学童保育業界の進化発展に必要なことは「学童保育の常識は世間の非常識」を徹底的に追放すること。その5

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。

 学童保育の世界は、その重大な使命と任務に対する社会の評価と理解がまったく追い付いていません。そのため、学童保育で働く人たちの給料が安く、いつまでたっても人員不足であり人材不足であり、それがさらに質の向上を妨げる悪循環に陥っています。
 そんな学童保育業界でよく言われる戯言(ざれごと)が、「学童保育の常識は、世間の非常識」。なんとも自虐的ですが、実は全くその通り。だからこそ、「学童保育の常識」を徹底的に打破しなければなりません。今週の弊会ブログは、そんな「学童保育の常識」を徹底的に批判し、学童保育の進化発展を願うものとします。

 最終日となる5日目の今回は、学童保育業界で「理想的なスタイル」とされてきた公設(公立)公営の運営スタイルを取り上げます。

 学童保育業界では、以前から、そして今も「自治体が、責任をもって学童保育所(放課後児童クラブ)を設置して運営すること」が最終的な理想形として語られてきています。運営形態としては「公設公営」「公立公営」と呼ばれるものです。つまりは、区市町村が設置も運営も行うことで、そういう施設で働く人は「公務員」となります。もちろん、現在も公設公営の学童保育所はかなりの数が存在しています。

 行政が責任をもって学童保育所を運営することは、理想的なように思えます。特に民営の学童保育所が多い地域に住む保護者の中には、公設公営を望む意見も強いようです。

 ところが現実の公設公営学童保育所はどうなっているのでしょう。残念ながら、理想とは正反対の実情が存在しています。施設が老朽化しているところが多いうえに、学童保育所が開所している時間が短い(例えば閉所時間が午後6時台)、何よりも働いている人のほとんどが「会計年度任用職員」という、有期雇用契約=非正規雇用の不安定な身分で働いています。当然、賃金も極めて安い。年収200万円前後で「高い方」です。
 もとより、無期雇用の正規の公務員が従事している公設公営の学童保育所は、全国でも数えるほどしかありませんし、そういった地域でも民営学童が増えていたり幹部職員だけ正規の公務員、という状態が非常に多いのです。

 確かに、理想論でいえば、学童保育所はすべて行政が設置してそこで働く正規職員は全員、正規の公務員であり、しかも配置人数に余裕があり、児童数40人の法令が目指す理想的な児童数に対して正規公務員による常勤職員2~3人、障害児加配職員数人、補助員(非常勤)が毎日5~8人出勤して従事している、そのような学童保育所を設置することが法令で義務付けられるのなら、それが究極のゴールでしょう。
 しかし、それは「夢物語」です。保育所がすでに市場化され、憲法で保障されている義務教育の世界ですら、正規採用の教員が少なく臨時採用=非正規の教員を増やして人件費の抑制に夢中になっているこの時代、学童保育所に正規の公務員が配置され純然たる公営学童保育所が増えるということは、100%不可能です。

 非正規雇用がほとんどである公営学童保育所の実態は、あまり世間に知られていませんね。職員の入れ替わりが激しく子どもたちの集団に落ち着きがないということが当然のようにみられます。そこで行われている育成支援は、子どもの主体的な育ちに基盤を置くのではなく、子どもを管理する「管理保育」が中心です。職員の資質面でも、人手不足ゆえに、今働いている人を手放したくないという思惑も手伝って、放課後児童支援員としての資質に疑問符が付くような業務を行う職員がずっと居座るというような残念な状況も存在しています。

 はっきりと言いますが、公設公営の学童保育所の多くは、放課後児童クラブ運営指針が示している育成支援を実施できるほど充実していません。むしろ正反対と言っていい。何より、職員の雇用を不安定にさせたままでは、安定して継続した育成支援ができようがありません。ひとえに、学童保育につぎ込む予算が少ないから、職員の継続的な安定雇用ができないのです。

 公設公営の学童保育所は徐々に減っています。アウトソーシングの流れです。ここでさらに残念なのは、公設公営を民営化する際に、同じような「基本的に午後だけ勤務」で「有期雇用が中心」の株式会社に運営を委ねる自治体が大変多いことです。民営化されると、公営時代より保護者のニーズには向き合うようになるので閉所の時刻が遅くなるなど一定のサービス向上はあります。しかし、職員の身分の不安定さと賃金の低さから人手も人材も慢性的に不足気味で、質の高い育成支援が継続して実施されているかについては、残念な状況が多いと私には見えます。

 公設公営を「推し」なのは、学童保育における公的責任の担保という意味合いがあります。しかしそれは公営でなければできない、ということではありません。国の補助金を交付している限り、学童保育所に対して自治体は指導管理ができるはずです。業務委託であれ、指定管理であれ、契約書や管理書に行政の指導管理について盛り込めばいいだけです。よって、「公設民営」であれ「補助金を交付されている民設民営」であれば、行政の公的責任を発揮できる余地は十分にあります。
 ですので、公設公営を「推し」たい人たちの本意としては、何か別の理由がきっとあるのでしょう。

 学童保育には「公設公営が一番良い」という学童保育の常識を捨てるべきです。そして、職員の雇用安定を最重視して育成支援を行うことを事業目的とする民間の団体、それは非営利法人でも営利企業でも構わないと私は考えますが、そういった法人や企業に、事業を任せるべきです。民間の創意工夫に満ちた運営者のもとで、学童保育事業をさらに充実させ、保護者のニーズにも向き合って、子育て支援を通じて社会の安定と発展に尽くすべきです。

 自治体は、職員の安定した雇用を最優先に民営化を進めること。
 職員は、安定した雇用を実現して継続的に育成支援に取り組める団体や法人こそ学童保育事業の安定に役立つことを理解すること。
 学童業界は、公営責任を求めると言いながら既得権益の保持に実は熱心であることを捨て去ること。
 保護者は、公営という言葉が持つイメージではなく学童保育事業が本質的に実施できる運営形態が何であるかを知ること。

 学童保育の世界を支配している最大の常識が、実は学童保育の質的向上を妨げているという現実に、1人でも多くの人が気付いてほしいと私は願っています。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育所をめぐる構造的な問題について、その発信と問題解決に対する種々の提言を行っています。また、個々の学童保育所運営者様へ、安全安心な子どもの居場所づくりとその運営手法において、学童保育組織運営について豊富な経験を持つ代表が、自治体や学童保育運営事業者に具体的な助言、アドバイスを行うことが可能です。

 子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。どんなことでも「あい和学童クラブ運営法人」に、ご相談ください。子育て支援の拡充に伴い、今後ますます重要視されていく子どもの居場所づくり事業の充実のため、一緒に取り組んでいきましょう。

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