将来、放課後児童クラブ(学童保育所)を利用しようと考えている保護者さんへ。「児童クラブのトリセツ」シリーズ4
放課後児童クラブ(学童保育)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。この4月に新1年生となるお子さんがいる子育て世帯では、放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の新規入所に向けて申請手続きを進めている、あるいは済ませている方が多いことでしょう。また、残念ながら入所が認められず保留、あるいは待機になってしまったかもしれません。また、来年の4月、再来年の4月に放課後児童クラブを利用しようと考えている方も多いでしょう。運営支援ブログでは、これから児童クラブに関わることになる保護者さん、関係者さんに向けて、不定期ですが、児童クラブのことについて運営支援の独断と偏見による、分かりやすく(そしてなるべく短く!)紹介するシリーズ「児童クラブのトリセツ」シリーズを掲載しています。4回目です。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<その13:入所ができる放課後児童クラブには保護者会(父母会)があります。入りたくないので入らないでも大丈夫ですか?>
結論から申し上げますと、「入らないで済ますことは、不可能。将来の任意加入実現に向けて活動が必要」となるでしょう。よくPTAと比較されますが、PTAの場合は「義務教育である小中学校において、任意団体への強制加入は問題がある」という観点から参加の任意性を重視する流れがかなり強まっているので、PTAに入らないという選択肢を用意している団体も増えています。ところが児童クラブの保護者会はPTAと性質がまったく同じではありません。まず「児童クラブそのものが強制加入ではないこと」があります。ここに(嫌な)論理が生まれます。つまり「そんなに保護者会に入るのが嫌なら児童クラブに入らなければいいのだ」ということです。任意加入を不可能とさせる理由として、「その児童クラブを保護者会が運営している場合」があります。つまり児童クラブを利用する保護者が運営者にもなる、ということです。また、「児童クラブの業務を部分的に保護者会が行うことと決まっている」ことがあります。これは例えば、おやつ代を保護者会が徴収して児童クラブの運営事業者に渡しているという場合です。
しかし、これらは絶対に変更できないかといえば、決してそんなことはありません。「変更が面倒だから」「過去はそうやってきたから」「みんなが同じぐらいに負担を追わなければ不公平」という、単純な「しがらみ、思い込み」が変更を阻んでいるだけです。たとえ保護者会が児童クラブを運営しているとしても、保護者のうち希望者から運営の責任を負う者を選べばいいだけの話です。誰も希望者がいなければ、誰も運営したくないということですから児童クラブを解散すればいいだけの話です。「それでは困る!」というのであれば、別に運営してくれる事業者を探してくればいいだけの話です。あるいは、「希望者に役員となって運営の責任を負ってもらいます。その代わりに運営してくれる保護者さんに対しては、利用料と同程度の減免を自主的に行います」と決めればいいのです。
現状において「保護者は保護者会に入らなければならない」となっているのであれば、将来もそれでいいのだろうかと、今、保護者会に入っている保護者たちが話し合って結論を出しましょう。
<その14:子どもが入る予定の児童クラブは午後5時ごろまでは希望者が全員入所できるのですが、それも放課後児童クラブですか?>
結論から申し上げますと、「留守世帯ではない子どもが帰宅した後の時間帯から、放課後児童クラブとなります。それ以前の時間は、放課後子供教室と呼ばれる別の事業です」ということになります。
小学校の児童で希望する全員が過ごせる場所を市区町村が用意している仕組みは都市部を中心に存在しています。その数もじわじわと増えています。その仕組みの呼び方は市区町村ごとに様々に異なっていますが、児童クラブの世界では一般的に「放課後全児童対策事業」と称されています。それを略して「全児童対策」とも呼んでいます。例えば、この仕組みを2024年度からスタートした、さいたま市では「放課後子ども居場所事業」と称しています。
これはちょっとややこしいのですが、「放課後子供教室」(文部科学省が担当)と「放課後児童健全育成事業」(こども家庭庁が担当。放課後児童クラブ、学童保育のこと)の機能を併せ持つ仕組みです。放課後子供教室とは、放課後の子どもの居場所を行政が準備し、地域のボランティアの協力を得るなどして午後5時ごろまで、指定の場所(たいていは小学校内や近隣の公民館など行政施設)で子どもを過ごさせる仕組みです。午後5時ごろというのは小学校の教育が退勤する時間、つまり学校の有人管理が終了する時間で、この時間になると、保護者が家にいる子どもや、保護者が不在でも子どもだけで過ごせる子どもたちは帰宅します。この午後5時を過ぎてなお、保護者が仕事などで留守の世帯の子どもたちをその場所で継続して過ごさせること、つまり午後5時をすぎると「放課後児童クラブ」としての役割を持たせることが、全児童対策の仕組みです。とても便利な仕組みに思えませんか? 導入する自治体は徐々に増えています。しかし、世の中にはウマイ話ばかりではないので、この仕組みにも欠点があります。
また、「放課後子供教室」と「放課後児童クラブ」を別々の場所で行っていても、午後5時ごろまでは2つが一緒に活動する、つまり事実上は午後5時ごろまでは1つの子どもの集団として機能していることを、国は「放課後こどもプラン校内交流型」と呼んでいます。(前年度までは一体型と称していました)。また、別々の場所で行っていて、希望する放課後児童クラブの子どもが放課後子供教室に参加することを「連携型」と呼んでいます。
<その15:児童クラブの利用料が月ぎめなんですけれど、利用する日だけ料金を支払えばいいじゃないですか。おかしいです>
まず前提として、児童クラブの利用料(おやつ代金も)を、どうやって支払ってもらうのかは、児童クラブ「だけ」では決められません。市区町村が決めている、あるいは市区町村と相談して決めています。そして、「こういう支払い方である必要がある」とは、なっていません。実際に、利用した日数で利用料の額が異なっている地域もあります。例えば10日間ごとに区切って利用料が異なる、ということです。また、数はとても少ないですが、利用料を「日額」で設定している地域もあります。この場合はまさに利用した日数だけの料金支払いとなります。
(なお、いわゆる「民間学童保育所」は、市区町村の管理監督を一切受けないので、料金の支払いは完全に事業者、運営会社で決めます)
しかし圧倒的多くの地域では児童クラブは一定の月額料金で、たとえ1日しか利用しなくても1か月分の利用料を支払うことが通例です。なぜかといえば、「利用日数で料金が決まると、とても運営ができない。収入が足りず人を雇えない。電気代も水道代も払えなくなる」からです。
児童クラブの収入は(都内にあって企業が運営している児童クラブを除いては)いつもギリギリの水準で、赤字すれすれです。また公営クラブでは赤字も珍しくありません。税金で補てんされています。そのような状況で、少しでも利用料が下がる要因である日割りの料金設定は、ますます収支状況を厳しくし、赤字が不可避となります。そうすると人件費を削る、つまり職員の給料を下げる、あるいは誰かに辞めてもらうということになりますし、開所している時間を短くして水光熱費を節約するということをせざるを得ません。それでは、児童クラブを利用する側も困ってしまいます。利用料を日割り設定すると、それだけ利用者の利便性を向上させるように見えて、児童クラブそのものの運営を困難に追いやってしまうので、やろうと思ってもできません。また、毎月に支払う、あるいは集金する額が異なることになりますが、その算定も請求も大変です。そこにもマンパワーが必要です。そのコストも無視できません。
児童クラブの収入がカツカツだから、ともいえますね。もっと児童クラブの収入が安定して余裕があれば、日割りの料金設定も可能となる可能性はあります。児童クラブの収入は、補助金(国が額を決めています。あるいは市区町村、都道府県も独自に補助金を設定している場合があります)と、利用する世帯からの利用料から成り立ちます。地域によって異なりますが、補助金の収入の方が多い場合が通常です。もっとも国は、補助金と利用料の割合は半分ずつ、つまり50:50にしましょうとしています。法律で決められていませんが国がそうやって地方自治体に圧力をかけているのです。ずるいですね。ここが変わって、補助金と利用料の割合が80:20とか90:10になれば、利用料の日割り支払いも可能となるでしょう。
<その16:児童クラブでは子ども同士のトラブルが多いと聞きます。トラブルを起こす子どもは厳しく対応して、クラブをどんどん辞めさればいいと思うのですが、間違っていますか?>
結論から申しますと、間違っています。この手の話の場合、ほとんどすべての保護者は「うちの子どもは、被害を受ける側。迷惑をかけられる側。迷惑をかける子は児童クラブから追い出してほしい」と常に頭に想定して意見を主張するのですが、子どもの世界はしょうっちゅう立場や関係性が入れ替わる世界です。保護者は「うちの子はとてもいい子」と思っていても、児童クラブの世界では、いつも他人に迷惑を掛けない子どもでいられるとは限りません。ちょっとしたはずみで、たまたま機嫌が悪かったときに、いつもなら絶対にそんなことをしないのに、腹の虫の居所が悪かった日に、ちょっかいをかけてきた友達を突き飛ばした、鉛筆で突っついた、ノートに落書きをした、「氏ね」と言ってしまった、ということは、ごく普通にあるものです。そういう、ちょっと「やっちゃった」というのが1年に1回あるかないかの子どもだっています。ところが、「やられた側」が、「うちの子が迷惑を掛けられた。児童クラブが怖いといっている。やった子をすぐに退所させなければ訴えますよ」と言ってきたらどうなるでしょう。普段から「迷惑をかける子は児童クラブに在籍させないように」と言ってきた手前、自分の子どもが他人に迷惑をかけた場合にすぐさま退所させられますか?それは、とてもひどい解決法だと運営支援は考えます。
まず、区別して考えましょう。どのような理由があっても許容できないことを設定します。この場合が判明したら、退所もやむを得ないという事情です。私は「一方的な支配、被支配の関係、つまり、いじめ」は、これに相当すると考えます。もちろん、児童クラブは家庭、小学校と連携して、いじめ関係の解消に取り組みます。しかしそれでも当事者のうち加害側に該当する子どもがいじめに固執する場合は、児童クラブ退所も選択肢として考えねばならないというのが、運営支援のスタンスです。とはいえ、ただ児童クラブを辞めてもらうのではなく、保護者に対して、子どもへの関わりをしっかり行うこと、場合によっては心理職や児童精神科医の診察を受けるなどの支援を提案すること、退所後も継続してその家庭と関わりを持つことが重要だと考えます。
そうではない場合は、児童クラブ職員と子どもたちが一緒に問題の解決に取り組むことを保護者に了解してもらう努力をしましょう。事態の推移は発生時点から途中経過、もちろん結論まで、関係する保護者には包み隠さず伝えます。問題を起こした子どもを退所して「その場から消し去ることで解決」では、実は問題を起こす場が児童クラブから他の場所に移っただけで何ら解決しません。むしろ学校や登校時により悪化した、いじめ関係に発展することもあります。ただ追い出して「見えなくさせて」解決したと安堵するのではなく、「大変だけれど、当事者全員が事態に向き合って話し合って解決の答えを見出すこと」に取り組むことが必要だと運営支援は考えます。そうやって解決すれば、児童クラブではない場所で、一方的な関係を生み出すことも防げます。また、単に偶然だったりめったに起こさないトラブルによるもの、つまり常態化していないトラブルについては、当事者同士が話し合うことで十分に解決できます。
追い出すことは解決ではないことを、ぜひ保護者さんには理解をお願いします。そして、トラブルを起こす要因が例えば子ども同士のイライラであった場合、そのイライラを引き起こす環境的な要因の改善に取り組むなど、「根本的な解決」を目指す動きを念頭に置いていただきたいと希望します。
※このシリーズ、今後も不定期に掲載します。取り上げてほしいテーマ、課題がありましたら、ぜひリクエストしてくださいね。旧ツイッター(X)にポストしていただいても構いません。
掲載履歴:第1回は2024年12月20日掲載です。
<その1:放課後児童クラブって?>
<その2:放課後児童クラブと学童保育所は違うの?>
<その3:放課後児童クラブとか学童保育所は、なんのためにあるの?>
<その4:児童クラブに入るのに条件が必要?>
<その5:必ず入れる児童クラブがあるって本当?>
第2回は2025年1月4日掲載です。
<その6:新1年生の保護者が放課後児童クラブで気を付けておきたいことは?>
<その7:児童クラブに行っていると勉強の時間が足りなくなりそう。もっと勉強させててもいいんじゃない?>
<その8:うちの子、とてもおとなしいので4月から児童クラブになじめるかどうか心配です>
第3回は2025年1月13日掲載です。
<その9:入所する放課後児童クラブは学校が休みの日に弁当持参ですが、カップラーメンは禁止です。なぜ禁止するのですか、理解できません>
<その10:児童クラブに持っていく弁当は、コンビニ弁当ではダメなのですか?冷凍食品は恥ずかしい?>
<その11:子どもの発熱は何度ぐらいまでなら大丈夫ですか? 発熱しても児童クラブを利用できますか?>
<その12:児童クラブの職員は、どういう人たちが多いのですか? 資格はあるのですか?>
<おわりに:PR>
弊会は、次の点を大事に日々の活動に取り組んでいます。
(1)放課後児童クラブで働く職員、従事者の雇用労働条件の改善。「学童で働いた、安心して家庭をもうけて子どもも育てられる」を実現することです。
(2)子どもが児童クラブでその最善の利益を保障されて過ごすこと。そのためにこそ、質の高い人材が児童クラブで働くことが必要で、それには雇用労働条件が改善されることが不可欠です。
(3)保護者が安心して子育てと仕事や介護、育児、看護などができるために便利な放課後児童クラブを増やすこと。保護者が時々、リラックスして休息するために子どもを児童クラブに行かせてもいいのです。保護者の健康で安定した生活を支える児童クラブが増えてほしいと願います。
(4)地域社会の発展に尽くす放課後児童クラブを実現すること。市区町村にとって、人口の安定や地域社会の維持のために必要な子育て支援。その中核的な存在として児童クラブを活用することを提言しています。
(5)豊かな社会、国力の安定のために必要な児童クラブが増えることを目指します。人々が安心して過ごせる社会インフラとしての放課後児童クラブが充実すれば、社会が安定します。経済や文化的な活動も安心して子育て世帯が取り組めます。それは社会の安定となり、ひいては国家の安定、国力の増進にもつながるでしょう。
放課後児童クラブ(学童保育所)の運営支援は、こどもまんなか社会に欠かせない児童クラブを応援しています。
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弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。
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放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。
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放課後児童クラブを舞台にした小説を完成させました。いまのところ、「がくどう、序」とタイトルを付けています。これは、埼玉県内の、とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子を丹念に描いた作品ではありません。大人も放課後児童クラブで育っていくことをテーマにしていて、さらに児童クラブの運営の実態を描くテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ご期待ください。
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「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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