放課後児童クラブと地域社会との関係を考えてみます。児童クラブは地域活力を生み出す人材のゆりかごになれる。上
放課後児童クラブ(学童保育)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)は、いわゆる民間学童保育所を除いて、必要に応じて行政が地域に設置しているものですが、児童クラブが事業を円滑に実施していることは大前提として、その存在価値をさらに高めていくためには何が必要でしょうか。運営支援は、地域社会から必要とされる児童クラブのあり方を今こそ追求するべきだと考えます。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<地域社会と放課後児童クラブ:運営指針から>
放課後児童クラブと地域社会との関係を考えるには、まず放課後児童クラブ運営指針において、児童クラブと地域社会の関わりについてどのように記載されているかを確認しておきましょう。かなりの量の記載があります。これらはすべて踏まえておきたい前提です。長い引用になりますが、目を通してください。
・第1章 総則の「2.放課後児童健全育成事業の役割」から
(3)放課後児童健全育成事業の運営主体及び放課後児童クラブは、学校や地域の様々な社会資源との連携を図りながら、保護者と連携して育成支援を行うとともに、その家庭の子育てを支援する役割を担う。
・第1章 総則 「3.放課後児童クラブにおける育成支援の基本」から
(4)放課後児童クラブの社会的責任④ 放課後児童クラブの運営主体は、地域社会との交流や連携を図り、保護者や地域
社会に当該放課後児童クラブが行う育成支援の内容を適切に説明するよう努めなければならない。
・第3章 放課後児童クラブにおける育成支援の内容 「1.育成支援の内容」から
(4)の①「子どもの遊びや生活の環境及び帰宅時の安全等について、地域の人々の理解と協力が得られるようにする。」
⑤「屋内外ともに子どもが過ごす空間や時間に配慮し、発達段階にふさわしい遊びと生活の環境をつくる。その際、製作活動や伝承遊び、地域の文化にふれる体験等の多様な活動や遊びを工夫することも考慮する。」
「放課後児童クラブの子ども達が地域の子ども達と一緒に遊んだり活動したりする機会を設ける。」
「地域での遊びの環境づくりへの支援も視野に入れ、必要に応じて保護者や地域住民が協力しながら活動に関わることができるようにする。」
・第3章 放課後児童クラブにおける育成支援の内容 「2.障害のある子どもへの対応」から
(1)障害のある子どもの受入れの考え方 〇障害のある子どもについては、地域社会で生活する平等の権利の享受と、包容・参加(インクルージョン)の考え方に立ち、子ども同士が生活を通して共に成長できるよう、障害のある子どもも放課後児童クラブを利用する機会が確保されるための適切な配慮及び環境整備を行い、可能な限り受入れに努める。
〇地域社会における障害のある子どもの放課後の生活が保障されるように、放課後等デイサービス等と連携及び協力を図る。その際、放課後等デイサービスと併行利用している場合には、放課後等デイサービス事業所と十分な連携を図り、協力できるような体制づくりを進めていくことが求められる。
・第3章 放課後児童クラブにおける育成支援の内容 「5.育成支援に含まれる職務内容と運営に関わる業務」から
(2)運営に関わる業務 地域の関係機関、団体との連絡調整
・第4章 放課後児童クラブの運営 「5.運営主体」
(2)放課後児童クラブの運営主体は、次の点に留意して運営する必要がある。 ○地域社会との交流及び連携を図り、子どもの保護者及び地域社会に対し、放課後児童クラブの運営の内容を適切に説明するように努める。
・第5章 学校及び地域との関係 「3.地域、関係機関との連携」
(1)放課後児童クラブに通う子どもの生活について地域の協力が得られるように、自治会・町内会や民生委員・児童委員(主任児童委員)等の地域組織や子どもに関わる関係機関等と情報交換や情報共有、相互交流を図る。
(2)地域住民の理解を得ながら、地域の子どもの健全育成の拠点である児童館やその他地域の公共施設等を積極的に活用し、放課後児童クラブの子どもの活動と交流の場を広げる。
(3)事故、犯罪、災害等から子どもを守るため、地域住民と連携、協力して子どもの安全を確保する取り組みを行う。
(4)子どもの病気やケガ、事故等に備えて、日常から地域の保健医療機関等と連携を図る。
・第5章 学校及び地域との関係 「4.学校、児童館を活用して実施する放課後児童クラブ」
(2)児童館を活用して実施する放課後児童クラブ ○児童館に来館する子どもと放課後児童クラブに在籍する子どもが交流できるように、遊びや活動に配慮する。 ○放課後児童クラブの活動は、児童館内に限定することなく近隣の環境を活用する。
・第6章 施設及び設備、衛生管理及び安全対策 「1.施設及び設備」
(1)施設 ○ 子どもの遊びを豊かにするため、屋外遊びを行う場所を確保することが求められる。その際、学校施設や近隣の児童遊園・公園、児童館等を有効に活用する。
・第6章 施設及び設備、衛生管理及び安全対策 「2.衛生管理及び安全対策」
(3)防災及び防犯対策 ○ 市町村や学校等関係機関と連携及び協力を図り、防災や防犯に関する訓練を実施するなど、地域における子どもの安全確保や安全点検に関する情報の共有に努める。
(4)来所及び帰宅時の安全確保 ○ 保護者と協力して、地域組織や関係機関等と連携した、安全確保のための見守り
活動等の取り組みを行う。
多岐にわたっています。つまりそれだけ児童クラブは地域社会と密接に連携することが求められているということです。この点、児童クラブの事業者(運営主体)そして従事する職員は、地域社会との関係性を強固にしていくことが職務の1つである、ということにもなります。
<運営支援が考える、児童クラブと地域社会との関係性>
児童クラブと地域社会は密接に関係を持つことが必要であることは上記からご理解いただけるとして、では、児童クラブと地域社会それぞれの要素を考えます。双方が密接な関係を持つことが児童クラブ、地域社会それぞれにおいてどのようなメリット、利点があるのか、について考えることになります。ここを考えるにおいて、私が気に留めていることがあります。それは、児童クラブと地域社会が密接な関係を持つという状態は、必ずしも児童クラブ、地域社会それぞれにおいて質の高い充実した状態を必ず導くものとは考えにくい、という観点です。つまり、児童クラブの質の高低に関わらず地域社会との連携は図ることができる。ある程度の連携はどのような状態でも図ることができるという考え方です。
仮に、児童クラブと地域社会との関係性を図表で示すとして、児童クラブを縦軸、地域社会を横軸にして考えます。縦軸(児童クラブ)は、「質の高さ=例えば、子どもの育成支援の充実の具合、保護者の利便性の具合、職員の雇用労働環境の充実の度合い、継続かつ安定して事業活動ができる事業者の安定性の度合い」の高低で示すことができます。横軸(地域社会)は、「活動の充実=例えば、公共、福祉の面で地域住民による共助の充実の度合い、イベントなど地域の活力、住みやすさ向上による人口の維持または増加、地域経済の持続的な発展、防災活動の充実、防犯面の安心の度合い」の高低(実際は左右、右に行くほど充実の度合いが高い)で示すことができます。
つまり、右上の範囲が「児童クラブの質が充実し、地域社会の活動が充実」の区分になります。右下は「児童クラブの質は充実していないが、地域社会の活動は充実」になり、左上は「児童クラブの質は充実しているが、地域社会の活動は低調」になり、左下が「児童クラブの質は充実せず、地域社会の活動も低調」、ということになるでしょう。
目指すは右上の範囲の状態ですね。その状態であるかどうかは、様々な項目で調査できるでしょう。地域住民へのアンケートで直接的に印象を尋ねることで互いの関係性の状況を推し量ることはできるでしょう。それ以外にも、「児童クラブ又は地域社会が催すイベントへの参加人数、参加者の属性、双方が参加できるイベントの回数や頻度」だったり、「児童クラブが消費する物品の地域への依存状況、発注金額」も参考になるでしょう。心理的、感覚的なモノサシでの充実度だけでなく、経済面や関わる人員数といった様々なモノサシで児童クラブと地域社会との関係性の成熟度合いを、計測できるのではないでしょうか。双方が共に活動している状況であれば、まさしくそれは「協働」の場面になります。児童クラブと地域社会の協働の実態、その濃淡と濃淡を導く要因について解明するような社会的研究を運営支援はぜひ望みます。
さて、右上の範囲を目指すにはどのようにすればいいのかを考えます。どのようになれば、児童クラブと地域社会がそれぞれ高みのある状態で共存共栄できるのでしょうか。そのためには、右上の範囲にあるということは具体的にどのような状況が展開されているのかを考えてみます。とりわけ児童クラブにおいて、どのような状況であれば右上の範囲に位置することができるでしょうか。
<児童クラブにおいて望ましい状況>
児童クラブの事業目的は言うまでもなく児童の健全育成であり、それは育成支援と称する業務を事業者が行うことです。それはすなわち、地域社会で育つ子どもの生活の安定を保障することであり、さらに、地域社会で子育て中の家庭の生活の支援を行うことです。児童クラブが充実している地域社会は、安心して子育てができる地域社会となりますから、他地域と比べてその地域社会における相対的な評価の高さをもたらすことでしょう。安心して子育てができる地域であれば人口の維持、さらには増加も期待できますから経済面での効果も期待できるでしょう。児童クラブそのものの質の高さとは、子どもがそのクラブで安心して楽しく過ごせるようなクラブであり、評価の高さから利用人数も安定しており、事業運営も安定することでしょう。当然、職員の安定した良好な職場環境が実現し、育成支援と保護者支援において質の高い職員が勤務していることでしょう。
質の高い安定した児童クラブを実現するには、職員の資質の高さがいうまでもなく必要ですが、それは育成支援の専門性を知識として深い理解を持ち、子どもへの支援を中心とする職務に熱心な職員がただ存在すればいいというものではありません。児童クラブにおける育成支援について、保護者が興味関心をしっかり持って協力する考え方を持つようになる、そしてその考え方を保護者が育てられるように、保護者と連携することができる能力が必要です。職員と個々の保護者だけでなく、職員と「保護者同士のまとまり、集まり」、さらには「職員集団と、保護者集団」との間で、しっかりと連携できることが重要であると私は考えています。保護者が児童クラブにおける子どもの育ち、成長、育成支援について理解し、より質の高い手法について職員を意見交換、協議し、さらに高みを目指していく姿勢に、自然となっていくことです。
それは職員の能力に関わります。児童クラブを利用する保護者は、子どもが児童クラブで事故に遭わず、トラブルを起こさず巻き込まれず、無事に過ごしてくれればいいと思うのが当然で、それ以外に自身のワークライフバランスにおける児童クラブの利便性を気にするものです。いわば、自分の子どもと自分の生活に関心をほとんど持っているもので、それはそれで当然ですし、そのことについて保護者が不満を持っていない児童クラブはごく普通の児童クラブです。つまり児童クラブにおける最低目標といえるでしょう。「より高みにある児童クラブ」というのは、私は、保護者たちが児童クラブで過ごす我が子以外の子どもや職員に対してもまた、より優れた状況に、境遇にあることを望み、そのために他の保護者と連携しようという気持ち、考えを持つことであり、保護者の中には実際にそのために向かって活動を自発的に行う人が現れる、ということだと、私は考えています。
児童クラブを利用する保護者の誰もがそうなるわけではありませんし、他者と連携することを楽しみとすることを義務として課すことはあってはなりません。あくまで自然に、任意に、他者と連携して活動して何らかの果実を得ることに価値を見出すことを楽しみとする人が生まれ、育っていく場所に児童クラブはなれる、ということです。すべての児童クラブがそのような場所になれるということではなく、他者と連携して何かを生み出せる人材を送り出せる場に児童クラブがある、という状況を意図的に作り出せるというのが私の考えです。これは裏を返せば、そのような保護者をを見つけ、育て、地域社会に向けて羽ばたいてもらう流れを作ることが、より高みにある児童クラブの事業者そして職員の心得とすることが重要である、と私は考えているのです。
では、そのために児童クラブ側がやるべきこと、他の要素がやるべきことは何かを次回に考えます。
<おわりに:PR>
弊会は、次の点を大事に日々の活動に取り組んでいます。
(1)放課後児童クラブで働く職員、従事者の雇用労働条件の改善。「学童で働いた、安心して家庭をもうけて子どもも育てられる」を実現することです。
(2)子どもが児童クラブでその最善の利益を保障されて過ごすこと。そのためにこそ、質の高い人材が児童クラブで働くことが必要で、それには雇用労働条件が改善されることが不可欠です。
(3)保護者が安心して子育てと仕事や介護、育児、看護などができるために便利な放課後児童クラブを増やすこと。保護者が時々、リラックスして休息するために子どもを児童クラブに行かせてもいいのです。保護者の健康で安定した生活を支える児童クラブが増えてほしいと願います。
(4)地域社会の発展に尽くす放課後児童クラブを実現すること。市区町村にとって、人口の安定や地域社会の維持のために必要な子育て支援。その中核的な存在として児童クラブを活用することを提言しています。
(5)豊かな社会、国力の安定のために必要な児童クラブが増えることを目指します。人々が安心して過ごせる社会インフラとしての放課後児童クラブが充実すれば、社会が安定します。経済や文化的な活動も安心して子育て世帯が取り組めます。それは社会の安定となり、ひいては国家の安定、国力の増進にもつながるでしょう。
放課後児童クラブ(学童保育所)の運営支援は、こどもまんなか社会に欠かせない児童クラブを応援しています。
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弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。
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放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。
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放課後児童クラブを舞台にした小説を完成させました。いまのところ、「がくどう、序」と仮のタイトルを付けています。これは、埼玉県内の、とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子を丹念に描いた作品ではありません。大人も放課後児童クラブで育っていくことをテーマにしていて、さらに児童クラブの運営の実態を描くテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ご期待ください。
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「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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