放課後児童クラブに多い、夏の所外活動。運営支援的に考えると、心配がたくさんあります。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)では夏休み期間、施設を出て子どもたちとお出かけ(=所外活動)をする機会があるでしょう。所外活動で気を付けたいことを考えます。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<所外活動には特別な対応が必要>
 放課後児童クラブは子どもを受け入れて過ごさせる場所ですから子どもの生命身体についてはそれが失われるとか、後遺症が残るような程度の重い負傷をさせてしまうことはあってはなりません。夏休み期間だろうが学校登校日だろうがそれは変わりませんが、当然ながら、子どもが児童クラブで過ごす時間が長い長期休業期間中は、児童クラブにとっては「予期せぬ出来事によって児童の生命身体が脅かされる可能性」は高くなります。まして、施設を出て外部で過ごすことになれば、その危険性はさらに高まるでしょう。

 なお、本稿もそうですしこの運営ブログにおいて児童クラブは、基本的に「小学校学区内にあって児童クラブを利用したい保護者に選択権がなく希望する限りそのクラブに入所するしかないクラブ。運営に際して補助金が交付されている民営もしくは公営クラブ」を前提としています。保護者が自らの選択によって子どもを入所させているいわゆる民間学童保育所や、補助金を受けて運営されていても保護者が入所先として選択できる児童クラブについては、「保護者は、その施設の方針を理解し賛同しているので入所している」ということですから、そのようなクラブについては趣旨が異なる場合があります。ご了承ください。というのも、例えば夏の所外活動で「キャンプ」があるとしたら、入所前に当然、キャンプについても事業者側から説明があるでしょうし、その説明を聞いて納得しているので入所を選択したと理解できる、ということです。

 所外活動について特別な対応が必要というのはいわずもがな、普段から利用したり過ごしていたりする場所や時間ではない状況で、想像を超える?種々の行動や活動を展開する多くの子どもたちが過ごすことによる、事故や事件に出会う可能性が高いので、その可能性をできる限り低くする対応が必要だ、ということです。つまり徹底したリスクマネジメントが必要だ、ということです。すべては、そこから始まりますが、その点において保護者が非常勤で理事長・代表理事や理事、監事を務めており普段の実務は職員に任せている児童クラブは、リスクマネジメントの重要性をどこまで理解しているのかな、と思うと私はとても不安になります。

 例として、「低学年児童と電車に乗って博物館見学に行く」所外活動を考えてみましょう。私であれば気にする点を列挙します。
・当日の児童と職員の体調の把握は十分か。。行程中に体調不良者が出た場合の対応は?
・当日の天気予報に関する情報の把握は十分か。。夏であれば熱中症の発生リスクがある。
・最寄り駅まで行く手段は確保されているか。夏の徒歩なら熱中症リスク。バス利用なら定時にバスがしっかりと来ればいいが、来なかった場合の代替手段は確保されているか。仮にバスが満員で乗れなかった場合はどうか。運賃支払いは円滑にできるようになっているか。それを含めて事前にバス運行会社と連絡相談をしているか。
・徒歩での移動時における交通事故防止にどれだけ留意ができているか。歩道がある道路を通行できるようにしているか。やむを得ず歩道がない道路を歩かざるを得ない場合の事故防止の対策はできているか。
・トイレの場所は把握できているか。現在所在地における最寄りのトイレはどこにあるか引率する側は把握しているか。
・乗車を予定している電車において通常はどの程度の混雑状況か。同じ車両に同時に乗り込めるか、それとも分散が必要か。
・公共交通機関利用時、他の乗客とトラブルにならないよう子どもたちの行動をしっかり統制できているか。子どもたちにその心構えを起こさせているか。
・博物館入館時における手続きが円滑に進むよう事前に博物館側と調整しているか。
・博物館見学時において館内見学者とトラブルが起きないように事前に子どもたちに見学時における諸注意、留意点を伝えているか。
・昼食における場所の確保はできているか。時間の余裕があるか。
・特に夏は突然の雷雨、豪雨により交通ダイヤが乱れる可能性がある。その対応も考慮したスケジュールとなっているか。クラブに戻る時間が遅れた場合、その後の子ども及び家庭のスケジュールに影響が出るかどうか把握しているか。
・引率者が職員のみであれば職員がこれら一連の所外活動における留意点を全員、しっかり理解しているか。保護者に引率参加を依頼している場合、保護者にも、重大な過失(例えば、道路を歩いて移動している時に子どもたちがふざけて車道に何度も飛び出すことを現に目の前で把握していたにも関わらず注意することを怠ったり一緒になってふざけていたりしたその結果、子どもが車と接触して事故が起きた場合など)によって子どもに何らかの被害が出た時に引率に当たっていた保護者にも直接、責任が及ぶ可能性がありえることを理解させているか。

 所外活動において比較的、トラブルに巻き込まれることが少ないであろう博物館見学にしても、運営支援が考えると少なくとも上記のような点をしっかり踏まえて行動計画を策定する必要があります。まして、自然の中で過ごすキャンプやデイキャンプ、川遊び、あるいは管理されているとはいえプール遊びなどは、より、生命身体に何らかの影響を及ぼしかねない危険性はもっと高まります。

 所外活動には、クラブ運営側に特別な対応が求められるということです。

<危険性を把握するために下調べは大事>
 博物館見学にせよ、自然の中で過ごすにせよ、およそ通常、活動を行う場所以外で活動を行うのであれば、特別な対応、すなわち事前準備が必要です。それは下見であったり事前見学であったり、それら下見等で入手した情報を基に職員全員で活動のシミュレーションを行うことです。そうして得られた予測を保護者にしっかり伝えることです。

 得てしてこういう所外活動については、保護者に概要、スケジュールだけを伝えることが多いのですが、運営支援の立場ではもっと丁寧な情報提供が必要です。「こういう場合には、こういう対応をします」ということまで情報を提供してほしいと考えます。体調不良時の対処法、交通トラブル等による帰着時間の遅れは、直接的に保護者に影響を及ぼすことですから、これらにはより丁寧に伝えておくべきだと考えます。例えば、所外活動でクラブに戻ってくる時間が午後4時の予定だとして、ある家庭においては午後5時半からとても大事な休めない活動が予定されている可能性があった場合、交通トラブルでクラブに戻ってきたのが午後5時だったとき、その可能性をしっかり保護者側に伝えていたか、いないかによって、その保護者家庭とのやりとり、交渉の内容を左右することになります。事前にしっかり伝えることで、その午後5時半からの予定について柔軟な対応を促すことも可能となる、ということです。

 綿密に、丁寧に、面倒くさがらず、起きたら困ることになりそうなことは、包み隠さず情報を共有することが大事なのです。その情報は、下見や下調べを経ないと手に入れられません。

 なお、「去年も行った。そのときに大丈夫だった」は、まったく通用しません。これは絶対にダメです。それが去年でなく春休みに行ったという数か月前のことであっても、です。参考にはなるでしょうが「根拠」にはなりません。まして、状況が大いに変化することがある自然の中で過ごす所外活動においては、常に最新の状況を手に入れること、アップデートすることが重要です。数か月前に下見をした、あるいは下調べをした。しかし所外活動数日前に改めて訪問先、見学先について最新情報を入手しないのもまた、ダメなことです。1回の電話ぐらい、おっくうに思うようなようでは、何十人もの子どもの命を背負っている責任をまっとうできませんよ。忙しくてそんな暇なは無いとの答えは却下です。電話1回、3分です。3分の時間を作れないのは「やりたくないから」なのですよ。

 常に大勢の子どもの命を守らねばならない使命と責任は自覚しましょう。その意識の差が如実に出るのが所外活動である、とも言えます。それには、事前の備え=リスクマネジメントですし、仮に何らかの事態が起きたことの対処において、できる限り最善の選択を重ねられるかどうかという危機対処=クライシスコントロールです。本稿では事前の備えについて記していますが、何か起こった時の対処法についても機会があればいずれ書いていきます。

<保険があるから大丈夫、ではない>
 特に自然の中で過ごす所外活動においては種々の保険に必ず入ることが必要です。それは不幸なことがあったときに、起きてしまった損害を補填するための役割です。保険にすら入らないで活動を行うことは、さすがにもうありえないでしょう。

 しかし決して、「保険に入ったから大丈夫」ではないのです。保険に入ったから事故や損害を回避できるのではありません。単に、クラブ側が損害賠償における金銭の準備をしなければならない点においての備えにすぎません。リスクに対する代替であって、リスクの発生の回避ではない、ということです。
 まして、大丈夫というのは、残念ながら大事な我が子を失う最悪の事案に対して、なんら説得力のある言葉ではありません。ただ単に、「起きてしまった損害を補填しなければならないとき、その補填は通常、金銭において行うが、その金銭の備えをしておくだけのこと。子を失ったことでの現実的損害を埋め合わせるに必要な金銭が手に入るだけのこと」にすぎません。
 なぜ重大な事案が起きてしまったのか、その事案を引き起こした原因はクラブ側にあったのではないかということは、当然、追及されることになります。この点については、改めてブログに記します。

<所外活動はするべきか、しないべきか?>
 この問いに答えはありません。それぞれのクラブで事業者が考えたことが結論です。良いも悪いもありません。保護者が運営に関わる、もしくは運営に意見を述べられるクラブ事業者の場合、得てして「長い夏休みなんだから、子どもたちにたくさんの思い出をつくらせてあげて」と、学童大好きな保護者の意向が強く働いて所外活動を多く予定することがあります。そのような、しょっちゅう所外活動をしているクラブが、まったく所外活動をしないクラブと比べて絶対的に子どもの豊かな時間を作っているかどうか、私にはまったく判別できません。むしろ、適当な実施計画を重ねて何度も所外活動を行っているのであれば、まったく所外活動をしないクラブの方が「子どもの生命身体の保持については、安心」とすら思えます。

 大事なことは、「クラブの運営事業者が、自分たちが運営するクラブを利用する子どもたちに、どのような育ちの時間を過ごしてもらいたいか」という理念をしっかりと持ち、その理念を実現するための目標に向かって、合理的で効果的な手段、手法を使っているかどうか、なのです。漫然と外で過ごさせることが、子どもの健全育成のために利益があるとは思えませんし、その逆もまた同じ。ずっとクラブ内で決められたプログラムに従事させることが健全育成の利益をもたらすとも思えません。しかもその理念や目標というのは、事業者が違えば内容も違ってくるでしょう。「のびのび、おおらかに」という考え方と「社会に出た時に戸惑わないように生活規範を身につけさせたい」という考え方はどちらも大事ですが優劣があるものではなく、そのどちらかに拠った考え方のクラブ事業者がそれぞれ存在しているだけです。もちろん、入所する児童クラブを選べない多くの公設もしくは補助金交付を受けている民設のクラブにおいて、保護者側の意見をしっかりとクラブ事業者は理念や目標の設置に反映させることは言うまでもありません。

 私個人の考え方は、「学年別ではなく異年齢集団での所外活動。映画鑑賞でも博物館でもバーベキューでもキャンプでもいいから、夏休み期間の中盤にスケジュールを組み込みたい。メリハリのために」というものですが、そうしないクラブがダメだともまったく思いません。なお、どうしても参加者全体または引率する職員数の関係で、学年別の所外活動とせざるを得ないこともあるでしょう。それはそれで別に構わないのですが、せっかくなら学年が違う子ども同士で活動時間を共有できる機会を作りたいなと考えます。そのために全体の計画に無理がでるようなら、もちろん全体の計画に無理が出ないようにすることが優先されますが。

 クラブ事業者が、所外活動は重大な事故、事件と隣り合わせにあるという感覚をしっかり把握しないで漫然と所外活動を計画し、実施している状態こそ危険です。もっともそれは通常の施設内での活動でも同じですが、事故事件の発生リスクを踏まえると所外活動にはより丁寧な取り組みが必要だということです。そのことを職員はもちろん、事業者の役員(理事や監事)、保護者はどれだけ認識しているのか。それについて、次に考えていきます。

<おわりに:PR>
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 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されます。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)になる予定です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。アマゾンでは予約注文が可能になりました!お近くに書店がない方は、アマゾンが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
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 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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