放課後児童クラブにおける昼食提供から考える、児童クラブ業界の致命的な戦略の失敗と、実務上の心配どころ

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。私は、放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)における昼食提供は、かねて申し上げているように賛成です。今回は児童クラブにおける昼食提供に関して思うところをぶちまけます。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<昼食提供の中身>
 いま、報道で多く伝えられる児童クラブでの昼食提供は、宅配弁当による提供です。行政が弁当業者と交渉して発注から配達までの仕組みを作り、弁当注文はアプリなどで保護者が直接行う様式が多いと見受けられます。弁当の容器(残飯も含めて)は保護者が持ち帰るか、業者が回収に来る、という形態のようです。昨年、こども家庭庁が児童クラブにおける昼食提供に関して公表した事例集に含まれていた「学校給食センターを活用した取組(茨城県境町)」のような仕組みによる昼食提供を実施することにしたという報道は見ていません。

 つまり、児童クラブで昼食を提供するとなったら、まずは宅配弁当業者を利用するということが主流になっています。先の事例集にももちろんその形態が含まれていて、奈良市と東京都港区の2事例が紹介されています。

 私が思う、児童クラブにおける昼食提供について、望ましいと考える形態は次の通りです。
学校給食センターの活用(小学校内クラブなら特に)>児童クラブ職員による児童クラブ内での調理(小学校外クラブなら最上位)>弁当や料理の配達(保護者が発注し、代金支払も保護者が業者・行政に直接)>保護者が調理当番で料理を作る(これはまったくお勧めしません。何か食中毒など事故があったとき、泥沼の争いになります)

 給食センター活用については次の点が利点、あるいは懸念点として考えられます。(食事をする場所は児童クラブまたは学校内のランチルーム)
・既存の社会資源を活用できる。衛生面で基本的に安心。
・自校調理方式では比較的作り立ての料理が食べられる。
・栄養を考えた献立や食育についても期待できる。
・給食を摂食する場を小学校側が提供してくれるかどうか。クラブへの配達は配達時に不安。
・給食センターでの調理なら数クラブ分まとめて調理できて費用が圧縮できても、自校調理方式では1つの小学校のクラブのみ対象であり、費用面で割高となる。20の小学校が自校調理方式では20の施設を稼働させねばならないが、センターで1つのセンターで配達であれば1つのセンターだけの稼働で済む。
・事前に食材をある程度確保することになるので子どもの急な欠席あるいは登所に対応できるかどうか。
・夏休みに多い設備点検の機会をどう確保するか。
・夏休み期間中は別の職場で働く、あるいは年収調整して働く給食調理員の方々の勤務を確保できるか。
・給食調理員の確保ができなかった場合、短期間の雇用で働いてくれる人を確保できるか。
・予算は市区町村で確保できるか。この制度での給食センター稼働に関する費用は、児童クラブで支払うことができる金額では済まない。(調理員への賃金、施設稼働の経費、配送に係る経費)

 宅配弁当活用についても同様に利点、懸念点を考えてみます。
・数種類の献立から保護者が子どもの意見を参考に選択できる。
・給食センターと比べると急な欠席や登所にも対応ができる。
・保護者が発注、代金を支払うのであれば児童クラブ側の手間は不要。
・弁当をクラブまで業者が配達してくれるのであれば人手はかからない。
・利用する期間によるが、子どもの「飽き」が心配。
・献立、あるいは弁当の量が、小学1年生から6年生までの子どもの要求に対応できるか。アレルギー対応はどうか。
・揚げ物が中心の献立になっていないか。野菜の量は十分か。
・冷凍弁当を自然解凍する場合、うまく解凍ができるか。児童クラブの調理器具は電子レンジは当然のことながら基本的に使用できない。
・残飯の問題。保護者が回収としても迎えに来るまでの5~6時間、残飯をクラブ内に置いておくことへの衛生上の問題。
・事業者が継続的に弁当を提供できるかどうかの保障はない。急に廃業したり弁当配達業務を取りやめる可能性は必ずついてまわる。今年は可能だが来年も同じ業者で可能かどうかはまったく分からない。
・配達料も含め費用が弁当代に上乗せされ、かつ、行政からの補助がない場合、どうしても1食300~500円ぐらいにはなる。家計が厳しい世帯には利用しづらい。行政からの費用補助は欠かせない。
・児童クラブ職員も同じ弁当を利用するとなった場合、職員の収入状況を考えると、毎食数百円の弁当を、子どもと合わせるために注文するには、家計の負担が重くなる。ただでさえワーキングプア(に近い)職員の生活が圧迫される懸念がある。

 では、児童クラブにおける昼食提供はどうでしょう。
・献立の柔軟性が高い。クラブの子どもたちの様子、好みを職員が総合的に判断して献立がたてられる。
・食材を購入する際、価格の安い食材を購入する(もしくは保護者、地域からの寄付も活用する)ことで全体的な費用を抑えられる。1食当たり200円台も可能。
・盛り付けも子どもの成長発達具合や食の太さ、細さに応じて適宜、調整できる。
・季節の食材を多用すること、あるいは栄養に優れた素材を多用することで食育面で期待がもてる。
・調理に従事する職員が必ず必要。子どもの支援と同時並行は無理。調理に専任する職員が必要。人手不足状態にある児童クラブでは取り組みが不可能。
・食中毒の心配は給食センターや宅配弁当より高くなりがち。児童クラブは飲食店ほど調理設備が完全に整っていない、食材の保管、管理も「家庭レベル」であり業務上の水準ではないため。

 ざっとこんなところでしょうか。ごくごく大雑把にいえば、「給食センター活用は市区町村の(特に予算面の)理解と協力がなければ無理。学校がウンと言わなければ無理。宅配弁当利用は、弁当業者も利益で考えるので費用対効果に劣ると判断すれば児童クラブ対象のサービス提供を取りやめる。それはいつでもありえる。また宅配弁当業者の倒産や業務縮小で児童クラブが利用できなくなる可能性はいつでもある。児童クラブの自前の昼食の用意は人手不足では無理」ということですね。

 私は総合的に考えて、給食センターの活用による児童クラブでの昼食提供を推進してほしいと考えています。なぜなら、昼食提供で最も重要視したいことが「安全」だからです。食中毒による健康被害は限りなくゼロに近づけたい。であれば普段の給食提供で確立されている衛生上の管理方法を活用できる給食センターが良いと考えます。保護者の利便性向上は大事ですが、子どもの安全に勝るものはありません。学校敷地外のクラブであれば、昼食時は学校のランチルームなどで昼食を食べられるようになればいい。今は移動時の熱中症対策も気になりますが。
 給食センター活用は、一番予算がかかる手法ですが、それを行政が負担するのが「こどもまんなか社会」です。こどもの安全を考える施策が、こどもまんなか社会であるはずです。(もちろん最終的にそのコストは税金と言う形で国民全体で負担するのですが)

<児童クラブ側の戦略ミス>
 給食センターの活用が難しい、学校敷地外の児童クラブは、給食センターで調理された品物の配達が不可能であるならば、児童クラブでの調理を優先させてほしいと私は考えます。弁当の宅配にしろ、職員による調理にせよ、つまり児童クラブにおける昼食提供については、以前のブログでも述べたように、保護者側の根強い要求によってジワジワと提供を実施する地域、クラブは増えていました。つまり、昼食提供に消極的な児童クラブ側がジリジリと後退、根負けしていったという形でもあります。児童クラブ側が消極的だったのは何より「人手不足」が影響していますが、それに負けず劣らず「子どものお弁当は、親が作ってあげてね」という児童クラブ側の「子育てにはこれが一番」という、ある種の固定観念が根強かったからでもあります。

 昨年、国は突然、児童クラブでの昼食提供を推し進める姿勢を明確にしましたが、対する児童クラブ側はどうでしょう。「食育」や「おやつ」に関しての研究や意見発表は毎年のようにあちこちの研究会や分科会で行われているようです。その観点はあくまでもミクロの観点であって、提供される調理品や個々の調理品提供、子どもにどのような献立が望ましいか、という個に関する分析が多いようです。一方で、「児童クラブにおける昼食提供における保護者負担について」や、「児童クラブにおける昼食提供の社会的コストの負担について」というような、制度の是非や制度の実施に伴う影響について研究し、行政や政治、社会に意見を発信している様子はあるのでしょうか。不勉強なせいもありますが、私はみかけたことがありません。

 私が思うに、直接のきっかけは保護者の負担軽減であり利便性向上であったとしても、それはもちろん無視できない要求であると考えて、「では、児童クラブにおいて昼食を提供するとしたら、何が最も有利なのか。安全面、そして費用面で」と協議検討し、出た結論を相手方、つまり行政にぶつけていく、根強く働きかけていくといった行動は、個々のクラブではおそらくあったのでしょうが、「児童クラブの業界全体として」働きかけていこうという「方向性の確立」は、おそらくなかっただろうと感じています。「児童クラブ側としては、給食センター活用(もしくはクラブでの自前調理)で昼食を提供し、子どもの食の安全を守り、保護者の利便性向上に資するようにしたい」と、昼食提供もまた育成支援、子どもへの支援、援助の一環として位置付け、それに関して制度の構築、予算の増額を行政に求めていく動きが、児童クラブ側全体として、もっと早くに行われるべきであったと考えます。
 それが後手後手にまわって、私としては、無いよりマシな宅配弁当による提供での昼食提供が、具体的な手法の主流になってしまっていることが残念です。先日の報道にあった500円超の巨大なハンバーグの弁当が、小学生の子どもにとって理想的な弁当であるとは私にはとても思えません。あの弁当を見て「子どもが喜ぶね」と行政担当者が思っているとしたら、誰かがしっかり指摘してあげねばなりませんよ。

 児童クラブ側は直ちに、「児童クラブにおける昼食提供は、弁当はやむを得ないときの方法として、まずは給食センターや児童クラブ側での昼食提供を優先に考えるべきである。なぜなら、このような利点があるからだ」ということを、専門家に協力を仰いでしっかりと理論武装して、行政や社会に対して訴えるべきです。制度としての、育成支援としての昼食提供について優れた点を主張するべきです。「給食センターからの昼食や、児童クラブで調理して提供する昼食は、外部から提供される食事より、こういう点で優れている」ことを明確にして、そのために必要なことが職員数の増員や調理設備の改善であれば、それを求めていくべきです。
 今、急激に運営するクラブ数を増やしている広域展開事業者には、その事業の原点だったり同時に事業展開している分野が給食提供、ケータリングであったりする事業者が目立ちます。そうした広域展開事業者は、昼食提供についても経験の積み重ねがある。そういう広域展開事業者と競争していくためには、昼食提供という1つの点で完全に劣ってしまってはならない。戦略的に考えれば、児童クラブ側が昼食提供に力を注ぐことは、広域展開事業者と競う市場獲得の点においても必要なのです。

 ああ、後手後手。つねに児童クラブの世界は後手後手です。それは自分たちが固執している理想から離れられないからです。その理想とはすっかり時代遅れになった、あるいはそもそも不適合であった「保護者が中心となって、保護者と職員による児童クラブ運営」であって「最終的には公営での運営」です。また、「保護者・職員と子ども」との個別的な事案に終始した問題意識であって、「制度として効率的に存在し続けられる児童クラブのあり方」「限られた予算の中で効率的に運営する生産性向上の意識」という、一般企業であればとうの昔に手を付けているようなことには全く無関心である。そのことで、見た目には優れて運営しているように思わせることが上手な、規模の大きな事業者による広域展開事業者のアピールに、市区町村がいとも簡単に騙される(あるいは、騙されたふりをする)ことになってしまっていると、私は残念に思っています。

<寄せられたご意見から>
 ここで児童クラブにおける昼食提供について、当ブログの読者でいらっしゃるという方から寄せられた意見を紹介します。とある地域での児童クラブ保護者会会長を務めておられる方です。アンケートを行った結果、宅配方式による弁当提供を取り入れたということでした。その方の思う所には、児童クラブにおける昼食提供は、弁当を作る人のほとんどが母親である、という観点から、性による役割の固定の打破につながるという考え方がある、ということです。私は、とても素晴らしい観点だと感じました。
<「保護者の負担」と言うとき、実質的には「女性の負担」となっており、児童クラブの昼食提供は、児童福祉だけでなく、ジェンダー平等の観点でも、有意義なことだと思いました。「親子の絆の一つ」と言った時も、念頭に浮かぶのは「母子の絆の一つ」となってしまっているようです。>

 こうした観点を、児童クラブ業界側が早くから持てていれば、児童クラブにおける昼食提供はもっと早く実現したであろうと私は考えます。私は自著でも書きましたが、小1の壁はすべからく母親に負担が押し寄せる現状があります。小1の壁に直面したとき、仕事を辞めたり変えたりするのはたいていが母親です。それは労働者としてキャリアの断絶を意味することです。それがほとんど母親すなわち女性が背負っていかざるをえないことの不条理さに、もっと注目が集まるべきだと考えてきました。

 いただいたご意見は、次のような文章で締めくくられています。
<私が利用する児童クラブでは、指導員の方も女性が多いように見受けられます。働く女性の「負担感」を取り除くという観点で、個人的には昼食提供が広がっていって欲しいと感じています。>

 保護者の方も利便性向上だけでなく、幅広い視野を持って、昼食提供についていろいろなことを考えていることがよく分かります。児童クラブ側は、広く保護者の知見も得て、それを武器として、児童クラブにおける、なるべく理想に近い形での昼食提供について、行政や社会の理解と協力が得られるように、大きな声で、主張や理論を訴えていくべきです。もう待ったなしですよ。

<おわりに:PR>
※書籍(下記に詳細)の「宣伝用チラシ」が萩原の手元にあります。もしご希望の方がおられましたら、ご連絡ください。こちらからお送りいたします。内容の紹介と、注文用の記入部分があります。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されます。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)になる予定です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。アマゾンでは予約注文が可能になりました!お近くに書店がない方は、アマゾンが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
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 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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