放課後児童クラブで起こった子ども同士の問題、トラブルを考える。その形態は?どうやって解決に導けばいい?

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)では、子ども同士(子どもと職員の間のトラブルも)のトラブルは避けがたいもの。深刻化してしまったトラブルの対処は難題です。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<トラブルが起きている状態を各方面から考える>
 放課後児童クラブは大勢の人間が過ごす場所ですから、人間関係のトラブルはなかなか避けようがありません。仮に、トラブルをほぼほぼ絶対的に起こさないようにするには、徹底的に職員が子どもの行動を監視し、決められた行動以外を許さないようにすればトラブルは(少なくとも表面的には)起こらないでしょう。そういうクラブは今回は論外とします。もちろん、きわめて円満な人間関係が構築されていて、ちょっとしたいざこざはあっても直ちに解決できている、素晴らしいクラブだって多くあります。そのようなクラブが実は結構あることも私は実際に見てきました。そういうクラブはぜひそこに至るまでのノウハウをSNSで発信してほしいですね。きっと、今、現に困っているクラブの職員や保護者には参考になることでしょう。

 今回考えたいのは、子ども同士のトラブルが深刻化してしまい、保護者が解決を求めて動き出しているときの対応です。児童クラブはあまりにも多種多様なので、環境を区別して考えていきます。

〇環境
(1)保護者運営の児童クラブ(組織運営は法人でも、クラブ内の育成支援について保護者と職員が密接に協同している場合を含む)
 私もそのようなクラブを利用していましたが、比較的早い段階で保護者が問題解決に加わることが多いのではないでしょうか、トラブルの渦中にある子どもの保護者はもちろんのこと、保護者会、役員会の幹部級の保護者も加わって、トラブルの解決に動くという形態です。

(2)保護者は基本、利用者に終始しており、クラブにおける育成支援についても職員のみで考えて実施している児童クラブ
 この場合、職員が問題解決に取り組みますが、保護者は基本的に職員を介して情報や意見のやりとりを行うことが多いでしょう。しかし、問題がなかなか解決しない、あるいは職員(つまり施設運営側、事業者側)が問題解決の取り組みに消極的な場合には、保護者が独自で問題解決に動くこともありえます。

〇態様
(3)一方的な関係によるトラブル
 いじめや、完全な言いがかりなど、悪意に基づいて相手を責めたり酷い目にあわせたりすることですが、こうした故意以外でも、相手方の完全な過失、失敗でもう片方の相手に一方的に影響を及ぼすこともありえます。おやつで配られたジュースを持って歩いていたら足を滑らせてしまいそのジュースを浴びてしまったことを発端として起きたトラブルなどがあるでしょう。

(4)双方に事情があることによるトラブル
 人間にはどうしても、なかなか互いに打ち解けられない間柄というのがあるものです。ウマが合わないというか、互いにしっくりこないというか。そこに、例えば学校や、ずっと昔から、仲が良くないという関係があれば、クラブ内での些細な出来事から深刻な争いに発展することがあります。また、良好な関係性にある者同士でも、子どもならではの感情の処理の失敗によってトラブルに発展することもごく普通にあります。戦いごっこがエスカレートしてけんかに発展、ということです。

〇状況
(5)トラブルの発生をクラブ側が認識している場合
 この場合は職員が問題解決に取り組みますが、深刻なトラブルに発展してしまうのは「クラブで過ごす時間帯において子ども同士でトラブルの解決が明確にできず、職員から保護者に伝えた」場合か、「子ども同士でトラブルの解決ができたと職員は理解したが、実は子どもは納得しておらず保護者に打ち明けた」という場合があります。なお、クラブでトラブルが解決できなかったものの当日、迎えに来た保護者に伝えるのを忘れてしまった場合は、もうそれだけでクラブの統治能力に疑問符が付きます。なお、「迎えに来るのが祖父母や兄、姉なので保護者には直接、伝えられない」という状況は珍しくありませんが、連絡帳や電話で状況を伝えることは当然です。

(6)トラブルの発生をクラブ側で認識していない場合
 このパターンは結構あります。先日もSNSでこうしたトラブルに直面した児童クラブ利用の保護者と思われる方の投稿があり、大変多くの反響があったようです。クラブ側で事態を認識していない以上、初動は保護者となりますが、保護者が問題解決まですべて主導的に動くのか、事態の解決をクラブ側に任すのかは、状況によるでしょう。もともと人間関係の調整に熱心でないクラブや、保護者から見てトラブル解決に熱心かつ有能ではないと思われる職員のクラブでは保護者はクラブ側に期待しないで自ら解決を求めて動き出すでしょう。

〇行動
(7)職員が主導的に解決に取り組む場合
 もとより、児童クラブの利用については、クラブの事業者側に、利用者が安心してクラブを利用できるように努める義務が課せられています。よって職員が主導的に取り組むことは当然なのです。取り組まないことは許されないことです。ですから、保護者が主導的に問題解決に取り組むとあっても、本来ならば職員の了解のもと、理想を言えば職員の統制下のもとで保護者が行動することが望ましいのです。

(8)保護者が主導的に解決に取り組む場合
 外形的には似ていても置かれている状況は全く異なる状態となるのではないでしょうか。つまり、クラブ職員(事業者も含めて)の了解のもと、トラブルの当事者の子どもの保護者同士も含めて、話し合いによる解決に向けて全員が努めて行動している場合があるでしょう。片や、職員がトラブル解決に消極的であるとか、あるいは保護者側が職員を信頼していないとか、何らかの事情で職員や事業者が問題解決に取り組む姿勢がなく、トラブル当事者の子どもの保護者同士による直接交渉で解決に向かって行動する、という場合です。

〇結果
(9)双方とも了解、納得で幕引き
 職員による仲介にしろ保護者同士のやりとりにしろ、双方(子ども同士と、保護者同士のそれぞれ)が納得して、これ以上この件で話し合う必要はないでしょう、となれば、結果的には一安心です。

(10)双方とも了解なのだが、実は双方または片方が納得せぬまま結果を受け入れている
 実はこの状況が多いのではないでしょうか。話し合いの結果、互いに謝ったりあるいはどちらかが主に謝ったりしても、実はその結末について当事者双方、または当事者の一方が納得していないということです。とはいえ、相手の謝罪を受け入れたり自ら謝罪をすることを受け入れている以上、大人の世界では解決です。

(11)相手側を一方的に従わせている
 上記(10)に近いのですが、もっと程度は厳しく、当事者の一方の強硬な態度によって、相手側が太刀打ちできずに一方的に相手側の要求を受け入れざるを得ない場合です。SNSで、「相手の保護者が泣いて詫びるまで徹底的に追及した。それ以降、相手側はこちらに一切、関わろうとしなくなった。これで平穏になった」という趣旨の投稿を見かけることがありますが、まさにこの例でしょう。

(12)一方がクラブを退所する
 これもまた児童クラブのトラブルにおける結末としてありがちなものです。この場合、トラブルを起こした側よりも、トラブルでどちらかというと被害を受けたと見なされる側がクラブを退所してしまうということがあります。保護者としては、そうやって子どもを守るということです。クラブに子どもがいたら、また次にひどい目にあわされるかもしれないから、究極的に子どもを守るにはこちらがクラブを辞めるしかない、ということです。これは、私は最悪の事態と考えます。あってはならないことです。

<保護者が問題解決に取り組むことは良いのか、悪いのか>
 保護者が運営しているクラブはもちろん、保護者が運営当事者ですから事業者の責務として運営当事者である保護者が解決に取り組むことは当然だと思われています。保護者がクラブで行われる育成支援について職員と協同で取り組んでいる場合も同様です。トラブルの解決も人間が成長する上でその対処を身に付いておくべきであって、児童クラブにおける育成支援においてはトラブルにどう取り組むかもまた重要だと私は考えます。

 ただ、今の時代に果たしてそれが通用するかどうか、実はもう無理な時代になっているのではないかとも私は考えます。保護者同士が膝を突き付け合って話し合い、ある程度まで歩み寄れるまで話をすることで互いに解決点を目指すという、本来なら人間同士の関係として当然に求められることが、なかなか今の保護者には理解されない、あるいは経験がないのでその価値が理解されていないのではと思うからです。
 もっと言えば、「人間関係は、お互い様」「もちつ、もたれつ」という、ある意味で旧態依然としている、人間関係の潤滑油的な手法についてその意義を認めない、あるいはそもそも知らないという保護者同士での交渉は、「いかにして相手を論破するか、相手の主張を打ち破ってこちらの意見を全面的に受け入れさせるか」を目標に行われてしまいがち、だということです。
 むろん、明確に一方的な悪意に起因するトラブルの被害者側は、非がないことに対して妥協したり相手側の主張を受け入れることは不要ではあるのであって泣き寝入りする必要はありません。この場合は、いわば相手側をどこまで屈服させるか、許しを与える水準をどの程度に設定するかにおいて、完膚なきまで相手を打ち破ることまで求めることを固執するのかどうか、という問題になります。児童クラブでいえば、「相手側をクラブから退所させることが、こちらの最低条件です」と固執することです。こうなってしまうと、いくら相手側に完全な非があったとしても、児童クラブの利用をする相手側の契約上の権利を侵害するということになり、被害者の立場である者が今度は相手側の非につけこんで相手側の権利を侵害するということになってしまいます。
 なお、そのほかの形による謝罪の要求、例えば慰謝料のような金銭による被害の賠償を求めることは私は否定しません。もちろん弁護士などしかるべき資格を持った方に交渉を委ねることが客観的な事態解決には欠かせないでしょう。クラブ退所にまで追い込むことは、退所させられる子どもの居場所を奪うことになり、好ましいことではないと私は考えます。そういう最悪な事態にまで容易に展開しがちなことが、今の保護者の人間関係に基づくトラブル解決の帰結であることを私は恐れます。そうならないよう、第三者的な立場で当事者双方に意見や助言をできる保護者がいるならいいのですが、期待はできません。

 よって、私は保護者運営のクラブであっても、やはり職員が問題解決に主体的に取り組むことが望ましいと考えます。保護者が加わって一同で話し合うような場が(例えば最終局面で)あってもいいのでしょうが、職員がそれぞれの立場の保護者から意見を引き出したり仲介して伝えたりすることを重ねていく中で、トラブル当事者の保護者双方の溝、距離を徐々に埋めていく、詰めていく努力をするべきだと考えるのです。

<保護者が完全な利用者の立場であって、話し合いによる解決よりルールに従った解決を求める場合>
 こういう形態での解決を望む保護者はこれからもっと多くなるのではないでしょうか。「こういうことをしたら、こうなります」という規範や規定があって、その適用を求めるものです。
 すでにほとんどの児童クラブの設置者(市区町村)や運営事業者は、「クラブの平穏な利用を妨げる場合は退所とする」のような決まりを設けていることが多いでしょう。訓示的な規定であるので直ちに退所処分を適用することは実務上、問題があります。よって、もっと詳しく具体的に基準とその結果を明記した規定が必要です。
 それにしたって、トラブルはそれぞれに異なった原因や事情によるものですから、あくまで個別具体的な状況を確認することは必要です。ですので、運営支援としては、子ども同士のトラブルについて次のようにルールを設け、それを子どもと保護者に周知するべきではないかと考えます。
・まず職員がその解決に努める。解決にはすべての当事者(子ども)の話を丁寧に聞くとともに周囲の子どもからも話を聞くなどして状況の把握を必ず行う。
・職員は必ず当事者の保護者に直ちに連絡をする。解決は職員が主導することを伝え保護者から了承を得る。
・職員は誠心誠意、問題の解決に取り組み、できる限りの短期間で解決に至るよう努力するとともに、常に公正な立場で当事者に接する。
・保護者もまた冷静な態度で、職員から問題解決のために依頼されたことには積極的に協力する。
・保護者同士の直接交渉は原則として行わない。保護者同士が話し合う場には必ず職員が同席する。ただし相互の代理人による交渉は例外とする。
・問題の最終的な解決としてのクラブの退所処分は、当事者の一方のみに重大な法令違反が明確に認められる場合を除いて行わない。
・問題が話し合いによって解決に至った場合でも、子ども、保護者がその安心がゆるぎない状況になるまで、クラブにおける子どもの過ごし方について職員と事業者は丁寧な配慮を行う。
・問題の再発を防ぐ、または当事者の心の平穏を得るために、クラブ側は、クラブにおける子どもの生活上において当事者が希望する事項について十分配慮する。

 このような、ある意味で細かすぎる規定やルールを設けることで、深刻なトラブルに至った場合はこの規定やルールに従ってクラブ側は対応しますと当事者の保護者に通告できます。もちろん、そのようなルールを含めてクラブ運営に必要なルールに承諾を得ることをクラブ入所やクラブ利用の条件とすることは言うまでもありません。「相手にルールを守らせてください」とトラブルの当事者となった保護者は互いに言うものですが、保護者も同様にクラブ運営に必要なルールを順守していただくことが必要となる、ことは理解させておくべきでしょう。保護者の側もまた、こうしたルールを互いに守ることがトラブルの程度の悪化を防ぐために必要だ、という理解をすることです。

 ややもすると、善意や妥協で運営されてきた伝統的な児童クラブであっても、今のこの「相手に対してなかなか寛容になれない」人が増えてきている時代においては、最初から「話し合いで解決しましょう」ということに期待しない方がよいと運営支援は考えます。決まりだ、ルールだという解決方法は味気ないとか人情味が無いと思われがちですが、逆です。ルールや決まりに不承不承でも従って話し合いや協議を重ねていくうちに、もしかすると、そこに感情の交流が生まれるかもしれない(というか職員は当事者相互の対立が先鋭化しないように努力することは当然)ので、そこから、相手の立場も少しずつ理解していくという歩み寄りの機運が生まれる可能性があるからです。何より、最悪の結果である「相手を退所させるまで戦います」とか「こちらが退所すれば丸く収まるんだから、もういいです。やめます」という一方だけが満足あるいは屈服する形の解決をなんとしても避けるためには、交渉や話し合いのテーブルをしっかり設けること、ということです。

 そして職員は、人間関係の調整能力も身に付けていく必要があります。そうした研修を、クラブ事業者は取り入れるべきです。児童クラブは人間関係が重なりあう場です。人間関係の調整こそ、児童クラブ職員が学ぶべき分野です。

<おわりに:PR>
※書籍(下記に詳細)の「宣伝用チラシ」が萩原の手元にあります。もしご希望の方がおられましたら、ご連絡ください。こちらからお送りいたします。内容の紹介と、注文用の記入部分があります。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、アマゾンが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
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 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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