放課後児童クラブに対する「やっぱり」の誤解が明らかに。「児童登所前の時間は、育成支援に必要な就業時間」です!
放課後児童クラブ(学童保育)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)に関する報道はかつてないほど増えています。不祥事は困りますが、それ以外の話題や課題を取り上げるニュースが増えていることは大歓迎です。それに伴い、メディアの記事から、放課後児童クラブに対する理解の浅さや誤解もまた、うかがい知ることができるようになりました。今回のブログは、小さなようで実は極めて重要な誤解を指摘します。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<地の文に書かれている意味>
私が気になった記事は、2025年1月27日12時20分にヤフーニュースで配信された、福島民友の記事です。見出しが「学童保育の待機児童529人 過去2番目の高水準、支援員確保課題 福島県」という記事です。この記事の書き出しに、私がいつも目くじらを立てている「共働きやひとり親家庭の子どもを預かる放課後児童クラブ(学童保育)」という、「預かる」という文言を使った表現がありますが、今回の気になった点はそこではありません。いや、預かるは違いますからね福島民友の記者さん。
この記事は、福島県内の放課後児童クラブの待機児童の状況を取り上げ、待機児童が多くなっている要因を紹介しています。その要因として施設数不足を挙げていて、さらに課題として職員不足としています。ではこの記事から一部、内容を引用します。
「また、支援員のなり手確保も課題だ。支援員はおおむね児童40人以下に対し2人以上が配置基準。支援員の勤務時間は小学校の放課後が中心で短時間の場合が多く、支援員のみで生計は立てにくい。」
(引用ここまで)
このブログでは引用個所を目立たせるために「かぎかっこ」で表記していますが、引用した記事は、いわゆる「地の文」、つまり誰かの発言ではありません。この地の文は、書き手(記者)の思いや主張が織り込まれることがありますが、報道記事における地の文のほとんどは「誰もが当たり前に承知していて一般的な常識と世間の人々に判断される物事、事象、解釈」です。
この福島民友の記事では、支援員の勤務時間は小学校の放課後のが中心で短時間の場合が多く、支援員のみで生計は立てにくい、という一文がまるまる地の文で書かれています。この記事を書いた記者も、記事をチェックするデスクも、あるいは校閲記者も整理記者も、疑問を抱かなったのでしょう。児童クラブの仕事は、「子どもが下校してくる放課後の時間が中心の短時間」という知識を、一般的な常識、共通理解として持っていたということをはからずも示したと、私は考えました。
<子どもが登所してくる時間の前こそ、育成支援の質を確保するための必須時間>
児童クラブに子どもが登所してくる前の時間、「まともな」児童クラブであれば、育成支援という事業の柱を滞りなく実施するため、質の高い育成支援事業を実施するための種々の準備を行います。
それは、子どもへの育成支援の方針を、児童クラブの職員が確立、決定する作業を行うことです。一般的には、記録を基に職員同士で議論を行い、個々の児童、様々な児童の集団、それぞれに対する育成支援の実施方針を決定し、育成支援に従事する職員で目的や方法論を共有する作業を行うのです。これなくしては、児童クラブの育成支援は不可能といえます。この育成支援に関する議論検討、討議、方針決定の時間、私はこれを「育成支援討議」として以前の勤務先で全クラブが必ず実施するようにしていました。この育成支援討議の充実度が、そのクラブにおける育成支援の質の高低を左右していました。
育成支援に関する議論検討と並んで重要な業務が、児童ひとりひとりに関する記録を作成することです。その日にあったことはその日に記録しますがそれは簡易的な記録を行う時間しか確保できません。目の前に子どもがいる、保護者の迎えが来る、問い合わせも来る、そのような状況では、その日にあったトラブルや気になったこと、成長や発達の点で記録に留めておくべきことなどの詳細を記録する時間がないので、日にちを置かずに丁寧に記録することが欠かせません。保育も教育もそうですが、育成支援もまた、「子どもの状況の記録」が欠かせない仕事なのです。ただ書けばよいというものではなく、本当に必要な視点をクラブ職員が持っているかどうか、指導役の職員が記録を点検したり記録者と話し合う作業も含まれます。すなわち児童の記録を作成するだけではなく、児童の成長発達の具合を的確に把握できる能力を備えた職員を育てていく時間もまた、子どもが登所する時間の前の作業の大事なポイントです。
この、育成支援の事業を支える業務を行う時間がどれだけ確保されているかが、児童クラブの事業の質の良し悪しを決めるに重要な影響を及ぼすことは言うまでもありません。
育成支援に関する議論検討以外にも、種々の作業があります。清掃、おやつ(昼食)準備、整理整頓、遊具点検や所外活動における下見、クラブを運営する組織に関する運営業務の遂行など、様々です。
<児童クラブに関する時間の定義を再構築しよう>
児童クラブにおける「時間のモノサシ」には、国と、児童クラブの実際の現場との間に、決定的な乖離、食い違いがあると私は常々思ってきました。そしてそれは、現場の実情を無視した国の机上の論理ばかりがごり押しされている不幸な状況であると感じてきました。
「放課後児童クラブにおける開所時間の考え方について(通知)」(令和6年 12 月 27 日 こども家庭庁成育局成育環境課長)に、開所時間について国の最新の解釈が紹介されています。抜粋して紹介します。
「小学校の授業の休業日は1日につき8時間以上、小学校の授業の休業日以外は1日につき3時間以上を原則」
「開所時間とは、児童を受け入れることができる時間を指しており、これは小学生が実際に利用可能な時間、一般的に考えると学校の授業が行われていない時間(放課後児童クラブの運営に関する会議や打合せ、保護者等との連絡調整等の開所時間の前後に必要となる準備時間を除く時間)であり、かつ以下の①~③の要件を満たすことが求められます。
① 開所時間について、国基準を参酌の上各市区町村が定める条例や、各事業所が定める運営規程等に定めており、利用者(保護者、児童)に周知していること。
② 開所時間中は、職員の配置基準を満たしていること。
③ 開所時間の設定に当たっては、事前の把握による利用者の利用ニーズがあることに加え、そのニーズを対外的に説明できる根拠資料(学校の時程表等により開所時間を確認できるもの)を備えておく必要があること。」
私は、開所時間はなるほど国の示す通りなのだろうと考えます。問題は、いくつかの補助金交付の要件となっている開所時間が、児童クラブの現場以外には、「開所時間=育成支援事業を遂行するために必要な時間」という解釈をされていることにあります。そしてこの開所時間に関して、児童クラブの職員が従事していればよい、という理解が、どうもこの社会一般に根付いてしまっているとしか私には思えないのです。それでは、小学校の授業がある日ではそれこそ放課後の数時間しか、児童クラブの職員に必要な勤務時間、就業時間であるという理解になってしまうのは、必然的な帰結です。学校がある平日は1日3~4時間の勤務が必要であってそれ以外の時間は開所時間ではないのだから必要がないよね、だからそれらの時間は無くても良いという解釈であれば職員の就業時間が短くなります。それでは勤務時間に対して支払われる賃金の総額も減りますから、児童クラブ職員の生計が成り立ちません。
国は、先に引用した通知で、開所時間を「放課後児童クラブの運営に関する会議や打合せ、保護者等との連絡調整等の開所時間の前後に必要となる準備時間を除く時間」としています。「会議や打合せ、準備時間」は児童クラブの開所時間ではないものの児童クラブの運営に必要な時間である、という理解はゼロではないようです。しかしその時間を「どのくらいの長さまで」認めているのかは、大変心もとない。
そもそも、「開所時間」の考え方が私は間違っていると考えます。国も、世間も、「開所時間=児童クラブが児童を受け入れている時間、受け入れられる時間」という理解です。食品スーパーマーケットでいえば、それは「営業時間」です。しかし、食品スーパーは営業時間だけ店員、従業員、社員が仕事に従事しているのですか?全く違いますよね。開店時間から閉店時間までが営業時間ですが、開店時刻前も、閉店時刻後も、社員は必要な業務に従事しています。営業時間と、店員や職員の「勤務時間、事業に必要な勤務時間」は異なるのです。(ちなみに私は週1回、早朝ウォーキングをしていますが、近所の第二産業道路沿いの業務スーパーの前をおよそ午前8時20分ごろに通り過ぎます。もうそのころ、店内では何人もの店員さんが何か従事していますよ)
児童クラブについて、今の時点で広く理解されている「開所時間」は、「児童受入(可能)時間」と言い換えるべきです。そして「開所時間」は、「児童クラブの職員が育成支援を行うために必要な作業を含む時間」と定義するべきです。こうなると、児童クラブの職員のうち、いわゆる正規職員は、とても1日4時間程度の所定労働時間では、まっとうな業務はできないでしょう。必要な作業時間を4時間そこらでは確保できないからです。
私の感覚では(平均して)1日6時間の所定労働時間が下限でしょう。所定週40時間労働という法定労働時間の上限は今後はできる限り短くしていくことがワークライフバランスにおいて必要ですが、1日7時間前後の所定労働時間は児童クラブの正規職員には通常ふさわしい就業時間だと私は考えます。
スーパーマーケットでいえば、開店時刻前や閉店時刻後に、店の営業時間を支えるたくさんの業務を行っていますが、児童クラブも全く同じであって、午後の放課後の時間帯前の、午前から児童クラブ職員が従事するべき業務が山ほどあるのですから、その時間帯を含めて児童クラブの運営に必要な時間帯であると国は認めて、必要な補助金を交付するべきでしょう。もっとも運営費補助は「開所日数」が判定基準の一つとなっているので開所時間は含まれていないようですが、その中でも例えば「開所日数加算」は「1日8時間以上開所する場合」となっています。この8時間以上の開所は、何も夏休みや冬、春休みなどの日にちだけが対象ではおかしいのです。通常の授業がある開校日でも「まともに育成支援に取り組む児童クラブ」であれば児童クラブは8時間以上、職員が作業に従事しているのですから、開所日数加算に加えるべきなのです。もっとも、運営費補助から開所時間の条件を無くして単純に開所日数で判断すればいいだけだと、私は常々思っていますが。
長時間開所加算は2025年度から交付の要件が変更されるようです。午後6時以降に児童を受け入れている場合に対象となるので開所時間の要件(現行は1日6時間以上が必要)は取り外されるようです。それは歓迎です。長時間開所への補助金は、朝と夜の開所が保護者の利用ニーズを満たしている事業者に対して交付されれば足りるでしょう。
児童クラブにおける、開所時間の考え方をぜひ変更してください。「児童クラブの開所時間は、業務を行うために必要な時間を含めた時間」として再定義しましょう。それはすなわち、児童クラブの職員の勤務時間や就業時間というものは、放課後の数時間プラスアルファの準備時間、後始末時間(=閉所後の後片付けや退勤準備の時間)だけに限定されるのではなく、児童受入(可能)時間前後の数時間をも含んだ時間であると、再定義することです。このことは当然、児童クラブ職員の就業時間、所定労働時間の伸長となり、それだけ得られる賃金の合計額が増えることになります。だからこそ、この開所時間の概念の再定義が必要なのです。
児童クラブの職員の勤務時間は、子どもがクラブに来ている時間だけではない、なのにそう思われてしまっていること。だから職員の賃金総支給額が増えないのだ、本来業務に必要な時間を含んでいないのは不可解だ、ということをぜひ、メディアの記者も、世間一般の保護者さんも、そして行政も政府も、理解してください。
余談ですが、近く私が世に送り出す児童クラブを舞台にした小説「がくどう、序」には、子どもたちがクラブにやって来る前の時間に、主人公である新人児童クラブ職員はじめクラブの職員たちが集まって育成支援討議をしている描写がたくさんでてきます。それはつまり、まともに子どもを支えようとする児童クラブなら絶対に欠かせない時間だからです。小説とは呼べないアマチュア文芸作品ではありますが、児童クラブの(良い点、そして残念な点)ありのままの姿を描いています。発売の暁にはぜひ、1人でも多くの人に目を通していただきたいと願っております。
<おわりに:PR>
弊会は、次の点を大事に日々の活動に取り組んでいます。
(1)放課後児童クラブで働く職員、従事者の雇用労働条件の改善。「学童で働いた、安心して家庭をもうけて子どもも育てられる」を実現することです。
(2)子どもが児童クラブでその最善の利益を保障されて過ごすこと。そのためにこそ、質の高い人材が児童クラブで働くことが必要で、それには雇用労働条件が改善されることが不可欠です。
(3)保護者が安心して子育てと仕事や介護、育児、看護などができるために便利な放課後児童クラブを増やすこと。保護者が時々、リラックスして休息するために子どもを児童クラブに行かせてもいいのです。保護者の健康で安定した生活を支える児童クラブが増えてほしいと願います。
(4)地域社会の発展に尽くす放課後児童クラブを実現すること。市区町村にとって、人口の安定や地域社会の維持のために必要な子育て支援。その中核的な存在として児童クラブを活用することを提言しています。
(5)豊かな社会、国力の安定のために必要な児童クラブが増えることを目指します。人々が安心して過ごせる社会インフラとしての放課後児童クラブが充実すれば、社会が安定します。経済や文化的な活動も安心して子育て世帯が取り組めます。それは社会の安定となり、ひいては国家の安定、国力の増進にもつながるでしょう。
放課後児童クラブ(学童保育所)の運営支援は、こどもまんなか社会に欠かせない児童クラブを応援しています。
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弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。
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放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。
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放課後児童クラブを舞台にした小説を完成させました。いまのところ、「がくどう、序」とタイトルを付けています。これは、埼玉県内の、とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子を丹念に描いた作品ではありません。大人も放課後児童クラブで育っていくことをテーマにしていて、さらに児童クラブの運営の実態を描くテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ご期待ください。
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「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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