学童保育所で働く人を悩ます低賃金構造。どうしたら解消できるのでしょう。その1「なぜ低賃金か①」

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。

 学童保育所で働く人の多くは、自分の仕事に見合った報酬を得られていないと悔しい思いをしています。昨年12月上旬、SNSに学童保育所で働いているという人からの投稿があり、「収入が低すぎて子どもを育てられない。子どもをつくるのをあきらめた」という衝撃的な内容でした。私は本当に胸がせつなくなりました。と同時に、そのSNSもそうですが、反応が極めて薄いことも残念に思いました。
 「保育園落ちた日本しね」の投稿が社会を動かす大運動に発展したことは記憶に新しいですが、「学童保育所で働いているから、子どもをあきらめた」という内容は、保育園のそれと同じぐらい、いやもっと衝撃的な内容だと私は思いました。しかし、まったくムーブメントは起きませんでした。
 それはおそらく「仕事を変えればいいんじゃないの」「子どもを作る、作らないは個人の勝手だから」という意識が強いからなのだろうと思いますが、「子どもの育ちを支える」という大事な仕事に就く人が「学童保育所で働いていると、低収入なので家族を持てない」という悲惨すぎる現実を、社会問題として理解できない今の社会構造を、私は、とても残念に思います。

 なぜ、かようにも学童保育所(この場合の学童保育所は、放課後児童クラブの意味)で働く人(主に現場クラブにて、子どもの支援、援助に従事する人たちですが、運営本部等で事務作業等に従事する人も含みます)は、低賃金なのでしょう。その理由は複数あり、それぞれに簡単な理由なのですが、その理由が生じる要因は厄介なものだと、私は考えています。

 ではなぜ、低賃金か。それは「収入が少ない上に、構造が固定化されている」からです。
 学童保育所の収入は基本的に2つです。「利用世帯から徴収する保護者負担金(保育料、月謝)」と、「補助金」です。重要なのは、「双方が5割ずつの負担となるように」国は求めています。実際のところ、補助金の収入は5~6割ぐらいでしょう。
 ただ、「公設公営」の学童保育所の場合は、自治体の直営のため保護者負担金の額が低めに設定されていることが多いようです。そのため、全体の収入において補助金が占める割合は相対的に増加しますが、重要なことは、「公設公営の保護者負担金が低額であるため、結果として収入が少なくなる」ということです。
 例えば、公設公営の学童保育所において1人分の収入を想定します。保護者負担金が5,000円(おやつ代別途負担で数千円)として全体の3割、補助金収入分が7割とするなら、補助金収入は約11,700円となります。合計で16,700円です。
 公設民営(補助金を受けている民設民営もほぼ同じ扱い)の、非営利法人による運営の場合で同様に1人分の収入を想定しますと、保護者負担金が13,000円(おやつ代込みが多い)とするなら補助金収入は同じ5割で13,000円、全体で26,000円です。

 (ちなみに、国の学童保育に対する基本の補助金である運営費補助では、児童1人につき月額8,800円程度で計算されています)

 子ども1人において得られる収入が、公設公営と、公設民営ではどうしても差が出てしまい、このことが、公設公営と公設民営を比較した場合、子どもへの育成支援の質の差、環境の差、施設の差など、ありとあらゆる場面で充実度の差として現れます。

 その最たるものが、従事者への賃金の差として現れるのです。つまり公設公営の学童保育所ではごく一部の自治体における基幹職員以外は原則、会計年度任用職員という雇用形態になりますが、いわゆる扶養の範囲内だったり年間120万円前後の年収額が設定されていることが多いようです。常勤級の扱いでも年間200万円前後。手取り10万円台前半です。

 公設民営で非営利法人による場合、常勤職員は無期雇用が多いです。あるいは、主任級以上は無期雇用というケースがあります。それにしても、キャリア10年前後で、手取り20万円前後がやっとです。事業規模が大きい場合で、大規模学童保育所が多数ある場合は、保護者負担金による収入が支出分を上回る(職員1人当たりの児童数が増える)ため、キャリア20年級の幹部職員に30万円台の給料を支払うことができるようになりますが、そのような例は全国的にも少ないのです。

 つまり、国の指導する「学童保育所は、補助金と保護者の負担(受益者負担)が50:50」という方針が、全国にまだまだ多く残っている公設公営学童保育所の従事者への低賃金の原因です。さらには、質の高い人材を確保しようと高めの給料を設定している公設民営の学童保育所においても、さらなる給料アップを阻む原因になっています。
 それは当然で、学童保育と言う法定の児童福祉サービスを提供するにあたり、どの世帯も一律同じ保護者負担金(応益負担)とせざるを得ない場合において、2万円だの2万5000円だのという料金設定を国民に求めることが不可能だからです。(応能負担であれば可能でしょうが、その場合、数万円を支払うことができる世帯は、学童保育所を利用せず学習塾等に移行するでしょう。また民間事業者が応能負担に必要な料金設定をすることが個人情報の関係で不可能に近いです)。
 結果、公設民営でも保護者負担金を1万円前半台の料金設定にせざるを得ず、給料アップのために人件費を増大したくてもできない収入構造になっているのです。

 学童保育の運営側が、なんとか従事者の賃金を上げたいと思っても、原資がない、収入が増えないから、なかなか現実的に踏み切れない。まして、運営本部等に従事する者への人件費補助は、非常に使いにくい補助金メニューが設定されているだけで、ほぼアテにできないのです。

 しかし、低賃金を余儀なくされているのは、ご紹介した収入構造「だけ」が原因なのではないと私は考えています。それについては明日以降、改めてご説明します。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育所をめぐる構造的な問題について、その発信と問題解決に対する種々の提言を行っています。また、個々の学童保育所運営者様へ、安全安心な子どもの居場所づくりとその運営手法において、学童保育組織運営について豊富な経験を持つ代表が、自治体や学童保育運営事業者に具体的な助言、アドバイスを行うことが可能です。

 子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。どんなことでも「あい和学童クラブ運営法人」に、ご相談ください。子育て支援の拡充に伴い、今後ますます重要視されていく子どもの居場所づくり事業の充実のため、一緒に取り組んでいきましょう。

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