学童保育を利用する保護者と、設置する市区町村に考えてほしい。子どもが安心して過ごすために必要なのは何?

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。

 前日にブログ投稿した愛知県津島市の学童保育所(放課後児童クラブ)指定管理者変更の事案など、全国各地で学童保育所の運営を株式会社が指定管理者として行う例が増えています。例えば福島県郡山市では、これまで公設公営で運営されていたおよそ50クラブ85教室(単位)の学童保育所が、2024年度から企業(津島市の指定管理者と同一企業です)によって運営されることになりました。
 高松市でも105単位ものクラブが指定管理者制度のもと、2024年度から企業が運営することになりました。こちらは提案上限額(上限であって、必ずしもこの額で運営できるわけではありません)が約42億円と、学童保育の世界では極めて大きな事業規模で注目されていましたが、学童保育の運営ではよく名の知られた企業が指定管理者に選定されました。

 以前も記しましたが、指定管理者制度は公営事業の管理運営を、民間企業のノウハウを活用してサービスを向上させて利用者に対し福祉の向上を図るとともに、「経費を削減」して効率的な運営を市区町村にもたらすことを目指しています。要は、「低コストで最大限のサービスをしてください」ということです。このうたい文句からは、役所の予算を節約して最良のサービスが提供できそうだから、なんとなく良いイメージをお持ちになる方が多くても不思議ではありません。

 が、それは残念ながら、嘘に近いです。いや、嘘と言い切ってもいい場合がほとんどです。それは、指定管理者制度で企業が事業を運営するためには、指定を勝ち取るために低い指定管理料で名乗りを上げて公募に応募します(=競争原理が働く)。そのために人件費を節約=職員の給料をかなり抑えることになり、その低い指定管理料のもとで事業運営を行うことになるので、「安い賃金で、今まで勤めていた人が辞めてしまう」「安い賃金なので、募集しても人がこない」「慢性的な人手不足で職場環境が極めて厳しいうえ、質的に不十分な人材でも雇わざるを得ず、結果的に、提供するサービスの質が落ちる」からです。競争原理を働かせば働かせるほど事業の質が劣化する可能性があるのは、「収入の上限が決められている事業形態、すなわち公営の施設運営」に発生する特徴的な現象です。

 学童保育所だけでなく、児童館、図書館など多くの公共施設に指定管理者制度が導入されています。こういった公営の施設運営については指定管理者制度を活用することがスタンダード、と言ってもいいぐらいです。
 しかし、指定管理者制度は、決められた額の予算内で事業を行ってください、ということです。使用料などは指定管理者に選ばれた企業が自由に設定できることになっていますが、現実には、例えば学童保育所の毎月の利用料を企業が設定することはできず、市区町村が決めた額で運営を行うことになります。企業の本来の持ち味は、自由な経済活動で売上高を増やしてバンバン稼ぐことですが、公共施設の運営をする指定管理者については、運営に使える(割り当てられている)予算は指定管理料としてすでに決まっているし、他の収益確保策も実のところほとんど存在しません。なのになぜ、学童保育の指定管理者制度に、最近はどんどん企業が参入しているのでしょう。

 それは、「補助金ビジネス」に、「うま味」が存分にあるからです。

 そのうま味とは、「好不況によって収入が大幅に変動する不確定要素を排除でき、安定した収入が確保できる=経営上の大きなリスクが存在しない」ことです。以前もブログに記しましたが、「決まった予算額(=指定管理料)が確保され、定期的に市区町村から振り込まれる」こと、「学童保育所の利用者は毎年、新たに生じる(=新1年生)ので、広告宣伝費に予算をかけずとも、自然に顧客が登場する」ことは、企業経営において、極めて安心な材料です。

 そうすると、あとは、決められた予算をいかに節約して、企業としての最大の使命=利益を確保すること、を実現するかだけに、知恵を絞ればいいのです。それも実は簡単です。労働集約型産業である学童保育は、その7割超が人件費です。それ以外は水光熱費や通信費なので、節約を重ねても限界はあります。ところが人件費は、法令や市区町村と取り交わした仕様書に規定された最低限度の配置人数さえクリアしておけば良いですし、職員1人あたりの人件費も、その賃金水準を下げれば、いくらでも節約できるのです。

 よって、指定管理者に選ばれた株式会社(実は社会福祉法人も同じでしょうが)は、人件費を節約して学童保育所を運営します。これは、全国どこでも同じような現象が起こっています。そうしないと、株式企業の最大の使命である利益の確保が実現できないから、当然です。ちなみに、学童保育所の運営を事業の柱としている企業がインターネット上に出している求人広告をみると、初任給は大卒の諸手当込みで約20万円、施設管理長クラスで約24万円です。この額を「さほどひどくないじゃないか」と思われるかもしれませんが、その感覚は学童業界の低賃金水準で麻痺している感覚です。資格が必要な専門職が手取り16~17万円では低すぎますし、施設管理長クラスでも手取り20万円前後は、専門職としては理解しがたい低年収です。しかもこれらの額には、固定残業代が含まれていることに留意してください。

 また、人件費を抑えて利益を確保することとは別に、指定管理者制度では、事業の運営本部にあてる経費を別途確保することができる場合があります。埼玉県内の、とある指定管理者の企業では、1単位で年間約60万円前後です。これも実際は企業本体の利益として吸収できるものです。学童保育の事務管理はさほど難しい業務があるわけではなく(なにせ、私にもできましたから)、本部や支社、出先営業所のどこでも十分、まとめて処理が可能ですので、1単位ごとに60万円もの費用は必要ありません。年収600万円(10単位分の収入)の職員が年に処理できる単位数は10単位どころかその何倍にもなりますから。

 好不況で経営リスクが大きい時代、安定して収入が確保できる学童保育の運営の事業は、企業としては大変魅力的です。もちろん、形態としては1単位で年間何百万円もの利益が得られることはなく、基本的に「薄利多売」でしょうが、郡山市や高松市のように、一気に何十、百の単位で運営施設を確保できれば、利益の積み重ねはとても大きくなります。これほど魅力的な事業には、もう手を染めたらやめられないでしょうね。これが補助金ビジネスです。実際、学童保育所の運営を手掛ける企業はおよそ集約されつつあり、運営する単位数が増えれば増えるほどその成長もさらに急上昇しているようです。

 補助金ビジネスは今後も拡大します。学童保育の補助金単価が引き上げられれば、その分、うま味も増しますから。さらにオイシイ事業になります。そしてそれは当然ながら、賃金水準が抑えられた状態で雇用されて働く職員を全国各地で多数生み出すことになります。この点は株式会社だけでなく、とかく「役員の一族が豪華な車に乗っている」と冷ややかに見られるごく一部の社会福祉法人にも当てはまる図式です。その補助金ビジネスで企業の利益に入っていくのは、国、都道府県、市区町村からの補助金(つまり、元は税金)であり、利用者が支払う利用料です。

 さて、本日のブログの結論は、「賃金水準が抑圧されてしまう指定管理者制度の学童保育所で、子どもが安心して過ごすために必要なものは何か、保護者と市区町村に考えてほしいこと」でした。ここまでお読みくださった方は、およそ想像がつくかと思います。
 「低い賃金水準では、学童保育所の職員の確保が難しい。質の高い人材の確保もまた難しい。それは、育成支援の質が結果的に低い水準に落ちてしまう方向に強く働く」ので、「職員の雇用条件を高い水準にすることが必要。つまり、給料をしっかり出すこと」が難しくなるということです。
 学童保育の使命は、子どもの健全育成です。育成支援を行うのは学童保育の職員です。職員に投資、すなわち充分な賃金を出し、充分な賃金水準であれば有能な人が職に応募して人手不足(数の問題)も人材不足(質の問題)も生じないので、質の高い育成支援、健全育成ができるようになります。

 ところが指定管理者制度の株式会社が行う育成支援には、次の点が懸念されます。
・人手不足によって、子どもに対して十分な支援、援助ができない。
・人材の能力面で、育成支援の理念を十分に理解しない職員が事業に従事することで、子どもに対して十分な支援、援助ができない。
・人件費の抑制方針は研修の機会も抑制される。職員の資質向上に不安がある。
・上記の要因から職員の業務に対するモチベーションが向上せず、それも事業の質の高低に影響する。
・人手不足かつ人材不足を補うため、育成支援の本質とはかけ離れた「管理主義」の学童運営を選択しがちとなる(学童保育に管理主義は、子どもに指示を重ね行動を強制するので、職員が少人数でも、職員個人の能力が低くとも、学童運営が可能となる)
・学童保育で重要な「おやつ」は、人数不足から手作りおやつを提供できず、いきおい、購入した袋菓子がメインとなり、補食としてもその有効性が低下する。

 上記のような学童保育所で、保護者さんは、大事な我が子を過ごさせたいと、思いますか?子どもが数時間、単に過ごす場所だからって、子どもの過ごしているその環境のことを、無視してしまいますか?自分の身になって考えてみましょうよ。ストレスばかりの職場で数時間といえども、毎日、過ごせますか?
 市区町村の担当者の方も考えてみてください。確かに予算を削減することは所属先の評価が高まりますね。あるいは前任者からそのまま実務を引き継いで、これまで行われてきた業務を同じように繰り返しているだけかもしれませんね。少子化でいずれ子どもは減るのだから多額な予算を投入する必要はないと考えるかもしれませんね。指定管理者制度がある以上、それを使わざるを得ないと考えているかもしれませんね。しかし、社会を作るのは、あくまでも「人」です。「人」の育ちを支える学童保育所が、「人」が過ごすのに不適切な環境で良いわけはありませんよ。指定管理者制度といえども、必ずしも公募にしなければならないことはありません。埼玉県内には、指定管理者制度といえども、随意契約で学童保育所の運営団体を選定している地域があります。保育の質を重視しているから、です。

 ここまで記したことは必ずしも株式会社だけに起こりうることではありません。事業委託の非営利法人運営の学童保育所でも、運営者の経営理念によっては、ひどい状況の学童保育所もありえます。指定管理者制度の株式会社は必ず子どもにとって安心できる学童保育所になる、と決めつけることはできません。できませんが、「構造的に、子どもにとって過ごしにくい学童保育所になってしまう可能性はかなり高い」と、現実的に指摘せざるを得ないのは間違いありません。指定管理者制度による学童保育所運営は、学童保育所における育成支援の質の低下を招く大きな要因になる可能性が高い、ということです。その要因は、ひとえに、職員にかけるコストをケチるから、です。

 最後に、もう1つだけ。学童保育所で実際に過ごしている、子どもの意見を聴いてみてください。そこが本当に、明日も行きたいと思う学童保育所なのかどうかを。行きたくないと子どもがいったら、行きたいと思ってくれる学童保育所にするのが、社会の責務です。

 明日は、補助金ビジネスの最大の不安要素について投稿したいと思います。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の持続的な発展と制度の向上を目指し、種々の提言を重ねています。学童保育の運営のあらゆる場面に関して、豊富な実例をもとに、その運営組織や地域に見合った方策について、その設定のお手伝いすることが可能です。

 育成支援の質の向上に直結する研修、教育の機会を提供するとともに、個々の学童保育所運営者様へ、安全安心な子どもの居場所づくりとその運営手法において、学童保育組織運営について豊富な経験を持つ代表が、自治体や学童保育運営事業者に講演や具体的な助言、アドバイスを行うことが可能です。もちろん、外部の人材として運営主体の信頼性アップにご協力することも可能です。

 子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。どんなことでも「あい和学童クラブ運営法人」に、ご相談ください。子育て支援の拡充に伴い、今後ますます重要視されていく子どもの居場所づくり事業の充実のため、一緒に取り組んでいきましょう。萩原は2024年春に「知られざる学童保育の世界」(仮題)を、寿郎社さんから刊行予定です。ご期待ください!良書ばかりを出版されているとても素晴らしいハイレベルの出版社さんからの出版ですよ!

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