放課後児童クラブには欠かせない夏の長時間労働。職員は体調管理に留意して。事業者は労務管理をしっかりと。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。7月になりました。小学校の夏季休業(夏休み)は、放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)にとって繁忙期。体調管理と労務管理が大事な時期ですよ。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<体調管理は日ごろから>
 地域によって長短はあるでしょうが、おおむね数週間から1か月ほどの小学校の夏季休業期間を受けて放課後児童クラブは朝から夜までの開設時間となります。午前8時開所で午後7時閉所では11時間の開所時間となります。クラブ職員の中には、場合によって1日10時間程度のシフトを組んで業務に従事する人もいるでしょう。本当にご苦労様です。ありがとうございます。

 よほど職場環境に恵まれている事業者でない限り、小学校の開校日と同様の勤務形態で夏休み期間を過ごせることは、まずないでしょう。連日、7~8時間程度の勤務シフトで回せる職場であるなら、それは職員にとってとても素晴らしい職場でしょう。中には、それほど数は多くないでしょうが、一日開設期間にも関わらず開所時間が短いがゆえの勤務時間の短さである、こともあるでしょう。

 とにかく大事なのは体調管理です。クラブ職員は常日頃から「体を動かす」ことが業務の必須行動ですから体力は十分。とにかく睡眠をしっかりとって、心理的なストレスをできるだけ軽減して、夏休みに臨んでください。結構、多くの現場職員は「朝から大好きな子どもたちと向き合えるから楽しい期間」と口をそろえて言いますが、いくら大好きな仕事でも体力的にキツイのは確かです。

 重要なことは「早め早め」です。体調が悪くなりそうな予感がしたなら、遠慮なく、早退するなり年休を使うなりして、体調の悪化が深刻化することを防ぎましょう。確かに、突然、半日や1日の年休が入ってしまうと、他に出勤する職員にとって負担はまったく増えないわけではありません。しかし、そこで無理をした結果、決定的に体調が悪化してそれから1週間、休まざるを得なくなるという可能性を考えた場合、どちらが合理的な判断なのかは言わずもがな、ですね。体調管理に重要なのは「早期行動」です。風邪薬のテレビCMの「よかったね、早めの〇〇〇〇」とありますが、まさに早め早めに動きましょう。そして急に休むことになった間の職員手配は、当然、運営事業者の本部が応援職員の手配や代替配置において、現場の負担が増えないようにカバーするべきです。

<労務管理は事前から>
 夏休みはどうしたって職員の勤務時間が長くなります。賃金は労働時間に応じて発生しますから、夏の一日開設期間中は賃金支払、つまり人件費の額が増えます。「そりゃ仕方ないでしょう」では、ダメです。児童クラブの予算は、「保護者から徴収する利用料」と「国等からの補助金」です。これらは1円たりとも無駄遣いがあってはダメです。効率的に使用せねばなりません。そして児童クラブの事業者はおおむね、常に予算不足です。予算の8割ほどを占める人件費の効率的な使い方は、安定かつ継続的な事業運営にとって欠かせません。

 よって、夏休みなどの長期休業期間に対応した、一日開設期間における人件費は、児童クラブの事業者の命運を握るといっても過言ではないのです。人件費の効果的な使い方は、「時間」と「人数」の的確なコントロールです。時間とは、長時間勤務に伴う割増賃金、人数とは、業務動向に適切に対応した配置職員数のことです。

 まず時間について。いまどきの児童クラブの事業者で、変形労働時間制を取り入れていない事業者はほとんどないでしょう。そうでなければ、夏休みなど一日開設期間においても職員数に余裕があるのて法定労働時間である1日8時間、週40時間がしっかり守れている事業者であるか、法定労働時間などまったく無視して時間外労働の把握、算定をしていないか、必ずそのどちらかになります。いくら小さな児童クラブで就業規則を制定していない事業者であっても、法定労働時間は守らねばなりません。どんなに長い時間働いても、5月や6月の給料とまったく変わらない賃金であれば、それは労働基準監督署に相談してください。給料が月額固定給であったとしても、8月の労働時間数の長さから場合によって最低賃金を割り込む可能性だってあります。

 変形労働時間制のうち、児童クラブ事業者では1年変形が多いでしょう。夏休み、春休み期間の繁忙期に勤務時間を長めに割り当てたいからです。もちろん、何も変形労働時間制度を採り入れないより効果的な人件費の使い方ができるでしょう。ただ、私は、現実的に考えると、1か月単位の変形労働時間制をお勧めしています。
・(残念なことに)人手不足の現場が多く、夏休みにはどうしても「通し勤務」(始業時刻から終業時刻まで)をせざるを得ない日への対応。
・キャンプなど所外活動で朝から夜まで長時間の勤務が必要な場合への対応。
・制度導入が比較的簡単。

 1か月変形は1年変形と比べると、1日、1週当たりの労働時間に上限はありません。もちろん最終的に、期間を平均して法定労働時間内に収めることが目的ですが。上限がないということは、例えば人手不足やキャンプで長い時間の勤務が必要なときに、(歓迎はできませんが)事前にシフトで予定していた12時間を勤務した、というときでも時間外賃金の支払いは不要となります。長時間勤務した代わりに、他の職員が多く出勤できる日を設けて、1日3時間や4時間の勤務日を設定すればいいのです。「メリハリ」のついたシフト設定で、職員にもメリットが大きいのです。特に、「午前だけ勤務で正午になったら退勤」というシフトの日は、職員にとってはとても嬉しい日になります。

 導入も就業規則に書き込めばいいので簡単です。ただし制度の運用については注意が必要です。「事前にシフトは確定させておくこと」と、「シフトに組み付ける勤務時間の作成方法と、確定したシフトの職員への周知徹底は欠かせない」。この2点は満たさないと変形労働時間制の前提をクリアできませんので、注意が必要です。

 効果的な人件費の使い方は事業者にとって死活問題です。ぜひ積極的に取り組みましょう。

<職員の健康と安全は事業者が守る>
 どうしたって夏場は児童クラブにおける労働としては厳しい時期です。しかし、夏休みこそ保護者の児童クラブへのニーズが高いという事実は、つまり、夏休みこそ児童クラブに対する社会の期待は高いということ。夏休みこそ、安定してクラブ開設を続けられねばなりません。
 「職員が足りません。ぜひ保護者さんが日替わりで、クラブの仕事を分担してください」という、いわゆる「保護者応援」が生じることは、本来事業者であれば絶対に避けねばならない状況です。

 児童クラブの事業者は当然のこととして、次の事を常に念頭に施策を推進しなければなりません。
・人手不足にならないよう求人に務める。応募がなかなか無いなら雇用労働条件を見直すこと。周囲の企業、事業者と比べて訴求力が劣っているのは事業者の失態。
・ムリ、ムダ、ムラのない職務内容の確立に努める。夏休みの間には不要な業務を見つけ出して期間中は免除し、職員の業務負担を減らすことに心がける。
・エアコンの整備に代表される、快適な職場環境の整備に努める。必要な予算を行政から確保するのは事業者(つまり理事など役員)の使命であり任務、そもそも法律によって課せられていること。現場に「保育をうまくやれ」と言うだけが事業者役員の仕事ではない。快適な職場環境の形成に努めていない事業者役員に対しては、現場職員は遠慮なく批判や指摘を行うべし。

 事業者(組織、法人)は労働安全衛生法で快適な職場環境の形成や、労働者の健康と安全に配慮した労働環境を作るように努めることとされています。労働契約法では労働者の安全を守る義務を事業者に課しています。現場のクラブにおいて、子どもへの支援、援助をしっかり行うようにすることは当然ですが、それは現場職員だけに課せられたものではなく、事業者役員も、現場職員が安全安心に働けるように種々の務めを果たさねばなりません。

 どうやら、「現場にはしっかりやれ!」と言っているだけで、雇用労働環境や職場環境の整備については「いやあ予算不足で」「行政がなかなか了解してくれない」と、「言い逃れ」をして済ませている事業者役員が児童クラブの世界には多いと私は感じます。あるいはそもそも、職員の雇用労働環境の整備に無関心、あるいはその必要性すら感じていない事業者すら、あるように感じます。特に、営利の広域展開事業者と、その正反対にある保護者中心の運営委員会にその傾向があると私には感じられます。

 夏、児童クラブがガタガタになったら社会からの期待に応えられないということが示す意味の重さ。これは児童クラブ関係者が想像するよりはるかに重大です。そのことを認識し、夏場をしっかり乗り切られるように、労使一体で頑張りましょう。

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 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されます。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)になる予定です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。アマゾンでは予約注文が可能になりました!お近くに書店がない方は、アマゾンが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊ほど届くので!)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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