さいたま市の子どもの居場所モデル事業、運営事業者の顔ぶれからは、慎重に方向性を探ろうとする意向が見える

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。

 学童保育をめぐり、大きな動きが相次いでいます。昨日、当ブログで取り上げた愛知県津島市における指定管理者の変更は、議会の議決を経て市の公告も済ませた事業者が変更になるという、極めて異例の事態です。本日2月16日午前8時50分段階でも市のホームページにこの件について公表されていないのですが、現地の学童保育関係者には行政執行部から伝えられているとのことです。本来なら全国的に報道されてもおかしくないほどのレアケースですし、私が残念に思うのは、学童保育の世界は営利の広域展開事業者が急激にそのシェアを拡大している中でしきりに問題提起をしようと伝統的な学童保育業界が模索する中、今回のレアケースを大々的に喧伝して社会に問題提起として投げかけて、この問題がどれほど重大なものであることを考える世論を興す契機にすればいいものを、そのような動きがまるでみられないことですね。営利の広域展開事業者による学童保育の寡占化が、子どもの育成支援に関してどのような影響があるのか、また職員の貧困が蔓延する状況にどのように影響しているのかについて、今回の津島の件をきっかけにして全国レベルで考えてもらうきっかけとして「使える」状況を、みすみす学童業界が見逃しているとしか、私には思えません。戦略的にこの件の推移を扱っていこうという考えがないのですね。学童関係者を取りまとめる組織として全国や都道府県レベルのいわゆる連絡協議会というものがありますが、そこに関わる方々はおしなべて外界に働きかけるという意識が欠如しているのでしょう。このままでは5年後には、営利の広域展開事業者が圧倒的に主導権を握るようになり、学童保育の流れについては、もう大勢は決しているでしょう。

 前置きが長くなりましたが、こちらも学童保育の世界では極めて大きな動きとなる、さいたま市の新たな放課後施策について、運営事業者が決まったようです。さいたま市の新規事業は「さいたま市放課後子ども居場所事業」というもので、まずは2024年度(令和6年度)、市内の4つの小学校をモデル校として運用するとしています。事業の目的として「利用を希望する全ての児童を対象に、最も身近な小学校の施設を活用して、多様な体験や異年齢間の遊びを通じた交流ができる安心・安全な放課後の居場所を提供する事業。」と定義されています。全ての児童を対象としていることから分かるように、全児童対策事業とよばれるものです。

 この件について私は2023年10月28日にブログで取り上げましたが、今も頻繁に閲覧されている関心の高い話題です。そのとき、次のように私は記載しました。
「この新規事業がさいたま市で継続しかつ発展していくことになれば、これまで運営の負担に疲労困憊していた保護者から大歓迎を受けることは間違いないでしょうし、事実上の公営学童保育所の要素を取り入れた制度ですから、公営学童待望論の保護者にも受け入れられるでしょう」

 事業者の顔ぶれについては、さいたま市の情報を丁寧に伝えておられるウェブサイト「さいファミ!」さんが旧ツイッター(X)に2月14日午前8時11分に投稿されました。現時点(2月16日午前9時)で1.3万件の表示があるとなっているので、極めて関心の高い話題であることが分かります。その投稿にさいたま市役所へリンクが張られており、そこにモデル校4校で新規事業を行う事業者名が記載された資料を見ることができます。内容は次のとおりです。
西区   栄小学校  シダックス大新東ヒューマンサービス株式会社
中央区  鈴谷小学校 特定非営利活動法人厚生福祉協会
浦和区 岸町小学校 株式会社理究キッズ
岩槻区 新和小学校 社会福祉法人さいたま市社会福祉事業団

 この事業者を見て、私は勝手な印象として、「さすがさいたま市、テストケースとして、事業との相性を丁寧に探ろうと対照的な事業者を選んだのだろう」と感じました。
 西区のシダックス大新東社は、言わずもがな、放課後児童クラブの運営では全国ナンバーワンのシェアを誇る業界最大手です。事業運営のノウハウの蓄積は、他社の追随を許さないものがあるでしょう。つまり、事業を委ねたい側からすれば、安定感があるということです。つまり、「全国展開する大手事業者枠」でしょう。
 中央区のNPO法人は、さいたま市内ですでに9つの施設の運営を行っています。事業規模としては比較的小規模です。埼玉県内に本拠地がある子育て支援の非営利法人という「地域に根差した非営利事業者枠」でしょう。
 浦和区の理究キッズ社は横浜が本拠地で、横浜では82校の全児童対策施設を運営しているほか、横須賀や千葉市でも放課後児童クラブやアフタースクールの運営を行っている、成長著しい事業者です。スローガンは「0歳からの生涯教育」とのこと。こちらは「教育重視の準大手事業枠」というあたりでしょうか。
 そして岩槻区は、さいたま市の社会福祉事業団ですが、こちらはさいたま市内で放課後児童クラブを運営する、つまり準公営学童の運営事業者です。地元で学童保育を運営している事業者として、新規事業も合わせて運営することを試すのでしょう。「正真正銘、地元に根差した非営利事業者でかつ公の事業者枠」です。

 全国規模の大企業から地域展開する非営利法人まで、その性格が見事に分散された事業者を意図的に選んだのでしょう。特に、教育熱が高い浦和には、教育的アプローチを得意とするとうたっている事業者を選ぶあたり、保護者のニーズに寄り添っていこうという行政側の目論見が透けて見えます。モデルケースとして実際に事業運営をさせてみて、子育て中の保護者ニーズとうまくマッチングする事業者が、今後、さいたま市という巨大市場の獲得競争において有利に事業展開を運ぶことになるのでしょう。その中で、中央区のNPO法人については、人員募集のウェブサイトはすぐにアクセスできるのですが、日常的な事業活動についてウェブサイトで公開しているのかどうか、定かではないところが気になります。今の時代、検索してすぐにたどり着ける事業者の公式ウェブサイトの整備は、情報公開という観点からも必須です。そのようなことも、本来は、事業者の信頼性、安定性の評価の1つであるはずです。

 そしてもっとも懸念するのが、さいたま市内で学童保育を大々的に事業運営している事業者の名前がなかったことです。中央区の事業者は市内で学童保育所を運営していますが、より大規模に事業運営をしているNPO法人がいくつかあります。新規事業に応募したのか、しなかったのかが分かりませんが、わたくしの考え方では、積極的に応募して放課後居場所事業と放課後児童健全育成事業の有機的な連携を確立し、全ての子どもを対象とした育成支援の可能性を積極的に広げることが事業者として「当然」の選択肢であろうと思っていたので、意外です。事業者に雇用されて働く職員の雇用不安の払しょくにもつながります。まあ、それは事業者それぞれの経営戦略があるはずですから、外野がとやかく言ってもそれは単なる雑音ですね。

 ただ、旧ツイッターにおける、さいファミさんの投稿には、「全小学校でやってほしい」「わーこれは嬉しい!さいたま市は学童入るのがきついきついと聞くのでどんどん広がってくれることを願うばかり」「早く全小学校で実施してほしい」とのリポストがついています。それが、さいたま市の子育て中の保護者の本音でしょう。たったそれだけの投稿ではなく、声なき声が実に多くあるんだと考えねばなりません。それを既存の学童保育の事業者は真剣に考えて今後の対応を選択しなければ、事業の継続的な運営において厳しい局面に陥る可能性があると私は考えます。

 保護者が運営に参画する伝統的な学童保育の世界の牙城である埼玉県の中核であるさいたま市における、保護者負担を除去して学童待機児童を0人とする意欲的な試みである、この新規事業。モデル例を構築するために選ばれた、事業規模も、営利と非営利と法人の性格もとかく対照的でバラエティーに富んだ4つの事業者が、それぞれ、どのように新規事業に取り組むか、引き続き、わたくしは大いに注目していきます。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。

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