将来、放課後児童クラブ(学童保育所)を利用しようと考えている保護者さんへ。「児童クラブのトリセツ」シリーズ3
放課後児童クラブ(学童保育)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。この4月に新1年生となるお子さんがいる子育て世帯では、放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の新規入所に向けて申請手続きを進めている、あるいは済ませている方が多いことでしょう。また、残念ながら入所が認められず保留、あるいは待機になってしまったかもしれません。いずれ将来、児童クラブを利用しようと考えている方も多いでしょう。運営支援ブログでは、これから児童クラブに関わることになる保護者さん、関係者さんに向けて、不定期ですが、児童クラブのことについて運営支援の独断と偏見による、分かりやすく(そしてなるべく短く!)紹介するシリーズ「児童クラブのトリセツ」シリーズを掲載しています。3回目です。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<その9:入所する放課後児童クラブは学校が休みの日に弁当持参ですが、カップラーメンは禁止です。なぜ禁止するのですか、理解できません>
夏休みや春休み、冬休みのような「小学校の長期休業期間」や、土曜日の児童クラブでは、クラブに登所するときに昼食持参、つまり弁当を持っていくことがあります。この数年、国は児童クラブで昼食を提供するように推し進めていますが、全国の児童クラブの57%がまだ昼食提供をしていません(令和6年実施状況調査より)。
弁当持参のクラブでは、まず間違いなく「カップ麺」などインスタントラーメンでの昼食を認めていないでしょう。理由は単純ですが、「お湯(熱湯)の用意ができない」ことと「やけどの防止」です。もう少し詳しく理由を列記しましょう。
・必要とする人数分だけの熱湯を用意するのが大変。熱湯を作るにはそれなりのコストがかかります。
・「数人だけならいいじゃない」はダメ。カップ麺の話が広がると、あれよこれよとカップ麺の家庭が増え、それが数十世帯になったら熱湯はとても用意できません。
・残飯処理が大変。汁ものは本当に面倒。そのまま流しに流せません。
・最も深刻なのは、やけどの危険性。大勢の子どもたちが過ごす場所はちょっとしたことでも、良くも悪くもにぎやかで元気で、落ち着きの少ない場所です。熱湯を入れたカップ麺をひっくりかえして、子どもがやけどをしたら大変です。急いで食べて口の中を痛めても大変です。こぼしたカップ麺の掃除も、大変です。
・栄養面で心配がある。
なお、児童クラブの弁当についてもいろいろ心配があります。機会を改めて説明しましょう。
<その10:児童クラブに持っていく弁当は、コンビニ弁当ではダメなのですか?冷凍食品は恥ずかしい?>
通常、児童クラブはカップ麺の昼食を禁止していますが、「入所のしおり」など保護者向けに配布する資料において、コンビニ弁当はダメと明示、例示している児童クラブを私は見たことがありません。ただし、現場レベルで児童クラブ職員から、やんわりと「コンビニ弁当は、ちょっと(困る)」と言われたことがある保護者の方は、いるかもしれません。
児童クラブの運営事業者、職員に確認してほしいのですが、コンビニ弁当を昼食にすることが児童クラブにおいて問題がある、ということは考えにくいものがあります。ただし、「電子レンジで必ず温めてほしい」というのは、児童クラブ側で対応できないと考えてください。コスト面もそうですし、これもまた何十人もの子どもの弁当の「レンチン」は時間との兼ね合いで無理です。
温め直しはしないというコンビニ弁当であれば児童クラブでの昼食に不都合はないはずです。もし、問題視している児童クラブであるなら、「何が問題なのか」を確認してみましょう。
考えられるのは、児童クラブ(職員)側のこだわり、想い、「食育」の観点から、児童クラブ側がコンビニ弁当を遠ざけている場合があるでしょう。しかしそれは「余計なお世話」です。いま増えている児童クラブの昼食提供では、地元の弁当業者、昼食提供業者が作った弁当を児童クラブに配達することが圧倒的に多いですが、その事業者で作った弁当とコンビニ弁当に本質的な差異はありません。
冷凍食品、いわゆる冷食を利用することが恥ずかしい、あるいは児童クラブ側に何か指摘されるかしら?と心配の保護者さんがいるかもしれませんが、「まったく心配は不要」です。冷凍食品を使わない、全部手作りのおかずは、それはそれで保護者さんが「好き好んで」やっているだけの話です。冷凍食品ばかりのお弁当が子どもへの愛情のバロメーター、愛情の濃い薄いとは、まったく関係ありません。コンビニ弁当を持たせる親が、子どもへの愛情が薄いかといえば、そんな因果関係はありません。心配しないで、どんどん冷食を使ってください。むしろ夏場の弁当については、冷食をうまく使うことで弁当内部の温度がむやみに上昇するのを防ぎ、食中毒の防止の効果すら期待できます。「冷凍食品ばかりの弁当は恥ずかしい」と思うのは保護者自身の見栄、見栄えを気にする損得勘定に過ぎません。児童クラブの職員は、弁当の中身をさりげなく確認して家庭状況を把握することに努めますが、それとて、冷食ばかりの弁当の家庭が問題ある家庭だ、とはまったく思いません。ご安心くださいね。
<その11:子どもの発熱は何度ぐらいまでなら大丈夫ですか? 発熱しても児童クラブを利用できますか?>
厚生労働省が策定し、こども家庭庁に移管されている「保育所における感染症対策ガイドライン(2018年改訂版、令和5年5月一部改訂)」は、放課後児童クラブ運営指針解説書にも、児童クラブ関係者が参考とするべきものとして挙げられているものです。このガイドラインに、「登園を控えるのが望ましい場合」として、「24 時間以内に 38℃以上の熱が出た場合や、又は解熱剤を使用している場合」と、「朝から 37.5℃を超えた熱があることに加えて、元気がなく機嫌が悪い、食欲がなく朝食・水分が摂れていないなど全身状態が不良である場合」が挙げられています。
児童クラブもこのガイドラインの内容に沿って、児童クラブ利用規程を策定していることでしょう(策定していない児童クラブ事業者はよもや存在しないと思いますが、なければ策定しましょう)。
このガイドラインに従って、家庭でも、登所前に37度5分を超えていれば絶対に登所させないでください。これはあくまでも最終的にぎりぎりまで妥協しての内容という理解でいてください。
本来は、微熱であっても児童クラブには登所させないようにしていただきたいのですね。まして、感染症が流行している時期ですと、その微熱が本格的な症状の前触れかもしれません。微熱だからといって児童クラブに登所させてしまうと、他の児童にも、職員にも、感染症を流行させる危険性が大いにあります。その結果、「児童クラブ全体が閉所となる」となったら、健康体の児童の家庭も巻き添えを食って不利益をこうむります。児童クラブ職員が発症して勤務できなくなったら、育成支援に重大な支障が出ます。場合によっては職員不足で児童クラブの開所が制限されることもありえます。
保護者さんは、お子さんの平熱をしっかりと把握したうえで、平熱を超える発熱があった場合は、児童クラブに登所させないで済むように、日ごろから、急な体調不良時の備えを検討しておいてください。「ウチの家庭だけはしょうがないから、ちょっと具合が悪くても児童クラブで面倒みてほしい」の「自分だけを特別扱い」が、全体の利益を、利便性を損ねる結果を招きかねないことを、ぜひとも理解していただきたいですね。まして、具合が悪いのを黙って内緒にして登所させてしまうことは言語道断です。少なくとも子どもの様子を日ごろから「職務」として観察している児童クラブの支援員であれば、子どもの体調不良ぐらいものの数分で見抜けます。隠しても無駄ですし、隠すことしかしない保護者に対しては不信感を募らせてしまいます。ちょっとした風邪だ、体調不良だから大丈夫と思っていたところ急な体調の急変で、子どもの命が脅かされる事態になることは、ドラマや映画や他人の物語では決してありません。自分のお子さんにも起こりうることだということを、胸に刻んでおきましょう。
<その12:児童クラブの職員は、どういう人たちが多いのですか? 資格はあるのですか?>
放課後児童クラブのうち、市区町村が、「このクラブは、放課後児童クラブです」と認めている施設については、資格を持っている職員が勤務している可能性が極めて高いといえます。その資格とは、「放課後児童支援員」という資格です。これは、都道府県知事が認める公的な資格です。放課後児童支援員の資格を有している者は、放課後児童クラブにおいて、放課後児童支援員として勤務することが可能です。
放課後児童支援員の資格を手に入れるには、いくつかの条件をクリアする必要があります。簡単にいえば、「保育士である人、教育免許がある人、高校卒業以上の学歴があれば放課後児童クラブや児童館や放課後等デイサービスでおよそ2年間以上勤務したことがある人」が、「放課後児童支援員認定資格研修」を受講することで、資格を手に入れられます。試験はありませんから、講義をすべて受講していれば資格を手に入れられます。
市区町村は、独実に制定した条例によって、地域内の児童クラブに放課後児童支援員を1施設に何人配属するかを決めています。よって市区町村ごとに、放課後児童支援員の配属の有無、配置人数の多さ少なさが異なっています。基本となる国の決まり(省令)では、「放課後児童支援員を2人、うち1人は補助員(=無資格の人)でも可」となっていますから、放課後児童支援員を最低でも1人、クラブに配置していることがほとんどです。この場合の配置とは、児童クラブが開所している時間に必ず勤務していること、を意味します。
放課後児童支援員になる人は様々です。令和6年の実施状況では、実務経験をもって放課後児童支援員になった人(いわゆる「任用資格」で、放課後児童支援員になった人)は、全体の約48パーセントです。およそ半数ですね。保育士の資格がある人が放課後児童支援員になったケースは23パーセントでした。
年齢は様々です。20代もいれば70代の人もいます。放課後児童支援員資格を手に入れられる前提条件は大変に緩やかですから、キャリアに関係なく、資格を手に入れられます。おおまかにいえば、次のような人たちが放課後児童支援員としてキャリアを出発させています。
・保育士資格を得て、新卒または第二新卒(保育所などで働き始めたが短期間で離職し、児童クラブに転職)で働く人
・教員免許を得たものの本採用に至らなかったので児童クラブで働く人
・教員免許を得て幼稚園、学校(小学、中学、高校)で教員として働いていたものの離職して児童クラブに転職した人
・大学の学部要件(社会学や体育学、福祉学、芸術学など)を得て新卒で児童クラブに就職した人
・児童クラブでアルバイトをしていて、そのままアルバイトからパートや正規採用に転換した人
・子育てを終えた人で、かつて子育て支援の仕事をしていた人の仕事復帰の場として児童クラブで働き出した人
・子育て支援とはまったく関係ない仕事をしてきた人が定年などで退職し、次のキャリアとして児童クラブを選んだ人
特に、定年後の第二のキャリアとして児童クラブを選ぶ人は大変多いです。年金では足りない、という人もいます。60代どころか70代の児童クラブ職員が増えています。人手不足がずっと続いている業界でもあるので、いわゆるシルバー世代、前期どころか後期高齢者の方が児童クラブ職員として活躍していることも珍しくありません。
※このシリーズ、今後も不定期に掲載します。取り上げてほしいテーマ、課題がありましたら、ぜひリクエストしてくださいね。旧ツイッター(X)にポストしていただいても構いません。
掲載履歴:第1回は2024年12月20日掲載です。
<その1:放課後児童クラブって?>
<その2:放課後児童クラブと学童保育所は違うの?>
<その3:放課後児童クラブとか学童保育所は、なんのためにあるの?>
<その4:児童クラブに入るのに条件が必要?>
<その5:必ず入れる児童クラブがあるって本当?>
第2回は2025年1月4日掲載です。
<その6:新1年生の保護者が放課後児童クラブで気を付けておきたいことは?>
<その7:児童クラブに行っていると勉強の時間が足りなくなりそう。もっと勉強させててもいいんじゃない?>
<その8:うちの子、とてもおとなしいので4月から児童クラブになじめるかどうか心配です>
<おわりに:PR>
弊会は、次の点を大事に日々の活動に取り組んでいます。
(1)放課後児童クラブで働く職員、従事者の雇用労働条件の改善。「学童で働いた、安心して家庭をもうけて子どもも育てられる」を実現することです。
(2)子どもが児童クラブでその最善の利益を保障されて過ごすこと。そのためにこそ、質の高い人材が児童クラブで働くことが必要で、それには雇用労働条件が改善されることが不可欠です。
(3)保護者が安心して子育てと仕事や介護、育児、看護などができるために便利な放課後児童クラブを増やすこと。保護者が時々、リラックスして休息するために子どもを児童クラブに行かせてもいいのです。保護者の健康で安定した生活を支える児童クラブが増えてほしいと願います。
(4)地域社会の発展に尽くす放課後児童クラブを実現すること。市区町村にとって、人口の安定や地域社会の維持のために必要な子育て支援。その中核的な存在として児童クラブを活用することを提言しています。
(5)豊かな社会、国力の安定のために必要な児童クラブが増えることを目指します。人々が安心して過ごせる社会インフラとしての放課後児童クラブが充実すれば、社会が安定します。経済や文化的な活動も安心して子育て世帯が取り組めます。それは社会の安定となり、ひいては国家の安定、国力の増進にもつながるでしょう。
放課後児童クラブ(学童保育所)の運営支援は、こどもまんなか社会に欠かせない児童クラブを応援しています。
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弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。
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放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。
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放課後児童クラブを舞台にした小説を完成させました。いまのところ、「がくどう、序」と仮のタイトルを付けています。これは、埼玉県内の、とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子を丹念に描いた作品ではありません。大人も放課後児童クラブで育っていくことをテーマにしていて、さらに児童クラブの運営の実態を描くテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ご期待ください。
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「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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(このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)