放課後児童クラブから、高学年を追い出さないで!高学年には不要と決めつけないで。こんな話があるんですよ。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。私が現役保護者として放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)に関わっていて、子どもたちの成長ぶりをつぶさにみられたことが何より楽しく、感動的でした。今日はそんな出来事を紹介しつつ、未だに日本各地の放課後児童クラブで、高学年になる子どもが事実上、退所を迫られる状況がずっと昔から続いていることに喝を入れましょう。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<キミの成長をずっと待っているよ>
 もう今は昔、のことでしょうか。我が家がお世話になっていた学童保育所は毎年夏、キャンプがありました。職員と保護者会が協力しての学童キャンプ。埼玉県飯能市の「せせらぎキャンプ場」という、自然の真っただ中、しかも清流に恵まれた、とても素敵なキャンプ場に毎年、でかけていたのです。
(注:こういうことを書くと、学童キャンプを未だに推奨しているのかとか、保護者が無理やり参加させられるキャンプは迷惑だ、という意見がどどっと寄せられます。何も、キャンプは学童に必要だ、と言っているわけではありませんが、どうも読解力がない方が多数おられるようです。対応するのも大変ですので先に見解を示しておきますが、学童キャンプは「クラブに属する全ての人が、やりたい!と思うならやればいいし、やりたくない人がいるなら任意参加でやればいいし、そもそも無理やり実施する必要はない、というのが私の考え」です。)

 キャンプ場には川がカーブしているところがあり、ちょうどそこに、川面に飛び込むにはちょうど良い高さ、だいたい2メートル弱ほどの高さの岩場があるんです。カーブしているので川底がえぐられて、思い切り飛び込んでもまず大丈夫。カーブを超えると浅瀬になるので、そのまま流されるリスクも低い。滝つぼにあるような、川底に向かって渦を巻く水流もないので、飛び込み着水地点に大人が3~4人配置され、川の下流にも大人が数人、河原にも全体監視や緊急通報対応などの大人が数人いれば、スリル満点の「川面へジャンプ」が楽しめるんです。(もちろん、着水地点で子どもを受け止める大人は、顔まで水に浸かる水深の中で、山の中の清流のあの水温に耐える役割があります。当然私は6年間、その任を務めましたぞ)

 さてさて、もちろん、飛び込みは強制ではありません。我が家がお世話になっていた学童は、極めて力量の高い支援員がいて、その薫陶を受けた保護者会です。子どもの育ちは子ども自身でつかむもの、という意識がママにもパパにも徹底しています。毎年、その飛び込み「だけ」が楽しくてキャンプに参加する子どもは、それこそ何度でも、十数回でも飛び込んで歓声を上げます。まず岩場に昇るのも結構スリリング。(もちろん事前に大人が点検してますからね)足を掛ける場所を確かめつつ自分の背丈より高い足場に昇って、大人たちが取り囲む着水地点にジャンプ!ばっしゃーん!盛大に跳ね上がる水しぶき!
 途中、足がすくむ子どももいます。初めてキャンプに参加する子どもは特にそう。低学年には、低い地点の足場から飛び込めるようになっているので、小学1年生などはそこからジャンプ!「来年は、あそこから飛ぶんだ!」と笑顔で話す姿はとてもかわいいものです。

 さてさて、クラブには、普段は勝ち気で、あれこれ職員に突っかかる、でも実は素直で素敵な女の子Uちゃんがいました。Uちゃんは1年生から学童に入っていて、キャンプも1年生から参加しています。最初の年、Uちゃんは川遊びそのものをしなかったのです。「やだ。めんどくさい。冷たいから」と河原で他の子たちが遊ぶ様子を見ていました。次の年。川でバシャバシャと水をかけあう子どもたちの中にUちゃんがいました。飛び込みで遊ぶ子どもたちの中にはまだ入れませんでした。それでも、1年かけて、他の子どもたちとすっかり溶け込んでいたUちゃんです。ちょっと複雑な家庭環境でいろいろと子どもなりに悩んでいることを職員も保護者会の役員も知っています。
 3年目、ついにUちゃんは飛び込みの場にやってきました。同級生が次々にバッシャーンと飛び込む様子にたまらなく魅力を感じたのでしょう。勝ち気なのは実は慎重な性格の裏返し。濡れて滑る足場に怖くなって、岩場の途中で動けなくなりました。それを「早く行けよ!」と男子がけしかけますが、すぐに周りにいた大人が「だめだめ。けがのもとだから。静かに待つんだよ」と制します。5分ほどたったとき、Uちゃんは「こわい」といいました。さあ、大人の出番です。「大丈夫だよ、すぐに助けに行くから」と、大人たちがUちゃんをしっかりつかんで下ろしました。落ち込んでいるUちゃんに、職員も大人も決して「怖くないから大丈夫なのに」「飛び込みが体験できなくて、もったいなかったね」とは言いません。「よく頑張ってあそこまで登ったじゃん。すごいよ。怖いと言えたこともよかったね。それが大事だから」とみんなで口々にUちゃんに声をかけていました。

 4年目。Uちゃんはリベンジに挑みました。それまでの事情を知っている私のような古株は、もう楽しくて仕方がありません。学童に新しく入ってきたパパやママには、「実はさ、こういうことがあってね」と説明して、一緒に見守る仲間に加わってもらいます。私も顔の半ばまで水につかりながら(唇はとっくに紫色、でもアザラシを超える体脂肪の厚さで大丈夫)Uちゃんを見守ります。Uちゃん、去年の足場を超えて、ついに飛び込み場まで到達しました!さあ、いよいよその瞬間。長かったなぁ。4年目。

 とは、なりません。子どもの視線からすると、とても高く見える位置。見下ろす川面にUちゃんは体が固まってしまいました。飛び込みの順番を待つ子どもたちが岩場にとりついています。こんどは、子どもたちもせかしません。職員も、パパもママも、じっとじっと見守ります。確実に5分は過ぎていました。7、8分だったかな。Uちゃん、「怖い」と、飛び込みはできませんでした。救援隊が岩場にとりついてUちゃんを下に下げ、低学年が飛び込む高さの足場までくると、Uちゃんは飛び込みました。それが楽しかったようで、何回か繰り返していました。

 Uちゃんの5年目のキャンプ。私の現役保護者最後の年。ええ、そうです。Uちゃんは、経験したことのある高さだから飛び込みの場にもささっと上がり、やっぱり5分ほど、じっと川面を見つめてみたものの、ついに飛び込みました。例年と同じように顔まで水につかりながら、私は「成長したなぁ。よかったなぁ」と、まるで我が子のようにうれしくなったことを覚えています。最初はとんがって、しょっちゅうトラブルやけんかを起こしていたUちゃん。学年が上がるにつれて、低学年が頼りにする「みんなのおねえちゃん」になっていました。最初は正直、手を焼いていたという若手女性支援員とも、とっても強いきずなで結ばれる関係性を構築するまでになりました。すっかり大きくなった今も、時々、支援員と会ってご飯を食べていると風の便りで聞いています。

<あのときの約束、果たしたよ>
 Nちゃんはとても感情の起伏が激しい女の子。同学年女子の中心にいますが、きつい言葉を投げかけることが多くて、友達も出来たり、遠ざかったり。そんなNちゃんに若手の女性支援員は悩んでいました。Nちゃんのママは保護者会の役員をずっと務めていて支援員ともよく会話をできる仲だったことは支援員の助けになっていました。複雑な事情もあって、Nちゃんの心の乱れを、穏やかに受け止めつつNちゃんが他人を信じることに自信を持てるように、支援員は支援を続けようと試みていました。ちょっとしたことをお願いして、それをやりとげたときにしっかり褒める、ということです。

 学年が上がってもNちゃんは支援員とぶつかり続けます。親も、学童を退所しようかと悩んでいました。とはいえ、やっぱり女の子を留守番させることは心配です。それは高学年でも変わりません。でも、相変わらず女性支援員とけんかしてばっかり。「高学年女子の対応は若い女性支援員には厳しい」と学童の世界ではよく言われます。高学年女子の壁、と呼んでいました。しかし、ここの学童のすごいところは、Nちゃんのその感情の鋭さは満たされない心の淋しさにあることをしっかりと理解していたことです。「Nの愛情を求める表現が、あのきっつい言葉なんですよ。それを分かっているから、大変だけど、信じていられます」と支援員は話していました。このとき、支援員が「あんな子どもの面倒を見るのは嫌だ」とさじを投げていたら、どうなっていたでしょう。

 最終学年になりました。Nは相変わらずそっけない素振りが多く、親にも厳しい態度を取ることが多かったのですが、そのころの学童は「とっても楽しいことがいっぱいあって、先生もすごく良い先生がいて安心」という評判から、私が入ったときは30人ぐらいしかいなかったのに、小学校の児童数が年々、急激に減る中でなんと70人を超える大規模学童になっていました。(学童の人数は、評判がいいと増えます。評判が悪いと急減します)
 よって、大勢の低学年たちがNちゃんたち高学年を頼りにしていました。というか、頼りにするしかなかった。職員たちはとてもとても大勢の低学年たちにきめ細やかに接することができなかったからです。そんな中、Nちゃんたち高学年女子は職員から信頼を受けているということに、思うことがあったのか、みんなで、低学年に対して楽しそうにリーダーとしてふるまう姿が日増しに増えていきました。

 卒所式、というイベントがあります。学童に長い間在籍した子どもたちへのお祝いのセレモニーです。下級生がいろいろと「出し物」を披露して、学童を卒所するお兄ちゃん、お姉ちゃんに喜んでもらうのです。たくさんの「ありがとう」「とっても大好き」という言葉を聞いたNちゃんたち。あいさつのとき、Nちゃんは感極まって、一番ぶつかり、一番(実は)信頼していた女性支援員に駆け寄りました。抱きかかえる支援員。そのとき、女と女の約束を交わしたのです。「先生が結婚するときは絶対に呼んでよ」

 まだコロナが収まらない夏、支援員の結婚披露宴が盛大に催されました。実はもっと早く結婚していたのですが、披露宴は、コロナの影響で、宴会を開ける状況になるまで延期していたのです。なぜそこまで披露宴にこだわる?それは、約束があったからです。その披露宴の場に、素敵なドレスに身を包んだ、それはそれは素敵な参列者が現れました。すっかり大人になったNさんでした。実はちょこちょこと対面していた支援員とNさんなので、久しぶりに会うということではなかったのですが、片やウェディングドレス、片や素敵なパーティードレスのご対面。2人の目には涙しかありません。立場上、主賓で招かれていた私ですが、その披露宴で一番おいしい瞬間を目の当たりにすることができました。

 こんどはNさんの結婚式に支援員が招かれることになっているようですが、その日はいつになるのかしら。

<全員が全員、学童が必要だとは言わない。が、必要としている子どもには、クラブ在籍ができるように>
 子どもの居場所は多種多様であるべきだ、というのが私の持論です。高学年になって、児童クラブで過ごすことよりもっと興味や関心が持てるのであれば、そのような場所と時間を過ごせるようになればいいと思うだけです。ただ、保護者の事情で、児童クラブで過ごさせたい、ということがあるでしょう。
 つまり、「子ども自身の選択で、児童クラブを選ぶなら、児童クラブ在籍ができるような環境」が必要ですし、「保護者の意向で、子どもを児童クラブに在籍させたいなら、在籍できるような環境」が必要です。すごく単純なことです。

 「高学年になったから、もう児童クラブは必要がない」という決めつけとは、まったく異なります。

 なぜ高学年になると児童クラブから、追い出されたり、選考基準が厳格になって事実上追い出されたりするのか。単に、低学年児童の受け入れのためです。または、施設に設けた定員を守るためだけです。これらはいずれも、児童クラブの利用を求めるニーズに対する供給量が不足しているから招かれる状況であって、供給量を増やすように設置側、つまり市区町村や運営事業者は常に最大限、努力をせねばなりません。

 そのニーズは、児童クラブの他に、安心して高学年児童が過ごせる場所が整えば低下していくでしょう。児童館なり、図書館なり、国の進める子ども居場所事業だったり、冒険あそび場だったり、全くの民間の施設だったりと、いろいろあるでしょう。学習塾だってスポーツクラブだって同じことです。小学校の校庭が自由に使えるようになり、その様子を地域ぐるみで見守り、防犯面に協力する態勢が整っていれば、安心して子どもたちがすごせるでしょう。そのような環境で、高学年になった子どもが、自分の意思で、自分の過ごしたい場所を選択できるようになった結果、児童クラブを選ばなくなったら、それはそれで当然、喜ばしいことです。

 その選択は子どもが行うものであって、大人が「高学年はもう学童は入らない」学童にいると、自立できなくなる。学童がいらないと思うようにならなければ、自立ではない」と決めつけることは、完全に誤っていると私は断言します。以前、教育部局にいる公務員とこの点で意見を交わしましたが、高学年の学童不要派のその方は、子どもは学童にいると自立できない、という主義の方でした。「学童の中で、高学年が低学年をまとめて、おやつを食べたり掃除を率先しておこなったりで模範的な行動をしめすことは、子どもの自立ではありませんか?あえて学童に残っている高学年児童には、よく見られる振る舞いですよ」と私が話すと、黙り込んでしまいましたが。

 低学年児童の入所希望がいっぱいだから高学年には退所してもらおう、という方針の市区町村や運営事業者に、私はいいたい。「子どもの居場所を狭めないでほしい。子どもたちのかけがえのない時間を豊かにすることができるはずの大人たちが、子どもの可能性の幅を狭めてどうするのか」と。それこそ、おとなまんなか社会です。大人の都合だけです。

<おわりに>
 1つの小学校に複数のクラブを設置している場合、学年別に児童を入所させている地域が目立ちます。第1クラブは1年生から3年生、第2クラブは4年生以上、など。その「横割り」入所制度、止めにしませんか?管理が楽になるからでしょうね。人数面でも、指示を実行させるときにも。およそ似通った発達段階の子どもたちがそろっているから。

 しかし、異年齢集団の中での、ワイワイガヤガヤの中でこそ、子どもたちが自ら成長していくための多くのヒントが存在していると私は思いますし、児童クラブの専門家も同じ意見でしょう。管理は大変になりますが、「こどもの育ちのため」に設置している児童クラブです。横割りではなく「縦割り」の児童クラブ入所に変えていきましょう。縦割りでこそ、高学年児童は、その成長させてきた自らの能力を実際に発揮でき、さらに高める機会を得られるのですから。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば、当ブログの引用はご自由になさってください)