学童保育に行っている子どもは「荒れる」と聞きますが、なぜですか?

 学童保育所(放課後児童クラブのことを指している場合がほとんどです)の子どもたちがクラブで乱暴したりひどく騒いだりして施設が荒れている、という話を聞いたことがある人はかなりいるはずです。ひいては「学童に行っている子どもは荒れる」とも言われることがあります。学童に行っている子どもが「荒れる」のはなぜでしょうか。実はいくつか明確な理由があります。

 1つは、「学童保育所だけが、子どもにとっては、溜めこんだストレスやイライラ、うっぷんを発散できる環境にある」ということです。子どもは実に多くのストレスを抱えて日々、過ごしています。家庭では「勉強しなさい」「宿題しなさい」と言われるのは今も昔も変わりありませんが、昔、例えば昭和から平成の初期ぐらいまでは、「勉強ができなくてもそれなりに生きていける」という考え方もありました。手に職を付ければいい、という考え方が最たるもので、学力がさほどではなくてもそれに見合った高校や専門学校がたくさんあり、そこに進むことで早いうちから専門的な知識や資格を得て社会で活躍できる可能性がありました。ところが今の時代は、親心でもあるのですが、「勉強をしっかりやって学力を上げて、いい高校(=偏差値が高い、あるいは総合的な知識が身につけられる学校)に行って、いい会社に就職していけば、人生で成功する」という考え方が深く根強く社会に浸透してしまっています。成功を求めるとは失敗を恐れることの裏返しですが、子どもが将来、苦労しないようにという親心が行き過ぎてしまうと、子どもに、あれもこれも知識の詰め込みを求めてしまうことになりがちです。小学低学年のうちからたくさんの習い事を無理やりさせられているような子どもは、児童クラブで、親の前では決して出せない本音やイライラを発散するのです。
 なぜなら児童クラブ、それも育成支援を重視している児童クラブであればなおさら、子どもに、あれをしなさい、これをしなさいという「強制」とは程遠い考え方で子どもと接しているからです。おのずと、規制や制限がない時間と空間ですから、子どもも本音をさらけだします。それが得てして、強烈な行動、例えば乱暴行為だったり他者への攻撃だったりという行動で現れることがあるのです。
 学校での子どもの行動も同じことです。学校でいい子でふるまっている子どもが児童クラブで乱暴者になるということも珍しくありません。学校でじっと我慢していたうっぷんを児童クラブで発散するかのように暴れまくることも、育成支援の児童クラブに従事する者なら知っています。それを、児童クラブ側も無理やり抑え込もうとするとそれこそ手が付けられない「荒れ模様」となってしまいます。

 もちろん、小学生になるまでの家庭における育て方も影響していることは否定できません。児童クラブは子ども達に将来社会に出るにあたって必要な社会的な規範、生活習慣も子ども達に身につけさせることも事業の大事な役割ですが、そのような規範や習慣が十分に身に付いていない子どもたちは確実に増えています。例えば、家庭において、勉強については子どもに拒否させる行動を許さずに強制させるが、その代わりとして、つまり「ご褒美」として、高額なゲーム機やスマホを与えて自由時間に好きに使わせ、勉強を強いる場面とは打って変わって保護者は何の規制もしない。これでは子どもは誤った学習をしてしまいます。勉強以外の時間は好き勝手にやっていいんだ、という学習です。他者への気配りや配慮も知らないままで育ってきた子どもが集団生活を必要とする児童クラブでいさかいを起こすということも当たり前にあります。

 2つ目には、そもそも児童クラブや学童保育所は、子ども自身の意志、希望で通うところではないことです。本当なら帰宅して好きなゲームをしたい、動画を見たい、のんびり過ごしたい、いろいろな子どもの過ごし方の希望があるはずですが、保護者にしてみれば、子どもの安全を確保できる場所で過ごしてほしい、ゲーム三昧にならず宿題ぐらいはしてきてほしいとして児童クラブを必要とします。そうしないと安心して仕事や勉学に励めないからですが、子どもにとって無理やり行かされる場所である以上、それに反発することは当然あります。
 ただこれについては児童クラブの仕組みが誕生したときから変わらない構図ですから、児童クラブ側にとっても「子どもが進んで児童クラブに行きたくなるような支援、援助」の必要性は理解しています。子どもたちが児童クラブになじめるように、児童クラブで自分が存在することの意義、価値を子ども自身が見出せるような支援、援助の仕組みをあれこれ工夫して行っています。

 3つ目には、最近ではあまり体験しない多人数で過ごすことです。まして小学1年から6年生といった異年齢集団で過ごす経験が乏しいので、そのような環境に急に身を置くことでの戸惑いも子どもの問題行動につながりかねません。しかも残念なことに行政の努力が足りず、さほど広くない施設に子ども達がギュウギュウ詰めで過ごさねばならず、それが子どもたちの心理面に影響を与えてしまい、トラブルが多発するという事が日常茶飯事です。これを「大規模クラブ、大規模学童」と呼んでおり、大至急解決が必要な重要な問題です。
 国は、児童クラブにおける子どもの人数をおおむね40人が適正であるとしており、子ども1人あたりに1.65平方メートル(畳1畳分の広さ)としていますが、40人であっても施設が狭ければ過密状態になりますし、子ども達に関わってくれる職員の数が少なければ、それだけ子どもにとっては安心できる時間と空間になりません。1.65平方メートルも決して十分な広さではありません。小学校の標準的な教室は64平方メートル前後ですが、放課後に子どもが余裕を持って過ごすには教室程度の広さに30人前後が許される上限でしょう。児童クラブの適正人数は30人前後であると国も方針を改め、市区町村は1つのクラブに子ども1人あたり2平方メートルを下限に、クラブの入所人数を設定するようになれば、過密からなる子ども同士のイライラ、荒れる状況の解消に効果があるでしょう。

 4つ目は、児童クラブの職員が足りないことがあります。子どもは、自分の事を気にかけてくれる児童クラブの職員が常にいてくれれば、「自分の事をなんとかしてほしい!」と悲痛な叫びを荒れる問題行動として表現せずに済むことができます。職員の配置人数もまた、もっと増やせるような補助金の増額が必要なのです。数だけではなく、子どもの支援、援助についてその専門性を理解して実践できる質の高い人材の確保も不十分です。今は職員数が足りず、子どもに関われる職員が少ないことと、専門性をしっかり理解している職員が足りないこともあって、児童クラブでますます子どもが荒れてしまうのです。

 子どもが荒れるのは子どもの責任でも、子どもが悪いからでもありません。子どもがダメだからという考え方は絶対的に間違っています。子どもが過ごすに適切な施設、空間と場所を整備しない大人の社会の問題です。もちろん、子どもと親がより長い時間過ごせるような育児時短制度の不備も影響しています。社会全体で子育てを応援する体制の整備が必要です。

(運営支援による「放課後児童クラブ・学童保育用語の基礎知識」)