宮崎市の事例に感じた「民間企業委託でバラ色」報道への違和感。「なぜ?」と疑問に思わない報道では世論をミスリードするだけ。

 放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブを舞台に、新人支援員が七転び八起きしながら、周りの人と一緒に過ごしていく人間ドラマであり成長ストーリー小説「がくどう、 序」がアマゾンで発売中です。児童クラブを利用する保護者の立場も描いています。ぜひ手に取ってみてください!
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 先日、宮崎県宮崎市の放課後児童クラブが民間委託でサービス拡充に取り組んでいます、という趣旨の記事を見かけました。確かに、運営側は頑張っているのでしょう。しかし元新聞記者でもあった私には違和感を大いに覚えた記事でした。そのことを本日は記します。重箱の隅を楊枝でほじくる、と思わないでください。放課後児童クラブの運営に対する軽い意識を感じて残念なのです。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<報道から>
 宮崎市の放課後児童クラブが民間委託でサービスを拡大する、という趣旨の記事は、まず今年の3月、NHKで見かけました。その記事をまず一部、引用して紹介します。NHKの「宮崎 NEWS WEB」2025年3月19日11時33分配信の、「宮崎市の児童クラブ 民間委託で新年度から利用時間延長へ」との見出しの記事です。(宮崎市の児童クラブ 民間委託で新年度から利用時間延長へ|NHK 宮崎県のニュース https://www3.nhk.or.jp/lnews/miyazaki/20250319/5060020605.html
「人手不足により半数で実施できていなかった宮崎市の児童クラブの利用時間の延長が来月の新年度から民間に委託してほぼすべてのクラブで行われることになりました。」
「共働き世帯などの小学生を預かる放課後児童クラブについて宮崎市は今年度から保護者の要望を受けて終了時間を1時間長い午後7時土日や長期の休みは開始時間を30分早い午前7時半からとしました。しかし、63のクラブのうち、およそ半数の32のクラブで事業を委託している社会福祉協議会や社会福祉事業団の人手不足などを理由に延長が出来ていない状況となっていました。このため市では、来月からの新年度、民間企業に委託するなどして延長が出来ていなかった32のうち30のクラブで対応できるようになり、ほぼすべての児童クラブで受け入れ時間が延長されることになりました。」
(引用ここまで)

 そしてMRT宮崎放送が2025年4月6日11時に配信した「"子どもたちがのびのびと過ごせるように 保護者がはたらきやすいように" 宮崎市の新たな「放課後児童クラブ」」という見出しの記事が詳細に状況を報じています。なお記事の内容は4月3日に放送されていたようです。この記事の一部を引用して紹介します。
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/mrt/1832525
「宮崎市では、共働き世帯の増加に伴い、児童クラブの数を増やしていますが、待機児童の人数は増加傾向となっていて、昨年度は173人の待機児童がいました。こうした状況を解消しようと、宮崎市は、この春、新たな放課後児童クラブを整備しました。」
「施設を運営しているのは茨城県に本社があり、全国で児童クラブを展開する「アンフィニ」。施設には子どもたちのことを考えたさまざまな工夫が。中でも、特徴的なのが人工芝です。人工芝は、縦およそ10メートル、横およそ6メートルの広さがあり、子どもたちは自由に遊ぶことができます。」
「また、宮崎市では、保護者の負担を減らそうと今年度からほとんどの放課後児童クラブで利用時間を延長しています。具体的には、平日はこれまで午後6時までだった終了時間を午後7時までに。土曜日や長期休みの際は開始時間を30分延長し午前7時半から受け入れています。実は、利用時間の延長は昨年度から始まっているのですが、人手不足などから半数の児童クラブでしか導入できていませんでした。そこで、宮崎市は民間企業への委託を増やし、ほとんどの児童クラブで利用時間延長を可能としたということです。」
(引用ここまで)

<私が気になったところ・条件は同じか?>
 宮崎市に限らず日本のほかの地域でも、民間委託をして職員の人手不足を解消し、児童の受入れ時間を延長した、民間委託で児童クラブの質を上げるのだ、という報道が相次いでいます。なおこの宮崎市の場合は、社会福祉協議会や社会福祉事業団が運営していたとあります。正確には、社協も事業団も公の組織ではない民間組織ですから、社協運営も事業団運営も民間委託です。ですので、もし記事や見出しで、民間に委託して、という文言があると正確には間違いです。今回のNHKの記事では「民間企業に委託」という文言ですのでその点、気を使っていたことが分かります。MRTの記事でも「民間企業への委託を増やす」とあり、こちらも正確な表現にこだわっていたのは、良かったです。

 さて私が気になっているのは、民間企業に運営をゆだねたから、今回の2つの記事にあるように職員をそろえることができて児童クラブの営業時間を拡張できることになったですか? ということです。社協や事業団運営では職員をそろえることができず民間企業なら職員をそろえることができたのですか? ということです。つまり、同じ条件で、社協と事業団運営の場合と、民間企業運営の場合で、民間企業運営児童クラブの方が職員を多く雇うことができてその結果、児童クラブが開いている時間つまり児童受入時間を拡張することができるのであれば、それは民間企業運営児童クラブの方が上手な児童クラブ運営を行っていると言えるでしょう。社協や事業団運営は、民間の運営ではありますが、私もそう思っていますが事実上の「準地方公共団体」のような意識や活動をしているので、民間といえども公営クラブに近い感覚であると言えます。以前、埼玉県草加市でNPO運営のクラブが社協運営に移管となりましたが、児童クラブ関係者からは「雇用が不安定なNPO職員より、社協職員という準公務員になれるから安心だ」という声が出ていました。

 宮崎市の、児童クラブ運営に関する当初予算を検索してみました。こうなっていました。単位は千円です。
令和4年度当初予算 715,139千円(7億1513万9千円)前年度(3年度)は6億8717万2千円、2796万7千円の増
令和5年度当初予算 848,156千円(8億4815万6千円)前年度(4年度)は7億1513万9千円、1億3301万7千円の増
令和6年度当初予算 1,079,137千円(10億7913万7千円)前年度(5年度)は8億4815万6千円、2億4871万7千円の増
令和7年度当初予算 1,354,007千円(13億5400万7千円)前年度(6年度)は10億7913万7千円、2億7487万円の増

 令和7年度は今年度、実際に民間企業による運営が始まった年度です。令和6年度は公募プロポーザルが行われました。令和5年度当初予算から、かなりの増額となっていますが、令和6年度に公募プロポーザルを行う、つまり児童クラブの運営を大きく変えるということはその前年度には行政執行部の中で相当程度、計画が練られていることが常識的に当然であることを考えると、令和7年度からの民間企業への委託をにらんで市の児童クラブ運営の予算が増やされていったと考えることが相当でしょう。
 令和4年度の当初予算と比べると倍増に近い運営の予算の増額となっています。この、予算の増額を考えないで、社協や事業団運営では職員が足りなくて児童受入時間を拡大できない、民間企業になったから受入時間の拡大ができた、民間事業のノウハウがあれば児童クラブの児童受入時間の拡大や職員の確保はできるのだ、と考えるのは早計ですし、そのような印象を読者に与える記事は、問題のある記事です。

 つまり、「なぜ、社協や事業団運営では、児童受入時間の拡大ができなかったのか」を調べて報道しなければ、意味がないということです。単純に想像すれば、児童クラブ運営経費として行政から渡される予算が足りないから人件費を増やせず、賃金単価が上げられず、職員を増やせなかったのかもしれない。また、職員の勤務時間を延ばすには社協や事業団の就業規則を変える必要があるでしょうがその点はどうだったのか。
 宮崎市全体で7億円ちょっとしかなかった児童クラブへの運営費の予算が13億5000万円に増えたのなら、社協や事業団であっても、職員をより集めやすくなって職員数も増やせて、児童クラブの児童受入時間の延長、拡大ができた可能性があったのではないでしょうか?
 初めから、民間企業への委託ありきで、民間企業が運営に困らないように市が予算を増やしたということが自然であると考えれば、ではなぜ、社協や事業団といった準公営組織に予算を増やさなかったのか? という疑問は、報道機関は考えなかったのでしょうか。これが、私の感じる違和感です。

<私が気になったところ・こどもの過ごす環境の本質的な整備とは?>
 もう1点、MRTの記事で気になったところがありました。人工芝を施設内に設置してこどもの遊びの幅を広げたことです。それ自体は、私は良いことだと感じます。

 しかし気になったのは、この記事で児童クラブ職員が話している次の内容です。記事の一部を再び引用します。
「校外で児童クラブを作ると外で遊ぶことができないので、施設内で人工芝を敷いて、子どもたちが自由に遊べる、体が動かせるスペースがあるといいかなと思って設置しています」(引用ここまで)

 小学校敷地外に児童クラブを設置した場合、外で遊べないということを前提に話が進んでいますが、果たしてそうでしょうか? 小学校敷地外の児童クラブであっても、小学校の校庭を使って遊んだり近所の公園を使って遊んだりと、外遊びは不可能ではないと、私は考えます。実際、私が運営に関わった児童クラブや、運営を見聞きしてきた児童クラブで、小学校敷地外にある児童クラブは、外遊びの場所をどう確保するのか、職員や事業者がいろいろと工夫して実施していました。

 なぜ宮崎市の、この事業者の児童クラブは、校外にあるからといって外で遊べないのか? 取材した記者は、「外で遊べるような工夫、あるいは関係機関との交渉や折衝、調整は、事業者としては行わないのですか?」と、取材したり調べたりしなかったのでしょうか。

 確かに雨の日や、あまりにも気温が高くて外で遊ぶには危険な場合は、室内の人工芝の設備が大いに役立つでしょう。しかし、ちょうど今頃の季節のような、外で遊ぶにはちょうどよい気候の時期に、晴れてさわやかな日があったとき、それでも外に出られず人工芝で遊ぶということは、果たして、こどもにとって十分に楽しめるあそびの時間を提供できるのでしょうか。
 あそびを、軽く考えていませんか? 放課後児童クラブにおけるあそびは、まさに中心的な事業内容です。なんといっても、「遊びと生活の場」ですから。あそびを通してこどもが育っていく。児童クラブにおけるあそびについて安易に妥協することは、自動車メーカーが車の開発、製造、そして販売について適当にやっているということと同じでしょう。外で遊べないというのが絶対的に変えられない条件や環境なのかどうか、私にはそうは思えません。
 児童クラブの事業者であるなら、外遊びができるように学校や行政と交渉していくことが必要です。人工芝を施設内に作ったからOK、では、あまりにもあそびの持つ重要性を軽視していると、私には感じられます。これが、「校庭や公園で当然遊べます。雨の日や環境条件が悪い日は、こどもが施設内で体を動かして遊べるように人工芝も設置しました」というのであれば、「すごい!」と大賛成しますが、記事からはそのような方針であるとは受け止められませんでした。

 つまり、児童クラブの事業者として、本質的な事業の重要性をどこまで認識しているのかどうか、大いに不安となった記事の内容である、ということです。これもまた、私が感じた違和感です。

<報道されることは良い。でも、ズレた報道は危ない>
 NHKにしてみ民放局にしても、児童クラブのことを取り上げてくださることは私には大歓迎です。ですが、ただ単に、行政執行部や運営事業者の説明や広報資料だけを頼りに取材して伝えることは不安があります。こと、記者や報道機関が実はあまり詳しく承知していない事柄については、私は第三者の視点を加えて記事を完成することが必要であると私は考えます。

 この2つの記事だけから受ける読者、視聴者の印象は間違いなく「そうか、民間企業の方が、特に保護者の利便性向上にとって有利で、素晴らしい児童クラブの運営ができるんだ」というものになるでしょう。そのような一面は確かにあります。公営クラブは児童受入時間が短かったり閉所日が多かったりと、おおむねその問題点の共通点があります。しかしそれも、そもそも投入される自治体の予算の金額が低いことが背景にあることも見過ごしてはなりません。

 本当に、民間企業になったから児童クラブの運営内容が向上するのか。「同じ条件で」前身の運営事業者と比べなければ、正確な比較はできないでしょうが、読者や視聴者はそんなことまで気になりませんし、気が付きません。報道機関はそのことも含めて、慎重な取材と記事の報道、放送が必要なのです。 

 不安があればいつでも弊会、萩原にお尋ねください。 

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 弊会は、次の点を大事に日々の活動に取り組んでいます。
(1)放課後児童クラブで働く職員、従事者の雇用労働条件の改善。「学童で働いた、安心して家庭をもうけて子どもも育てられる」を実現することです。
(2)子どもが児童クラブでその最善の利益を保障されて過ごすこと。そのためにこそ、質の高い人材が児童クラブで働くことが必要で、それには雇用労働条件が改善されることが不可欠です。
(3)保護者が安心して子育てと仕事や介護、育児、看護などができるために便利な放課後児童クラブを増やすこと。保護者が時々、リラックスして休息するために子どもを児童クラブに行かせてもいいのです。保護者の健康で安定した生活を支える児童クラブが増えてほしいと願います。
(4)地域社会の発展に尽くす放課後児童クラブを実現すること。市区町村にとって、人口の安定や地域社会の維持のために必要な子育て支援。その中核的な存在として児童クラブを活用することを提言しています。
(5)豊かな社会、国力の安定のために必要な児童クラブが増えることを目指します。人々が安心して過ごせる社会インフラとしての放課後児童クラブが充実すれば、社会が安定します。経済や文化的な活動も安心して子育て世帯が取り組めます。それは社会の安定となり、ひいては国家の安定、国力の増進にもつながるでしょう。
 放課後児童クラブ(学童保育所)の運営支援は、こどもまんなか社会に欠かせない児童クラブを応援しています。

 放課後児童クラブを舞台にした、萩原の第1作目となる小説「がくどう、序」が発売となりました。アマゾンにてお買い求めできます。定価は2,080円(税込み2,288円)です。埼玉県内の、とある町の学童保育所に就職した新人支援員・笠井志援が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。リアルを越えたフィクションと自負しています。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、群像劇であり、低収入でハードな長時間労働など、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子どもたちの生き生きと遊ぶ姿や様子を丹念に描いた作品ではありません。大人も放課後児童クラブで育っていくことをテーマにしていて、さらに児童クラブの運営の実態を描くテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。素人作品ではありますが、児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描けた「学童小説」です。ドラマや映画、漫画の原作に向いている素材だと確信しています。商業出版についてもご提案、お待ちしております。

 弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

(このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)