学童保育は労務管理上、「最低の段階」にあると思ってください。残念ながら、そう思えます。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育の問題解決と運営を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。

 学童保育の職場で蔓延する「やりがい搾取」がなぜはびこっているのかを考えています。低賃金でも職員が頑張って働いてくれるので、人を雇う側=賃金を払う側にとって、これほど都合のいい仕組みはありません。そしてその「雇う側」というのは、実のところ、学童保育の賃金は公定価格(国の補助金交付水準でその価格が左右される)にほぼ等しいということを考えると、「やりがい搾取」で最も得をしているのは、補助金の額が少なくて済む「国」であるのだ、と私は考えています。
 そして、その状況を利用して、本来なら職員に配分されるべき賃金を吸い上げている営利企業系の学童保育運営組織は補助金ビジネスを展開している。それが、今の日本の学童保育業界です。

 やりがい搾取の表側は、「子どもが好きで子どものために働きたい崇高な人がいる→たとえ低賃金でも子どものために頑張って働いてくれる人がいる→(誠実な運営組織の場合)本来ならもっと賃金を増やしたいけれど残念ながら予算がない→(やむなく)やりがい搾取に陥る」。
 やりがい搾取の裏側は、「低賃金でも子どものために頑張って働いてくれる人がいる→賃金を無理に上げなくても子どものために働きたい人は一定程度存在するので、疲弊して退職しても代わりが見つかる→人件費を上げなくてもいいので、その分、予算を他に回せる(運営企業の利潤や経営者の報酬)」。

 いずれにせよ、肝心な職員の待遇は、劣悪なままです。

 それを労務管理的に考えると、「最低の段階」にあると言わざるを得ません。

 最低の段階とはどういうことでしょう。企業の生産性を考える人間関係論のうち、労働者の行動科学を考えるモチベーション管理において古典的な学説に、米国の心理学者マズローが提案した「欲求5段階説」というものがあります。人間の基本的欲求は5段階に分けることができ、欲求が満たされるとステージが上がっていくという考え方です。

最も低い段階から解説しましょう。

(1)「生理的欲求」。衣食住など、生きるために最低限の欲求です。低賃金かつ長時間労働では、生活するのにギリギリな状態です。ワーキングプアでは、その生活すらままなりません。衣食住の充実も不十分で、働き手に精神的にも身体的にもこれが満たされないのです。
(2)「安全の欲求」。なんとか生きられる状態でも、その状態が安定して続かないと、生活の安全が満たされません。病気やけがで働けなくなると、貯金が少ないのであっという間に生活苦になります。また、不十分な施設状況でエアコンが効かない、防犯上の設備が欠けていると安心して働くことができません。
(3)「社会的な欲求」。安心に仕事に打ち込める状況になると、こんどは、「仕事の質」に興味関心を向ける余裕ができます。つまり、自らが属する組織や職場について、その改善の意識を向けるようになるのです。これを集団帰属の欲求と呼びます。職員同士のコミュニケーションや職場組織の情報共有などの改善を求める動きが生まれます。
(4)「自我の欲求」。承認欲求とも呼びます。仕事、職場の改善を求める動き=質的向上を求めることは、自らが属する世界(職業世界や、その職業そのもの)について、社会的な評価を求めることにつながっていきます。社会的に認められたい、ということです。社会的評価が認められる仕事で活動しているということは、自分の尊厳を満たすことにもなるのです。ここまで達すると、「自分は、社会に必要とされ大事に思われている業界で頑張っている。だからこそ、社会から認められている」という状況になります。
(5)「自己実現の欲求」。最高位です。ここまで達すると、人は改めて自らの内部世界のさらなる上昇を求めます。仕事における自分の目標を設定し、そこにたどり着くことを自律的に行う。もちろんそれは、社会的に評価された仕事をより高める積極的な目標設定になります。もうこの段階は、労働生産性向上が実現できているといえるでしょう。

 つまり、「やりがい」を仕事のモチベーションの原動力にするのではなく、これら5段階の欲求を順に満たすことで仕事へのモチベーションを維持することが本来、必要なのです。そして「やりがい」は本来、4段階や5段階の順位でその価値が大いに発揮されるものなのです。

 学童保育の世界は、残念ながら、5段階のうち最下位の段階にある、正確に言えば、「最下位の段階にある運営組織がある」状況だと私は思っています。それも「やりがい」という大事なパワーを下位の世界で無駄に消耗しながら。
 このことは、渦中で働いている人は当然、理解しなければならないのです(残念ながら、やりがいこそ大事だと誤解している人が多すぎる)が、学童保育を利用している保護者、学童保育が必要だと考えているこの社会こそ、しっかりと認識しなければならないことだと考えています。なぜなら、残念ながら「子どもと遊んでいるだけの仕事だから、高い給料は必要ないでしょう」という誤解があまりにも蔓延しているので、学童保育で働くということが、実は最下位の段階で最低限の欲求さえ満たされていないという現実を知らないし、理解もしていないからなのです。まして政府行政においては。

 これは学童保育だけでなく、保育所や放課後等デイサービスといった児童福祉、障害者福祉だけでなく、すべての福祉業界に共通することでも、あるでしょうね。次回も、やりがい搾取に頼らない、働き手のモチベーションアップの方法を考えます。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育という職場で行われる業務の質の向上、職員の生産性向上についての提案を発信しています。学童保育の運営に関して、豊富な実例をもとに、その運営組織や地域に見合った運営の方策についてその設定のお手伝いすることが可能です。

 育成支援の質の向上に直結する研修、教育の機会を提供するとともに、個々の学童保育所運営者様へ、安全安心な子どもの居場所づくりとその運営手法において、学童保育組織運営について豊富な経験を持つ代表が、自治体や学童保育運営事業者に講演や具体的な助言、アドバイスを行うことが可能です。

 子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。どんなことでも「あい和学童クラブ運営法人」に、ご相談ください。子育て支援の拡充に伴い、今後ますます重要視されていく子どもの居場所づくり事業の充実のため、一緒に取り組んでいきましょう。

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