学童保育所で働く人を悩ます低賃金構造。どうしたら解消できるのでしょう。その2「なぜ低賃金か②」

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。

 前日(6月12日)の弊会ブログでは、学童保育所で働く人の低賃金は、補助金の少なさにあると指摘しました。学童保育所(放課後児童クラブ)で得られる収入は、「補助金収入」と「保護者負担金(保育料等)収入」であり、補助金と保護者負担が50:50と国が方針を示していること、保護者負担金は公的サービスゆえに引き上げは難しいことをご説明しました。

 「では、補助金がもっと増えればいいじゃないか」と、誰しも思いますね。もちろん、私もそう思います。実のところ、ほぼ毎年、補助金の単価は増えているのです。新しいメニューの補助金も創設されて、ゆっくりですが、補助金は徐々に充実はしています。その点において、国の方針に一定の評価はできます。
 しかし、なかなか、この物価高や最低賃金の引上げペースによる支出増に、補助金の増額による収入増が追い付かない。まして、元来、人手不足であり低賃金構造で採用希望者も少ない、離職者は多いという業界ですから、抜本的にドン!と補助金を増額してほしい。が、なかなかそうはならないのです。

 なぜでしょう。それを考えるうえでどうしても避けて通れないのは、「賃金は、どういう要素で決まるか」の考え方です。

 分かりやすい例で言えば、医師や弁護士といった業務独占資格の職業の賃金を考えてみてください。資格を取得すること自体が難関の上、業務そのものも高いスキルが無いとできません。それゆえの業務独占資格ですが、「難易度の高い資格で、高いスキルが必要」ということが重要です。さらにいえば、「その業務が、社会活動を行う上で代替がきかず、極めて高い価値を持っている」ということがあります。職業に貴賎なし、というのは真理で職業の崇高さに上下の差はありませんが、「容易にできる仕事と、難易度が高い仕事」の差はあります。
 よって、医師や弁護士のような仕事に就く人の賃金は高いのが通例で(最近は弁護士さん、それほど高給取りではないみたいですが)、大事なことは「社会の一般的な感覚として、医師や弁護士が高い報酬を得ることに否定的ではない」ということです。つまり、社会一般の、その業務に対する評価(職に就ける難易度や業務の特殊性、高レベルの技量が必要、等々)が高い職業は、高賃金であることを、社会が許容するのです。

 よく考えれば「そりゃそうだ、当たり前だ」という内容ですが、この「当たり前の感覚」を、学童保育所の仕事に置き換えてみてください。

 社会一般として、学童保育所で働く人の仕事をどう考えているか。どう評価しているか。難易度はどうか。代替性はあるのか。職業のスキルを得るのがどれほど難しいのか、簡単なのか。

 まずもって、社会一般の学童保育所という職に対する意識は、「誰でも働けるし、放課後児童支援員という資格はたやすく取得できるし、何より、子どもと遊んでいるか宿題をやらせるだけでしょう。難しいスキルは無いはず」というものに落ち着くでしょう。残念ながら、それが現実であると、私は考えています。

 もちろん、そのような社会一般の学童保育所に対する意識には、大きな誤解があります。特に、業務の内容と必要なスキルの点です。放課後児童クラブ運営指針に記されているように、子どもの育成支援は高い専門性が求められる高度なコミュニケーション労働であり、誰でもできる仕事ではないこと、高いレベルのスキルが求められることへの、社会一般の理解がまだまだ不十分です。この点をしっかりと社会一般に伝えていかないと、いつまでたっても「学童のお仕事のお給料は、それなりで十分」という感覚がぬぐえません。

 社会一般が、学童保育所で働く人の賃金は「それなりで十分」と思っている以上、国も自治体も、社会一般の通念に合わせた賃金設定を基にした補助金の支出をすることに当然ながら、なります。
 よって、学童保育所で働く人の賃金を上げるには、「補助金がもっと増えること」、もっと増えるためには「社会一般的な通念として、学童保育所で働く人は、もっと多くの賃金が必要だという理解になること」であり、そのためには「学童保育所の仕事は、とても専門性が高く、スキルも必要で、誰でもできるように見えて、実はできない専門職なんだ」という理解が社会に定着することが必要で、そうなった暁には、「国も行政も補助金をもっと多額に設定することに抵抗がなくなる」ということです。

 残念なのは、全国の学童保育所で行われている育成支援の質が千差万別であり、いまだに、子どもを怒鳴りつけて職員の統制下に置くことで日々を過ごしている学童保育所があるようです。また、学童で子ども同士のトラブルやいじめがあってもその原因究明と解決に消極的で、「子どもがけがをしたら?保険がありますから大丈夫です」と保護者の心情を逆なでするような応答をする学童保育の運営者もいるようで、「子どもの育成支援」と「保護者の子育て支援」という2本柱を理解できていない学童保育所とその運営事業者はまだまだ多数を占めているのが現実です。

 そういった、レベルの低すぎる学童保育所とその運営事業者が残っている限り、社会一般の、学童保育所に対する理解と評価は向上しないでしょう。学童保育所の関係者は、常に、自らのレベルアップ、業務の質的改善に全力を挙げて取り組まねばならないのです。
 業界の低賃金構造を抜本的に変えるには、まず、学童保育という事業の本質と現実をしっかりと社会一般に伝えることです。正確な情報を常に発信し続けることです。特定の勢力だけで仲間うちだけで盛り上がるようではいけません。
 それとともに、全国すべての学童保育業界に身を置く者1人1人が、自分自身を研鑽し、高い水準の業務を行う意識を持ち、日々実践することが絶対に欠かせないのです。
 わずかですが、年々、改善されている補助金単価などの数少ない有利な状況を最大限に活用し、現場は育成支援の質を上げることに全力を挙げ、運営側は創意工夫で賃金体系を変えて能力の高い者への処遇を上げるなどの仕組みを取り入れ組織全体のパフォーマンス向上に努めることが、欠かせないのです。 

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育所をめぐる低賃金や長時間労働などの構造的な問題について、その発信と問題解決に対する種々の提言を行っています。また、個々の学童保育所運営者様へ、安全安心な子どもの居場所づくりとその運営手法において、学童保育組織運営について豊富な経験を持つ代表が、自治体や学童保育運営事業者に具体的な助言、アドバイスを行うことが可能です。

 子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。どんなことでも「あい和学童クラブ運営法人」に、ご相談ください。子育て支援の拡充に伴い、今後ますます重要視されていく子どもの居場所づくり事業の充実のため、一緒に取り組んでいきましょう。

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