放課後児童クラブに必要な「業務の改善」を考える。前半は「仕事が増え続ける」現実を理解する。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)には実にたくさんの仕事や任務があります。その仕事や任務は年々増えていきます。そして仕事の多さにお手上げとなってしまうので、どうやって仕事や任務を適正な量にするのかこそ、とても大事なことです。前後編の前は「仕事が増え続ける宿命」を確認します。明日の後編は「業務の棚卸しの必要性」を考えます。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<仕事は増える>
 放課後児童クラブに関わる仕事を考えると、「組織運営に関するもの」(運営本部の職員や、理事など役員)と、「クラブの現場における育成支援業務に関するもの」(現場配属職員)、「保護者や保護者会に関するもの」の3分野があります。およそ一般的なことですが、仕事というものは、どのようなジャンルであっても、年月を経ることに増えていくものです。
 世間的には「パーキンソンの法則」(第一・第二)で説明されます。第一法則は、仕事のために確保された時間を埋め尽くすように仕事が増えていくことであり、第二法則は、確保された予算を使い尽くすだけ支出が増える、という内容です。ちなみにパーキンソンとはイギリスの人の歴史学者、政治学者です。このパーキンソンの法則は、官僚制度の無駄を指摘する際に多用されています。官僚制の問題として挙げられるハンコ主義とか、前例踏襲主義とか、それらが相まって仕事量が増え続ける。(例えば、文書による決裁でハンコを押してもらうことが通例ですが、「文書のどの位置にハンコを押してもらうか」について決めるための決裁を求めてハンコを押してもらう文書を作成し決裁を求める、というなんとも無駄に思える事を実際にやっている組織を私は見たことがあります)
 この官僚制度とはお役所だけではなくて、会社組織にもあてはまります。社長から平社員まで職位を基にしたピラミッド型の階層があり、それを貫く指揮命令系統がある、つまり階層的な構造それぞれの階層において担当する分野が決められており、その階層においてのみ行使できる権限があれば、本質的にはそれが官僚制度そのものです。つまりどの会社においても部長や課長など「管理職」がいれば、そこにパーキンソンの法則というのものが当てはまるのですね。
 およそ官僚主義というものは、とりわけ税金を原資に運営している公務の世界や、多くの参加者から資金を集めている公共性の強い組織であれば失敗は許されないという異例の緊張感ゆえに「過去に行ったことは正しい」という前例踏襲主義になります。逆に新規事業を行うにはとてつもない労力が必要だとか、つまり機動性が無いとか発展性がないとか革新性が無いとか、いろいろな批判を受ける仕組みです。

<児童クラブでは?>
 児童クラブの運営事業者においては、株式会社の運営クラブは企業体ですから別として、保護者運営のクラブや、保護者運営を源流とする事業者においては、往々にして「職員(指導員)はベテランも新人も、子どもの前では同じ」という考え方が根強いように私には思えます。つまり、明確な官僚制度を設けていない。
 そもそも、事業規模があまりにも零細、つまり1事業者で1クラブとか、1事業者でせいぜい数クラブであれば、雇用主(使用者)が保護者会や運営委員会、NPOなど非営利法人であると、保護者会は当然のこと、非営利法人でも役員は現役やOB保護者、地域の有力者であると非常勤役員ばかりですから、おのずと、現場職員だけで経営から運営、日々の業務執行までぜんぶ職員が考えて判断して自ら実践することになります。管理職はせいぜい、クラブ所長や施設長、主任と、相方の正規職員、そして非常勤職員(パート、アルバイト)ぐらいです。
 もちろん、10程度のクラブを運営するぐらいになると、中間管理職を置くことが必要となってきます。それは個々のクラブが個々の判断で事業を行うと1つの事業者としての事業の統一性が保ちにくくなるからです。そうであっても全体の正規職員数は30~40人程度ですから、まだ互いの顔が見える関係でいられるギリギリのところにあるでしょう。
 常に顔が見える範囲で、後輩の正規職員やパート職員であっても所長や施設長などに、気軽に意見を言える、つまりモノを申せる関係であるので、およそパーキンソンの法則のような官僚制の弊害による業務の肥大、仕事量の増加は、児童クラブにおいては、規模が10クラブ程度の事業者までならば起こりそうにありません。常に話し合って仕事を見直していけば仕事量の増加は防げるのではないのかしら?

 でも現実には、児童クラブの現場も毎年、確実に現場職員(だけでなく運営役員においても)に課せられる仕事の量は増えています。不思議ですね。どうしてなのか、実は私は以前に運営法人の長を務めていたときからずっと考えてきました。私は次の要素があるからだと考えています。
・子どもの育ち、生活に関する支援、援助が仕事だが、その仕事は「100個、商品を作れば終了」というような「ここまでやれば仕事が終わり」という一見して分かりやすい仕事の限界がない定性的な仕事であるがゆえに、限界が無い。つまり「やろうと思えば果てしなく仕事を増やせる」。よって、「子どものために、保護者のために、が私たちの仕事」という認識がある限り、仕事は永遠に増える。
・とりわけ「子どもの最善の利益を保障」することに最大限の注力をする仕事ゆえ、子どもに関する具体的な安全管理の考え方や方策が打ち出されるたび、当然、仕事の量が増える。登所ルートの安全点検など国や行政がどんどん新たな仕事や指示を相次いで出すたびに、児童クラブ側の仕事が増える。
・分野ごとに明示された仕事や業務の典型例として全国規模であるものは放課後児童クラブ運営指針だけであり、それも多くは訓示的規定でもあるので、より具体的な仕事や業務の形を成すものは、今まで良くも悪くも属人的、つまり「ベテラン職員たちがたどってきた道、積み重ねてきた経験」を感覚的に繰り返すことで多くの(特に現場における)仕事として生み出されてきた。それはつまり、ベテラン職員たちの数が多ければ多いほど、その仕事の流儀、流派がある。結果として膨大な仕事の流儀、流派となってしまった。そしてそれは今なお生産され続けている。

<賃金の決定方法が影響する>
 私は、「仕事の質を評価して賃金を決めることなく、仕事に費やした時間の有無をもって賃金の額が決まる、つまり仕事の質は相対的に評価されずに賃金が発生する仕組みこそ、児童クラブにおけるパーキンソンの法則の原因ではないか」と考えているのです。これは児童クラブの仕事を考えるとぴたりと当てはまる。児童クラブにおける賃金の決定は、仕事の質ではなくて量が基本です。勤務時間、勤続年数が重要で、主任やエリアマネージャーという地位に関する手当はあっても全体の一部でしかなく、まして、その地位に就いている「能力」に対する賃金、報酬つまり評価給は児童クラブの世界においてはほとんど見られません。勤務時間を過ごすことで賃金が決まるのであれば、その勤務時間を仕事で過ごすことが必要であり、それには目の前にいる子ども、保護者の支援という「無尽蔵」の仕事が見つかる。しかも残業をすればそれが賃金になってくれる。仕事が多ければ多いほどもらえる賃金が増える。それなら仕事は少ないより多い方がいい。

 なお、増大し続ける株式会社運営クラブは人件費抑制のためにクラブ配属職員の場合は正規職員といえども有期雇用の契約スタッフであることが多い。地域事業本部に配属されているエリアマネジャー的な職員は正規であることが多いですが、それにも有期スタッフを募集している株式会社運営クラブもあります。そういう事業者においては年功給、年齢給ですらない。論評以前の問題です。

 話を戻すと、児童クラブの世界では、官僚構造が貧弱であっても、「時間」に対して賃金の多くが発生する仕組みなゆえ、その時間を埋めるための仕事を生み出すことで仕事量が増えていくという土台があり、その上に上記に記した「子どもを支える仕事に概念的な限界はない」「属人的な要素で必要とされる仕事が決まる」などの要素があいまって、どんどんと仕事、業務が増えていくと私は考えています。

 むろん、児童クラブにおいて義務づけられる必要な仕事そのものが増えています。安全確保や法令遵守の面で特に著しい増加傾向があるでしょう。安全計画の策定の義務化など、命じられる仕事そのものが年々増えているのです。それはつまり「今まではあまり法規制とは無縁だったが、これからはいろいろな規制がかかり、それに応じた仕事や作業が増える」ことを意味します。

 なお「子どものために必要なことは、全部やる」というのは心構えとしてはあっぱれ、頼もしいですが、それは経営側に利用される要素です。つまり「やりがい搾取」です。「給料はこれぐらいしかないけれど、あなたたち職員が大好きな子どもの最善の利益のために、低賃金でも長時間労働でも、頑張ってやってくださいね。ほら、子どもの笑顔が待っていますよ!」と言われて働かされる児童クラブの職員(及び本部の職員)たちばかりです。

 こうした状況を打破するためには、児童クラブの世界は「必要な仕事を厳選する」ことに手を付けねばなりません。必要な仕事を定期的に確認し、必要な仕事にその内容に応じた賃金を支払われる仕組みを確立すること。それが「仕事の棚卸し」です。(後編に続く)

<おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!私の運営支援の活動資金にもなります!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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