放課後児童クラブで過ごす子ども、クラブのことを保護者に伝える「おたより」を、情報共有ツールとして活用を!
学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)では定期的に「おたより」を発行して子どもの様子を伝えていることでしょう。その、おたよりについて考えます。
※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。
<放課後児童クラブ運営指針には、こう書かれています>
放課後児童クラブは、子どもたちが生活し、遊びを通じて成長、育っていく場所です。託児所ではありません。人が育つわけですから、いろいろなことが起こります。その、いろいろなことを、保護者はもちろん知っておくべきですし、知らなければならないのです。
放課後児童クラブが「その業務水準の目標として位置づけている」放課後児童クラブ運営指針には、保護者との連携として、次のように記されています。
<〇放課後児童クラブにおける子どもの遊びや生活の様子を日常的に保護者に伝え、子どもの状況について家庭と放課後児童クラブで情報を共有する。〇保護者への連絡については、連絡帳を効果的に活用することが必要である。その他、保護者の迎えの際の直接の連絡、通信、保護者会、個人面談等の様々な方法を有効に活用する。>
(運営指針第3章4.保護者との連携(1)保護者との連絡)
<〇通信や保護者会等を通して、放課後児童クラブでの子どもの様子や育成支援に当たって必要な事項を、定期的かつ同時にすべての家庭に伝える>
(運営指針第3章5.育成支援に含まれる職務内容と運営に関わる業務(1))
運営指針もつまるところ、「クラブの様子は保護者に伝えてくださいよ」と、大事なことだから2度も同じことを記しているわけですね。手段として連絡帳を真っ先に挙げていますが、それは個別の事情、個人情報に関することを正確に伝えるために有効だからです。口頭では「言った、言わない、聞いた、聞いていない」の問題が生じますから。
子ども個人的なことではなく、クラブにおける「子どもたち」の生活の様子や、あるいはクラブに関する情報、状況を、すべての保護者、家庭に伝えることも大事なことです。運営指針にある、「定期的かつ同時にすべての家庭に伝える」というのは、まさにこのことです。定期的かつ同時、という場合に有効的な手段としては、一斉配信メールがありますが、ここに「おたより」の重要性があると、私は考えています。
<「おたより」の有効な点>
おたよりは、上手に作成され活用されている限り、運営指針が求める定期的かつ同時にすべての家庭に必要な情報を伝え、情報共を図ることが可能です。上手に作成され活用とは、つまるところ、「手に取って読まれている」ということです。保護者が手に取って読んでいるおたよりがある場合、次のような効果が発揮されます。
・クラブに関する情報の把握、理解に関して保護者同士の程度の差が縮まることで、偏った誤解や偏見が生じる可能性が減る。
・クラブに在籍している子どもたちについて知る機会を重ねることで保護者は児童クラブに通っている子どもたちに親近感を覚え、「自分の子どもが通う施設」という捉え方から「みんなの子どもが通っている施設」という認識に変わり、最終的に、「みんなが保護者、みんなが子ども」という関係になっていく。
・クラブにおける諸問題について保護者の問題意識を醸成することができる。施設改良や制度の改善に有益。
・共通の話題を保護者が持つことで保護者同士、または保護者と職員とのコミュニケーションが円滑になり、保護者会がある場合は話題にもなる。それにより会話や交流が促進され、最終的にトラブルが減る。
もちろん、「失敗した、おたより」は、上記の逆の作用が働くと思ってください。
<おたよりを読んでもらうポイント>
おたよりを作成するクラブ職員は、所属組織あるいや職能集団(地域における職員の団体。いわゆる指導員団体など)で、「おたより作成講座」などを受講しているのでしょうか。そのような講座があるかどうか私は把握していませんが。私が考える「上手な、読んでもらえるおたよりの作り方」のポイントを以下に紹介します。
・「おたより」には2つの要素が含まれることを理解し、その2つの要素を1つの記事やコーナー、フィールドにおいて、ごちゃまぜにしないこと。
→2つの要素とは「ニュース、トピックス」(出来事、話題)と「インフォメーション」(告知したい情報)です。この2つをしっかり区別して伝える。例えば、「所外保育の持ち物について」というタイトルで伝えるコーナーに、所外保育について子どもたちがどう取り組んでいるのか言及する必要はありません。持ち物だけを簡潔に分かりやすく伝えればいいのです。
・何事も、短くコンパクトにする。1つの話題を伝えるコーナーでも、全体の文章量は控えめにする。1つの文章も短めにして、主語と述語を明確にする。
→つまりはこの運営支援ブログの逆を心がけてくださいね、ということです。文章の量なら、目安として、旧ツイッターの投稿の3つ分を最大限にしましょう。1つの投稿で140文字ですから、3つですと400文字を超えます。できれば、2つ分ぐらい、300文字以内で収めたいところです。また文章は短くしましょう。主語と述語が食い違わないようにしましょう。主語が「Aくんが」なのに、それに続く「転んだ」が実はBさんだった、という文章では、読み手が混乱してしまいます。「誰が、何をした。何が、どうなった」ということを常に意識して書きましょう。文章の上手、下手は意識しないでください。意識するなら、短い文章にすること&主語と述語の関係を明確にすること、です。この2つができれていれば、読みやすい文章に絶対になります。
・読まれる「おたより」は、良いレイアウトから。
→紙面で配るおたよりも、ネットで配信するおたよりも、読み手が真っ先に目にするのは見出しです。紙面で配るおたよりなら、全体のレイアウトも目に入るでしょう。そこで読み手の興味を引き付けることが大事です。「その先、どうなったの?」と気になるような見出しにすることです。「クラブで見つからなくなった本をAくんが見つけました!」という見出しより「失われたクラブの宝物を見つけたのは、誰だ!」という見出しの方が、読み手の興味をそそりますよね。
紙面で配るおたよりの場合は、その見出しの字体や大きさを、周囲の他のコーナー、記事と比較して目立つようにすることです。また、紙面で配るおたよりの場合は、「余白」を大事にしてください。文字がぎっしりでは、忙しい保護者にとって「読むのは後回し」にされてしまい、結局は読まれないままです。文字は大きめに、でもあまり行間は開けずに(かえって読みづらくなる)、文字のかたまり部分は比較的とりまとめ、そうでない余白の部分を引き立てるようにしてください。コーナーを通常の長方形、四角形にすることを基本としつつ、変わった形のコーナーを設けることはよくある手法ですが、効果的です。全部が全部、変わった形のコーナーにするとかえって個性が埋没します。基本は四角四面、真ん中に「変わり種」変形コーナーを設けてそこに記事を配置することです。もちろん、全般的にイラスト、写真を活用することは当然、重要ですよ。
・「ネタ」には最大限の配慮をすること。
→おたよりで取り上げるニュース、トピックスの選択には配慮が必要です。誰かにとって楽しい、面白い、興味を引く話題が、もしかしたら誰かにとっては恥ずかしい、悲しい、悔しい話題になることは、往々にしてあります。例えば、子どもの服に穴が開いていて、でも子どもはそれを上手に利用して周りの子どもたちを笑わせていてクラブが盛り上がった、という話題があったとします。クラブ全体としては盛り上がった楽しい話題ですが、「穴の開いた服を子どもに着させていた家庭の保護者」にとっては、恥ずかしいと感じる出来事になります。そのような話題の記事がおたよりに掲載されたとしたら、穴の開いた服を(はからずも)子どもに着させてしまった保護者は、クラブに不信感を持つことになります。
「すでに保護者同士の連帯感が高く、孤立している保護者はいない。定期的に保護者会で、クラブにおける困った点を議題や話題として取り上げ、意見交換をしている」クラブであれば、おたよりに、シビアな内容の記事を盛り込んでもいいでしょう。本来はそれも含めての情報共有ですから。しかし、多くの保護者が「お客様、利用者」という意識が強い状態で、「Aさんはみんなにいじめられています。この状況を変えなければなりません」のような記事を、おたよりにのせてしまうと、意図せぬ方向に事態が動く可能性が高いので、やってはいけません。そのような場合は、まずは、ハッピーエンドの記事ながら、子どもの成長にとって必要な出来事を含んでいる記事を載せるようにしましょう。また、クラブ全体の困りごとを「みなさんはどう考えますか?」と投げかけることは良いことです。「ゲームの時間、こういう意見が寄せられています」として紹介し、「ぜひゲームの時間について考え方を職員に聞かせてくださいね」と投げかけることです。これは、保護者を「巻き込む」ことです。巻き込まれて、同じ世界に「同化」させようとすることです。そうやって、同じ世界観を持つ人の集団が形成されていくのです。
・インフォメーションには、必ず「とても重要なことを」を載せる。
→これは「おたよりを見ないと、後で困る」という意識を植え付けるためです。もちろん、おたより以外にもあらゆる手法で重大な告知情報は伝えられねばなりませんが、おたよりにも必ず載せましょう。提出期限がある書類の期日、臨時に変更となる開所時間などです。
・職員の近況は、できる限りのせておく。
→これは短いコーナーでいいので載せましょう。いわゆる漫画雑誌で、作者(漫画家さん)の近況がページの最後の方にありますが、そのようなイメージです。職員への親近感を保護者に「植え付ける」ためです。クラブにおける活動以外の内容がいいですね。何もプライバシーを切り売りしろというのではありません。たわいないことで、いいのです。
(なお、これら「おたより作成の極意」は、文字で表現するのはなかなか難しいところです。運営支援は、おたより作成講座も行うことができます。読みやすい文章の書き方からレイアウトまで、私が指導します。ぜひ、ご検討ください)
<職員は楽しんでおたよりを作ろう>
児童クラブ側からすれば、おたよりは時間的コストと、職員の精神的コストに高い負担をかける仕事の1つです。何より、苦手な部類の仕事でしょう。子どもの育成支援記録は書く自信があっても、「子どもたちの様子を保護者に伝えるなんて」と思う職員は多いものです。しかし、おたよりは必要なのですよ。すべての保護者に、口頭で、自分の言葉で、クラブにおける近況や情報を伝えることは不可能です。伝えられる情報の濃淡も生じてしまいます。5分間、話せた保護者と、1分も話せなかった保護者を比較すると、話せた時間が短い保護者に伝えられた情報はどうしたって5分間、会話した保護者に分量として劣ってしまいます。それが情報の濃淡を生み、ひいては、クラブに対する理解や親和性の程度の差を招く要因になります。
ですので、おたよりは、実は効果的に、簡潔に、クラブ側が伝えたい情報を保護者と共有できるツールなのです。まずこの重要性を、クラブ運営事業者は、職員すべてにおいて徹底して理解させることが必要です。情報共有の重要さは、常に訴えていることでしょうから、おたよりの重要性を理解させることも難しくはないはずです。
その上で、おたより作成の業務時間をしっかり確保するようにしましょう。優先度の高い仕事と位置付けることです。職員も、「このおたよりで、保護者との一体感を醸成していくんだ」という心がけをもっておたより作成の仕事に取り組みましょう。苦行ではありません。「子どもたちのことを知ってもらえるんだ」という気持ちをもちましょう。また「クラブの困ったことをぜひ知ってほしい」という気持ちもこめましょう。(なお、クラブにおける諸問題を共有しようとするときは当然、事業の管理責任者が承知、許可していることが必要です。業務の運営に関することですから、クラブ職員が独断で行ってはなりません)
できれば毎週1枚が理想ですが、そうでなければ月3枚、最低でも月2枚は必ずおたよりを出しましょう。毎週1枚で100点なら、月3枚で70点、月2枚で50点が私の評価基準ですね。数だけクリアすればよいものではありませんが、数すらこなせないなら、困ります。評価制度と連動させて賞与額の算定基準にするのもいいかもしれませんね。それだけ、おたよりが重要だということを、クラブの運営事業者全体で共有しましょう。
おたより作成を1人の職員にだけ任せきりにしてはいけません。常勤職員なら必ず行う仕事にしましょう。そして、特に先任職員に注意なのは、「安易なダメ出しはしない」ことです。文章の「てにをは」はともかく、「その記事に、何の意味があるの?」という批判はダメです。職員1人1人の感性は違います。育成支援の方針に違うことを訴える内容はもちろん修正を指示する必要はありますが、記事のネタ、題材について「それはつまらないね」というのはダメです。
複数の職員が定期的におたよりを出せているクラブは、育成支援の方針も共有でき、職員同士の円滑な人間関係があるクラブと私は判定できます。つまり、おたよりを満足に出せないクラブは、そうではないということです。その点、運営事業者はしっかりと肝に銘じておきましょう。
<おわりに:PR>
放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、まもなく寿郎社(札幌市)さんから出版されます。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 親と事業者の悩みに向き合う」です。6月の下旬にはお買い求めできるようになるようです。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。およそ2,000円になる予定です。正式な情報は随時、お伝えしますが、注文は書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。特に埼玉近辺の方で、まとまった部数をお買い求めいただける方は、萩原まで直接、ご相談ください。その方が個人的にもありがたい(なにせ、ある程度のまとまった部数が手元に届くので)です。発売まで、あと1か月です。どうぞよろしくお願いいたします。
「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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