愛知県津島市の学童保育をめぐる動きが急展開です。当面、NPO法人の運営に。しかしこれで決着ではない!

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。

 愛知県津島市は、2024年度(令和6年度)の放課後児童クラブを運営する指定管理者について、選定委員会と議会での議決を経て決定した事業者ではなく、これまで運営を担ってきたNPO法人に今後3年間、運営を委ねる方針であることを表明したようです。大変、驚愕の内容です。このことを、津島市学童保育連絡協議会が2月14日未明にフェイスブックで公表しましたので、その内容を転載します。

「令和6年度~令和8年度の津島市学童保育こども家指定管理(放課後健全育成事業の運営)についてご報告
津島市長から通知の発出があり、今年度までと同様にNPO法人「放課後のおうち」によって運営される事となりました
新年度の保育料や運営体制、支援の単位分けなど細部について確定させ、説明会日程など決まり次第ご案内いたします」(転載ここまで)

 何があったのか詳細はまだ分かりません。津島市役所のホームページには、このことを説明する情報発表は出ていません。聞くところによると、NPO法人が運営している学童保育所の利用者が、新規事業者が開催した説明会に出席し、来年度以降の学童運営についていろいろと質問したところ、新規事業者が回答に窮した場面があったとか、NPO法人職員の雇用に関しての交渉が厳しい局面に入っていたとか、いろいろな状況があったようです。いずれ、当地の関係者から情報が公式に明らかになるでしょう。確実に言えるのは、学童保育所を利用し、支持してきた保護者さんたちによる行動が事態を変えた、ということです。

 この現象は、実のところ、奇跡を超える奇跡です。曲がりなりにも形式上、何ら不備の無い指定管理者選定委員会で選定された事業者が、市民から選ばれた議員によって議会で指定管理者として選ばれ、行政執行部も指定管理者について公告していました。ここまで粛々と法令に従って指定管理者が選ばれたにも関わらず、市側と新たな指定管理者との協議によって新たな指定管理者が辞退する形となり、結果的に指定管理者としては選ばれなかった従前の学童保育運営団体が、向こう3年間とはいえ、引き続き学童保育所の運営を担うことになったのです。学童保育に限らず、指定管理者制度において、今回の事態は異例の事態であるのではないでしょうか。

 学童保育と指定管理者の問題においては、何らかの事情があって行政側が指定管理者を変更しようとして最終的に契約解除の形で収めた例は宇都宮市に確認できます。宇都宮市の場合は、職員の確保が困難であるという状況が発端であると報道で伝えられています。今回の津島市は、くしくも宇都宮市の場合と同じ事業者さんでしたが、どのような事情があったにせよ、学童保育の運営に関し、指定管理者が結果的に辞退する形で振り出しにもどったというのは、本当に希少な例でしょう。NPO法人による運営を希望していた保護者側からすると、これは「津島の奇跡」とでも呼べるでしょうか。
 むろん、物事は双方向ですから、このことは、事業者にとっては「津島の屈辱」とでも呼べるような事態かもしれません。最も、全国で700単位以上の放課後児童クラブを運営するという大規模展開するほどの大きな事業者ですから、その経営判断はきわめて合理性があると考えられますので、津島市の状況を多角的に検討し、単に現時点では、今後想定される事業運営リスクを拾ってでも運営に乗り出さねばならないほどの市場規模ではないと、企業として当然の合理的な判断をしただけかもしれません。

 津島市の学童保育をめぐる問題は、これまで数回、このブログでも取り上げてきました。2023年の11月13日、12月15日、12月18日、12月21日です。これまでわたくしは、運営において決定的な失敗がないにも関わらず指定管理者が変わることに疑問を呈してきました。全国規模で展開する営利の広域展開事業者が必然的に有利になっていく指定管理者制度の選定基準に疑問を表明してきました。一方で、補助金を受けて運営する以上、地域に根差した非営利の事業者であっても、通常の企業と同じような管理運営体制を構築することは当然必要であって、コンプライアンスのもと、ガバナンスを確立して組織運営すること、保護者や行政の利便性向上を求める声に真摯に対応する必要性を訴えてきました。

 過去にブログで取り上げた時には想像がつかなかった展開になりましたが、私は、「これがゴールではない」と考えます。現地の保護者の方々もおそらく同じ考えであると想像しますが、これは単に、延長戦になっただけです。私は不適切にもほどがある!昭和思考の人間なのでとりあえず野球に例えますが、「9回裏ツーアウトで、まさかの同点に追いついた」のが、今の津島の学童保育運営をめぐる状況だと考えます。それは先攻めの立場からすると「同点に追いつかれた」だけです。3年後まで勝負は続きます。その間に、NPO法人が、昨年に行われた指定管理者の選定の際に指摘された種々の事項を改善できなければ、3年後、改めて公募が行われて選定委員会から再びノーを突き付けられる可能性は、私はかなり高いのではと危惧します。
 逆に、営利の広域展開事業者からすれば、その間にさらに人員配置体制を整えて、たとえ現地で従前から勤務していた職員を多数採用できなくても、運営を任されて以降、無事に運営できる態勢を構築して公募に臨むことは十分可能でしょう。津島市の周辺は公営学童が多い地域です。そのような地域を先に「攻略」し、事業運営の基盤を当地に整えてから、おもむろに再度、公募に挑むのであれば、企業の規模や財政力において勝る営利の広域展開事業者が指定管理者として選ばれるのは比較的、容易でしょう。

 本来は、「こどもにとって、最善の利益をもたらす育成支援を実施できるかどうか」の観点を中心に指定管理者が選ばれるべきですし、こども基本法の理念を取り入れて、当事者であるこどもの意見を指定管理者の変更の過程において反映させる仕組みを整える必要があります。これは市区町村が必ず行っていただきたいことです。このことは、学童の世界が声を大きくして社会に問題意識として投げかけ、改善を求める動きを作っていかねばなりません。

 それと同時に、今後は、地域に根差した学童保育の運営事業者は、大手の企業と公募で対決したときに、できる限り負けない、劣らない程度の組織運営体制、財政力、効率的な運営体制を構築していく必要があります。「保護者が参画して、質の高い育成支援を行っています!」だけでは、補助金を受けて運営する公共の児童福祉サービスを安定して継続的に運営できる保障にはなりません。その保障は、確実な組織運営、事業運営が可能かどうかだけで判断されるものです。「こどものため、保護者のため、頑張っています!」で、補助金を受けて運営する事業を任せてもらうほど、この世の中はお人好しではありません。重視されるのは、「事業体としての安定性、堅実性」そのものです。

 極めて大きな問題を投げかけた津島市の学童保育指定管理者変更の問題。今後、いろいろな分野でこの事例の調査研究が進むことを期待します。報道においても、いろいろな関係者に取材し、どうしてこのような異例の展開をたどったのか、調査報道で社会に問うていただきたいと切に希望します。わたくしも、引き続き、この問題に関心を持ち続けてまいります。

 子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。

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