に使われているようですが、校外施設にある児童クラブへの子どもの付き添いに従事する際の経費として計上できる補助金にもするべきです。補助金の重複支給となるとして認めないなら、運営費をもっと増額して非常勤職員をしっかり雇用できるだけの予算を運営事業者に与えるべきです。

 今回の事案では、大人の見守りはなかったと伝えられています。朝の登校時は地域社会の見守りや、保護者の「旗振り当番」などで子どもを交通事故から守ろうという動きが、まだ残っている地域はあります。しかし地域コミュニティの活動の力が減退し続けている現状、それもいずれは消滅していくでしょう。まして保護者が就労等をしている下校時はなかなか保護者の力をあてにできません。もはや、地域社会の善意に頼った「子どもの見守り」では、放課後児童クラブへ登所する子どもの事故防止や防犯における活動は継続的に実施することは困難であると考えるべきです。

 よって、市区町村が予算を設けて、児童クラブに登所する子どもの安全確保措置を実施するべき状況になったと、運営支援は考えます。どれほど短い距離であっても、敷地外の児童クラブであれば、その登所ルートにおける児童の安全確保措置が必要です。ここで問題になるのは、業として児童の安全を確保する際は法の規制があることです。例えばシルバー人材センターに子どもの付き添いを頼もうとしても、子どもの登所時における同行、見守り程度であればおそらく引き受けていただけますが、それより踏み込んで、継続的に、児童の安全を確保することを職務として依頼すること、いわゆるガードマン、警備員としての立場での業務の依頼となると、警備に関する法令に関する問題が出てくるため、なかなか引き受けていただけません。警備会社に依頼すればいいのですが、費用はそれなりに高額になります。つまりそういう任務は誰しもができるものではないので、その点についての課題も市区町村が率先して取り組むべきです。例えば、警備会社に警備員を依頼する際の費用について、先の補助金の適用を認めるなり、市区町村が予算を補助するなり、という新たな考え方が必要です。

 子どもが悲劇的な事故、事件に巻き込まれる可能性を極限まで減らすことは、こどもまんなか社会では絶対に必要な取り組みです。こうした悲劇的な事故や事件が起こってからでは、本当は手遅れなのです。今回の事案で被害に遭ったお子さんの一日も早い回復を願うととともに、こうした事案を繰り返さないために、「本気になって」政府、行政、そして児童クラブの運営事業者が真っ向から取り組んでいかねばならないと、運営支援は訴え続けます。

 この件に関連して、明日(もしくは明日以降)、放課後児童クラブの立地条件、環境についてさらに考えていきます。

<おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、6月下旬にも寿郎社(札幌市)さんから出版されます。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 親と事業者の悩みに向き合う」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。およそ2,000円になる予定です。正式な情報は随時、お伝えしますが、注文は書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。特に埼玉近辺の方で、まとまった部数をお買い求めいただける方は、萩原まで直接、ご相談ください。その方が個人的にもありがたい(なにせ、ある程度のまとまった部数が手元に届くので)です。発売まで、あと1か月です。どうぞよろしくお願いいたします。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)