放課後児童クラブでは正規職員でも手取りが15万円台の世界がある。それは問題だ!でもさらに深刻なことがある。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。数日前、旧ツイッター(X)で、「手取り15万円」がトレンド入りしていました。私もそれに乗っかって投稿しました。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の給料も低くて悲しいぞ、ということですが、低い給料の額よりも、もっと重大で深刻なことがあることに改めて気づかされた次第です。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<投稿してみた!>
 私が旧ツイッターに投稿したのは次の文面です。

手取り15万円?放課後児童クラブの世界のこと?
児童クラブの事業者は1クラブで800万円の収支差額を達成しているというデータもある。手取り10万円台の職員を使って会社は何百万円も儲けている。税金からなる補助金で儲けられるのが児童クラブの世界。
すごい待遇のいい事業者もある。差が激しすぎる。
午後7:05 · 2024年9月4日·4,934件の表示

 それなりに多くの方に見ていただけたようで、ありがたいです。私は、児童クラブの職員の低賃金と引き換えに、がっちり運営事業者が利益を得られる仕組みがあることを指摘したかったのです。で、とある方から、次のような投稿(リプライ?っていうのでしょうか。疎くて申し訳ありません)

保護者運営の学童だと本当にもっとバラバラです。
保護者の好み?なんかで反映されてる所も多くて。
10年で30万以上貰ってる人や20年やってても20万超えない人もいる。
子どもの人数にもよるけどちゃんとした査定基準がないから余計。

 この投稿を見て、「そうだよ、それも大事だ、いやもっと深刻だよね!」と私は再確認できました。一体何が深刻なのでしょうか?

<世間一般の常識とかけ離れた世界がある>
 誰かに雇われて働いたことで得られるお金、給料や給与や報酬などいろいろな呼び方がありますが、多くの人の場合、もられる給料の額は基本給があって、それを基本に手当が付いたり社会保険料が引かれたりします。基本給は何らかの規定で決まっていることが「普通」でしょう。給与表があったり時給が決まっていたり。何らかの「根拠」があって給料が決まるものですね。自営業の人は稼いだ分が収入になるので状況は異なりますが、自分で会社を興している人は会社の決まりに従って自分の報酬を決めているでしょうからやっぱり根拠に基づいて報酬を得ているでしょう。

 となると、先の投稿の異様さが浮かび上がりませんか?児童クラブの職員の給料が、保護者の好み?に反映されるってなに?ちゃんとした査定基準がないってどういうこと?? 投稿の冒頭には「保護者運営の学童だと本当にもっとバラバラ」とあります。保護者運営の学童で働く職員の給料が、何らかの基準や決まりに則して支給されていない事例がある、ということを示しているのです。これは、実に不可思議なことですね。

 児童クラブは放課後児童健全育成事業であろうとなかろうと、子どもを受け入れて過ごさせることを「業」として継続して行っています。健全育成事業を中核に据えるのが放課後児童クラブですね。業として継続して行うというのは、つまりは企業経営とまったく同じです。児童クラブは福祉だ!ビジネスではない!と顔を真っ赤にして反論する方も現実におられますが、児童クラブを業として行っている限り、事業運営を行っているということであって、その事業運営を行う組織、法人、会社を継続させることはすなわち経営そのものです。ビジネスです。保護者運営であろうと非営利法人であろうと株式会社であろうと、業として行う限り、ビジネスです。

 ビジネスは公式のルール(法令など)も、身内のルール(就業規則や労働協約など)も、いずれにせよルールに従って営まれることが求められます。まして、公共の児童福祉のためにその役割が期待され、それゆえに公金が補助金として投下されている放課後児童クラブであれば、ルールに従って運営されることが必要です。児童クラブを1つの建物に例えるならば、法令遵守は建物が建つ土地そのもの。土地がなければ建物が建ちません。法令遵守を絶対的な地盤として、その土壌のうえに、建物の頑丈な基礎と建築物ができる、それが正しい組織統治(ガバナンス)です。それであってはじめて、立派な建物が完成し、その建物を利用する人は安心して利用ができる。児童クラブで言えば子どもであり、保護者であり、そこで働く職員も、ですね。そういう立派な建物が完成してはじめて社会に貢献できるのです。
 さらにいえば、その内容(建物の概要)は外部に公開されるべきものです。透明性の確保というやつですね。

 働く人の給料がしっかりとしたルールに基づかずに、その場の雰囲気で決まるとか、その時々の役員の気持ちや感情で決まるということがあるなら、そこには公正な運営は期待できません。恣意的な運営になります。実のところ、保護者運営系の児童クラブでは恣意的な運営に陥る可能性は次の点から高いと言わざるを得ません。
・「子どもが過ごしやすいようなクラブにしたい」という意識は高いものの、そのために必要なクラブの状態を維持かつさらに向上させるために必要な継続的な取り組みについては、考えがなかなか及ばない。あるいは意見を出し合ってもそれで尻すぼみとなる。
・クラブにおける子どもの受け入れを継続して行っていること=事業を運営=ビジネスをしているという意識が希薄すぎる。
・組織運営はルールに基づくという意識が無い。「法治」の意識が薄い。その場その場の話し合いで決めていけばよいと思っている。それは「人治」であって「法治」ではない。
・前例踏襲で済まそうと思っている。
・法務、労務に詳しい人が必ずしも運営役員に加わっていることがないので問題点に誰も気づかない。

 そういう世界が現実にある。それが児童クラブです。(もっともその他のリアルな社会でも、ワンマン社長の鶴の一声で何から何まで変わる、ということはあります。大企業でも。まして社長や会長が創立し、経営の実権をずっと握っているオーナー企業では、法令よりも社長の声がルールとして強い、ということがあるでしょう。ただ、純然たる民間の営利企業と、税金からなる補助金が交付されている公の事業を一緒に考えることはやめましょう。公の事業であれば、経営陣にはより高い倫理性が求められます。その運営にも徹底した公正さが必要なのは当然です。)

<恐ろしい無謬のロジック>
 以前、四国の某県にある運営委員会形式の児童クラブで何故だか外部から招いた役員に多額の報酬が支給されて問題になったということがありました。そのケースはもっと深刻で、就業規則が変更されており、その変更されたルールに基づいて支給されたという報道でした。その報道が正確ならば、クラブの運営に当たる方々の誰もかれもルールの変更によってどのような事態が招かれるのかについて何ら考えもしなかったという可能性があります。
 もしかすると、保護者運営系の児童クラブ事業者に最も恐ろしいと私が考える「無謬のロジック」に陥っていた可能性があります。保護者会運営や運営委員会形式、また保護者(OBも)Iが理事や監事を務める法人にありがちな危険な現象で、要は、組織の重要な方針を決める会議(理事会や役員会など)において、その参加メンバーが、「そういう難しい議案は自分にはよく分からない。でも議長や理事長や事務局が提案しているのだから、間違ったことは無いだろう。常に児童クラブの運営について関わっている立場の人が、これが最善の方法ですと提案しているのだから、きっと正しい。だいたい自分には、あっているか間違っているかの判断がつかない」といって、執行部や提案者の説明をうのみにして、ろくすっぽ自分の頭で考えることなく、あるいはその場の雰囲気に流されて、議案の賛否を明らかにする、という事です。いわば、「自分の持つ知識や常識で物事を判断するという作業を放棄し、あの人が言うことなら無条件に正しいはずだから賛成しておこう(もしくは、反対しておこう)」というのが、「無謬のロジック」です。
 仮に、児童クラブ運営についてよく関わっている立場の人が「この人にはこのぐらいの報酬が妥当ですよ。それを盛り込んだ就業規則にしますよ。いいでしょうか?」と会議で提案したとします。そもそも就業規則って何?という程度の役員だったら「あの人が提案することだから間違いないね」として賛成してしまうでしょう。それが超高額な報酬を盛り込んだ内容だったとしてもその内容について検討すらしていないのですから、反対の意見なんて出るはずがない。

 保護者が運営する児童クラブの全部が全部、私は悪いとは考えませんが、「保護者が運営の責任を負う、民法上、種々の責任を負う」ことはやっぱり同意できない。保護者運営クラブを最善のものとする考え方には、「保護者の意見や気持ちが反映された児童クラブであることが、子どもにとって一番良いクラブ」という思考回路があるように私には感じられます。保護者の意見や意向、願いは、「保護者が運営を行うことでしかクラブの運営に反映できない、なんてことはない」というのが私の持論です。「運営は専従者や企業、プロ経営者でも構わない。クラブ組織の運営のルールとして、クラブのこどもと保護者の意見を反映させることができる仕組みを必ず取り入れることとした組織形態とすること」で、かなり代替できるでしょう、というのが私の意見です。理事会等の決定については必ず保護者に伝える。保護者からの意見はいつでもどんな内容でも受け止めて必ず組織として理事会等で協議検討する。保護者の代表者や保護者から成る評議会と定期的に協議を行って事業運営に関して助言を受ける。ルールで事前に決めた最重要事項については保護者全員の意見投票を行う、等々、いくらでも保護者の移行を事業運営に反映できる方策があるはずです。それさえしっかり確保されておれば、保護者が現実に運営に従事せずとも目的は達せられるでしょう。それとも保護者が運営に関わることがなくなると何か困ることでも、あるのでしょうか? 

 かつて重視されてきた保護者共同運営による児童クラブ。これからの時代であっても、保護者と共同で行う児童クラブ運営の本質は持ち続けられるでしょう。私はその部分を徹底的に構築することこそ、これからの時代の児童クラブには必要だと考えています。すべての児童クラブがそうである必要はありませんが、職員の低賃金と引き換えにだれでも従事できる画一的なプログラムだけを展開して子どもの思いより事業の容易さを重視する残念な事業者による児童クラブの無尽蔵の増加を食い止めることができる存在としては大いに期待できると、私は考えています。でも、いまのままずるずると時が流れていくばかりでは、もう手の施しようがない状況になってしまうのではないでしょうか。

<おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!私の運営支援の活動資金にもなります!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)