将来、放課後児童クラブ(学童保育所)を利用しようと考えている保護者さんへ。「児童クラブのトリセツ」シリーズ2

 放課後児童クラブ(学童保育)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。この4月に新1年生となるお子さんがいる子育て世帯では、放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の新規入所に向けて申請手続きを進めている、あるいは済ませている方が多いことでしょう。また、残念ながら入所が認められず保留、あるいは待機になってしまったかもしれません。あるいは将来、児童クラブを利用しようと考えている方も多いでしょう。運営支援ブログでは、これから児童クラブに関わることになる保護者さん、関係者さんに向けて、不定期ですが、児童クラブのことについて運営支援の独断と偏見による、分かりやすく(そしてなるべく短く!)紹介するシリーズ「児童クラブのトリセツ」シリーズを掲載しています。2回目です。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<その6:新1年生の保護者が放課後児童クラブで気を付けておきたいことは?>
 児童クラブに入所ができても、「子どもがクラブに行くのを嫌がる」、あるいは保護者自身が「クラブがどうにも利用しにくい」ということがあると、子育てと仕事等の両立、並立がとても難しくなります。特に、子どもが児童クラブに行きたがらないことは「行き渋り」といって、極めて深刻な状況を招きます。よって、最優先は「行き渋り」を防止する、あるいは行き渋りの兆候が見えたら直ちに対応することが最も必要なことになります。行き渋りは、児童クラブに行くのを嫌がるあまりに小学校への不登校を招くことにもなりますから、徹底して早期の対応が必要なのです。
 行き渋り対策のうち防止に関しては、「毎日、児童クラブの様子を子どもに聞くこと。楽しいか、不安なことがあるか、いやな事があるか、をありのままに子どもに話してもらう事」が重要です。同時に、児童クラブの職員にも、クラブを利用した日には必ず「うちの子どもは、どのように過ごしていますか」を質問してください。この2つのことが基本です。その中で、「ちょっとつらい」というような内容を子どもが話し出したら、直ちに児童クラブの職員に相談してください。
 なお、子どもにクラブに関して話を聞くときに、やってはいけないことがあります。それは「ちゃんとクラブに行ってくれないとパパ、ママが困っちゃうから」「頑張って行くんだよ」と、子どもが児童クラブに行くことを強制させることを示す言葉遣いをすることです。なぜなら、親が「クラブに行ってくれないと困る」というニュアンスを子どもに伝え続けてしまうと、子どもはけなげにも「自分が我慢して児童クラブに行かなきゃいけないんだ」と我慢します。その我慢が限界に達してしまうと、もう取り返しのつかない行き渋り状態となり、手遅れ状態となるのです。子どもは、いつも親のことを心配するものです。ごく普通に「クラブで楽しい事、いやな事、なんでも話してね」と小1の最初のクラブ登所日から話しかけて習慣化してください。
 これら行き渋り対策は拙著「知られざる学童保育の世界」で紹介しています。

<その7:児童クラブに行っていると勉強の時間が足りなくなりそう。もっと勉強せててもいいんじゃない?>
 私の経験では、圧倒的多くの保護者さんが「もっと児童クラブで勉強を見てくれればいいのに」という意見、不満をお持ちでした。今は、そうした保護者の要望を叶えるような児童クラブもあちこちで増えつつありますが、どの地域でもごく普通に存在するわけではありません。
 これは、放課後児童クラブの存在理由そのものに関わる問題だからです。例えるならば、カウンターの鮨屋さんに行って「ペペロンチーノください」と頼んでも「うちでは取り扱っていないから」というような具合です。つまり、本来の放課後児童クラブは、「子どもが生活し、遊び、そこで社会的習慣を身に付けながら人として成長していく場所」であると法令で定義されていて、その定義の中に「学力を向上させること」が含まれていないから、です。児童クラブは保護者が不在の時に利用する場で、それゆえに家庭の代わりという位置付けになっています。家庭というのは人が生活する場所ですからね。児童クラブも同じです。家庭ですから、宿題ぐらいはやります。それ以上の学力向上の時間やプログラムは、学習塾ではないので児童クラブの中心的な業務として行うことはありません。放課後児童クラブは国から補助金を得て運営することが通常ですが、その補助金を得られるための条件に、学習塾やスポーツクラブのような事業者には補助金は出さない、となっています。
 とはいえ、現実に保護者からの勉強に関するニーズが高いのは事実です。また放課後児童クラブは「地域の実情に応じて」実施するとも法律に書かれています。よって、市区町村によっては、英会話を熱心に行うクラブ、勉強を熱心に取り入れるクラブ、サッカーやテニス、水泳、ダンスの時間がたっぷりあるスポーツクラブのような児童クラブも実は存在しています。建前と現実の関係でしょうか。お住まいの地域にある児童クラブが、どのような方針で運営されているか、事前に問い合わせるなどして調査、リサーチしておくにこしたことはありません。

 なお、「遊ばせてばっかりで勉強しない。大丈夫かしら?」と不安になる親御さんは多いでしょうが、その点はほとんど心配不要です。児童クラブにおける「遊び」は、大人がイメージする「暇つぶしのための娯楽、余暇」とは全く違います。子どもが成長したのち、他の人とうまくコミュニケーションを図って集団生活、社会生活の中で過ごせるようになるための一種のトレーニングであり、種々の困難やトラブルを自分の知恵や工夫で乗り越えるための訓練、トレーニングでもあります。「社会性」を育むための、遊びです。つまり「非認知能力」を育てるための時間が、児童クラブの遊びです。児童クラブでしっかり遊んでいくと、将来、受験勉強で難しい問題にたくさん挑むときにあれこれ工夫を重ねてそれを乗りこえていけるチカラが育っていくと考えておいてください。人間、どんなに学力が高くても最終的に組織の中で、社会の中でうまくやっていけなければ社会人として苦労しますよね。その苦労を軽々と乗りこえていくための人間としての総合力を養うことが児童クラブにおける「遊び」に込められていると理解してください。心配ご無用ですよ。

<その8:うちの子、とてもおとなしいので4月から児童クラブになじめるかどうか心配です>
 確かにそのようなご不安、ご心配を私もたくさん聞いてきました。新1年生からすると、クラブの先輩の高学年たちがおっかなく思えるものです。まず前提として、許されない事態、それは上級生が下級生に理不尽に行う行動、すなわちいじめ行為は、絶対にあってはならないことを挙げておきます。児童クラブの職員側は、新1年生が必要以上に脅かされるような状態にならないように上級生たち、クラブに先に入所して過ごしている子どもたちにしっかりと理解させる必要があります。また、新1年生が極端に不安にならないようにしっかりとフォローしなければなりませんよ。
 いじめ行為が無いという状態を前提にしますと、2つのプロセスを経ましょう。1つは、「うちの子は、内向的でなかなか自分の意見を表に出せないタイプですから、しっかりと児童クラブ側で様子を見てほしい」などと保護者が児童クラブ側に、子どもに関する情報や懸念事項を前もって、できるだけ詳しく伝えることです。児童クラブの職員は子どもを支援、援助するプロですが、あくまで保護者ではないので、最初のうちは子どもの詳しい性向、性格まで把握できません。児童クラブで過ごす様子を見ていれば当然、把握できるようになりますが、事前情報があるのと、無いのとでは、あるほうがより適切な支援、援助ができるに決まっています。お子さんに関する不安や心配事は、もれなく、児童クラブ側に伝えておきましょう。
 その上で、もう1つのプロセスです。それは、その不安を、いったん棚にあげておくことです。確かにクラブの先輩の上級生たちは、以前からその場で過ごしている訳ですから、慣れ切っています。リラックスしています。堂々とクラブで過ごしています。ただでさえ、初めてやってきた場にいる新1年生からすれば、もうそれだけで圧倒されてしまいますね。だからといって、児童クラブが不安でいっぱいの場所であると決めつけるのは早計です。試練、とまではいいませんが、新1年生の子どもが人として成長していくうえで必要な過程を経験するのだ、という理解でいてほしいのです。まともな児童クラブであれば、クラブの職員が新1年生の不安を取り除く、和らげるようにフォローします。最初はおっかなく見えた上級生も、5月になってくれば、「遊びを教えてくれるお兄ちゃん、お姉ちゃん」に変わってくるものです。
 児童数が極端に多い地域における複数の児童クラブは、学年別に子どもを入所させていますから、このような上級生がおっかない、怖く見えるという現象は起きにくいのですが、それはそれで万能ではありません。児童クラブの世界は、子どもがやがて成長して大人になったとき、社会で過ごす上で必要な人間力を身に付けて行く場所です。上級生も同じ場所にいる児童クラブは「異年齢集団で過ごす場」です。この異年齢集団で過ごす機会、経験は、子どもの成長にとって本当に重要なことです。その場にいることで得られるコミュニケーション能力や、多くの知識経験の伝達の機会は、今の時代、得ようとしてもなかなか得られないものです。
 最初の1か月は、確かに子どもにとっておっかない。保護者も心配でしょう。でも夏休み前には、新1年生もあらかたクラブの子ども達の世界になじんているものです。逆に、なじめていないということであれば、何らかの問題が隠れている可能性があります。児童クラブの職員に相談しましょう。保護者や児童クラブの職員が気付かない状況で、問題が生じている、例えばいじめ行為が水面下で進行している可能性を疑わねばなりません。

 また、なじめない状態には、新1年生の子ども自身にその理由がある場合もあります。うまくコミュニケーションが取れない、その場における生活のスケジュールになじめない場合、例えばいわゆる発達障害的な面がある可能性を考えることになります。その点については改めて紹介します。

<前回のおさらい>第1回は2024年12月20日掲載です。
<その1:放課後児童クラブって?>
<その2:放課後児童クラブと学童保育所は違うの?>
<その3:放課後児童クラブとか学童保育所は、なんのためにあるの?>
<その4:児童クラブに入るのに条件が必要?>
<その5:必ず入れる児童クラブがあるって本当?>

※このシリーズ、不定期に掲載していきます。

<おわりに:PR>
 弊会は、次の点を大事に日々の活動に取り組んでいます。
(1)放課後児童クラブで働く職員、従事者の雇用労働条件の改善。「学童で働いた、安心して家庭をもうけて子どもも育てられる」を実現することです。
(2)子どもが児童クラブでその最善の利益を保障されて過ごすこと。そのためにこそ、質の高い人材が児童クラブで働くことが必要で、それには雇用労働条件が改善されることが不可欠です。
(3)保護者が安心して子育てと仕事や介護、育児、看護などができるために便利な放課後児童クラブを増やすこと。保護者が時々、リラックスして休息するために子どもを児童クラブに行かせてもいいのです。保護者の健康で安定した生活を支える児童クラブが増えてほしいと願います。
(4)地域社会の発展に尽くす放課後児童クラブを実現すること。市区町村にとって、人口の安定や地域社会の維持のために必要な子育て支援。その中核的な存在として児童クラブを活用することを提言しています。
(5)豊かな社会、国力の安定のために必要な児童クラブが増えることを目指します。人々が安心して過ごせる社会インフラとしての放課後児童クラブが充実すれば、社会が安定します。経済や文化的な活動も安心して子育て世帯が取り組めます。それは社会の安定となり、ひいては国家の安定、国力の増進にもつながるでしょう。
 放課後児童クラブ(学童保育所)の運営支援は、こどもまんなか社会に欠かせない児童クラブを応援しています。

 弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。

 放課後児童クラブを舞台にした小説を完成させました。いまのところ、「おとなの、がくどうものがたり。序」と仮のタイトルを付けています。これは、埼玉県内の、とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子を丹念に描いた作品ではありません。大人も放課後児童クラブで育っていくことをテーマにしていて、さらに児童クラブの運営の実態を描くテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ご期待ください。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

(このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)